静寂ーー
それは、 天城煌(あまぎ こう)の 世界を覆う色だった。
朝の教室。 賑やかな声が飛び交う中で 煌は窓際の席に一人、 イヤホン越しの音楽に 身を預けていた。
天城煌
誰かに話しかけられることも 自分から話しかけられることも ない。
妹を事故で亡くして以来、 煌は他人との距離を 無意識に置いてきた。
喪失と、後悔と、恐怖。 誰かを大切にすることは、 同時に失う痛みを 背負うことになる。
生徒A
生徒B
生徒A
廊下を歩く生徒たちの 声が耳に入った瞬間、 煌の視線がわずかに動いた。
天城煌
最近、学校では ”無気力症”と呼ばれる 奇妙な症状が流行していた。
元気だった生徒が 突然口を閉ざし、 感情を失ったようになる。
そして、そのほとんどが ”美術室の絵”に触れた後で 発症しているのだという。
天城煌
ふと、妹・灯(あかり)の 笑顔が脳裏をよぎる。
あのとき、彼女も ”何か”を見て、そしてーー
天城煌
放課後、 煌は誰にも言わず、 美術室へと向かった。
ーーガラッ
扉を開けた瞬間、 冷気が頬をなでた。
窓は閉まっているはずなのに 妙な寒さが漂っていた。
天城煌
美術室には、 キャンバスや絵の具が 雑然と並んでいた。
そして、その奥ーー
”それ”は、あった。
古びた額縁に収められた 異様な絵。
真っ黒な闇の中に、 無数の目玉が浮かんでいる。
まるで見ているこちらを 凝視してくるかのような、 異常な迫力。
天城煌
その瞬間だった。
ーーズズ……ズズズッ……
空気が震えた。 絵の中から、 黒いモヤのような ”何か”が這い出してくる。
天城煌
煌は後ずさった。 けれど、足が床に 吸い付くように動かない。
黒いモヤは徐々に形を変え、 人のような影を形作る。
??
その”何か”が口を開いた ーーように感じた。
天城煌
次の瞬間、 煌の頭の中に 怒涛のように押し寄せる 記憶。
妹の笑顔、事故、叫び、涙。 押し潰されそうな過去。
??
影が煌に手を伸ばす。 その瞬間ーー
???
凛とした声が響いた。
バシュン!
何かが弾けるような 音と共に、影が 吹き飛ばされる。
煌が顔を上げると、 そこには銀髪の少女が 立っていた。
透き通るような白い肌、 切れ長の瞳。
どこか現実味のない 美しさと力強さが 同居した存在。
天城煌
白月澪
少女ーー 澪はそう名乗ったかと 思うと、煌に真っ直ぐ 向き直った。
白月澪
天城煌
白月澪
白月澪
天城煌
澪の言葉に、 煌は自分の中にある”闇”を 見つめた。
妹を守れなかったこと。 誰かを大切に思うことが 失う怖さと繋がっていること。
それでもーー 本当は、誰かと繋がりたい ということ。
天城煌
その瞬間、胸の奥から 何かが解き放たれた。
バチィン!
煌の身体から淡い光が ほとばしり、 周囲の影を弾き飛ばす。
彼の瞳が淡く輝き、 空間に亀裂が走る。
白月澪
澪が微笑んだ。
煌の周囲には、 まるで”もう一人の自分” のような影が立ち現れ、 彼に寄り添う。
天城煌
白月澪
白月澪
そのとき、残っていた影が 最後の抵抗を見せるかのように 絵の中から飛び出した。
??
天城煌
煌が影に向けて手を伸ばすと 彼の”影”が動いた。
鋭く、しかし静かに、 影を貫くように一閃。
ーー闇は、静かに霧散した。 美術室に、元の静けさが戻った。
天城煌
白月澪
白月澪
煌は黙って澪の 言葉を聞いていた。
白月澪
天城煌
白月澪
澪は手を差し出した。
白月澪
煌は少しだけ戸惑ってーー そしてその手を、握り返した。
こうして、天城煌の運命は 静かに、けれど確かに 動き始めた。
影と向き合う物語。 己の痛みと向き合いながら、 誰かを守る力を手にする戦いが、 今ーー幕を開ける。
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