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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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南極大陸の片隅。極寒の地に身を置く独りの男の元に梟が飛び去って行く

手作りの形の崩れたポストに投函された手紙の署名は「ヒョードル・ドストエフスキー」

其の文字を見た彼は瞳を閉じ小さく微笑んだ

彼から手紙が来たという事は何か大きな異変が起こっている

「面白い事に成りそうだ」と。

嗚呼、胸を切り裂く古傷が、痛む

____________「此の愛情が果てる時、」



「突然呼び出して何なんだ……然も南極大陸何て辺境の地に…」

厚手のコートを重ね着し更にマフラーを首に巻いたシグマは両手を合わせながら白い息を吐いた。

本来ならゴーゴリにも来て貰う予定だったのだが、「絶っ対に厭」との一言を受け其の儘フラリと出て行ってから数週間。帰って来ない

まぁ、何時も彼氏とやらの惚れ気話ばかりしているので其奴の元にいるのだろうが

二人が少し息を切らしつつ床を掻き分け進むと小さなプレハブ小屋の様な場所に着いた

質素な部屋にはベッドと書斎位しか置かれて居らず書斎机の奥に揺り椅子に身を置いた男が居る

男の薬指にはドライフラワーの指輪が嵌められており、大体20代後半と言った所だろうか……ともかく無機質な部屋に独特な雰囲気を醸し出す

「お久しぶりです。西真さん」

「やぁ。お久しぶり、ドストエフスキー裙」

前に出たヒョードルと握手をすると、西真と呼ばれる彼は此方へ手招きした

“怪しい、可笑しい”と思いつつ近づくと猫の様に眼を細め彼は口に弧を描く

一歩、一歩近付く程異様な雰囲気に背筋が凍る

「君は……新人裙かな?」

間違い無い、確信を持てた。此奴は異能力者だ、然も此奴は私より遥かにポテンシャルが高い

戦闘に成ったら確実に負ける、此処は慎重に行かないと…

「嗚呼、私はシグマ。天空カジノの管理人だ。宜しく頼む」

「別に変に強張らなくて良いよ。私、優しいからね。”裙には”何にもしないよ」

………そう言われると益々怪しいのだが…何なんだ……、?此奴は

軽い自己紹介の後、急にドストエフスキーが男に近付き。目線を合わせ合った

二人は不気味にニヤリと微笑み思い出話を話す

私は何時も蚊帳の外だ。

「貴方、戻る気は無いんですか?貴方の力は下手したら生物兵器並みですからね」

「巫山戯無いでくれる?”私は戻る気は無いぞ”」

一言を最後に数秒間間を置いて、男が私の方を振り返り再び引き攣った笑みを見せた

どういう関係何だ、?若しかして裏切っただとか?

「そう云えば確か裙、私の異能力を知らなかったよね?

……善いよ。魅せて擧げようじゃないか。私の力を」

ギョロリと揃った双眼がただ私を見詰める。全てが見透かされて居る様で何とも気色が悪い

まるで引き寄せられる見たいに薄暗い瞳に見染められ…指先……否、全身が動いた。何かに取り憑かれた様に……

護身用に持っていた拳銃の標準がぴったり彼に合わせられる……何だ、一体何が起こって居るんだ、?

フョードルと男は私を揶揄う様にケラケラと笑い飛ばした後、種明かしに入った

「私の異能力、”メランコリックの慟哭”はね…自身が執筆した小説の台詞を言う事で対象を台詞の主の状態に出来るのだよ」

まんまと罠に掛けられ弄ばれたのは怪しからんが此奴は予想以上に危険だ……。

ヘマをやらかしたら何時消されるか解らない…何で態々こんな男の元にフョードルはやって来たんだ?

「冗談はさておき西真さん。ヨコハマに来てくれませんか?」

「善いよ。但し、条件があるね。」

書斎に肘を立てフョードルを見た彼は軽快に眉を上げた

条件………?矢張り是程の異能力なら高額な金銭等だろうか…

「訊来ましょう。何です?」

「ゴーゴリ裙のハm「駄目です。其れだけは譲りません」

…………ゴーゴリがあんなに拒否反応を示していた訳が理解出来た気がする

不貞腐れた彼にフョードルは何かの写真を数枚手渡し、即協力してくれる事が判った

何の写真かは………まぁ、察してくれ。私にはゴーゴリが燥いでいる写真等欲しくも無い

こうして、紆余曲折有りつつ辺境の地の異能力者”西真明博”が十数年ぶりにヨコハマの地に降り立つ事になったのだが……

「此処の辺りか。わぁ!!日本は矢張り凄いねぇ!!たこ焼きたべよーっと!」

…完全に観光気分だ。声も大きいし………こんなので本当に大丈夫なのか、?

「支配人裙も居るかい?あ、後でゴーゴリ裙にもあーげよっと!!」

「……おい。静かにしろ」

完全に天狗になった彼は人懐っこい笑みを見せたこ焼きを差し出して来た。完全に一人行動ばかりじゃ無いか……

が断りフョードルと男に断って先に宿泊先のホテルに戻り何となく本を読んで時間を潰していると誰かが帰って来た

其れ程時間が経っていたのか、疲れ果てた顔の西真が五月蠅く泣き喚き乍らベッドに飛び込んだ。どうやらギャンブルで全財産を溶かしたらしい

………カジノを経営して居る私が言える事では無いが、何をやっているんだ…そんなこんなで南極住みなのを良いことに雪解け水で荒稼ぎして居るらしい…何やってるんだ…………そんな所で才能発揮してどうするんだよ、

そう言えば、あんな万能異能力が在れば金くらい直ぐ稼げるだろうに何故其れをしないのだろう

疑問を読み取ったのか、珍しく西真は表情を曇らせ声を低くした

「嗚呼、言い忘れていたよ。私の能力はね使用制限が有るんだよ。具体的に言えば半径100m程度の範囲内、其れとクールダウン………と云うか所謂回数制限だね。1日に3回迄

後は台詞を間違えて仕舞えば能力は発動出来ない。

まぁ、兎も角…完全に万能では無いんだ」

心を読み取ったかの様に煙草を蒸しつつ目を伏せる彼の……、哀愁漂う背中が此方に向けられた

幾ら強さがあるとて其れは経験の積み重ねに拠る物。

誰だって暗い歴史は有るのだろう

「今日はどのアダル○ビデオにしよっかな〜

ゑ。アダル○サイトが閉じれない。えぇ、…………は、」

「さらっとダークウェブサイト見るなよ……個人情報特定されても知らないぞ。」

「異能力、”メランコリックの慟哭”」

全く、何て呑気な男なんだ。マイペース過ぎるだろ

そして何でアダルトサイトに異能使ってんだよ、ハッキングもして居るし……

煙草の煙をホテルに予め用意されていた灰皿に鎮めた彼は余程眠たかったのか………未だ20時だと云うのに泥のように睡っていた。相変わらず、謎の男だ。

結局、何をしていたのかさえも解らないがフョードルが帰って来たのは日を越した黎明の事で、私は既に睡っていたがボソボソと何かが聞こえた気がした

翌朝。ガサガサと物音がして瞼を上げると床で眠っていた西真が着替えをしていた。何故?こんな時間帯に?

疑問は残るばかりだが同性同士だとしても着替えはあまり見られたくないだろう

目線を逸らすと苦笑いした彼は「御免な。」と謂いつつこんな時間だと云うのにフラリと出て行ってしまった

後を追う事はせず再び布団へと身を落とした

「何なんだ………何かが可怪しい、何かが足りない。

はは、さっきから其ればっかりだな……。」

……先程の事は全て忘れて、さっさと二度寝してしまおう

何故ならば、其れが望まれているのだから。



ドストエフスキー裙からゴーゴリ裙救出の依頼を受けた

もう異能は余り使えない上、斧さえ振るえない私に態々依頼したんだ、つまり、そう云う事だろう

態々朝早くにしたのに、支配人裙に見られたのは少し誤算だったけど。世界に蒼白い光が指してきた頃、無事に到着したのは昨日出向かった裏路地

単独行動したと見せ掛け薬を売り捌いた場所

ヒョロヒョロの男が護衛も居らず一人で薬を売ってるだなんて此の手の奴等にとっては格好の餌食だ。

「御前が、ウチのシマ荒しか」

「此の前捕えた男の仲間らしいな。」

日本の組織と云うのはシマを荒らされると激怒する

だから二人には悪いけど態とゴーゴリ裙の名前を出させて貰った、そうする事で関連が有るという事を掴ませる為

後は簡単。薬を売り捌いて悪名を轟かせれば良い

ドストエフスキー君に聞いた通り此の組織には異能力者が居ないらしい。

其れなのに私に勝てるとでも思ったのだろうか、莫迦め

「嗚呼。そうだよ」

反乱の芽は早く摘むに限るからね

間抜け丸出しに近付いて来た彼等の罠にまんまと掛かってやり、首筋に電流を感じたのを皮切りに身体から力が抜け全身がアスファルトで固められた地面に叩き付けられる

然し、実に不思議だ。あのゴーゴリ裙がこんな雑魚相手に捕まるだなんて有り得ない

頬に鈍い痛みが走り目が覚めると辺りはコンクリートで囲まれており、まぁ何とも質素な質素な拷問部屋だった

「最悪の目覚めを如何も有り難う」

囚人の監獄の様な其処は鉄格子で仕切られており、果てしない闇が広がって居る

目の前に居るのは私の拷問を担当するので在ろう大柄の男。

手脚がコンクリート製の台に拘束されて居るからと言って油断して居るのだろうか

先ずは小手調べに爪でも剥がすのだろう、唯、私の爪を奪える程では無いがね

「”、、、、、、”」

「何だ!?一体何をした!?」

まぁ、流石に爪を剥がされるのは厭なので異能力を使って拘束と檻の鍵は解かせて貰うんだけど。

然し困った…私体力だけは無いんだよなぁ。異能力は強いけど昔から身体が弱いから、此奴を何とかしないと

こう言うガタイ自慢のパワー系は一直線に来るのがセオリーなんだけどね。

「ふふふふふ、これ位だと思った?」

敢えて此処は更なる引き出しがある様に見せ掛けて………

「何だ!?!?何が来るんだ!?」

猛ダッシュしかねぇだろぉ!!!!!

「”これで僕の物、♡”」

「おい!!何で牢が締まるんだよ!!触られてないのに何で拘束されてるんだ!!クソッ、助けろ!!」

「あ、後…これは貰って行くな」

逃げれたはいいものの、……………死ぬ程恥ずいんだけど!?え?自分で書いておいてだって?……よし、今度はソフトなのにしよう

其れで……話によると…此処の一番奥に空の牢獄が有って、其処の壁が一箇所ハリボテに成って居るらしい

一般の構成員には秘密にされて居るらしく警備は殆ど無いが……中からは喘ぎが聴こえると、云う話だ

「其れにしても、何て気味がわりぃ」

鎖に繋がれた骨と皮だけの廃人達。焦点が合って居ない目に何処ら彼処から臭う腐敗臭。鼻が曲がりそうだ

足音を殺し、奥へ……奥へ……と一歩ずつ闇に入って行く。

一個牢獄が左右に現れては視界から消え失せる……どんだけ長いんだよ……だけど、ほんの少し現実に向き合うのが恐ろしい

だが、もう後戻り等出来ない。漸く見えた行き止まりの壁……其処の右側に例の空の牢獄が有った…此処が、。

先程の看守から奪い取ったマスターキーを鍵穴に挿し、牢獄内に入ると骨も遺体も何も無い妙に小綺麗な牢獄だった

唯、一箇所だけ叩いてみると中が空洞になっており、僅かに物音が聞こえる

此処の中に入って仕舞えば、もう後戻り等出来ない、全ての真相に立ち会うのだろう。

其れでも、進むしか無いのだ…進まなければハッピーエンドですら無いのだから………

ほんの少しだけ…俺にその勇気をくれ……

例の壁を全力で蹴って見ると僅かな穴が空いたので手で押し広げ、更に追い打ちを掛け大穴を開けた。まぁ脚は痛いが老朽化して居たのが唯一の救いだ

朧に、全身を鎖で繋がれた男が視線に入る。

二週間、真面な生活もさせてもらえなかった様で随分と窶れて居るが。間違い等、無い

「……………また、………男の人、?もういやだよ、…………」

カラカラと乾いた低音。

薄穢れた鼠色からチラリと此方を伺う瞳はドス黒く染まっていて、宝石の様に燦然と光を放っていた頃の面影等無かった

其れ程多くの相手を強要されて精神が壊れてしまったのか、俺の顔を見ても尚見るからに震えている

切り傷と痣だらけで両手を鎖で繋がれており一部の皮膚は変形しており、後ろから垂れるわ……………。

明らかに一度ではない。何処か乾いた痕跡もあり何十回と受け容れされられた様

「久方振りだね、俺だよ。」

「あ、あぁ……、?きみは、たしか………」

ジャラジャラと連なる鍵から其れらしき小さな鍵を取り出し小さな檻から解き放って上げると力が入らないみたいで床に倒れ込む彼をそっと支えた

「立てる?」

何とか上半身は起こせたものの、下半身が鉛の様に重たいらしくその場に座り込んでしまった

そりゃあ、そうだよなぁ………

「”もう大丈夫だ”」

「こわかった………、しにたくない………いきたい、」

「よしよし、今迄…好く頑張ったな、御疲れ様。」

味わう様に何回も何回も、そっとぼさぼさの髪の毛を撫で上げると部屋の隅に転がって居た彼の衣装と外套を手渡す

彼の異能力で監視の目は掻い潜れる筈。それに…

「……………此れ以上は危ない…今直ぐ逃げろ」

「え、ぁ、…………?で、でも……!!」

腰が抜けて動けないなら…異能を使わせてでも無理矢理行かせなければ……

「”良いから、早く……行ってくれ、」

困惑しつつ膝を震わせる彼は外套に身を通す前に……縋るように此方に強く抱き着く

「ねぇ、じゃあさ、”最期”に約束して。…また、逢えるよね……?」

「………嗚呼。君が望めば、ね?」

「絶対、絶対だよ?」

前みたいに人懐っこい安堵の笑みを見せ外套に身を包んだ彼は見ない振りをして……延々と続く来た道を重い足取りで戻り、眼の前の大きな扉を見た。少し寂れた其れはまるで此れから繰り広げられる蛮行と惨劇を知っているかの如く………最期に俺の行く手を阻む砦となる。

然し何とも無慈悲にも俺はもう止められない。自分自身でも、だ、殺戮の般若と成る可く……正しい鍵を当て嵌め牢獄と本部を繋ぐ扉へと手を掛けた

…流石に……胸が痛むなぁ、嘘を付くのは。

「誰だ!?!?真逆……牢獄から這い出てきたのか!?」

ごめんね。ゴーゴリ君

俺、君が思ってる倍以上、イカれた気狂いなんだよ

「”すまない、ごめんな、、、、あいしている、、、、”」

俺を見るや否や飛び掛かって狂う勇気だけしか無い癖に、

抵抗の出来ない彼を騙して……人間の愛情を利用した下衆が

何で正義を語るんだよ。語れるんだよ……

「う”わ”あ”ぁぁぁぁ!!!!イタイッッ!!!いたい!!!」

異能力が発動したや否や無慈悲に爆炎が渦巻く

「キャー!!!、あ”つ”い!!く”る”しい!!だずげ……」

辺りの家具や人間は瞬時に焼き尽くされ断末魔が彼方此方から聴こえる

正に地獄絵図、悪魔の力…………

「ギィァァァァァァ………!!!アづい!!あつぃ!!」

ほんの一瞬にして眼の前が紅蓮の焰に包まれ人型の炭が産み出されていく………俺の眼前でナイフを突き付けていた者たちは地面に肺となり消え失せる。

嗚呼……何て、無惨な力なんだ………

「ふふふ…ふふ、あは、はは…あっはっはっは!!!!何て無様だ!!ははは!!ざまぁみろ!!此の偽善者共!!!」

こんな葛に同情等してはいないが、俺は…人間離れした、化け物なんだな。

焦げたUSBを踏み躙り乍何故か俺は自分を達観していた

「辞めろッ、……!!やめでぐれ!!!あづい!!あ”つ”!!!!」

火種が燃え尽きて行くと徐々に火力は弱まり果てしない黒煙に示され一本道が出来上がって行く

其れと殆ど同時。間抜け丸出しの大群が反乱者を討とうと武器を掲げ此方へと向かって来たようで大きな足音が聞こえて来る

此処で一戦交えるのも良いんだけど……生憎俺は死に急いでるからね。

「おい!!居たぞ!!!追え!!」

煙臭い室内を駆け抜け、事前に聞いていた道を抜け……更に上の階層へと向かう階段に片脚を乗せた

敢えて………ドタバタを足音を立てて、だがな。

「ケ”ホッ、……ゴホッ、屋上だ!!お前等!!屋上に向え!!!!」

「はぁっ、…………はぁっ、………ゴボッ」

ビチャビチャと不快な音を立て地面に落ちるのは真っ赤な鮮血。

「はは、こんな屑でも血液は紅いだなんて…滑稽だ」

体力を使いすぎたか……もう、俺は……永くは………

身体全体が……一歩一歩が錘の様に重てぇ……クソ、昔は跳び箱7段余裕だったのに…

普羅普羅と覚束ない足取りで天国への扉を開くと……何時の間にか外は曇天模様に成っていた

……はは、俺如きには冷たい雨がお似合いって事か………はぁ、

疲労と貧血で若干、猫背に為りつつ何とか屋上の柵へと辿り着いた俺は寂びてボロボロの鉄柵に腕を絡ませ、静かに奴等を待ち伏せた。

死刑宣告を待つシリアル・キラーの様な気分だ

早く………彼を護れなかった俺に鉄槌を下してくれ……

「やっと見付けたぞ!!!俺等の仲間を殺しやがって!!」

何て……清々しいんだ………人生の全てが浄化される様な感覚に陥った俺は目を瞑り身体の全てを古びた柵へと委ね。

淡々と迫り来る死の間際……脳裏に浮かぶのは彼の事ばかり

幼い頃………私と俺は近所に住んでいて、良く花冠を作っては不器用だと弄られていた。

真逆、彼は迚も手先が器用だ

彼は小さな花を一生懸命掻き集め俺に渡してくれたのを……今でも覚えている

ただ、其処からだったか…………ゴーゴリ裙が親から虐待行為を受けている事を知った俺は、彼の両親を手に掛けてしまい離れ離れになってしまった、。

右手の薬指から小さな指輪をそっと抜き取り見詰める

それと共に先刻、ドストエフスキー裙から貰った写真を胸ポケットから取り出す

其処には支配人裙と共に俺でも見たことの無い屈託の無い笑みを見せる彼が写っていて……思わず笑みが溢れてしまった

『極悪非道』

『邪智暴虐』

『冷酷非情』

有りと汎ゆる人にそう、吐き捨てられ……我武者羅に認められようとした人生を、俺が人間だと言うことを初めて認めてくれたのは……裙だけだから。

最初で最後の裙に、どうか此の言葉を贈らせて欲しい。

「愛してる」

やっとかっと全員が上がって来れたのか、刹那。

俺を独りを大衆が取り囲み、当に四面楚歌

だから俺は笑い飛ばしてやった、自分の人生を

「あはは!!はは!!あ、……はは…結局、格好付けて……偽善者は俺の方、か。」

ラスボスの悪の魔王を討とうと飛び掛かる勇者達

彼等を果てしない闇の宿った瞳で睨み付けようと殺気を送ろうと未来へ進む足は止まる処を知らない。

「”じゃあ、ね、”」

口から滲む夥しい程多量の血液と共に俺を今迄支えていた鉄柵が鈍い音を立て外れ身体が中に投げ出される

身体が軽い………まるで指先からページになっているみたいだ

指先…、足首…、膝…、段々と感覚が消え失せて行く

嗚呼、そう言えば………異能力を使いすぎたから暴走しているのか、

此の儘どうなってしまうんだろう、…………で、も……彼は…彼だ、けは………俺を忘れて………望む儘……………

_______俺は、裙が生きたいと言ってくれたのが嬉しかっただけなんだ、



「ゴーゴリ!!大丈夫か!?」

西真君から貰った外套で無我夢中で逃げ出した先には目を腫らしたフョードル君とシグマ君が居た

……………そっか、もう2週間も経ってたんだ…、

付き合っていた彼に騙され、沢山の男達に輪姦されて……閉じ込められて撮影されて………僕を逃がす代わりに西真君が取り残された儘なのに、

「ふぇーじゃ、……しぐまぐん、……」

優しく腕を広げた彼等の身体に柔く包まれる

嗚呼、何て落ち着くのだろう……

暫く黙って僕を受け入れてくれていたが、突然僕が捉えられていた建物から業火の炎が燃え上った。

正に爆炎と言う程の其れは瞬く間に建物全体を焼き尽くす

「此れ、真逆……彼奴が………?」

流石のシグマ君も此れには驚いて居る様で意図せず素っ頓狂な声を上げた

………不味い、此処迄の殺戮をして仕舞ったら今度は彼自身の生命に関わってくる問題になってしまう

どうにかして無理矢理にでも辞めさせないと…….でも、彼処にまた戻るの、?残党に見つかってまた捕まって嬲られたら、?

今度こそ二度と帰って来られないかも知れない、若しかして……一生あの儘?

「ヒュ、……は、………ヒュー、、はッッ、」

怖い、恐い………厭だ、もう犯されたくなんか無い……、男の人が恐い、

厭……苦しい、助けて……厭、、許して……ごめんなさい、、

「吸いすぎるな、ちゃんと吐け。」

無理……気持ち悪い…気色悪い………どうか近寄らないで、

何でそんなに怖い顔するの、?若しかして、薄汚れた穢れた僕なんて要らない?

「こ”べんなざい、ごめんなさッ……ゆるじて、……ごめ、……んぐ、、?」

辛そうに苦しそうに顔を歪めたシグマ君は…….慰める様に触れ逢うだけの優しい優しい接吻を僕に捧げた

唇を奪い取ってから直ぐに彼は離れ、新鮮な空気が僕の肺の中に書き込まれる

少々強引ではあるが、お陰様で真面に呼吸出来るようになった………のは好いんだけど、

「さて、もう帰りましょう。ホテルを予約してあるので其処で2泊します」

「…………でも、西真君を置いて行くのは……厭だ、其れくらいなら…独りで……」

「莫迦言わないで下さい、彼がどんな決意で貴方を助けに行ったと思って居るんですか

恩返ししたいなら彼の望み通り平穏に暮らすしか無いんですよ」

フョードル君、怒ってる。

西真君の望み………か、そっか、僕は彼の事……ずっと、好きだと思ってた

だけど、この感情は慕情何かじゃ無い、兄弟愛だ、真逆……彼は、最初から……

「いこっか、」

「嗚呼、帰ろう。」

何気ない3人の時間の筈なのに何とも愛おしいくって、微笑ましい

二人に支えられ乍ら着いたビジネスホテルにチェックインすると僕は一直線に御風呂場へと駆け込んだ

ぼろぼろで、所々皮膚が歪んでいる醜い身体。彼奴らに思うが儘に凌辱された穢れた身体、

「はぁ………、はぁ………、はぁ……、汚い、気持ち悪い……」

何度強く擦っても、爪で引っ掻いてもあの時の熱の篭った感覚が忘れられない、

全身を何度も血が出てダラダラになるほど引っ掻いてもまだ感覚を嬲り続ける

若しかして……もっと鋭いもので切れば綺麗に成るかな、?

手に取ったのは其処らに有った剃刀。良く切れる其れは腕を傷だらけにして真っ赤な花が咲き乱れる

「はっ、……はは、あは、」

血がダラダラ出て……もっと醜い姿になっちゃった、もう。僕の生命ごと終わらせちゃおっか

湯船に頭ごと浸かって息を止めるだけ、何も考えないで良い、

「おい、流石に風呂長くないか?……少し様子を見てくる」

「……………….」

「は、………何だ、此れ、おい!!起きろ!!!」

湯船に浮き上がる腰を両手で救った彼は僕の口吻に指を入れ、半ば強引に水を吐き出させた

びちゃびちゃと音を立て朱に染め上げられた熱湯が床に落ちて行く

………後もう一寸で死ねたのに……如何して、?何で?僕の事が嫌いなの、?

「如何し「御前が好きだからだ!!!だから………もう二度とあんな表情して欲しく無いんだ………、」

「え、」

丁寧にバスタオルで全身を拭き取り消毒を施した後、全身を包帯をぐるぐる巻きした彼は再び僕の身体を抱き締めた

なんて、温かい、人肌の温もり。心が安らぐ

「……………取り敢えず、景色でも見るか」

不器用な彼なりのお誘いなのか恥ずかしげに耳を赤らめた

健気な愛情にくすりと笑いが込み上げてきて、彼と一緒にホテルのベランダに出て雨上がりの空を仰いだ

「昼間だが。”月が綺麗だな”」

「うん、うっとりしちゃう」

指先をほんの少しだけ絡め合って、微笑み合って。

2人きりの掛け替えのない時間

「あれ、…………何だか、意識が……」

「おい!大丈夫か!?」

また、倒れてしまった身体を彼が受け止めた

でも此れはきっと、…怪我のせいじゃない

本能的に危険で禁断の何かが始まって仕舞うと理解してしまう。

「に、………げ、」

「おい!ゴーゴリ!!て、、、なんだ、これ、」

“世界が終わる”

悟ったシグマはせめて思い他人を傷付けまいと彼を包み込む様に抱き抱え、その場に伏せた

突如、眩い光に世界が包まれる……もろに閃光を全身に浴び続けた彼は吐血する

其れでも抱き抱えた末、二人は共に光に呑まれて行った

「此れが………愚かなる僕への罰。」

ただ、一人だけカーテンを閉め切り午睡に耽っていた彼を除いて……

瞬く間に光に狂わされ………悲劇に見舞われた世界、。

甘い時間も全て忘れて仕舞い恥辱を受けてきた醜悪な過去だけが残された彼

「ゴーゴリさん!!大丈夫ですか?」

漆黒無双の如く闇に呑まれた彼の抜け殻が虚像を創り出し、悪戯に微笑んだ

其処には彼を庇って居た筈のシグマは何故か居らず晴天をゴーゴリ独りで背負って居る

「…………此処は、何処なのかい、?そして、私は何故泣いて居るんだい?」

彼は本当に彼なのか。厭、この世界は何なのか

確かに記憶は無いが、彼自身だ。

“本”により創り出された此の偶像劇は………、悲劇の終焉を迎えるのだろう

「支配人裙、君は此処には未だ早いよ」

厭ったらしい低い聲、妙に聞き覚えのあるが誰かは解らない

「て、何処だ、此処」

永遠に生き別れた彼等が巡り合う迄______3年。

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コメント

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今回西ゴさんが出てきた!!西ゴさんかっこよかったです!!!ゴゴちゃんも心を強く持ってね泣!

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