千夜の過ち

　教室の扉に手をかけた瞬間、騒がしい声が廊下にまで漏れ聞こえてきた。

この学校で初めて担任を任された俺は、軽いため息をつく。胸の奥に微かな緊張を覚えながら、扉をゆっくりスライドさせた。

　ガラガラという扉が滑る音と共に入室し声をかけるとみんな自分の席へと戻っていく。

　俺は教室をぐるりと見渡しながら軽く頭を下げる。

この学校には美術の教師が俺を含めて二人いて、半分ずつ授業を受け持っている。そのため、半分は見慣れた顔、もう半分は見知らぬ顔だ。

そんな中、窓際で頬杖をつき、窓の外を見つめる一人の生徒に目が留まった。 　その姿が目に入った瞬間、まるで釘付けにされたように視線が止まった。

　彼は俺の話を聞き流し、無表情のまま窓の外に目を向けている。 　頬杖をつくその仕草が、どこか影のような空気を纏っていた。

「誰かに似ている……？」 　記憶の片隅から浮かび上がった顔に、胸がざわつく。気怠そうな仕草に、どこか既視感を覚える。

一人の生徒の声で、何秒も自己紹介が途切れてしまっていることに気がつく。

冷静になって考えると、生徒になんて話してるんだ、俺。

そう言って、無理矢理話にオチをつけると、クラスがどっと盛り上がった。

例の生徒は、なおも表情一つ変えずに窓の外眺めていた。

そう言ってみんなを整列させて体育館へと向かう。