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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「マネージャー会議に、なんで君までついて来たんですか」


林は能天気に微笑んでいる新谷を睨んだ。


「あ、俺は別件で。引き渡したお客様にトラブルがあったので、様子を見に来たんです」


「それで?」


「今、猪尾さんに連れてってもらって。はは。大丈夫でした。何で来たの?とか笑われたくらいです」


「………」


まだ睨んでいる林を、新谷は首を傾げて見つめた。


「マネージャー会議、終わりまし……た?」


林の後ろに見える展示場を眺めるように新谷が言った。


「篠崎さん、夜に打ち合わせが入ってるって言ってたから、早く帰らないと…」


林の脇を抜けて歩き出そうとする。


(……今、篠崎は紫雨さんと話しているのに)


「新谷君さぁ」


林は新谷を振り返った。


「篠崎マネージャーと、付き合ってるんですか?」


途端に新谷の顔が真っ赤に染まる。


「そ、それ、だ、誰から?」


その反応が林を苛立たせた。。

冬から春にかけて、時庭でも天賀谷でもあんなに仲睦まじく過ごしていたのに、あれで隠していたつもりなのか。


(隠すなら隠せよ本気で。紫雨さんが気づかないくらいに……!)


林はますます新谷を睨み上げた。


「二人を見てると、イライラするんですよ。節操がなくて。あんまり見せつけるのやめてもらっていいですか?紫雨さんもうんざりしてるので」


言うと新谷は少し意外そうに目を開いた。


「紫雨さんが?」


そしてふっと笑った。


「相変わらず天邪鬼だな。俺たちを結び付けてくれたのは紫雨さんなのに」


「………は?」


「紫雨さんの協力がなかったら、俺はまだ篠崎さんに片思いし続けていたと思います」


「………」


林は嘘はついていない様子の新谷を見下ろした。


(結び付けた?紫雨さんが?二人を……?)


「俺は、紫雨さんに背中を押してもらったので」


新谷が微笑む。


(それがもし、本当なら―――)


林はぐっと顎を引くと、思い出すように少し俯いて微笑んでいる新谷を改めて睨んだ。


(あの人に、なんて辛い思いをさせたんだ。お前は……っ!)



林はその平和な顔に向かって言った。


「でも驚きだな。篠崎さんってストレートでしょ?」


言うと新谷は顔を上げ、林を見つめた。


「ええ!ドストレートです!」


その言い方までいちいち癇に障る。


「君は特別ってことですか?」


「いや、そんな大それたもんじゃないと思うんですけど」


また艶の良い頬を染めながら新谷が頭を掻く。


「でも、それってある意味辛くないですか?」


「辛い?」


「だって、君、篠崎さんの人生を潰しているわけでしょう」


「………」


新谷が小さく口を開けて黙る。


「本当だったら、女性と結婚して、子供を産んで、その成長を楽しんで。その子供が大きくなって孫を抱いて。そんな幸せを君が潰してるんですよ。毎日、毎時間、毎秒と」


「………」


開かれていた彼の唇が閉じる。


「好きな人が得るはずだった幸せを、自分が潰しているってどんな気分ですか?日々そんな罪悪感と向き合っていくのは、さぞしんどいんでしょうね」


林は新谷を刺し抉る言葉を選びながら話した。


新谷と篠崎が別れる可能性が少しでも上がるように。

僅かでも紫雨が入り込む隙間が広がるように。


しかし……。


「……でも俺、篠崎さんのこと、好きです」


新谷は林を正面から見据えてそう言った。


「だからね新谷君。その自分勝手な感情が篠崎さんを……」


林が言い返そうとしたが、新谷はそれを大声で遮った。


「この気持ちが誰かに負けない限り、俺は篠崎さんと、一緒にいていいと思っています!」


新谷は心なしか胸を張り、林から目を逸らさずに言った。


「俺以上に、あの人を幸せにできる人なんていない。今はその自信があります!」


「………」


「篠崎さんのことが好きだという気持ちは、世界中の誰にも負けない!」


林は拳を握り俯いた。



―――好きだという気持ちは、世界中の誰にも負けない……。


―――好きだという気持ちは、世界中の誰にも負けない……。



好きだという気持ちは、


世界中の誰にも、


負けない……。



「そんなの……」


拳がワナワナと震える。


「……林さん?」


林は顔を上げた。


「そんなの、俺だってそうですけど!?」


「あ、林さん……?」


顔を真っ赤にして、新谷を突き飛ばしながら、展示場に走っていく林を見送り、新谷はフッと息を吐きながら微笑んだ。


こんなに、簡単なことだった。

こんなに、単純なことだった。


俺は、紫雨さんが好きだ。

紫雨さんのことを、誰よりも、好きだ。


この気持ちが誰にも負けない限り、

俺は誰かに紫雨さんを譲らなくていいんだ。



もっと正面から、


もっと素直に、

もっと正直に、


あの人にぶつかっていかなきゃいけなかったんだ。


その結果笑われても、からかわれても、バカにされても、


彼の心に届くまで、何度も、何度でも、


叫べばよかった……!!



林は事務所のドアを開けた。


靴を脱ぎ捨てると、スリッパも履かずに、展示場へのドアを開けた。



確か二人は和室で話をすると言っていた。


篠崎は「すぐ終わる」と言っていた。もう終わっているだろう。


篠崎はいてもいなくても、どうでもいい。


とにかく自分のまっすぐな気持ちを紫雨に伝えるんだ。



今までずっとちゃんと言ってこなかった。


冗談めかして、

出まかせのように、

口先だけで。


真剣に伝えないことで、逃げていた。

真剣に伝えて、フラれてしまうことから。



フラれてもいい。


何度も、何度でも、伝えていいんだ。


紫雨に林の気持ちが伝わるまで。



『そんなに言うなら、俺を落としてみたら?無理だろうけど!』


そう言って、紫雨が笑ってくれるまで。



展示場の一番奥にある、和室の襖を開けた。


――――――――。


その光景を見て、林は、全ての思考と動きを止めた。


八畳の和室。


中央に紫雨が寝転がっていた。


そこに篠崎が覆いかぶさるように跨っている。


紫雨の手が、しがみつくように篠崎の肩と背中に回っていて、


篠崎の大きな手が、紫雨の小さな頭を包んでいる。



広縁から入る日の光の中で――――。


二人は激しく唇を合わせていた。



林はその姿を、その映像を、言語化できずにいた。


篠崎さんが、紫雨さんにキスをしている―――?


いや、逆か?


でも―――。



篠崎の背中に回る紫雨の白い手が、


紫雨の頭を支える篠崎の大きな手が、


全ては“同意の上”だと伝えている。



気配に気づいたのか、篠崎が振り返った。


「……林!」


その声を聞いた途端、電気が走るように、林の身体は動きを取り戻した。



右足を突っ張るように振り返ると、もときた廊下を走り出した。


「林!!」


後ろから篠崎の声が追いかけてくる。


しかし林は止まらずに逃げ続けた。



(なんで?なんで篠崎さんと、紫雨さんが……)


考えてもわからない。


事務所のドアを開ける。


(あの2人、ただの同期だろ?紫雨さんの片思いなんじゃなかったのか?)


考えても、わからない。


靴を履き、ドアを開ける。


(それとも2人の間にも何かあったのか?でも、それにしても、だって………)


「林さん?」


目の前には、少し呆れた様子の新谷が立っていた。


「今度はどうしました……?」


林は目を細めて新谷を見つめた。


(………篠崎さん。あんた、こいつと付き合ってんじゃないのかよ……)



それでもいいから…

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