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▸▹ 学パロ 短編集 !!
はい。タイトルどーり。学パロの短編です。
つ🅰️ が 多いと 思う にょ
長いけど許してちょ
一週間ずっとこの作品書いてたんだから長いに決まってる!!(
mrkm/相合傘をする話
6時間目の授業が終わって、みんながぞろぞろと教室から出ていく。午後から降り始めた雨は止むどころか本降りになって、地面を叩きつけている音が廊下からでもよく聞こえる。雨の日ってなんでこんな憂鬱な気分になるんだろう。傘を持っていたとしても多少は濡れてしまうし、水を吸い込んでスニーカーはすごく気持ち悪い。外出たくないけど早く帰りたいなぁなんて言ってみれば、隣の席の友達にわがまま言うな、と一蹴されてしまった。
重い腰を上げて玄関まで辿り着くと、下駄箱の横においてある全校生徒が使える共用の傘は一本も残っていなかった。今日の降水確率は30%くらいだったし、傘を持ってこなかった人が多いのも頷ける。お母さんの言うこと聞いておいてよかった。
「あれ、〇〇も今帰り?」
「あ、うん!叢雲くんも?今日は部活ないんだね」
「おん、お前らゲームばっかりせんで勉強しろよー!って釘刺されたわ」
言うて赤点は取ってへんし!と謎にドヤ顔を決め込んでいる叢雲くんは私のクラスメイトで、eスポーツ部に所属しているらしい。何とも現代風な部活だなぁと思う。あと、私の好きな人だったりする。
「あーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
「びっくりしたぁ、どうしたの」
「置き傘ないやん!僕傘持ってへんし、ましてや折り畳み傘なんてあるわけないし」
「あるわけないんだ、、」
叢雲くんはふわふわした見た目に反さずかなりの天然だ、と思う。表情が豊かで、いちいちリアクションが可愛くてつい目で追ってしまうけれど本人にはバレていなそうなので許してほしい。ちなみに同じクラスの伊波くんには完全にバレている。
「私傘持ってるけど、よかったら入っていく?駅まで結構距離あるし」
「ええの?〇〇が濡れない?」
「結構大きめだから大丈夫だと思うよ」
私の提案に対して、叢雲くんは一瞬難しそうな顔をした後にじゃあ、と頷いてみせた。
何とか好きな人と一緒に帰る建前を見つけたものの、さっきから心臓がずっとうるさい。まだちゃんと目を合わせて喋ったりするのも難しいのに、まして相合傘なんて距離が近すぎる。叢雲くんのカーディガンからふんわり薫柔軟剤の匂いとか、少しだけ聞こえる息遣いとか、全部全部今の私にとっては甘い毒だ。話し声震えてないかなとか、心臓の音聞こえてないかなとか、気になり出したらうまく息もできなくなってきた。
「僕傘持つで。身長合わせんの大変やろ?」
「えっ、大丈夫だよ」
「これくらいやらせてや。入れてもらってるんやから」
傘の柄に力が入りすぎているのを身長の問題だと思われたらしい。天然でよかった、なんて安心した束の間、叢雲くんの肩が少しだけ触れた。
「ごめ、待ってごめん、触れないように気をつけてたつもりやったんやけど、ほんまごめん」
突然のことでうまく言葉が出てこない。なんか言わなきゃ、不安にさせたままじゃ申し訳ないし、って思えば思うほど頭が回らなくなってきて、弾き出したのは思いついたものの中で一番最悪な答えだった。
「私、走って帰るね!明日返してくれたらいいから!」
そう言って走り出そうとしたところを、叢雲くんに捕まってしまった。帰ってくる言葉が怖くて顔が見れない。さっきまで二人を雨から凌いでいた傘は私の方に傾けられていて、叢雲くんの肩が水を吸って色が濃くなっていくのが視界の端に映った。
「そんなに傾けたら濡れちゃうよ」
「走って帰るって、それ言うんやったら僕の方やろ。風邪ひいてまうわ」
腕を上げて傘をまっすぐに直したら、また距離が一歩近付いてしまった。
「やっぱ嫌やったよな。すまん」
「違うの、私もその、下心あって、誘ったので、」
「気持ち悪いよね!ごめん、この話は聞かなかったことに」
無言が怖くて、一方的に話を終わらせようとして、何ならずっと抱えてきた恋心にも終止符を打とうとした。自分で口に出してるくせに、堪えきれなかった涙は雨のせいってことにさせてほしい。
「僕、君だから入れてもらったんやけど」
「え?」
「だから、〇〇以外に傘貸すよって言われても断るけど」
「なぁ、好きな子に下心あるって言われたら都合よく勘違いするで、僕馬鹿やから」
こうもストレートに言われて知らぬふりをできるほど私は都合良くできていない。きっと今人に見せられないくらい真っ赤な顔してる。絶対そう。
「僕にも可能性あるって思ってもええか?」
「それは、ずるくないですか」
「ふは、確かにな。」
「〇〇が好き。だから僕のことだけ見ててほしい。だめ?」
「私も、カゲツくんが好き、カゲツくんのものにしてください」
近付いてくる影を受け入れるように、そっと目を閉じた。
*
「なぁ、泣くほど僕のこと好きやったん?いつから?」
「え、ひみつ」
「なんでやぁ!」
「そういう叢雲くんはいつからなの」
「名前で呼んでよ、さっきみたいに」
「カゲツくんは、いつから私のこと好きなの」
「さあ?いつからやろな?」
「もー!!意地悪!!」
いつの間にか繋がれた手、いつの間にか雨が上がって、空には虹がかかっている。
雨の日も、悪くないかもしれない。
hsrb/秘密がバレる話
私はショウくんと付き合っていることを学校のみんなに隠している。告白してもらった時に、周りの人にはあまり言わないでほしいという私の希望でのことだった。理由はなんとなく怖かったから。自分がショウくんに釣り合っている自信もなかったし、女の子たちの視線が怖かったのも理由の一つ。なんせ彼は顔がいいから、ファンクラブがあるとかないとかいうレベルである。だから学校でイチャつくなんてもってのほかだし、そもそもあんまり喋らないようにしている。そんな私たちの特別な時間が放課後、誰もいなくなった教室。
「ごめん、思ったより委員会長引いちゃった」
『暇つぶしには困らない時代なので、気にしないでください』
そう言って手元の携帯をひらひらと動かしている私の恋人。毎日とは行かなくても、放課後に窓際のカーテンを引いて二人だけの秘密基地を作る。壁に寄りかかって他愛のないことをお話ししたり、たまに手を繋いだり隠れてキスをするのが私たちの日常。
『今日は小柳くんがジャンケンで一人勝ちして紙パックジュースを奢ってくれたんですよ、四人分抱えてる絵面が面白くて。』
『カゲツが体操着忘れたぁって借りに来たのに、いざ俺のを着てみたらぶかぶかで。お父さんの服をいたずらで着ちゃった幼稚園児みたいでした』
最近あった面白い話を披露してくれるショウくんの表情が好きだ。本当にその人たちを大事に思ってるんだろうなぁってことが伝わってきて、胸があったかくなる。ちなみにさっき出てきた二人と伊波くんは、すっかり私たちの会話の常連さんになっている。
「いいなぁ、青春って感じで。私もショウくんと普通にお話しできたらなぁ」
『俺はいつでもカミングアウト大歓迎ですけどね?他の男に貴女が取られるんじゃないかって、いつもヒヤヒヤしているんですよ』
「それはお互い様でしょ。この前も告白されてたじゃん」
今でこそ平穏に過ごせているが、付き合ったばかりの頃はショウくんが他の女の子と距離が近くなるだけで不安になったり、私よりかわいい子の方がいいんじゃないかなんてネガティブになったこともあった。その度に落ち込む私を面倒くさがることもなく、ショウくんはたくさん好きを伝えてくれた。
『嫉妬してる〇〇も可愛かったですけどね』
「めんどくさいでしょ、普通」
『だって俺のこと好きすぎて泣いてるんでしょ?それだけ思ってくれてるのに嬉しくないわけないじゃん』
どこか性癖が歪んでいそうな彼のことだから、その感性はよく分からなかった。でもその優しさに助けられたからこそ、私たちが今までうまくやってこれたことは事実だと思う。
今でも告白だったり、何もない日のプレゼントだったり、廊下を歩けば悲鳴をあげる女の子もいるし、彼女としては正直穏やかではないけれど、私のわがままだしなぁ。
『貴女はもっとわがままを言ってもいいと思いますけどね。』
「んー、じゃあ、ぎゅーしたい」
『ふふ、いいですよ』
ショウくんがこちらに体重を預けると、綺麗な藤色の髪が二層目のカーテンを作った。
「ほんとはね、そろそろ付き合ってるって言ってもいいかなって思ってたの。」
『え、そうなんだ』
「そうすればショウくんの隣に堂々と立てるから」
かつて自信が無かった私でも、ショウくんがいっぱい好きって言ってくれて、かわいいって言ってくれて、自分を否定しなくても胸を張って歩けるようになったんだよ。
「それに、ショウくんだけの私にしてくれるんでしょ?」
『よく覚えてますね、恥ずかしいからいっそ忘れて欲しいんですけど』
“貴女を俺だけのものにしたい”って告白してきたこと、忘れるわけないじゃん。びっくりしたと同時にすごく嬉しかったし、今でも簡単に思い出せるくらい印象に残ってるもん。でも私がそう言ったら、ショウくんは照れて目線を合わせてくれなくなってしまった。そんなところも可愛くて、精一杯背伸びをしてちゅっと唇を合わせた。
『不意打ちはずるいでしょ、、、、』
「たまにはね?」
目を細めて、再び唇が重なる。まだまだ落ちない夕陽だけが二人の秘密を眺めていた。その時。
ガタッ
『え、なんか物音しませんでした?』
「机ガタって鳴ったよね」
おばけだったらどうしようなんて考えながらカーテンを開けると、こちらを見て石化したように固まっている小柳くん、叢雲くん、伊波くん。
「えっと、いつから?」
“つ、ついさっき、だよな?伊波”
“う、ん、今来たとこ〜あはは、”
『〇〇ごめん、こいつらには後で泣くまでよく聞かせておくから。』
“ええ?!なんでやぁ!”
“クソ、とばっちり食らった”
“お邪魔しました〜”
たぶんショウくんを呼びにきたんであろう三人は、そそくさと教室の外に飛び出していってしまった。
「なんか、もう隠す必要なさそうだね」
二人同時に噴き出して、それから堂々と手を繋いで、三人を追いかけるように帰り道を並んで歩いた。
*
“ごめんなぁタコ、悪気はなかったんやで”
“俺は気付いてたけどな”
“エ?!”
“俺も!前に一緒にいるところ一回だけ見たことあって、その時の星導すごい優しい顔してたから”
「まだ叱られ足りないみたいですね??」
“””すみませんでしたぁ!!!!!““”
kyng/王子様に見えた話
私がこの世で一番嫌いな教科は何か、体育である。快適な教室から引き摺り出されてカンカン照りのお昼時に走らされるし、体操するだけで疲れるし、怪我は怖いし。運動したい人だけがすればいいのではないかとつくづく思う。特にお昼休みの体育は最悪すぎる。絶対に生徒を殺しに来ているとしか思えない。
「で、いつまでそこにいんだよ。みんなグラウンド行ったぞ」
「知らない、小柳も私なんかほっといて早く行きなよ。遅刻するよ。」
「あ?誰のせいだと思ってんだ?」
高校三年間同じクラスで、何かとちょっかいをかけてくる小柳は、出口のドアにもたれかかりながらのろのろと準備を進める私に急かすように言った。まったく朝寝坊した子供を起こすお母さんみたいなこと言いやがる。いつも授業中寝てるくせに体育の時だけ沸いてくるそのやる気を恒常的に発揮してはくれないものか。
「女の子には体育を休んでもいい正当な理由があるんですー」
「え、あ、悪い、それはマジで悪い、ノンデリ過ぎたわごめん」
「嘘だけど」
「テメェ、、一回表出ろや」
ちらりと時計を見やると、くだらない茶番をやっている暇も無くなってきた。こめかみを痙攣させている小柳の脇をすり抜けて小走りでグラウンドに向かうと、背中に低い怒声が投げつけられたけれど、華麗に無視を決め込んだ。
体操をやった上にグラウンド5周って正気か?学校は軍隊でも育てたいのか?そんな文句を言う余裕もなく、授業が始まってから20分も経たないうちに日陰に避難してサッカー観戦に勤しんでいる。決してサボりではない。休憩であるということだけ断りを入れさせてほしい。何となく男子の方を見ていると、ちょうど小柳がゴールを決めて仲間に飛びつかれていた。
「ふふ、楽しそうな顔」
目つきが悪いとか怖いとか言われている噂もあるけど、年相応にはしゃいでる小柳はちょっと可愛かったりする。しばらく眺めていたら私の視線に気づいたみたいで、こちらに向かってピースサインを掲げている。控えめに手を振り返しておいた。
“なーに後方で腕組んでるの!小柳くんが気になるのもわかるけど、〇〇も次試合だよ!”
「えぇ、もう終わったの?」
というか小柳くんが気になるのもわかるけど、が余計だ。私と小柳はそんな甘ったるい関係じゃないよって、後で釘を刺しておかないと。断じて恋仲なんかじゃない、多分私の一方通行。ビブスを受け取ってコートに入ると、サッカー部のマネの子が試合を取り仕切ってくれていた。適当に5分動いてればいいか〜と思ったのが仇になったらしい。
「危な、!」
後ろから飛んできた別コートのボールに寸前で気付いて、避けようとしたらバランスを崩してしまった。グラウンドのど真ん中で派手に転んでしまった居た堪れなさをどう誤魔化そうか、と視線を泳がせていたらタイミング良くタイマーが鳴ってくれたので助かった。
“大丈夫?肩貸すよ”
友達の厚意をありがたく受け取ってベンチまで運んでもらった。どうやら後は見学でいいらしい。たいして動いてもないから喉も乾いていなかったけれど、ふと視線を向けた先の小柳と目があって、なんとなく気まずさを誤魔化そうとして緩くなって麦茶を喉の奥に流し込んだ。友達はみんな試合に出ているので暇を持て余していると、いつの間にか小柳が私の目の前に立って顔を覗き込んでいた。
『おい』
「へ?あ、小柳じゃんお疲れ」
『お疲れじゃねぇだろ。保健室行くから捕まれ』
え?なんかいつの間にか抱え上げられてる。みんなの目の前で、恥ずかしげもなく。小柳ってそんなことするタイプだっけ?とか考えていたら、抵抗する暇もなく私を抱えたまま歩き出してしまった。
「ねぇ、降ろしてよ!!何してんの、小柳らしくないよ、みんな見てるよってば、ねえ!!」
『うっせ、暴れんじゃねえ』
私の力じゃ小柳には到底敵わなくて、あれやこれやと言い合っているうちに本当に保健室まで運び込まれてしまった。扉をノックしても中から返事がなくて、横の看板を見たら外出中と書いてあった。
「先生いないなら仕方ないね、授業戻ろ、って」
「何してんの?勝手に入っちゃダメでしょ」
『許可降りてっから。ヒーローの特権な』
ソファに座らされて、棚を漁って保冷剤やら湿布やらを取り出してくる小柳を唖然と見ていることしかできなかった。自分でできると言って巻いた包帯は不恰好で、結局小柳にやってもらう羽目になった。
「慣れてるんだね」
『訓練で習うからな。星導とかは下手だけど』
「確かに下手そう」
ヒーローってやっぱりよく怪我するの、とか、なんでここまでしてくれるのとか。聞きたいことはたくさんあったけれど、手当てが終わって包帯の上から私の足をそっと撫でた小柳の表情を見てしまったら何も言えなかった。
『お前、危なっかしすぎ。俺がずっと見てられるわけじゃねぇんだぞ』
「ありがとママ」
『あ゛?心配して損したわ』
口では悪態ついてばっかり。でもね小柳、さりげなく合わせてくれる歩幅とか、駆けつけてくれた時の必死な表情とか、私のこと好きみたいなのやめてほしいんだ。勘違いしちゃうから。
「あんまり女の子に、優しくしすぎないほうがいいと思うよ」
『お前だけだわバーカ』
「えっ?!?!?!それどう言う意味?!」
『今は教えてやんねーよ。お前が大人になったらな』
「子供扱いしないでよ!ガキのくせに!」
『はっ、お前も同い年だろうが』
小柳のくせに思わせぶりとか、どれだけ私のことを弄んだら気がすむんだろう。あと一歩のところで私が知りたかった答えはまだ教えてくれないみたいだけど、素直になれない私でも、まだ可能性あるって思ってもいいのかな。
*
これはあの後赤城くんが教えてくれた話。
「ねーねーさっき体育あったじゃん?ロウきゅんずーっと〇〇ちゃんのこと見ててさ?怪我した時、試合放り出してガンダしてたんだよ!ほんっと可愛らしいよね〜」
「え、恥ずかし。なんで小柳が私のこと見てんの?監視?」
「うーん、こっちも鈍感かぁ!」
「ま、お幸せにね〜!」
「え、赤城くん?ちょっと?!」
二人がすれ違いを繰り返してやっとのことで結ばれるのは、また別のお話。
inm/小悪魔すぎる話
7:55の電車の、三号車の真ん中の席。今日も無事に定位置を確保して、意味もなくスマホを眺めながら2駅、3駅と進んで行く。開いたこちら側のドアをちらりと一瞥して、スマホの画面を鏡代わりに身だしなみを整えた。わざわざ早起きして、朝から前髪を可愛く作って、先生にバレないくらいのメイクをしてこの電車に乗る理由は、向かい側の席に座っている伊波くんが乗ってくるから。今日は小柳さんも一緒みたい。席が離れているから、口の動きで『おはよ』と笑いかけてくれる伊波くんになんとか手を振って、平常心を保つためにお飾り程度に参考書を開いた。
伊波くんは、今年から同じクラスになった私の好きな人。去年音楽室に併設されてる練習室でなんとなくピアノを弾いていたら、隣からギターと綺麗な歌声が聞こえてきたのが私たちの出会い。去年は別々のクラスだったから特別仲が良いわけでも
ないけれど、あの日から伊波くんのことで頭がいっぱいになってしまった私は、こうして今でも密かに思いを寄せている。
そうこうしてるうちに学校の最寄り駅に着いたものの、通勤ラッシュの人の波に押されてなかなか出口に辿り着けない。前に進めなくて困っていると、誰かに手を掴まれた。
『すみませーん!降りまーす!』
そう言って、伊波くんは私の腕を引っ張って一緒に電車を降りた。
『引っ張っちゃってごめんね、痛くなかった?』
「あ、うん、ありがと!」
また学校でね、と残して小柳さんに追いついた彼の背中を見送って、うるさく動く心臓をなんとか押さえつけながら改札を出た。
(朝から心臓に悪すぎる、、でも、かっこよかったな)
思い出したらまたにやけてしまいそうで、必死に力を入れて表情筋を制御しながら学校までの道を歩いて教室に入ると、心なしかいつもよりも賑やかな気がした。
「おはよー、今日ってなんかあったっけ?」
“委員会決め!みんな何に手上げるか話し合ってんの”
“〇〇は体育祭の実行委員だっけ?”
「まあ、被らなかったらそうだね」
新年度が始まったばかりだから、各々仲の良い人と行事の実行委員やら所属する委員会やらを決める前の口裏合わせをしているらしい。実行委員は男女一人ずつだから、喋れる人だと良いなぁくらいに思って、ホームルームに入ってきた担任の話を話半分に聞き流した。
“じゃあ次は体育祭だけど、やりたい人いますかー?”
“お、〇〇さんとー、、”
『はい!』
“伊波ね!おっけ〜”
級長がテンポ良く話し合いを進めていく中で私だけ上手く状況が飲み込めなくて、黒板に私と伊波くんの名前が書かれていくのを見て、ようやく頭が回り始めた。え、え?伊波くんと一緒?思わず声をあげそうになった私を、後ろの席の友達が“良かったじゃん”と軽くつついた。
始業日は午前放課だったから、みんなが帰った教室には私しかいないんだけど。私はできたばかりのクラスラインから伊波くんのアカウントを見つけて、追加一歩手前の画面を前に一人で頭を抱えていた。
「実行委員一緒なら、追加してもいいかなぁ」
クラスラインからわざわざ探すなんて気味悪がられないだろうか?連絡なんて口頭でいいじゃんって言われたら言い返せないし、好きバレして伊波くんに嫌われるなんてことになったら不登校になるぐらいには落ち込む。意味もなくメッセージアプリを閉じたり開いたりして、迷っていてもキリがないしとりあえず帰ろうかと立ちあがろうとした時、私の思考を独占している彼の声が聞こえた。
『追加しないの?ライン』
「へ、あ、これはその、連絡手段あった方が便利かなって思って、でも勝手に追加されるの嫌かなとか思ったりして」
『俺のことで頭いっぱいになってたんだ?』
思ったよりも至近距離に、というか座っている私の真後ろに立っていた彼は、私のスマホ画面に映し出された彼のアイコンを指差して問いかけてきた。びっくりして否定も肯定もできずに固まっていたら、彼の手がスマホの画面に伸びていく。
『えいっ』
「あ、ちょ、」
『追加しちゃった』
友達欄の一番上に表示された「ライ」という名前と、いたずらっぽく笑っている伊波くんを見比べて、至近距離と急展開で私はキャパオーバー寸前だった。そこに『あとで連絡するね?』なんて追い討ちをかけて楽しそうに教室を出ていった伊波くんは、きっと私の恋心なんてお見通しなんだろう。明日からの集会、どんな顔して会えばいいの、?
連絡すると言われた手前、こちらから何かメッセージを送るのも気が引けて、気にしないようにわざとスマホを離れたところにおいた。それでも通知音が聞こえて仕舞えば気になってしまうのが乙女の性で、即レスはやめとこうとか返信ペースは遅めにしようとか、意味のない駆け引きの戦略を頭の中で繰り広げてから、意を決してアプリを開いた。
『改めて、伊波ライです!よろしくね』
「〇〇です、よろしくお願いします」
『なんで敬語笑』
『早速なんだけど、明日の集会って結構朝早かったよね?何時くらいに行く?』
「全然決めてなかった、いつもの電車じゃ間に合わないよね」
『もし良かったら一緒に行かない?俺一本前の乗ろうと思ってるんだけど』
伊波くんに、一緒に登校しないかと誘われてしまった。どちらにせよ電車は早めようと思っていたし、偶然会えたら嬉しいな、とは思っていたけれど、平常心を保てる自信がない。とはいえスムーズに続いていた会話が急に途切れて不信感を与えないためにも、とりあえず同意の返信をしておいた。
「朝早起きできる自信ないかも」
『〇〇さんって朝弱いの?ちょっと意外』
『電話で起こしてあげよっか?』
「え、いいの、?」
『いいよ!6時半くらいでいい?』
いつも以上に念入りに準備しなきゃいけないから、朝起きれないなんて本当は嘘だけど、モーニングコールまで取り付けてしまった私、よく頑張った。と、思えていたのは昨日の夜までだった。
『あ、もしもし?おはよ』
「お、おはようございます」
『ちゃんと起きれて偉い!』
『なんか、通話だといつもと違ってちょっとドキドキするね』
朝から、本当に、本当に心臓に悪い。使っていたヘアアイロンを落としそうになってしまった。いつもと同じ車両で待ってるね、と半ば強引に通話を切って、いつもは向かいの席の伊波くんと隣同士で電車に乗って、ずっと夢見心地だったから、その間何を話したかなんてほとんど覚えてない。
『俺たちもさ、こうやって歩いてたら恋人同士にみえるのかな?』
駅の構内で同じ高校の、おそらく一つ下の学年のカップルが目の前を歩いていて、伊波くんがぽつりとつぶやいた。
「え、あ、そう、かも?勘違いされちゃったら申し訳ないし、やっぱり別々に、」
『俺は勘違いされた方が好都合だけどね』
ほら早く行くよって、私の手を取った伊波くんの体温は、外の気温にしては熱いような気がした。
inm/勉強を教えてもらう話
「ライくん、折り行って相談があるんだけどね」
「数学、教えてもらえませんか、、、、」
事の発端は数時間前に遡る。
先週末にあった期末テストが返却されたのだ。文系教科は平均も割らずに、自分でもなかなか頑張ったほうだと思う。問題は数学なのだ。頭のいい人たちはみんな口を揃えて“公式に当てはめるだけだよ”とか、“仕組みを理解すれば絶対解けるようになるから”とか。できるもんなら苦労していない。案の定数学のテストには39点、と赤字で書いてあった。いわゆるギリ赤、というやつだ。
『うわ〜惜しかったね』
「そうなの、一番悔しいよねあと一点って」
『でも補修は補修だもんね』
「現実を突きつけないでください、、」
来週には再テストがあるから、そこでなんとか合格点を叩き出さないといけない。そこで理系を得意としている彼氏のライくんに教えを乞おう、という発想に至って、冒頭に戻る。
『今日、図書室行って一緒に勉強する?』
「する!!!ライくんと一緒ならわたし絶対頑張れる!!」
『俺もちょうど復習しておきたかったし、6限終わったら迎えに行くから教室で待ってて』
こうして無事に約束を取り付けて浮かれていたからか、午後の授業はほとんど入ってこなかった。放課後ライくんと図書室デート♪なんて不純な妄想がよぎるたびに、勉強するだけだから、と自分に釘を刺すこと3時間。ようやく退屈な授業から解放された。
『それじゃ、集中して頑張ろうね』
「おねがいします!」
二人で椅子を並べて、ぎりぎり肘がくっつくかくっつかないかくらいのところまで近付いた。あ、ライくん眼鏡かけるんだ。私の回答用紙を眺めて紙に数式を書き込んでいくライくんの顔が思ったよりも近くて、輪郭綺麗だなぁとか、まつ毛長いなぁとか思いながら見惚れていると、吸い込まれそうなくらい綺麗な瞳に捕まった。
『なーに見てんの』
「集中してます」
『俺の顔にね?』
「う、反論できない」
『一通り分かったから、一緒に解いていくよ。ほらシャーペン持って』
ライくんの説明を聞きながら自分で問題をもう一回解いて、躓いたところを赤ペンで書き込む作業を繰り返す。他の男の子に比べて少しだけ高い声が耳にスッと入ってきて、毛嫌いしていた数学にも立ち向かえそうな気がした。
「説明めっちゃわかりやすい!!テスト中何聞かれてるかもわかんなかったのに」
「大袈裟だなぁ、でも〇〇が嬉しそうでなんか安心。数学って意外と楽しいでしょ?」
「楽し、、、くは、、あるかも?」
ないとは言えなかった。なんか、そういう圧を感じた。
「こんなに教えるの上手だったら先生も向いてそうだね、機械も詳しいしなんでもできるの本当にすごいよ」
「ライくんは何にでもなれちゃうね!みんなのスーパーヒーローだ」
『ふふ、俺が今守りたいのは〇〇だけだけどね?』
あ、その顔ずるい。どうしようもないくらい愛おしいものを見るような、溶けちゃいそうなその甘い表情が大好きなの、絶対に知っててわざとやってる。頭を優しく撫でられて、頬に手を添えられたら私だって期待しちゃう。どっかでスイッチ入ったんだろうな。キスされるかな、って思って目を閉じたのに、いつまでも柔らかい感覚が降ってこない。
『期待してるのバレバレ。ほんとかわいい』
『もう一問解けたら、ね?』
そう言って悪戯っぽく笑うライくんは、シャーペンを手に取って正面を向き直してしまった。生殺しにもほどがあるし、この状態で集中しろって言う方が厳しいと思う。よりにもよって難しい問題しか残ってないし。隣でペンを動かすライくんをチラチラ見ても、やっぱり答えは分からない。
『ヒントあげよっか?』
『ここ、ルートの中にこの形があるってことは、三角関数で置換できそうじゃない?』
「あ、ほんとだ、!じゃあ、こう?」
『正解!よくできました』
満面の笑みで頭を撫でてくれるライくんを急かすように、カーディガンの裾を少しだけ引っ張った。
『欲しくなっちゃった?』
『あっちの書棚人来ないからさ、行こ』
私より少し高い体温を持つ手に引かれて、図書室の一番奥の、日本史かなんかの資料がびっしり並べられてる本棚の死角に二人で滑り込んだ。本棚に体重を預けるように抱きしめ合って、少し動いたら唇がくっついちゃいそうな距離にあるライくんの顔が直視できない。学校でこんなことをしている背徳感が、より私たちの気持ちを高めているようだった。
『〇〇のかわいいキス顔、他の奴らに見せたくなかったからさ。』
『焦らしてごめんね?』
「ライくんのいじわる。」
『ごめんごめん。その代わりに、ご褒美のちゅーしてあげる』
待ち焦がれた感触が角度を変えて何回も降ってくる。息がだんだん苦しくなってきて、でもその苦しささえも愛おしい。どろどろに蕩けそうなライくんの瞳から目を離せなかった。
『ふぅ、大丈夫?苦しくなかった?』
「だいじょ、ぶ、」
『ん、良い子』
抱きしめられて、首の辺りにライくんの髪が当たってちょっとだけくすぐったい。お互いの体温を離したくなくて、ライくんの膝に乗ったまましばらくくっついてお話してたら、5時を告げるチャイムが鳴った。
『戻ろっか』
息を整えて机まで戻るともう日は傾いていたから、隣に座るライくんのほんのり色付いた顔に気付いているのはきっと、私だけ。
akg/捕まえられる話
『〇〇ちゃんおはよ!スタバの新作みた〜?』
寒さを紛らわそうとマフラーに顔を埋めながら教室の扉を開けると、すぐ廊下側の一番後ろの席に座るウェンくんが声をかけてきた。彼はいわゆるギャルというくくりに分類される男の子で、話しやすくて男女共に仲良くできるからか友達も多い。今日みたいにスタバの話とか、最近見つけた可愛いものとか、とにかく趣味が合う私たちは気付けば気軽に話せる友達になっていた。
「みたみた!めっちゃ美味しそうだったよね、早く飲みたい〜」
『今日放課後行っちゃう?部活ないっしょ?』
「え、天才すぎる!スタバのためなら部活あったとしてもサボるわ」
それはサボるなよ〜ってツッコミがどうにも面白くて、しばらく思い出し笑いをしたせいで隣の席の子にはちょっとだけ変な目で見られた。
6時間分の教科書をロッカーとスクバに詰め込んで、昇降口で待つウェンくんのところまで小走りで向かった。学校から少し歩いたところにある駅前のビルに併設されたスタバは、新作が出たせいかいつもより少しだけ混んでいた。窓際の二人席を見つけて注文を済ませて、ストーリーに載せる写真を撮り始めた。
『えっかわいらし〜!撮っちゃお』
「あ!ちょっと消してそれ盛れてないから!!」
『えぇ?しょうがないなぁ』
「ウェンくんも一緒に撮ろうよ」
一通り撮り終わって飲んだ一口目が美味しすぎて表情を緩ませていたら、隣のウェンくんが私にカメラをむけていてびっくりした。絶対間抜けな顔してるから後でちゃんと念押ししておかないと。せっかくだから記念にと自撮りでツーショも撮って、新作のフラペチーノを存分に楽しんだ。
「そういえばさっき何買ってたの?」
『あ、これ?夕飯に使う材料だよ』
「ウェンくんって料理するの?!」
『赤城特製からあげ美味しいよ〜リトマナテツのお墨付き!』
ウェンくんと同じ学生ヒーローの三人の顔を思い浮かべ、彼らが絶賛するのだから相当だろうと納得した。いつか食べてみたいな〜って軽くつぶやいたら、うちで食べてく?なんて誘われて、ちょっと迷ったけれどありがたくご馳走になることにした。流石に申し訳ないので今度お昼奢るね、という約束付きで。
『一応親御さんには連絡しときな〜?流石に健全な時間には帰してあげられると思うけど』
「もうラインしてあるから大丈夫!行儀よくしなさいよって釘刺されちゃった」
そうこうしてるうちにウェンくんの最寄りまで到着して、食材が入っているエコバッグを大きく振りながら歩くウェンくんの後を着いていった。今日はご両親が遅くまで仕事で家を空けているらしく、気遣わなくていいからね〜とリビングに通してもらった。
「お邪魔します、」
『いらっしゃい〜!そこのハンガーとか適当に使ってね』
『僕キッチンにいるからぁ、なんかあったら呼んで〜』
「え、いや流石に手伝う!!座ってるだけなのもあれだし!」
男物にしては可愛いエプロンを身につけたウェンくんに続いてキッチンに立って、普段料理をしない私でもできそうな工程は任せてもらった。ウェンくんが味付けをしている間に洗い物をしていると、美味しそうな匂いが漂ってくる。
『ごめん、ちょっと袖捲ってもらってもいい?』
『さすがに制服のタレ漬けとか笑えないからさ〜』
制服のタレ漬けってなんだ、っていう疑問は置いておいて。ワイシャツに隠れていた腕は意外と筋肉でがっしりしていて、近い距離感と相まって少しだけドキドキした。彼はそんなこと気にしていないようで、どんどん調理を進めていっている。手際の良さから料理に慣れていることは一目瞭然だったし、料理をしている時のキラキラしたウェンくんはなんだかちょっと可愛い。
『よし!完成〜!食べよ食べよ』
「『いただきまーす!』」
味がしっかり染み込んだ唐揚げは今まで食べた中で一番美味しくて、気持ち多めに用意した分でもあっという間になくなってしまった。結局大半の工程をウェンくんにお願いしてしまったので、洗い物ぐらいはと私が多めに任せてもらった。ちょうどいい電車まで少し時間が空いていたから何かゲームでもしようという話になって、ウェンくんのお部屋にお邪魔すると、ベッドにはピンク色の恐竜のぬいぐるみが鎮座していて、お部屋もウェンくんらしく可愛い雰囲気でまとめられていた。
『ベッド座っていいからねぇ』
「ありがと〜!ウェンくんって感じでめっちゃ可愛いね、って、え、」
ウェンくんは扉を閉めるなり私の方にずんずん近付いてきて、私の肩を軽くトン、と押した。ベッドに腰掛けたばかりだったからうまく力が入らなくて、抵抗する間もないままウェンくんに押し倒されたみたいな体勢になる。
『ねえ、危機感持たなきゃだめでしょ?女の子なんだから』
『わる〜い男に捕まっちゃうかもしれないよ?』
既にウェンくんに捕まっている状態ではあるんだけど。私になるべく触れないようにベッドに手をついたのは、本当に襲うつもりはないという意思表示か、彼なりの優しさか。
『君はそんなつもりないと思うけど、僕は下心で家まで連れ込んだんだからね』
「ウェン、くん、あの、」
『今日のところは見逃してあげるけど〜次からは気をつけること!分かった?』
何事もなかったようにゲーム機を取り出したウェンくんにバレないように、まだばくばくと音を立てる心臓を落ち着かせた。あんなギラギラした表情、みたことない。紳士に冗談っぽく済ませてくれたらしいウェンくんに本当に捕まるまで、あと数日。
ディティカ 多め でしたね ~~ 。