「あの様子では死者の軍勢と言えど霜の巨人を掃討するのはしばらくかかるであろうな」
義元が言った。
「まあ、奴らがそれなりに痛手を負うのは確実であろう。しかし……」
「我らが死者の軍勢を打ち負かすには決めてが欠けておりまするな」
典厩信繁が応じた。
「関羽と張飛の圧倒的武勇に我が兄信玄の隙の無い用兵が加われば、突き崩すのは容易ではありませぬ」
「つーか、あの関羽と張飛を倒すのはどうあっても無理だろう」
孫堅がうんざりとした様子で言った。
「今の俺らの戦力じゃこれ以上どうにもならないんじゃねえのか」
「勘助、汝はどう思う」
義元が問うた。
「孫堅殿が申される通り、今のままでは死者となって疲れ知らずであろう関羽と張飛を討つのは不可能でしょうな」
胸中に去来する複雑な思いを断ち切って勘助は答えた。
「我がヴァルハラ軍においてあの二人を討つ可能性がある御仁は……」
「北畠顕家卿か」
信繁が得たりと応じた。
「あの御仁がここに来てくれれば風林火山の旗の神秘の力がさらに増し、我がオーク兵達はより強くなる。死者の兵ともより一層有利に戦えるだろうな」
「しかしあいつは第一の指輪を得る為にヨトゥン何たらとかいう場所に行ってんだろう?」
孫堅が疑わし気に言った。
「いつ戻って来るかわからないし、向こうで死んでる可能性だってあるじゃねーか」
「あの御仁が討たれることはありますまい」
勘助が確信を込めた表情で答えた。
「しかしいつ戻って来るか分からない、数日後、あるいは数か月後なのかも知れないのは確かでござる。しかしそれでも待たねばなりませぬ。我らが勝利を得るのはそれしかありませぬ」
「ちっ、結局あの若造頼みか。情けねーな」
孫堅が舌打ちしながら言った。顕家の天才的な武勇、力量は認めているが、その若さと繊弱な容貌故にどうしても侮りの感情が生じてしまうらしい。
「まあ、仕方あるまいな。あの関羽と張飛の強剛さはまったく予想以上であった。顕家、それに木村重成や後藤又兵衛の力も必要であろう。問題はあの者達がここにくるまでそうやって我らが死者共の猛攻に耐えるかだが……」
「この氷の大地では難しいですな」
信繁が無限に続くかと思われる白銀の世界を見渡しながら言った。
「このくそったれな雪の世界でただ奴らから逃げ回るだけなんて絶対に御免だぜ」
不平家の孫堅が雪と氷を忌々し気に見ながら言った。
「しかもいつ来るか分からない援軍を待ってひたすら逃げ回るなんてよ。そんな無様な真似するくらいなら、潔く関羽と張飛に討たれた方がまだましってもんだぜ」
「ならば、籠城するしかありませんね」
この状況で一人余裕の表情のゲンドゥルが妖艶に微笑みながら言った。その顔貌は血色が良く。七割方は神気が回復しているように見えた。
「はあ?寒さで頭がいかれちまったか?雪と氷以外何にもねえ場所でどうやって……」
「ですから、雪と氷を使って城を築けばよいではありませんか」
黒と青の二つの色の瞳を持つ戦乙女の自信たっぷりの言い草に五人のエインフェリアはポカンとした表情を浮かべた。
「そうか、ルーン魔術を使うのだな」
「いかにもその通り」
勘助の反応にゲンドゥルは満足げに頷いた。
「私のルーン魔術に加えてドワーフ達を呼んでその力を借りましょう」
「鉄砲を短時間で造り上げた小人たちだな」
「ええ。この尽きることのない膨大な雪と氷を材料に私の魔術とドワーフの力が合わされば数時間で城は完成するでしょう」
「雪と氷の城となそれは興味深いな。もしかしたら並みの城よりも堅牢な城が出来上がるか。敵も火で攻めることは叶わないであろうからな」
グスタフアドルフが嬉し気に言った。
「勘助よ、城取り(築城)の指示はお前がいたせ」
信繁が厳かに勘助に命じた。
「お前ががかつて天下に響かせた城取り術、「山本勘助入道道鬼流兵法」を再び見せよ。相手は巨人と死者であり、材料も材木にあらず、雪と氷と今までとは何もかも違うが、成し遂げてみせよ」
勘助は主君と仰ぐ人物に深々と礼をした。そして黒髪の戦乙女にその独眼を向ける。
「では始めようか、ゲンドゥル殿」
「どのような城を築かれるのか、既に決まりまして?」
「うむ。かつて我らが武田軍の宿敵であった上杉謙信との戦いの為に築いた海津城。あの城と同じ縄張りを用いたいと思う。あの場所に築くのだ」
勘助の指が示したのは三方を氷山で囲まれた地点であった。
「さらに川があってくれれば良いのだがな。流石にそこまで求めるのは贅沢というものか。とにかくあの場所ならば守りを前方にだけ向けられる絶好の地である」
「成程良い場所ですね……ああ、ドワーフ達がやって来てくれました」
ゲンドゥルはそう言ったが、小人たちの姿は見えない。だが確かに気配は感じられた。
「さあ、勘助様、築くべき城の設計図をお示し下さい。たちどころに仕上げてごらんに見せましょう」
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