葬式の日。
ポコポコとリズム良く叩かれる木魚の音に、部屋に響く淡々としたお経。
それがやけに現実を見せられるようで嫌だった。
私は泣かなかった。
「いや、泣けなかった」の間違いかもしれない。
悲しくも無かった。
やっと、あの世界から抜け出せたのに。
やっと、セラ夫が自分らしくいられるようになったと思ったのに。
それは全部かき消された。
全部失われた。
命も、未来も、希望も、何もかも。
こんな事を考えていると、どんどん自分が沈んで行ってしまう気がして、無理やり心の奥底にしまい込んだ。
セラ夫が亡くなってから1週間。
いつも通り事務所で依頼を受ける。
現場には私が。
時々、奏斗やたらいに行ってもらっている。
いつも通り。
彼が居ないこと以外は。
ダメだ。
考えたら。
息が詰まって書類からピントをずらし、ソファの方へ目をやる。
彼が事務所に居る時は、あのソファに寝転んで仮眠を取ったり、依頼書を読んだり、スマホを見ていたり。
こちらの視線に気づくと「…どうしたの〜?」なんて言ってニコッと笑う。
📄「ぁ…、いないんだ。」
涙が頬を垂れる。
それは止まらなく、どんどん増えるばかり。
考えるな。
忘れろ。
ダメだ。
そんな事を思っても出てきて。
どうして衝い出てしまったんだ。
今まで上手くやっていたじゃないか。
何も思い出さず、前のまま。
なのに、なのに。
こんなの、自分を至らしめるだけじゃないか。
あれからどのくらい経っただろう。
外は真っ暗だ。
そろそろ事務所を出なければ。
戸締りをして、忘れ物がないか周りを見渡す。
忘れ物が無いことを確認すると、鍵をかけて事務所を後にした。
セラ夫は、もういない。
戻って来ない。
どれだけ願っても、泣いても、叫んでも、帰って来やしない。
そんなの分かってる。
だからこそ辛い。
とぼとぼと帰路を歩いていると、突然「凪ちゃん」と聞き覚えのある声がした。
一旦止まって、また歩き始めて、でもやっぱり止まって、ゆっくり振り向く。
『酷い顔。目、赤くなってるよ。』
…本当にセラ夫なのだろうか。
振り向くと、セラ夫がいた。
何かをこらえるような、でも、笑っているような。
「…今更なんですか。勝手にいなくなっておいて。」
少しばかり沈黙が続いた。
これは現実じゃない。
きっとなにか夢やら幻とやらを見ているんだ。
だって、セラ夫は死んだのだから。
『そんな顔しないでよ。』
『…ごめんねぇ。勝手に死んじゃって。』
本当だよ。
勝手にいなくなってんじゃねえよ。
心の中で野次を飛ばす。
『でもね、凪ちゃん。』
『これだけは伝えたかったんだ。』
_ありがとう。
朝の陽光が焼けるように世界を照らす。
「…さてと、行きますか。」
いつものバッグを持って、玄関へと赴く。
ふとに目に入った写真立てを眺めると、ほんの少し笑っているように感じて。
「おはようございます。行ってきますね。」
重いドアを開け、鍵を閉める。
『いってらっしゃい。』
コメント
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涙腺崩壊してもうた…ヤバいいつもどうりストーリー天才ですね表現の仕方大好きです✨
むりいいいいいいいマジで泣いてるヤバいほんとに涙腺崩壊天才すぎるどうやったらこんなにいいストーリー書けるの!??表し方天才だし人泣かせるのうますぎるまじでストーリー書くモチベ上がったんで今から書きます、、、、、