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見上げた先の空は、灰色の厚い雲に覆われていた。
永遠に続くかと思われた長く厳しい冬が終わり、やっと麗らかな太陽の日差しから
春の訪れを感じられる季節になったというのに。
自身の心を映したような、沈鬱な空模様に日本は人知れず深い溜息を吐いた。
「やはり気が進みませんか?祖国様」
そんな日本の様子を見て心配に思ったのだろう。
声をかけてきたのは、本土最南端に位置する鹿児島県だ。
「あ…気を遣わせてしまってすみません、大丈夫ですよ。お気になさらず 」
日本は、口では大丈夫だと言うけれど
鹿児島の目にはそうは見えていない様だ。
けれど、日本はそれ以上追求されることが嫌だった。
自身が大丈夫だと言えば、彼らはこれ以上口を開くことは無いとわかっている。
案の定鹿児島は、そうですか…と一言呟いて以降何か言ってくることは無かった。
それでも、何度かチラチラと横目で日本に目線を寄越していたが最後は運転に集中するようだった。
祖国である自分に反抗出来ない立場を利用して、彼を黙らせてしまったのは申し訳無いと思っている。
だが、ここで本音を言ってしまえば
鹿児島は直ぐにでもUターンして
今来た道を戻ってしまうだろう。
(もう、逃げるわけにはいかない…今日、自分の気持ちにケジメを付けると決めたのだから)
日本は今、鹿児島県にいる。
県の化身である鹿児島と一緒に、とある場所に向かって車を走らせている最中だった。
活気に満ちた市街地を通り、閑静な住宅街を抜けると、目の前に堂々と広がる大海原。
何時もなら、太陽の光を浴びてまるで宝石を散りばめたように、キラキラと輝いている海面は今は見る影も無い。
深い緑とも青とも言えるような暗い色にくすみ、静かにゆっくりと漂っているだけだった。
海の真ん中に、聳え立っている桜島も
今日は、霧と雲に隠れてしまい姿を見ることが出来ない。
(せめて、晴れていてくれたら…私の気持ちも少しは和らぐのに…)
(天気でさえ、私を見放してしまったのか)
無意識に、また吐き出しそうになった溜息を
日本は咄嗟に息を飲んで胸の内でやり過ごした。
そのまま、車は深い山の中へ入る。
まだ朝が早いので、すれ違う車も疎らなのかと思っていたが、そもそも向かっている場所自体が中心部から大分離れた山を越えた先にある。
それを考えれば当たり前のことか…とぼんやりと思った。
なんとなく話す気力も起きず、鹿児島もそれを察しているのだろう。
普段は陽気で積極的に話しかけてくれる彼の口は、真一文字に固く結ばれている。
お互い口を開くこと無く、入り組んだ山道をひた走ること数十分。
『目的地付近まで後2km』
もうそろそろ目的地に到着する様だ。
乱雑に生い茂っているだけだった木々達が、進むにつれて剪定され見栄えも良くなって来ている。
『目的地付近に到着致しました。案内を終了致します。』
とカーナビが案内の終わりを告げたと同時に、視界が開け綺麗に整備された遊歩道が出てきた。
「祖国様、到着致しました。」
鹿児島の言葉に、日本は横にずらしていた視線を前に向ける。
(あぁ、ここが…)
(日帝さんが最期を過ごした場所…)
ここは、知覧
鹿児島県薩摩半島南部に位置する小さな小さな田舎町。
そして……。
第二次世界大戦末期、沖縄戦で特攻という人類史上類を見ない作戦を実行するために、人間の命を武器として戦場に送り出した最後の場所。
コメント
7件
いつもと違う雰囲気でどうなるのか先が分からない〜!!( * ॑꒳ ॑* )✨
すっごい続きが気になってる!楽しみだぁ〜また続き待ってますね