夕空は、どんな季節だって綺麗な色彩だ。 昼と夜と、太陽の赤の残滓が入り交じった、そんな色。 遠くの方で盛り上がった入道雲だけが、今が夏である事を表している。
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この村では“教えた覚えの無いことを他人が知っている”ということは当たり前だった。 人口の少ない村に、お喋りが留まる事のないおばちゃん達。 俺の家族はなおきりさんのお母さんから聞いた。 えとさんが知ったのは多分、俺の父が外に漏らしたからなのだろう。 俺には遠回しな言い方をする癖に、口は軽いのだ。
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と、言いかけたところで、るながえとさんのことを焦ったように見た。 それがどういう意味かは分からない。
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どぬちゃん、もとい日暮どぬくは二年生の先輩だ。 実はえとさんも二年生で、一年生は俺とるなしかいない。 るなが一番仲がいいのはえとさんだが、彼女はどう思っているだろうか。 二年生はえとさんも合わせて十人いるし、彼女はギャルというやつだから、友人関係も広いだろう。
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そう言ってえとさんはヒロくんとのトーク画面を見せた。 えとさんが返信した可愛らしい羊のスタンプが見える。 ちなみに浅川さん、というのは中学生の女の子だ。 何度か彼女の父を見た事があるのだが、父親似のくっきりとした二重の綺麗な女の子だ。 そう思った時、教室の扉がガラガラという音を立てて開いた。
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ヒロくんの部活はバスケ部だ。 よく活躍している場面を見るが、特に部長や副部長を担っているという訳ではない。 テニス部の次に人気なあの部活の事だから、浅川さんと同じ学年にも持ち物を聞ける人は居た筈なのに... それに気づかないヒロくんも鈍感だ。
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爽やかな王子様フェイスをしている割にはよく照れる人だ。 透明感のある白い肌が耳まで真っ赤に染められている。
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るなとえとさんが目をアーチ型に細める。 瞼に隠れた黒目がお互いを見合っているように見えるのは気の所為ではないのだろう。 ヒロくんは相変わらず何も分かっていないみたいだが。
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俺とるな、えとさん、ヒロくん、どぬ、うりは殆ど毎日一緒に下校している。 単に言えば家が近いからだろう。 狭い村だからか、近所同士の付き合いは本人達が思うよりも深い事がある。 余り物のご飯は遠慮なくあげるし、子供が産まれればその世話にも付き合う。 おばちゃん達はかなりのお節介(いい意味でも悪い意味でも)なのだ。
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ヒロくんの時よりもずっと盛大に扉が開いた。 うるさすぎて建付けの悪い扉が壊れてしまうのでは無いかと心配できるくらいに。
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薄らと浮いた汗を拭きながら、どぬが窓の傍にやって来る。 ポニーテールにした彼の色素の薄い髪が、夕日に照らされて白く透けている。
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どぬの実家は神社を経営している。 夏休みに開かれる祭りは、どぬの実家が中心を担っているくらいだ。 どぬは社務所で御守りを渡しているだけらしいが... 彼の律儀(?)な性格に免じて、そこは割愛。
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...こういう所があるから、皆どぬには甘いんだろうな。
「ただいま」と言いかけたところで、お父さんが居ることに気がついた。 奥の部屋で背を向けているが、俺が帰ってきた事には気がついているだろう。 どぬが雰囲気を察したように、玄関から動かなくなる。
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父
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お父さんの声は淡々としていて、別段興味がある訳でもなければ、冷たい声でもなかった。 途切れた会話をお母さんが繋いだ。
母
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そう言ってどぬは靴を後ろ向きで揃えて脱いだ。 さすが神主の息子と言うべきだろうか、行儀が良い。
母
そう言ったお母さんの背後からは酸味のある味噌の香ばしい匂いがした。 俺の家はいつも簡素な和食だが、どぬが来た今日もそれは変わらないらしい。 そんな表裏のない所が、高校生になった今でも好きだった。
手を洗いに廊下に出た瞬間、半開きになった引き戸から、父が何かを言っているのが聞こえてきた。
父
俺は咄嗟に振り返った。 障子に嵌められたガラス越しに、曇った父の顔が見える。 まだテレビを見ているようだが、俺とどぬが出て行った瞬間を見計らって言ったんだろう。 母に言ったフリで、実際は俺に聞かせたいのだ。
母
母の言葉は淡々としていた。 多分、同じような事が何度もあったからだろう。 俺とどぬが立ち止まっているのを見て、母は目で「早く行きなさい」と伝えている。 それでも父の言葉は続いた。
父
父
“まだ”って何。 なおきりさんに一度置いていかれた自分に、そんな事を思う資格はあるだろうか。
母
母
母が一瞬言葉を詰まらせる。 俺がなおきりさんに対して抱いている感情を良く思っていない訳ではない。 ただ、父の前でその話題を口にしたくないだけだ。 この前、あんな事があったから。
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ここまで聞いて、良くないと思ったのだろう。 どぬがそう声を掛けた。 俺を守ってくれたお母さんとどぬに対して、心の中でお礼を言った。 下を向くと、ぎゅっと握り締めた親指の付け根が白くなっているのが見える。
いつだって、俺を見ない卑怯者のお父さん。 ____だから嫌いなんだ、と、出来るだけ小さい声で呟いた。 どぬは聞こなかったのか聞こえないフリをしたのか、その後は何も言わなかった。
ウツキ
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