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「〜〜!!!ーーーーー?」


声がかすかな風のように胸に流れ込んでくる。それは、閉じた瞼を、まるで初めからくっ付いていたかのように重い瞼を、開かせられるものではなかった。


夢を見ていた。明晰夢のように、ここが夢だとはっきり分かった。


ここは、大地がない。かと言って飛んでいるわけでもなかった。まるで、足そのものが無くなってしまった感覚だった。


また、空がない。目と鼻の先に天井があるような、まるで、海のように底を見ることが叶わない、と思うほどに遠くにあるような、そんな気がした。


夢の中は、ふわふわとした柔らかいものの中にいるかのような感覚だった。それが、なんとも言えない幸福感を感じていた。


「‥‥」


そろそろ目を開けなければと思っても、体が動かなかった。真冬のこたつの中みたいに出て行きたくなかった。

夢の中なのにさらに眠くて眠くて、目を瞑ってしまった。


その時、さっきまで暖かかった空気がひやりと冷めたのが分かった。


あるはずのない天と地が逆さまになった。いいや、自分の体が逆になった。視界がグルりと回り頭に血が上る感覚がした。

そのまま、無くなっていた体の感覚がじんわりと戻って行きながら、暗闇に叩きつけられた。


「ぁ、ああ゛あ゛」


体に稲妻が走ったくらいの激痛がした。暗闇の奥底の床に落ちたのだ。ついた手から伝わる寒さに身震いした。

分かるのは下の冷たい地面だけ。周りは暗闇のベールに包まれて、指の先も分からないくらい暗かった。

体を這うように恐怖が押し寄せてきた。

怖い、怖い。どうして?夢なら覚めてよ。はやくしてよ。怖いよ。

恐怖とこの静けさで怠けていた頭が冴えていく。周りが暗いと思考も暗くなるのだろうか。


「‥‥」


「日本」との日々が津波のように流れ込む。その度に何度も考えた事を思い出す。

私は「日本」といては駄目なのかな。私がいるから「日本」は消えてしまうのかな。私のせいなのかな。

全部、全部、全部!!!

それとも‥‥。


「グ‥‥ォえ」


自分の声が、言われたことのない「日本」の声が頭に響いて気持ちが悪い。吐きたくてたまらないのに、口からは何も出てこない。


こう言う時は何度もあった。その時は呼吸を落ち着かせて、精神を安定させなければならない。

でも、今はいつもと違った。

どんなに息を吸おうとしても、うまく出来ない。津波のような思考は止まる事を知らなかった。


身勝手なこととは分かっていても誰かに助けを呼んだ。

助けて。誰か。何処かに連れて行ってよ。神様が見ていない所まで。ねぇ。助けて。怖いよ。


心の中で何度も叫んだ。息が上がり、視界がぼやける。何処が下か上か分からなくなる。

ねぇ「日本」、日帝様、皆んな、どうして私を置いて行ったの?

日本、日本、日本、日本、‥‥

心の中で唱えるように名前を呼んだ。


でも


少しずつ、いや、恐ろしい程の速さで、日本の事を思い出せなくなって行った。まるで記憶に霧がかかったかのように。


「いや、嘘でしょ‥?あんなに大切だったのに。」

「嫌だ、嫌だ、忘れたくない。」

「大好きな、日本。そうだよ、日本、日本、日本‥‥」




あれ?‥‥にほんってなんだっけ?



そう言った瞬間、視界がぼやけ空間が歪んでいった。それと同時に重い瞼がゆっくりと持ち上がり現実へと戻って行った。

記憶にかかった霧は何も見えないくらいに濃くなっていた。


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