無月
無月
プロローグ
そうして迎えた翌日。
雨は、変わらず降り続いていた
厚い雲が隙間なく覆う暗い空が 神様から突きつけられた答えのような気がした。
俺は、もうこれ以上生きていても仕方ないのだと
こんな人生はここですっぽり終わらせてしまうことが 正しいのだと。
そう、お墨付けをもらった気がして 気持ちが固まった、 悲しいとは思わなかった
これでようやく解放されるのだと、 奇妙な幸福感だけに包まれた
午前中はどんな方法で4ぬかを考えながら過ごした
ロープや練炭を今から用意するのは難しい 何も道具を使わず出来るだけ確実な方法でと考えたら、やっぱり、飛び降りかなという結論に至る
だけど、小さな子供も入院しているこの病院の屋上から飛び降りるのはさすがに気が引けた
あまり遠くへは行けないけれど、せめて少しは離れた場所にしよう 飛び降りた瞬間を知り合いに見られるのも嫌だし
しばらく考えた末 小さな頃に行ったことがある雑屋ビルの屋上から 飛び降りることに決めた
市街地からは少し離れた場所にあるし ここから俺でも歩いて行ける距離だ。
場所が決まれば後は着替えて出発するだけだった。
そこでふと机の上に置かれた 黄色いギンガムチェックのノートが目にとまる
特に整理するようなものではないと思っていたけれど 漫画を描いていたあのノートだけは さすがに見られると恥ずかしい
病院で捨てるとうっかり見つかるかもしれないし 持っていってどこが外で捨てよう。
そんなことを考えながら何気なくは中を開いてみると、最後のコマは主人公の顔が片目だけ書かれたところで終わっていた
昨日描いている途中で看護師さんに呼ばれたせいだ
何度も中途半端な感じになってる。 その絵を見て、せめてこの顔だけは書き上げておこうとなんとなく思った
俺はノートを持って病室を出ると いつものように談話室に向かった
けれど、今日の談話室はいつになく人が多かった 騒がしさにうんざりしたので どこか静かなところを探し歩き出す。
階段を降りていると、それだけでポンコツな体はすぐに疲れてしまった
一階のロビーに差し掛かったところで息が上がってきて、俺は会計をまつ通院患者に混ざって椅子に座った
ノートを膝の上に載せて開く 自分の描いた漫画をなんとなく最初から読み返していく
主人公は俺とは正反対の男の子だ。
元気で明るくて、友達がたくさんいて、女の子にもよく好かれている キラキラして、その場にいるだけで周りまで明るくする太陽みたいな男の子
俺の夢見ていた姿を、叶わなかった姿を、 慰めるように、無心で描いていた
赤
唇の端から乾いたような笑い声がこぼれる おかしくて涙が出そうだった
こんなことをしてもどうせ虚しくなるだけだったのに もういいや、こんな漫画なんてどうでも
そう思ったら急にその下手くそな絵を見ているのも耐えられなくなって 主人公の笑顔の上にシャーペンをめちゃくちゃに走らせようとした時だった
黄
俺の名前を呼ぶ素っ頓狂な声が飛んできたのは
無月
無月
無月
無月
無月
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