ヤマノケ(1)

これは、今から1週間前の事

俺は、娘を連れてドライブに行った

娘を驚かそうとして、舗装(ほそう)されてない脇道に入り込んだ

娘の制止が逆に面白くて、どんどん先に進んでいった

そしたら、急にエンジンが停まった、山奥だからケータイも繋がらないし、車の知識もないから、娘と途方に暮れてしまった

飯を食ったドライブインも歩いたら何時間かかるだろうか……

で、しょうがないから

その日は、車中泊(しゃちゅうはく)して、次の日の朝から歩いてドライブインに行く事にしたんだ

車内で寒さをしのいでるうちに、夜になった

夜の山って何も音がしないんだな、たまに風が吹いて気がザワザワ言うぐらいで

で、どんどん時間が過ぎて言って娘は助手席で寝てしまった

俺も寝るかと思って目を閉じたら、何か聞こえてきたんだ

今思い出しても気味が悪い、声だか分からん感じで

って何度も繰り返してるんだ

最初は聞き間違いだと思い込もうとして、目を閉じたままにしてたんだけど

音がどんどん近づいてきてる気がして、たまらなくなって目を開けたんだ

そしたら、

白いのっぺりした何かが、めちゃくちゃな動きをしながら車に近づいてくるのが見えた。形は「ウルトラマン」のジャミラみたいな、頭がないシルエットで足は言っぽんに見えた。そいつを例えるなら「ケンケンしながら両手めちゃくちゃに、振り回して身体全体をぶれさせながら」向かってくる。めちゃくちゃ怖くて叫びそうになったけど、何故かその時は「隣で寝てる娘が起きないように」って、変なとこに気が回って、叫ぶ事も逃げる事もできないでいた

そいつは、どんどん車に近づいてきたんだけど、どうも車の脇を通り過ぎていくようだった

通り過ぎる間も

って音が聞こえてた。

音が遠ざかって、後ろを振り返ってもそいつの姿が見えなかったからほっとして娘の方に向き直ったら、そいつが助手席の窓の外にいた。近くで見たら頭がないと思ってたのに胸のあたりに顔がついてる。思い出したくもない恐ろしい顔でニタニタ笑ってる

俺は怖いを通り越して、娘に近づかれた怒りが湧いてきて「この野郎！」って叫んだんだ