「 悟 」
「 __ が✘んだ 」
サ ト ル
サ ト ル
春の訪れを告げる 三月下旬
頬を撫でる 初々しい遥風が
ふわりと舞い散る 桜花と共に
「 許嫁が蒸発した 」
なんて事を 知らせた
十年前
恭しく一礼する そのオンナ
頭を伏せている為 顔は伺えない
其れでも体格的には 然程俺と変わらない
サ ト ル
此奴もどうせ ツマラナイ
結局俺に 媚び諂うだけだろう
其れが彼女への 第一印象だった
サ ト ル
一応の礼儀として 名だけは尋ねる
勿論覚える気は 一切なかった
サ ト ル
サ ト ル
パッとしない会話に 苛つく俺が居た
でも
ゆっくりと顔を上げ 言葉を連ねる其奴
そう言いながら 初めて顔を見せた 彼女の眼は
其れは其れは
不自然過ぎて 自然な迄に
もう全てを諦めた 死刑囚の様な
神様を前にした 仏教徒の様な
唯、只管に
無気力で 無機質で 無関心な
そんな眼を していた
あれから五年
呪術高専に 二人揃って入学したのは 良いものの
サ ト ル
相変わらずの 塩加減で
シ ョ ウ コ
シ ョ ウ コ
ス グル
ス グル
サ ト ル
オマエを謎の渾名で呼ぶ 硝子と傑
其の二人に 指摘された時も
オマエは無表情で
サ ト ル
サ ト ル
少しでも 興味を引こうと
彼女に強く当たる 俺が居た
ス グル
ス グル
ス グル
サ ト ル
傑に揶揄われて 意地を張っても
ス グル
ス グル
傑の勝手な誘惑
サ ト ル
其れを何故か否定する俺
サ ト ル
其れでも オマエは嫌な顔 一つしない
別に彼奴の事が 好きという訳ではない
唯、単に
俺が彼奴の 眼中に無い事が
彼奴が俺に 無関心な事が
気に食わないだけ
其れでも
サ ト ル
寒空の下
青く霞んだ 二月初旬も
サ ト ル
サ ト ル
サ ト ル
オマエはすぐに 不貞腐れた俺を見つける
余計な期待を 俺にさせる
サ ト ル
サ ト ル
なるべく 何気ない様に
彼女の恋愛事について 話を問い掛ける
また惚ける
気付いてないとでも 思っているのか
サ ト ル
サ ト ル
思い切って 言ってみると
オマエは不信そうに 片眉を上げる
其れに関しては俺が 馬鹿であって欲しいと願う
サ ト ル
サ ト ル
傑に比べると 俺は恋愛では劣る
俺は傑より 此奴を幸せには出来ない
ならせめて 此奴には
好きな人と 幸せに結ばれて欲しい
サ ト ル
サ ト ル
そんな 俺らしくない感情を
旋風に預けて その場を立ち去った
其の言葉さえ 聴き逃していなければ
この物語の結末は 違ったのかもしれない
なんて事を 一ヶ月後に考えた
そして訪れる 三月中旬
一つだけ空いた 教室の机
彼奴の席は 埋まらなかった
ヤ ガ
サ ト ル
担任に呼び止められ 足を止める
サ ト ル
欠伸しながら 振り返ると
先生の顔は 何故か曇っていて
同時に何故か 嫌な予感がした
ヤ ガ
一度口を開閉させ
そして決心した様に 先生は口を開いた
ヤ ガ
ヤ ガ
サ ト ル
サ ト ル
嫌な予感は 見事的中
一瞬だけ 先生の言葉が
スローモーションで 聞こえた
サ ト ル
サ ト ル
ヤ ガ
空笑いで 笑い飛ばす俺に対して
より一層 黙り込む先生
突如として 怒りが込み上げた
サ ト ル
サ ト ル
サ ト ル
ヤ ガ
ヤ ガ
サ ト ル
先生の言葉が とても怖く感じた
言葉の最期を聞く事を 俺の全細胞が拒否し
其れでも 入ってくる雑音に
頭痛がして 吐き気迄催す
サ ト ル
サ ト ル
ヤ ガ
先生が呼び止めるのも 無視して
俺は其の儘 教室を出た
サ ト ル
サ ト ル
やりきれない この感情
胸を渦巻くナニカに 蝕まれて逝く様な
サ ト ル
どうも左胸が跳ね 煩い鼓動が体内を廻る
別に好きって訳じゃない
政略結婚相手で 唯の一介の許嫁
それ以上でも それ以下でもない
ならば
サ ト ル
サ ト ル
この胸の痛みや
土石流の様な感情は
サ ト ル
何 と い う 名 の 感 情 な の か
春の訪れを告げる 三月下旬
頬を撫でる 初々しい遥風が
ふわりと舞い散る 桜花と共に
オ レ ノ ナ ミ ダ ‘ 誰かの雨 ’ を 奪い去った
そして其れから 数日経った
俺は彼奴の死から 未だに立ち直れずにいた
其れでも
彼奴が死んだとて 時の流れは変わらない
無情にも花弁は散り 葉桜の季節が来る
彼奴が死んだ理由
一般人を庇って 死んだらしい
其れを 補助監督から聞いた時は
其の ‘ 一般人 ’ という言葉に
つくづく 吐き気がした
彼奴だって 普通の女子高生だ
唯、呪いが見えるだけの
幸せになれるはずの 一般人だ
独りで 不条理な世界を嘆くとか
そんな事をしても 変わらない世界で
四席から三席に減った クラスの机を
何もせずに 見つめていた
四月三十日
葉桜が揺れる中
カ ガヤ ド
カ ガヤ ド
サ ト ル
久々に和服を纏い
禪院家の分家である ‘ 炫戸家 ’ に出向いていた
サ ト ル
サ ト ル
其の炫戸家当主 炫戸 正夜が
カ ガヤ ド
炫戸家当主の 一人娘
否
俺の許嫁の 遺品を差し出した
サ ト ル
少し息を吐き 手を伸ばす
炫戸 正夜から 預かった
彼女の遺品
黒く精密な機械
ボイスレコーダーの ボタンを押す
ジジ ... ジ ... と
機械音が一瞬聞こえ 音声が流れる
「 あーあー 」
「 五条悟くん 」
「 聞こえるかな? 」
相変わらずの 少し冷たい声
其れでも 暖かい声で
彼奴の声を閉じ込めた 黒い機械が
彼奴の変わりに 語り始めた
嗚呼、聞こえてる
心の中でそう呟き 彼女の言葉を遺さず拾う
こんな時でも 上から目線は変わらずで
自然と頬が綻ぶ
まるで重大発表の様な 深刻そうな声
でも、勿論知ってる
顔や仕草に 全て出ていた
... 嗚呼、其れは
初耳だ
最期の方 ごにょごにょと
少し口籠った所で 話を切り替えた
照れ臭そうに 少し笑うオマエに
俺は驚きを 隠せなかった
ヨ ナ ガ
ヨ ナ ガ
ヨ ナ ガ
── プツ ッ
其処で 許嫁からの
夜永からの
遺書が終わっていた
そして 一年後
またやって来た 桜の季節
花見次いでに 彼女を想う
サ ト ル
いつも通りに 皮肉たっぷりで
其れでも 少し頬は緩んで
サ ト ル
春の訪れを告げる 三月下旬
頬を撫でる 初々しい遥風が
ふわりと舞い散る 桜花と共に
今は亡き 許嫁の事を
如何か忘れぬ様にと 花を揺らした
五条 悟 Gojo Satoru
×
炫戸 夜永 Kagayado Yonaga
死 亡 者 、 俺 の 許 嫁 。
fin
コメント
38件
春の訪れを告げる3月下旬。この言葉が何回も繰り返されていて、切ない思いになりました🥲💧 夜永ちゃんのお家に行くまで、夜永ちゃんの名前が出なかったのは、初めて2人が会った時の伏線(?)てきな感じですかね?! 読み切りなのにこんなに、胸に残る作品は本当に凄いと思います😫💓👍🏻 言葉選びもとても素敵で😶🌫️ 長文失礼しました🙏🏻
初 コ メ 失 礼 、 オ ス ス メ か ら 来 ま し た 。 長 く て ボ リ ュ ー ム 満 点 で 、 凄 く 面 白 か っ た で す 。 主 人 公 の 名 前 も 可 愛 く て 、 蒸 発 っ て い う の も 思 い つ く の 凄 い で す 、 長 文 失 礼 し ま し た 。