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「わたくし、アジフライ、好きなんですよ。」
だから?キモイんだけど。
「この近くに、美味しい美味しいアジフライ屋があるのです。よろしければ、一緒に行きませんか?」
私は、今から帰って、美紀とカラオケ行くの。
「最高級のパン粉と、旬のアジ。巧みな技で揚がった、最高のアジフライ。」
私は、そもそも、魚が大嫌いだし、トンカツあるんだから、アジフライ、もう揚げなくて良くない?
「わたくし、無闇矢鱈に、人を誘う柄ではありませんよ。それ相応の人にのみ、お声を掛けております。あなたは綺麗な方だ。」
そんなんで、私が釣れると思ってんの?
はぁ、男って。
「まあまあ、早足にならないで下さい。今、この時間にしか空いていない、トクベツなお店なのです。ですから、」
「さっきから何なの??邪魔なんだけど!キモイから、着いてこないで!次着いてきたら、警察呼ぶから!」
「これはこれは、無礼を働きました。申し訳ありません。しかし、あなたのような綺麗な方には、やはり、味わって欲しい代物なんですよ。全額お支払い致します。どうか。」
土下座まで頼んでないんだけど。
「はぁ。いいよ。そこまで言うならね。ただ、本当に不味かったら、その分責任もってね?」
「承知いたしました。では、こちらへ。」
なんか、どんどん道が狭くなるんだけど。大丈夫なの?美紀には、遅くなるって連絡しとこ。
「到着致しました。ここでございます。」
ここだけ、木組みなのがリアルだわぁ。高いんだろうなぁ。
「っらっしゃい。」
「アジフライを2羽、頂けますか?」
「あいよ。」
メニューも、ドリンクバーも、BGMもない。本当に料亭に来たみたい。行ったことないけど。
「サクサクと、パン粉を絡める音。トロりと衣を付ける音。油に入れる弾けた音。やがて来る、乾いた油の跳ねる音。この音全てがBGMであり、心を弾ませてくれる。素晴らしい音です。」
目を閉じてる。確かにいい匂いはするけど、、
「お待ちどう。アジフライ2羽ね。」
揚げたてのフライは、初めてだわ。写真撮ろ。
「こらこら。今が食べ時なのです。サクッ。」
は?これを撮らずに食べるの?まぁ、いいや。
「サクッ」
うまっ!?
「どうだい、どうだい。美味いじゃろ。」
「美味しい!すごく美味しい!!」
こんな食べ物、食べたこと無い。噛んだ途端に、油が出てくるのに、全然嫌じゃない。むしろ、それが癖になる。本当に美味い。
「いいお顔ですね。喜んで頂いて、わたくしも嬉しいです。」
「これ、どうやったら、こんなに美味くなるんですか?」
やば。美味くなるって言っちゃった。
「それは企業秘密だなぁ。」
「そ、そうですよねぇ、、。」
そりゃ、こんなすごいの、こんな惨めな女子高校生に、盗まれて溜まるかだよね。
「ただ、うちで働いてくれたら、教えてやろう。」
え?
「ちょうど、跡取りが欲しくてならなかったんだ。どうだ?うちで働かないか?」
え、どうしよう。調理師免許とか、そんなの持ってないんだけど。私は美容師なりたいし、
「わしの息子がそれを見抜いて、持ってきてくれたんだ。才能のない奴だが、ここだけには能力があるんだよ。」
「えと、私には、やりたい事があって、それ目指してやってるので、それは無理です。ごめんなさい。」
「・・・。」
うわぁ、空気悪くしちゃった。どうしよ。
「それでいい。」
「え?」
「それがいいのだ。君の人生は、君が決めてこそ、本物だ。それは絶対に忘れちゃいけない。」
ちょっと、何言ってんのか分かんないわ。親子揃って、そこがキモイな。
「自分の人生を操られたら、いつかは糸が切れてしまう。わしの息子のように。」
ダメ息子って言いたいんかな?あれ??
「わしはな。息子を信じてた。ただ、息子は自分の糸を切ったんだ。」
さっきまで隣にいた、あいつが居ない。
「もう、わしも長くない。だから、最後でいいから、息子にこのアジフライを食べさせたかった。それだけだった。」
うそ。あの人、、。
「息子を、連れてきてくれて、ありがとう。お嬢さん。あなたは、」
「素敵な人だよ。」
「素敵な人だよ。」
私の箸にちょんと乗ったアジのしっぽ。
私は今ようやく、アジフライの意味が分かった。
お父さんの味なんだな。って。
「わたくし、アジフライ、好きなんですよ。」
アジフライ
0ocojo0 AJIFRAY