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ぬし
ぬし
ぬし
このまちには、被曝当時の様子を知るための資料館がある。
亮は、なんだか怖くてまだ入ったことがなかった。
キョウチクトウの花が咲いて、もうすぐ夏、という日曜日、亮は真由と圭太と三人で、資料館の下に立っていた
「発掘調査現地見学会」。
資料館の耐震工事のために、周りの地面を掘って地層調査をしたところを、埋め戻す前に市民に公開する、という会だった。
圭太
圭太
真由も圭太も興奮気味。
2mまで掘り下げられた地下からは、江戸時代から被爆したときまでの地層が重なって出てきた。
圭太
圭太
圭太が、ギザギザと横に延びた、焦げあとの残る黒い地層を指差した。
真由
亮たち三人は、ほかの見学者と一緒に、発掘現場を一周した。
掘り返された地面、墓地、銭湯、井戸、トイレ、アスファルト道路、下水管
そのどれもが、少し触れただけで、あっけなく崩れそうだった。
古い土の匂い。
眠っていたまちの断片が、足元に広がる。
亮の中で、時間がギシギシときしみながら、逆戻りしていく。
真由
真由
真由
ビー玉だって
出土品を展示するテントの下で、真由の声がする。
亮
亮の耳がぴくんと動いた。
亮の目の前にあったのは、
あの白い大玉だった。
黄色と赤の模様が閉じ込められて、それは亮をじっと見つめる瞳のようだった。
亮
亮は出土品係のおじさんに頼んで、その玉をそっとつまんだ。
大玉って、やっぱり重いね。
これを動かすには、当てるたまの力が強くなくちゃ。
亮
ビー玉は、長い間、瓦礫の間で眠っていたとは思えないほど、見た目は綺麗だった。
けれど、亮の指先は、玉の一部が変形しているのを感じていた。
熱で熔けたガラス...
この玉はだれのもの?
亮だけが、かっちゃんの玉だと思っている。
夢の中の玉?
あれが夢だったどうかも、亮には分からない。
でも、あの玉で遊んだかっちゃんたちは、確かにここに居た。
このまちの子供だった。
居たけれど、居なくなった。
白いビー玉を残して。
亮には、それがはっきりわかった。
ポケットの中のビー玉は、あの時遊んだラムネッチンの記念。
もちろん、新しいのを買ってきた。
亮
亮はT字型の橋の上から、川を見下ろす。
ここで泳ぐなんて、どんな感じだろう。
どこかで水しぶきが上がる。
真っ黒に日焼けした子供たちの歓声が聞こえる。
亮は、川に向かって手を振った。
原爆ドームの向こうは、雲ひとつ無い青空。
このまちにまた夏が来る。