優しい生徒達

家に帰るなり荷物を乱暴に置き、ソファに 座る。ここ数週間ずっと任務任務の日々を送り、大好きな可愛い生徒たちに会えていない。そのストレスからか、最近は空腹も感じないしイライラしっぱなしで伊地知が、 かなり怯えていた。

申し訳ないとは思っているけどもう我慢 ならない。1ヶ月も高専に帰らせてもらえないだなんて思ってなかったし、そもそもこんな嫌がらせをしてくるだなんてやっぱり上の人間は大っ嫌いだ。

いつもなら学校だけど、今日は土曜日で 休み。僕の可愛い生徒達と会うために任務だって頑張ったのにこれじゃあ意味ないよね。

はーっとついたため息が静かな部屋に 溶け込む。

誰もいない静かなこの部屋がすごく寂しい。

悠仁なら呼んだらきてくれそう。 でも、迷惑だよな。 確か、恵と野薔薇と出掛けてるって 言ってたけ？

あぁ、やっぱり可愛い生徒達に会いたい。 そう思ったらいてもたってもいられなく なって、ついスマートフォンに 手を伸ばしてしまう。

ちょっと話すだけだし、邪魔はしないし、すぐ電話切れば大丈夫だよね。うん、大丈夫。
そう自分に言い聞かせてから受話器のマークを押す。

2コール、3コール やっぱりでてくれないよなー、なんて思いながら切ろうとした時。

まさか出てくれるなんて思ってなくて少し動揺してしまった。
久しぶりに呼ばれる｢五条先生｣に、涙が溢れそうになるのを堪える。

電話を切って、下を向くと一粒だけ 涙が溢れた。
危ない危ない、悠仁に気が付かれるとこだった。悠仁は、ああ見えてすごく鋭いから、 声だけでもわかっちゃうのかな。
最強の僕が弱ってるとこなんて、 みんな見たくないよね。

帰ったらご飯を食べようと考えていたのに、まるでソファに接着剤でもついているかのように動けなかった。

暫くボーッとしていると手に持っているスマートフォンがブルブルと震え出す。 画面を見ると、そこには『虎杖悠仁』という文字が映し出されていた。

なんの用だろうか。もしかして悠二に何かあったとか？僕は、焦って電話に出る。

これまで動けなかったのが嘘のようなスピードで玄関に向かう。 扉を開けた先には…

僕の可愛い生徒である悠二と恵の姿があった

言ってた。めちゃくちゃはっきり言ってた。あのときはなにも思わなかったけど、今考えたら確かに言ってた。

にこにこと得意げに笑う悠仁を見るとやっぱり泣きそうになってきた。やばい。

悠二と恵は、家の中に入った。 よいしょっとビニール袋を台所に置いた。 僕の家に来る前に、スーパーに寄ったらしく 中には、チョコレート、バター、卵、ココアパウダー、薄力粉、砂糖、生クリーム、苺、 その他の材料が入っていた。

悠二に、そう言われてリビングで 待っているとカシャカシャと混ぜる音や 火の音が聞こえた。 悠二は、スマホの画面を見ながら何かを 作っていた。そっと、台所を覗いてみると、 オーブンに何かを入れていた。

悠二が、白いお皿に乗せて持って来たのは、 フォンダンショコラだった。 えっ、悠二。こんなの作れるの⁈ 料理は、出来るって知ってるけど、 お菓子とかも作れるんだ！

優しい声に思わず顔を上げると、そこには先程の笑顔とは違い心配そうな顔をした 悠仁がいた。 
優しい声で僕のことを｢五条先生｣って 呼んでくれるから。

一口食べるとトロトロのチョコレートが出て来て美味しくて暖かい味がして気がつけば、涙がボロボロと涙が溢れて止まらなくなっていた。

悠仁が、泣き始めた僕を優しく抱きしめて頭を撫でてくれた。

話しているうちに呼吸が苦しくなってくる。

泣き続ける僕の背中を優しく撫でてくれる 悠仁の手が暖かくて、余計に涙が あふれてくる。

悠仁はずっと僕を抱きしめていた体を離して、僕の顔を真っ直ぐに見つめてくる。

そこで言葉を切った悠仁は、涙と鼻水でびしゃびしゃの僕の顔を両手でぱしんと挟んでこう言った。

いつものように笑う悠仁に、僕も自然と笑顔になっていた。

満足気に笑う悠仁。
僕が思っているより、この子はずっと 強くて、ずっと大人だ。