君に明日なんて無かったのに。
ミ"ーンミ"ンミ"ンミ"ンミ"ーン セミの声が激しく鳴く音で目覚める。
少し汗ばんだ背中を不快に思いながらも、怠い上体を起こす。
そして呟いた。
シン
…
シン
そりゃそうだと思いながらベットから立つ。 チクリと傷んだ心を無視して。
ピロン 静かな部屋に鳴った着信音は"ケイ"からだった。
シン
ケイとの出会いはありきたりなものだった。 そう、あれは初夏の少し湿った空気が漂う昼前_
ケイ
ケイ
シン
ケイ
〜講義終了〜
ケイ
シン
ケイ
シン
ケイ
シン
_これがケイとの出会いだった。 物語性も無い、ただ大学の講義にノートを忘れ、困り果てていたところに俺がいた。 そしてお礼に連れて行ってもらったラーメン屋が意外にうまかった、というだけだ。
まぁ、そんなこんなで"友達"になった訳だが、
シン
今は都合の良いネットカフェ代わりにされている。 …ここまで来ると最初からネカフェ利用目的だったんじゃないかと疑いたくなるなほんと。
シン
心の中で文句を呟きながらもケイ用の布団を用意するため、1階に降りる。 あーあ俺って優しい
1階に降りれば8ヶ月前となんら変わりないリビングが待っていた。
そう、8か月前。 12月22日 俺の誕生日だ。 そして
父、母、姉の命日だ。
シン
リビングに来るとやはり思い出してしまう。 父の笑い声、母が食器を洗う音、姉のスマホの着信音
全て確かにそこにあったのに。 見ていたのに。 聞いていたのに。 触れていたのに。
シン
シン
寒い寒い冬のことだった。
俺の誕生日は12月22日、つまりクリスマスの3日前。 普段なら12月25日に誕生日兼クリスマスパーティとして俺の誕生日とクリスマスパーティを同時にするのが、その年は俺自身が受験生だったこともあって、 珍しく誕生日当日にお祝いをする予定だった。
シンの母
1階からそう叫ぶ母さんの声は今でも鮮明に覚えている
シン
2階からぶっきらぼうに叫んだ当時の自分自身を 今の俺はぶん殴りたい。
シンの母
シン
シンの母
シン
その後、自分のスマホに電話をかけてきたのは母ではなく、警察だった。
シン
家族の命は信号無視の車によって奪われた。
その車の運転手は26歳の中小企業勤めの社員で、 奥さんが産気づいたのを産婦人科から連絡を受け 会社を早退してまで病院に向かっていたらしい。
加害者側の運転手
26歳にしては小柄なその男性の瞳には 後悔と罪悪、そして絶望が確かにあった。
シン
当時、18歳になったばかりの俺には 受け止め難い現実だった。
死ぬ、というのはこれほどまでに簡単なのか。
いなくなる、というのはこれほどまでに痛いのか。
明日、というのはこんなに残酷なのか。
シン
シンの母
シン
シンの母
シン
シンの母
シン
シンの母
シン
シンの母
シン
シンの母
シン
シンの母
シン
シンの母
シン
母さんはいつも俺に呼びかけてくれていた。
俺はどうだっただろうか。
母さんたちが家を出るあの時、
俺は
「行ってらっしゃい」を言っただろうか。
シン
シン
独り言として冷たく放った自分の一言は、 リビングに寂しく響いて 木霊することなく消えていった。
シン
拝啓 母さん 俺は未だ、貴方に誇れる息子ではありません。
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