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一章 初夏 防空壕の跡.1
先生
先生
蘭
先生が野太い声で喋りながら、かつかつと音を立てて黒板に何か書いていくのを横目に、俺は全く別のことを考えていた 。
なんで、こんなにイライラするんだろう ?
俺は机に頬杖をつき、窓枠に四角く切り取られた真っ青な空を見ながら思う 。
自分でも理由なんか分からない。 でも、俺は毎日毎日、とにかくイライラしている 。
口うるさく小言ばかり言ってくる親も、刑務所みたいに生徒を管理して統制しようとする学校も、熱気のこもった暑苦しい教室も、
開け放たれた窓から入り込んでくる蝉の声も、教壇の上で偉そうに喋っている先生も、黒板を打つチョークの音も、かりかりと板書をノートに書き写すクラスメイトたちも 。
全部がむかつく 。何もかもが俺をいらだたせる 。
蝉はしゃがれた声で大合唱を続けている 。まるで鳴き声で世界を埋めつくそうとしているみたいだ 。
うるさい、うるさい、うるさい 。
ただでさえ暑いのに、余計に体感温度が上がる 。
俺はいらだちのままにきつく眉を寄せ、じっと窓の外に顔を向けていた 。
もちろん、教科書もノートも開いてないし、そもそも筆記用具さえ机の上に出していない 。
だって、勉強は好きじゃないし、その中でも歴史の授業はいちばん嫌いだ 。
何十年も何百年も昔のことなんか勉強して、いったいなんの役に立つわけ ? と思ってしまうのだ 。
俺は高校に行きたいとも思ってないし、テストの成績もどうだっていい 。
そんなもの、くだらない 。だから、俺には勉強なんか必要ない 。
俺は、学校が大嫌いだ 。こんなにも息苦しい場所が、他にあるだろうか 。
本当にはこんなところには来たくない 。でも、さぼると親や教師からごちゃごちゃ言われてうざったいから、仕方なく来ているだけだ 。
先生
いきなり大声で名前を呼ばれたので、俺は眉をひそめてゆっくりと視線を前に向けた 。
教壇の上から険しい表情で俺を睨んでいる先生と目が合う 。
先生
蘭
先生
怒鳴るような威圧的な口調 。教師ってどうしてみんなこんなに偉そうなんだろう 。
本当に、ふんぞり返って子どもに説教できるほどたいした人間なんだろうか 。
蘭
嘘をついたって仕方が無いし、そもそも取り繕う必要もないと思ったので、俺は正直にそう答えた 。
その瞬間、先生の顔が茹でダコみたいに真っ赤に染まる 。
先生
蘭
べつに馬鹿にしているつもりはないんだけど、と内心でぼやきつつ、訂正するのも面倒なので、俺は黙って先生を見つめ返した 。
先生は怒りをなんとか飲み込もうとするように大きく息を吸い込んでから、
先生
と、諦めたように言った 。
俺はため息をついて机の中から教科書を取り出し、ゆっくりと立ち上がった 。
クラスメイトたちが横目で、あるいは目立たないように小さく振り返って、ちらちらとこちらの様子を窺ってくる 。
先生の額には怒りの余韻で青筋が浮いていた 。
俺はもう一度ため息を吐き出して、指示された場所を読みはじめた 。
蘭
先生
先生の怒鳴り声に遮られて、俺のいらだちは最高潮に達した 。
蘭
俺は俯いたまま一方的に告げて教科書を投げ出し、すたすたと歩き出した 。
先生が顔をしかめて「おい !」と言ったけれど、無視して後ろのドア廊下に出る 。
クラスメイトたちが唖然とした顔で見ていた 。それから、周囲の子たちとこそこそ何かを言い合っている 。
普段は見て見ぬふりで空気みたいに扱うくせに、こういうときだけは興味津々なんだから、笑える 。
ああ、本当に、何もかもがイライラする 。