レイスの指先が震えた。
父をもう一度殺さなければならない。
胸の奥に押し込めた記憶が、容赦なく引きずり出される。アザルは冷ややかに微笑みながら、ゆっくりと歩を進めた。
「どうした?動けないのか?」
レイスは奥歯を噛み締める。
「……くそが。」
血が流れ、形を変えていく。レイスの周囲には数十体の血の虎が姿を現し、獰猛な牙を剥いた。
「派手な技だな。」
アザルが片手をかざすと、彼の影がまるで意思を持つかのように蠢き、膨れ上がる。
──次の瞬間、レイスの血の虎たちが次々と消えた。
「……ッ!?」
「ふむ。やはり、私の異能の影響を受けるか。」
レイスの脳裏に、過去の記憶がよぎる。
アザルの異能──『忘却の領域』。
この男の周囲では、”魔術”や”異能”が忘れ去られる。
(つまり……血の操作が無効になるってことか……!)
レイスは舌打ちしながら、一歩退いた。
「まさか、100年経ってもこの異能が衰えていないとはな。」
「100年?違うな。」
アザルは目を細め、静かに告げる。
「俺にとっては、”100年前”など存在しない。俺はただ、お前を討つために、この時に現れただけだ。」
影が揺らめき、次の瞬間、アザルの手に黒い刃が出現する。
「さあ、レイス。もう一度、親子の殺し合いをしようじゃないか。」
レイスは唇を噛みしめ、震える拳を握る。
「……ああ、いいぜ。」
血の匂いが、王都に満ちていく。
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