…俺は、ふと目を覚ました。
日帝
空を見上げれば、 満開の桜。
日帝
俺はどうやら、桜の木に 寄りかかってうたた寝を していたらしい。
空
日帝
海
日帝
目の前に集まった、 俺の弟たち。
息を切らしている海を 空が指さして笑った。
空
海
空
怒った海が、空を 走って追いかける。
でも、その表情は どちらも楽しそうでも あった。
日帝
そんな二人の様子を見て、 俺は、
泣いていた。
空
海
いつの間にか二人は 戻ってきていて、涙を 流す俺を不思議そうに 見ていた。
俺は涙を袖で拭い、 笑顔を浮かべた。
日帝
海
空
日帝
…なんだ、俺はてっきり 空も海も死んだと 思っていたが…
目の前で元気に 走り回ってるじゃないか。
日帝
俺はそう納得して、
空と海を追いかけるために 立ち上がった。
その、瞬間。
その瞬間、周囲が 火の海となった。
日帝
辺りを見回す。
周囲はがれきが散乱し、 沢山の人が地に伏している。
その中に、空も居た。
日帝
空の顔は真っ黒に 焦げていて、かろうじて 手が震えながら俺の方に 伸ばされる。
空
日帝
その言葉を聞いて、 俺はすぐに井戸か 川かを探した。
日帝
周りは劫火だった。
炎の中に足を 突っ込んでも、服は 燃えず足も熱くなかった。
だから俺は、必死に 川か井戸を探して 灼熱の街を駆け抜けた。
でも、唐突に。
熱線と爆風が、 俺の体を 吹き飛ばした。
日帝
コンクリートの建物に 思い切り頭をぶつけた。
日帝
視界がぐらぐらと 揺れている。
そして、視線を 前に向ければ。
海
日帝
下半身の無い、海が 仰向けで倒れていた。
海
日帝
海
日帝
海の上半身を抱き上げる。
海は、煤の付いた 頬を引っ張って、薄笑みを 浮かべた。
海
『なんでお前だけ 生き残ったんだ?』
日帝
海
海が光のない目で 俺を見ていた。
海
日帝
空
後ろから、空の 声が聞こえた。
真っ黒な体で、
黒焦げで顔も無いのに、
不可視の空の視線が 俺に向けられていた。
空
日帝
目を見開き、俺は 空に必死に謝った。
空が、ぽつりと 何かを言った。
空
日帝
空
『陸も一緒に死ねば 良かったのに!!』
空が、驚くほどの 声量で叫んだ。
日帝
その叫びに固まってしまった 俺の頬を、海の手が触れる。
海
空
海がそう言うと同時、
二人は、
完全に倒れた
日帝
『うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!』
日帝
がば、と跳ね起きた。
日帝
息がしづらい。
全身汗をかいていて、 首筋を冷や汗が 伝っていった。
日帝
辺りを見渡せば、 そこは劫火の町ではなく… 俺の実家だった。
ぼうっと目の前の 何もない空間を見ていると、 ポロリと涙が零れた。
日帝
小さくうずくまり、 俺は、
小さな子供の様に 謝りながら泣き続けた。
日帝
にゃぽん
日帝
にゃぽん
日帝
昨日家に帰ってきてから にゃぽんに死ぬほど看病 された後早めに就寝 させられたおかげで、 昨日の熱中症の面影は 一切消えていた。
にゃぽん
日帝
にゃぽん
にゃぽんがそう言って 笑った。
…確かに、俺ももっと 自然に接せたら良いなとは 思うのだが…
日帝
にゃぽんも俺も、まだ 会ってから3日目だ。
たった3日で自然に 過ごせというのも かなり無理があるだろう。
一人でそう思って そっと溜息を吐いた。
日本
ちょうどにゃぽんと俺の 会話が途切れた時、 日本が居間へと入ってきた。
日帝
にゃぽん
日本
寝起きの日本は、日頃の 疲れが出ているのか 結構な確率で顔が 死んでいる。
今日も例にもれず 昨日出勤していたからか 表情筋が死んでいた。
日本
にゃぽん
日帝
自然とそろう挨拶。
俺はまず白米の入った 茶碗を手に取り、 黙々と食べ進めていた。
日本
日帝
朝ご飯で多少目が覚めて きたのか、先程よりも しっかりとした声で 日本が話しかけてきた。
日本
日帝
一発目、広島に原爆が 落とされたのが8月6日。
カレンダーを見上げると、 今日は8月6日と 大きく書いてあった。
日帝
俺はしばらく考えた あと、頷いた。
日帝
日本
日帝
俺はまた、食事へと 戻る。
…俺からすれば 空と会うのは数か月 ぶりだが…
空からすれば、俺と 会うのは79年ぶりだ。
日帝
ふと、今朝の夢で 空が叫んでいたことを 思い出し━━━…
胸がギュッと 苦しくなった。
食事も終わり、俺たちは 着替え終わった。
俺は軍服を、にゃぽんは セーラー服を。
日本はスーツでこそ なかったが、シンプルな ワイシャツに身を包んでいた。
日本
にゃぽん
日帝
日本が、よし、と いった様子で頷いた。
日本
その言葉で、家の 扉が開けられた。
玄関の外で見上げた 空は、原爆が落ちた 時の空の様に真っ青に 澄み渡っていた。
電車に揺られ、2時間。
俺たちは無事、空の墓が あるらしい場所へと 辿り着いた。
そして、駅から出て まず思ったのは。
日帝
日帝
元々、俺たちが子供の 時代は今俺が立っている 地域に住んでいた。
つまり空は、数年たって 出身地へと還ってきて いたのか…
なんだか感慨深くて、 思いに浸っていると 日本が俺の横で 独り言の様に口を開いた。
日本
日帝
しゃわしゃわと、蝉の 声が辺りに響いている。
俺も、日本も、にゃぽんも 何も言わずともその町を 歩き出した。
10分ほど歩いて 辿り着いたのは、これまた 懐かしい場所。
日帝
日本
にゃぽん
もう少しだけ歩いて、 開けた場所に二つ。
灰色の石と 水の入った花瓶が 置かれていた。
日帝
日本
日帝
思い出の場所に、 兄弟二人で一緒に。
きっと、二人からすれば これ以上ない埋葬の 方法だろう。
日帝
俺は、自然に二つの 墓に向かって手を 合わせていた。
俺の後方で、にゃぽんと 日本も手を合わせていた。
大体1分くらい、 手を合わせた後。
日本がおもむろに 立ち上がった。
日本
にゃぽん
にゃぽんがそう言った ので、俺も…と 声を上げる。
日帝
日本
日帝
首を傾げて尋ねると、 日本は俺に麻布を 差し出した。
日本
日帝
それから俺は、 にゃぽんが汲んできて くれた水を使って墓石を 掃除した。
にゃぽんは周りの 枯葉を塵取と箒で 片付け、日本は軍手を つけて雑草を根元から 丁寧に抜く。
元々小さな墓だと いうこともあって、 30分も頑張れば 墓周りも墓自体も 綺麗になった。
にゃぽん
日本
日本
急に指名された。
日帝
日本は笑顔で答えた。
日本
どうぞ、と日本が 俺に4等分された 花束を手渡した。
日帝
俺は、墓前に置かれた 花瓶に花束を生けた。
花瓶に生けられたのは、 真っ白な百合と菊の花。
夏の日差しに照らされて、 純白の花々はつやつやと 光を反射していた。
そして、もう一度 手を合わせる。
日帝
俺は、誰にでもなく… ただ、祈った。
もし、空と海がただ一人 生き残った俺を 今朝の夢の様に本当に 恨んでいるのだとしても。
必死に御国のために 頑張って力尽きた二人に、
せめて天国では幸せに 過ごしてほしい、と。
こうして、俺の 空と海への墓参りは 終わったのだった。
コメント
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涙が、、、
陸!頑張った!