「またね、明日会お! 」
そう約束した次の日。
私の大切な人は、交通事故で亡くなった。
「火葬場に移動するので、お荷物を持って_」
気がつけばそう聞こえて、私の意識は戻った。
あの夢の中にいられたらよかったのに。
彼が笑っていて、私もつられて笑って。
そんな幸せが永遠に続く夢。
眠くなるお経に流されて、夢の世界に入って。
いっそ、このまま彼の元に行けたのなら。
けれどそんなことを許さないのが現実で。
仲の良かった彼のお母さんの隣の席。
私は無意識に焼香などを終わらせていた。
火葬場で、彼が入った棺を見送って。
居心地の悪い待合室のイスに座った。
彼のお母さんは親戚の方々と話してるし。
「少しお手洗い行ってきます」
とりあえずそう言って、待合室から逃げた。
そして、お手洗いで少しスマホを見た。
ロック画面は、彼とのツーショットのまま。
付き合っていなかったはずなのに。
彼が好きだった曲を好きになって。
彼が好きだった食べ物も好きになって。
彼と表裏一体になることを望んで。
気がつけば、彼が好きになっていた。
なのに、自覚した途端に永遠の別れなんて。
…世界って、平等なはずなのに公平じゃない。
前に、彼が社会科の授業の時に言っていた。
平等とは、貧富関係なく同じものを
同じ分だけもらうこと。
公平とは、貧富の差を埋めるように
同じものをもらうこと。
哲学かよ、って、あの時は笑って流した。
けれど今は、笑って流せそうにない。
彼の夢は、世界を「公平」にすることだった。
その道の真ん中で彼は亡くなったんだ。
夢を継ぎたい、本能的にそう思った。
叶えられるか分からない、それでもいい。
そう思えることに意味がある気がするから。
喪服にスマホをしまって待合室に戻る。
すると、隣に誰かいるような感覚があった。
両隣を見ても、誰もいないのに。
彼の親戚同士が立ち話してるだけ。
「またね」
ふと、彼の声が聞こえた気がした。
…ねぇ、今までありがとう。
癖、しっかり出ちゃってる。約束をする癖。
じゃあね、バイバイは絶対に使わなかった。
またねって、今もまた会う約束をしてる。
…何十年後まで繋がる約束の糸。
絶対に解かないからね。
そう心で誓って、1度だけ深呼吸をして。
私は彼のお母さんと納骨に向かった。
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