がしっ。
1つのアームが、ぬいぐるみ全体を確実に掴む。 が、持ち上がって2秒もしないうちにすぐ落下してしまった。
赤
残念そうに眉を下げて唸り声を上げるりうら。 その隣に立って、ただただアームとぬいぐるみの行く末を見守る。 かれこれ10分ぐらいこのクレーンゲームの前に居座っているが、一向に取れる気がしない。
赤
りうらの目線の先にあるのは、とあるタコのキャラクターのクッションぬいぐるみ。 ブサかわとか、きもかわとかそういうやつだろうか。絶妙に可愛くはないんだけど、「1番大きいから」という理由だけでこれがターゲットになった。
チャリン、ともう何回も聞いたお金を入れる音が響く。 軽快な電子音が流れ始めて、アームが右側へとゆっくり移動していく。 この台は右に一回と奥に一回しかアームを動かせないタイプで財布に優しくない。 がしっとタコの頭部がアームに掴まれる。今回は結構いい位置にいったのか、持ち上がっても落ちることなく順調に落とし口へと向かっていく。
....が、寸前でタコが滑り落ちて、落とし口の周りに設置された低いガラス板にちょうどぶつかり、コロコロと回転して1番奥まで転がっていってしまった。 振り出しに戻るどころか状況的にはかなり悪化。
赤
桃
言いなだめるようにりうらに言うけれど、彼の頬がどんどん膨らむだけ。 若干諦めモードに入っていたとき、背後から声をかけられた。
女性店員
桃
悪戦苦闘している俺たちを見兼ねたのか、店員さんから優しい声掛けをもらった。これはラッキー。 当のりうらは何も分かっていないみたいで、きょとんとした顔で店員さんを見つめている。 店員さんは慣れた手つきでガラス窓の鍵を開け、奥の方へ行ってしまったタコを持ち上げる。 そして、落とし口の周りにあるガラス板の上に、絶妙なバランスでそっと置いてくれた。
赤
桃
お金を入れて、アームを本当に少しだけ右にずらす。 するとアームの掴もうとした反動だけで、簡単にタコが落とし口へ落下していった。 さっきまでとは違うポップな電子ミュージックが流れ、ちょっとした祝福を受ける。
赤
りうらはしゃがんで、その巨大なタコを両手で掴んで引っ張り出した。
赤
ご対面して一発目の発言がそれなのはかなり酷い気がする。
桃
赤
しかし改めて見ると本当にデカいな。 低反発らしいそのぬいぐるみは確かに抱き心地が良さそうだ。
桃
赤
桃
りうらの返事を聞いて、俺はズボンのポケットに入れていた小さいノートを取り出す。 赤のボールペンで項目の隣に丸を書いた。
7.クレーンゲームをする 〇
赤
桃
昨日誕生した"償いごとリスト"。 作ったのはりうらだけど、「ないくんがやらなきゃいけないんだから自分で持ってなよ」ということで俺が管理することになった。 順番とかは特になくて、やりたい日にやりたいことをするというのがモットーらしい。
赤
桃
赤
桃
目の下を通り越して鼻の頭ぐらいまで伸びたりうらの前髪。 ここ数日の間だけでも、何回も目に入っては痛がっている。
桃
ゲームセンターを後にして、近くにあったアクセサリーショップに入った。 ど平日だからか、このショッピングモール自体もそこまで賑わっていなくて、お店には俺とりうらの2人だけだった。
桃
パールのイヤリング、デニムのカチューシャ、星が象られたシルバーのネックレス....。
店内のものを物色するが、殆どが女性向けのものばかりであまり良さげなものが見つからない。 一方りうらは疲れてしまったのか、俺の手を握りながらあくびをしている。
桃
流れるように店内を歩き回っていると、ふと1つの商品に目が留まった。 ゴールドのヘアピン三本セット。余計な飾りもなくシンプル。これならりうらにも似合いそう。
赤
桃
赤
お会計を通した後、早速3本のうちの1本目を引き抜く。
桃
赤
りうらの前髪をそっと掴んで、上に持ってくる。 このとき「おでこにとんでもない傷跡を隠してたらどうしよう」とすごく今更思ったのだけど、りうらのおでこは至って普通で何も無かった。 勝手に少し安心して、頭皮を擦させながらゴールドのヘアピンでとめる。
桃
赤
りうらはお店に設置された小さい鏡を見つめる。
桃
赤
桃
赤
突然りうらが叫んで、顔がみるみるうちに赤らむ。
桃
赤
桃
赤
りうらはそっと自分のおでこを撫でている。 今までずっと隠れていたからまだ慣れていないのだろう。
赤
桃
そう言うと、りうらは顔を赤らめたまま嬉しそうに頬を緩めた。 何度も何度も頭の上のピンに触れては、どう?なんて俺に聞いてくる。 期待通りの言葉をやれば、また嬉しそうにそわそわと動いた。
随分、子供らしいと思った。
赤
桃
赤
そう言って巨大なタコを俺に押しつけてくる。デカい。
桃
赤
桃
お店の前に設置された、背の低いソファーに腰掛ける。 しかし、このサイズのぬいぐるみを大の大人が持つのまぁまぁ恥ずかしいな。 混んでいないのをいいことに、俺の隣にデカいタコをそっと置く。
桃
「お風呂ってあぁいう風につかうんだね」 「だって初めて食べるし!」
りうらのセリフが、俺の中で残響する。 ずっと怖かった。 あんな酷い目にあってきて、酷い現場を目撃して、どうしてそこまで明るく振り舞うことができるのか。どうしてあんな、何でもないみたいな顔ができるのか。 クレーンゲームで取れなくて落ち込んで、褒められて恥ずかしがって。 そんなりうらを間近で見ていて、安堵していた自分がいた。 今日のりうらは、普通の子供らしさがあったから。
昨日までの底知れない明るさを持ったりうらより、ずっと。
白
桃
突如頭の上から声が降ってきて、思わず肩を揺らす。 驚いて顔を上げると、いつの間にか白髪の少年が俺の前に立っていた。全く気がつかなかった。 りうらと同じぐらいに見えるけど、いつくなんだろう。
白
桃
そういえば、建前の俺たちの関係を決めていなかった。 "弟"という言い方はりうらに怒られそうだけど、8つも歳が違うのに恋人設定は無理がある。というか俺が捕まる。
白
アメジスト色の瞳がすっと細まる。 細い左腕にはこのショッピングモールにあるスーパーのレジ袋がさがっていた。 この子、異常に肌が白いな。りうらも白いけど、この子は病的な白さで血色感がまるで無い。
白
桃
白
彼はぬいぐるみを挟んで俺の左隣に座る。 当たり前のようにタコを持ち上げて自分の膝に乗せては、「おお〜」とそのぬいぐるみの触り心地に感心の声を上げていた。 純粋さというか、無邪気さみたいなところはりうらと通ずるところがあるけれど、でもちょっと違う。 なんというか、掴みどころがなくてちょっと怖い。
白
桃
彼はぬいぐるみを抱きかかえたまま、じっと俺の目の奥を見つめてくる。 まるで何かを探るみたいに。
白
幼い顔つきに似合わない低い声。 その声から発された言葉は、本当に恐ろしいものだった。
白
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コメント
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最 後 の セ リ フ 怖 す ぎま す 、 😿 🍣 🐤 が ほ の ぼ の し て る の め た ん こ 尊 い で す 、 👊🏻 💕
え待って最後めっちゃ怖かった笑笑「は?」って声出ちゃった笑