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「君は、五条 悟だから最強なのか、最強だから五条 悟なのか。」
久しぶりに取れた睡眠は、最悪な目覚め方をした。あの時のことを、未だ引きずっている自分を、酷く女々しいと思った。寝起き特有の倦怠感が、身体に纏わりつく。重いため息を吐きだす。顔の筋肉までも、動かすのが億劫で、再度、瞼を閉じると、ずるずると夢の中に引き戻されていった。
呪術高専で、まだ学生だった時、同学年で、初めて出来た親友。
「夏油 傑」
同学年は、自分を含め、たったの三人しかいなかった。
「夏油 傑」 「家入 硝子」
それから俺。五条 悟。
呪術高専と言うのは、東京都立呪術高等専門学校の略称だ。呪術高専は、生まれながらに、体に術式を刻まれていて、呪いと言うモノが視える呪術師と呼ばれる者が行く高校だ。呪いは害を成す。だが、呪いを払えるのは、同じ呪いだけ。呪術について学び、呪いを祓う。ここは、呪いに対抗出来る人間が、集う高校。呪術師を育成する学校だ。
呪術師の高校とは言え、学校であると、事前に説明を受けていた。のだが…。
学校だと言うから、沢山の生徒がいて、ガヤガヤしているのを想像していたが、かなり静かなのだ。それに思ったより人数が少ない。人数は少ないのに無駄に広い。だから、物凄く殺風景に感じる。ここは、学校と言っても友達とドッジボールをしたり、前日に見た面白いテレビ番組を語る所では無い。分かってはいたが、もう少し、そう言う学校らしさと言うか、楽しそうな雰囲気を期待していた。
まぁ。いつ死ぬか分からない所だ。楽しさを期待する方が、お門違いという物だろう。
人数は少ないが、無駄に広い高専内を、教室を探しながら歩く。渡り廊下に、足を踏み入れると、ふわりと、風が前を通った。木や、草が、風で擦れ合う音がする。
ここ、マジで東京?
つくづくそう思う。東京に、まだ緑が残っているだなんて、思っても無かった。一体、どれだけ山奥に在るのやら。でも、都市が栄えている場所と違って、人は来ないだろうし、呪いは生まれないだろう。風に吹かれて、音を立てて揺れている木々を横目に、渡り廊下を歩く。
…にしても、教室どこだよ。このままだと、先に校内探索が終わる。教室の場所、ちゃんと聞いときゃ良かったかな…。
あらかじめ、高専の説明はされていて、教室の場所も、担任らしき奴が話していたような気がするが、まともに話を聞いていなかったので、分からなくなっていた。要するに、もしかしなくても、迷子になっているのだ。教室の場所は、覚えてた方が良かった。だなんて、思っても時すでに遅し。ふらふらと、しばらく高専内を彷徨っていると、運良く、教室のドアっぽいのを見つけた。自分のクラスかは知らないが。…そもそも、教室かどうかも、定かでは無いが…。とりあえず、ドアを開けた。ガラリと音を立ててドアを横にずらすと、教室の中央に、机が三つ。それから黒板、高専の説明をしに来た、担任らしき奴、それから茶髪の奴と、変な前髪の、高専の制服を着てる奴らが目に入る。
これが、教室と言う物なのだろうか。高専内よりも、教室の方が、殺風景ではないだろうか。
教室と呼ぶには、余りにも寂しい。あると言っても、机が三つと、黒板だけだぞ?黒板も使っているのだろうか…。人数だって、今来た自分を数に入れても、たったの四人だ。片手で数え終わる。なんと言うか、生活感?が全く無い。教室の中央に並べられた三つの机は、まるで、一つのゴミも、汚れもない、何にも無い平らな地面に、一個だけ転がっている石ころの様に浮いていた。
でも、黒板と机があって、高専の制服を着てる奴が居る、と言う事は、ここは教室なのだろう。
同学年の一年って、確か三人つってたよな。ここが俺のクラスか。にしても、ガチで三人かよ。……これ、クラスって言えんの…。
あ、そういや、7時までに、教室に集合してろって言われてたっけ。今、何時だろ。
教室の、壁の上、右端にある時計に、視線をやる。時計の針は、6時57分を表示していた。ギリギリ遅れて無いし、まぁセーフでいいだろう。教室の中を、少し見回しながら、中に、足を踏み入れる。見れば、見るほど、すっからかんだ。余っている真ん中の席に座る。自分の席を挟む、両端の二人の視線が、集中する。
最後にやって来たのだ。注目されるのが、必然なんだろう。昔から、この白髪と、青い目のおかげで、周りからよくジロジロ見られていたから、慣れているけれど。ただ、ジロジロと見られるのが好きなわけでは無い。うぜぇ…と心の中でぼやく。
「ゴホンッ」
わざとらしく、担任らしき奴が咳払いをする。
「一年生がやっと揃った事だし、今から、高専内の案内、説明をしていく訳だが、その前に、自己紹介をしておこう。」
「お前達の担任になった。夜蛾 正道だ。」
やはり、この刈り上げ顎ひげ、強面の、ガラの悪そうな奴が、担任らしい。
「よろしくお願いします。夜蛾先生。私は、夏油 傑と言います。」
ピアスをして、横にふくよかな、ボンタンの様なズボンを履いていて、変な前髪の、如何にも、ヤンキーみたいな格好をした左真横に座っている奴が、見た目を裏切る丁寧な挨拶をする。この見た目で、一人称が〝私〟か、世の中、どんな人間がいるか分からないものだ。ガラが悪そうに見えて、案外、礼儀正しいコイツは、傑と言うらしい。
「家入 硝子です。よろしく〜。」
語尾を伸ばしてやる気無さげな挨拶をするが、不思議と感じが悪く聞こえない。首に少しかかる位の長さの髪の毛で、毛先を、真っ直ぐ綺麗に揃えて、前髪を左側の耳にかけたシンプルな髪型。だけど、髪の色は明るめの茶髪だ。コイツは、硝子と言うらしい。
流れ的に次は自分だ。
「五条 悟。」
一言、名前だけ名乗って口を閉じた。
「自己紹介は済んだ。高専内を案内する。」
そう言って、夜蛾と言う担任は、教室を出て行った。自分達も、席を立って担任の後に続く。高専内の案内は、退屈だった。何処もかしこもさっき見た場所ばかりだし、どう言う時に、この場所を使うだのなんだの長々と説明される。茶髪の奴は、適当に相槌を打っていた。変な前髪の奴は、しっかり話を聞いていたっけ。教室に戻った時には、高専の説明なんて、何一つ頭に無く、どうでもいい事しか覚えていなかった。
教室に戻ると、すぐに、担任は教室から出て行った。同学年の三人だけが、教室に残った。でも、三人だけになっても話す事も無い。俺は、自分の席に戻った。校長先生のお話は、退屈で、疲れると聞くけれど、こんな感じなのかもしれない。小学校も、中学校も、行っていないから、知らないけれど。
やる事も無いから、机に頬杖をついて、窓の外に視線を向ける。やはり、呪術高専は山の中に在るらしい。見れば、見るほど、東京だとは思えない。
「はぁ……。暇…。」
窓の外に、何か、面白い物がある訳でもなく、溜め息と共に、本音が零れた。
「暇なら、私と話をしないかい?」
「…は?」
誰かと思って、声のする方を振り返ると、変な前髪をしている奴が、ニコニコと微笑みながら立っていた。
「こんにちは。私は、夏油 傑って言うよ。さっき、自己紹介したから、知ってるかもしれないけど。改めてよろしくね。」
にっこりと笑いかけて、少し右に顔を傾けて、変な前髪の奴は、話しかけて来る。
「へー。」
「で?話すってナニを話すんだよ。ヘンテコ前髪。」
「…君。初対面なのに、いきなり相手の容姿をおちょくるのって失礼じゃない?」
「実際、変な前髪してるだろ。」
「君に、私の容姿について、とやかく口出しされる謂れは無いよ。」
「今、自己紹介したばかりなのに前髪呼びかい?」
「ア?自己紹介?お前の自己紹介なんて、聞いてねーよ。」
「そもそも、興味ねーし。うるせーンだよ。ヘンテコ前髪野郎。」
「私は、ヘンテコ前髪って名前じゃ無いんだけど、そんな事も分からないのかい?」
どうやら、コイツは前髪のことを馬鹿にされるのが嫌らしい。それを分かってて、俺は、前髪を連呼する。
「は?そんなに前髪って言われんのがヤなら、その前髪辞めればいーだろ(笑)」
「容姿について、とやかく口出しされる謂れは無いって言ったよね?」
「とやかく口出しされない様な、前髪にすりゃいーじゃん(笑)」
「……ここじゃなんだし、外で話そうか。」
目の前の、ヘンテコ前髪野郎は、明らかに怒っているのに笑顔のままだ。
「だから、ナニを話すんだよ?(笑)寂しんぼか?一人で行けよ、ヘンテコ前髪(笑)」
ブチッと何かが切れた様に、ヘンテコ前髪野郎の、雰囲気が豹変する。目の前に、手を出して来たから、何してんだコイツ。と、思いながら見ていると、背後に、ドス黒いオーラを纏い始める。そのオーラは、だんだんと増大して行き、形を成していく。
恨み、憎しみ、後悔、恥辱、人間が持つ、負の感情。それが流れ出して具現した、異形の存在。ソレを、俺たち呪術師は、呪い。または、呪霊と呼ぶ。奴等には、言葉が通じない。人間を、容赦なく襲い、殺す。まさに、理性のない、本能が剥き出しの獣だ。そんな獣を操る、珍しい術式を持った奴が居るとは。
「へぇ…。呪霊操術…。珍しい。」
「あぁ。そうだよ。よく分かったね。」
「目が良いもんでね。」
そう言い、俺は、サングラスを外し、机に置く。
「それが、六眼か。」
「あぁ。そーだよ。」
「そんで?呪霊まで出して来て、俺とやるつもりか?(笑)」
「まぁ。やんならさっさとかかってこいよ(笑)」
人差し指を、自分の方にちょいちょいと曲げてかかってこいよ。と、挑発する。
「言ったね?」
ヘンテコ前髪野郎が、そう言ったと同時、太くて、縦に長い。目の部分が窪み、穴が空いている様な呪霊が、口の中が、全部見える大きさにばっくりと口を開け、濁音の叫び声を上げて、襲いかかってくる。
「ッヒヒ」
縦長で太い胴体は、見た目は硬そうだが、柔軟性があるのだろう。呪霊が、体を捻らせながら動く度、ブヨッブヨンッと、波を立てる。呪霊が俺の目の前に来た途端、更に大きく口を開けて、更に大きな叫びを上げる。呪霊の口内は、唾液塗れで、少し紫がかった色の肉は、唾液に濡れて、光っている。口は円形で、奥の方まで円を描いて尖った歯が生えていた。地面を這って迫って来ていた呪霊は、急に体を起こして、俺に覆い被さる様に丸呑みしようと飛びかかってくる。
「グゥ”ゥ”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ァ”ッッ!!」
「残念。」
「後ちょっとだったな。」
俺にあと少しで届く牙は、寸前の所で止まっている。
「ク”ア”…。」
俺に、噛み付こうとはしているが、その牙が俺に届くことは無い。何故なら。
「へぇ……。攻撃が当たらない。寸前で止まっている…。」
「一体、どうなってるんだい?」
「んー、簡単に言うと、これ(無限)はさ、止まってるってよりか、俺に近づくほど、遅くなってんの。アキレスと亀って奴だ。俊足で有名な英雄アキレスが、亀を追いかけると〜って奴。」
「どんなに、俺に近づこうとしても、永遠に距離が0にならないんだ。だから、俺に攻撃が当たることは無くなるんだよね。」
「これを強化した物が、無下限っつーんだ。これは、あくまでも順転の話なんだけど、この、0にならない距離を、0にする。それから0をマイナスにするんだよ。そうしたら、吸い込む力を作り出す事が出来る。これが、術式順転 蒼。」
「なるほど……?」
「ま、聞くより見た方がはえーよ。」
俺は、ブンッと、後ろに向かって手を振る。今まで、ずっと俺に噛み付こうと、唸り声を上げていた呪霊が、
「く”ぅ”ッッ」
と言う悲鳴を上げたかと思うと、ドゴッッと、背後で、鈍い音がした。音のした方を見ると、壁に入った亀裂からも分かるが、結構な力で叩きつけられた衝撃で、四方八方かなりの範囲に、呪霊特有の、青紫色の体液が飛び散り、教室は、一面だけだが、青紫色になった。体液と共に飛散した肉片も、壁にへばり付いていた。呪霊の体は、内部も激しく損傷し、腹が裂け、床に、ずるりと内臓を垂らして、壁にめり込んでいた。呪霊は、ぴくりとも動かず、垂れている内臓は、一部分破裂していた。その、破裂した部分からも、呪霊の体液が滴っていた。ぽた、ぽた、と一定のリズムを刻んで、体液が、床に落ちる。
「これが、術式順転 蒼。今のは、蒼の引力を使って、回転させたのを、壁に叩き……。」
バンッッッ!
今から、正に、蒼の解説をしようと思った所で、教室のドアが、物凄い音を立てて、開け放たれた。そこには、ドアとドアの両端の柱を手で掴み、プルプルと体を震わしながら俯いている担任がいた。
「お前ら…。」
「「あ。」」
ヘンテコ前髪野郎と、俺の声が重なったと同時。
「何をしてるんだぁ”ッッ!!」
いきなり顔を上げたかと思うと、額に青筋を浮かべて、いつも眉間に刻まれているシワを、更に深く刻んで物凄い形相をした担任がいた。正に鬼だ。濁音混じりの凄まじい声量の怒声が、鼓膜を殴り付けてくる。さっきの呪霊よりも声量デケェと思う。
「「……いや…別に………。」」
ヘンテコ前髪野郎と、俺は、左右違う方向に、同時に、視線を逸らす。
「教室をこんなにしておいて、いや別に。で、済ませられると思うなよ…。」
入学早々、担任に、ヘンテコ前髪野郎と一緒に拳骨を喰らい、なっっがーい お説教を受けた。お説教から解放されたのは、それから、約一時間半後の事だった。その後も、教室の掃除やら、片付けやらで、実質、解放されたのは三、四時間くらい経ってからだった。
入学する時のやる事が、高専内の、案内だけの訳も無く、他にもまだあったので、帰る時間が大分遅くなった。茶髪の奴は、めちゃ文句言ってた。
呪術高専に入学する前から、仕事はやっていて、呪霊を祓った経験はそれなりにあった。だから、次の日から、早々に、任務に駆り出される事となった。一番最初は、同学年の一年生が、三人全員任務に行く事となった。茶髪の奴は、戦闘は出来ない。だが、反転術式と言う、高度な呪術が扱えた。反転術式と言うのは、負のエネルギーである呪力同士を掛け合わせ、正のエネルギーを生み出すと言うもの。反転術式で生成される正のエネルギーは、傷の回復等に使える。反転術式は、教えてもらって出来るようになるようなものじゃ無い。感覚的なコツを掴まなければいけないから、反転術式を扱える呪術師は、極めて少なく、貴重だ。
だからこそ、任務に連れて行くと聞いた時は、少し驚いた。反転術式を使える貴重な人材を、現場に連れて行くとは思っていなかった。何でも、現場を体験させておく為らしい。それに、呪霊を祓った経験がそれなりにあるとは言え、高専に入学したばかりの、一年生だ。怪我を負った時の事も危惧して、反転術式を使えるコイツを、連れて行くらしい。夜蛾と言う担任は、一級呪術師らしい。一級の担任もついてくるから、一緒に現場に行く事になったみたいだ。と言っても、あくまでも〝同行〟だ。帳の中に入る事には入るが、帳から直ぐ出られる場所で、担任が、常に側に居る状態で待機となっている。
そんな強い階級の奴じゃ無いんだから、そんなガチガチに守んなくても良くね…?
まぁ、それほど反転術式を扱える呪術師が、貴重だと言う事だ。あくまでも、茶髪は同行するだけだと言う事を、補助監督に、しつこく、念入りに説明された後、被害に遭った非術師の話等から、どう言う呪霊であるかの説明を受ける。どうやら、話を聞く限りでは、体をガチガチに締められ、窒息死しかけると言う被害が、多く報告されている様だ。三級程度の呪霊で、特に、厄介な術式を持っている呪霊では無いみたいだ。被害が出ているのは廃校だ。最初に、肝試し感覚で廃校に忍び込んだ数人が、窒息死させられかけて、逃げ延びた後、廃校で起きた話を、学校の同級生に話したらしい。その話が広まり、興味本位で廃校に忍び込む奴が増えて、そいつ等も、もちろん呪霊に襲われて。どんどん話が広まって、今や、心霊スポットと化した。心霊スポットは、呪いが発生しやすい。だが、体を締められると言う被害報告が、大多数を締めている。他にも呪霊は居るかも知れないが、今回、問題になっている呪霊より、強い呪霊は居ないだろう。
「では、お二人共、ご武運を。」
補助監督は、そう言うと、帳を下ろす為の呪文を唱え始める。
帷と言うのは、簡単な結界術だ。帷を下ろせば、外から、帷の中に干渉することは出来なくなる。外から中に侵入する事もできない。要するに、非術師に見られる事が無く、呪術師は、楽に行動できる様になる。また、呪いを炙り出す効果も有り、簡単だが、かなり便利な結界術だ。
「闇より出でて闇より黒くその穢れを禊ぎ祓え。」
補助監督は外に出て、担任と、茶髪の奴が中に入る。入ると言っても、帷の幕の真ん前だけど。
「そんじゃ、行くか。」
「そうだね。」
因みに、実質、ヘンテコ前髪野郎と二人での任務だ。話聞く限り雑魚だし、二人で行く必要は無いと言ったんだが…。一年生だし、高専に来てから一番最初の任務と言うことも有り、二人で行く事になった。前髪野郎とは、高専に入学した日に喧嘩して以来、会話をしていない。少し、気まずい雰囲気だ。
「うっわ(笑)こりゃヒデェ(笑)」
廃校には、低級ではあるが、呪霊が溢れかえっていた。
「笑い事じゃ無いと思うけどね。」
やっぱコイツ腹立つ。
廃校に足を踏み入れると、それはそれは、沢山の数の呪霊が居た。ここは、呪霊の集合住宅か何かなのだろうか。次々に襲いかかってくる呪霊を、蒼で潰しながら歩く。
「んー…メインの奴が出て来ねェ。」
「その内、出てくるさ。」
「肝試しに来た人間、ほぼ全員、被害を受けてるんだから。」
ズルッ
「あ。出たね。」
「お、出たな。噂をすれば何とやらって奴だ。」
体をガチガチに締められて窒息死させられかける。と聞いていたから、てっきり、蛇みたいな奴だと思っていたんだが、想像より遥かに気色悪かった。
「ンだコレ。触手か?キッッッモ!」
粘液に塗れた触手の様なナニカが、グニョグニョと蠢いていた。
「うげぇ……。気持ち悪ィからさっさと祓うわ。」
「待って。」
「ア?何だよ。」
「私にやらせて。」
「ここには、アレより強い呪霊は居ないみたいだし、アレは私が貰ってくよ。」
「へーへー。どーぞ。あんなキモいもん欲しがるとか、お前どうかしてるぜ。」
「本当に君は、一々うるさいね。」
「ア”ア”?」
ヘンテコ前髪野郎は、ムカつく溜息を吐いてから、呪霊に向かって手をかざした。呪霊の形が歪み始め、どんどんヘンテコ前髪野郎の手の中に集まって行き、綺麗な球体になって、手の中に収まった。その球体を、ヘンテコ前髪野郎は丸呑みした。
「ヴゲ?!丸呑みしやがった?!」
「うるさいな。」
「え、なぁ…どんな味すんの…?」
「別に、そんな事、君が知る必要無いだろう。」
「だって気になんじゃん!」
「なぁなぁなぁ!何味?!」
「うるさいなぁ…。」
どんな味なのか、どうしても気になって呪霊玉の味について聞いていると、帷が上がり始めた。
「帳が上がり始めたね。早く夜蛾先生の所へ戻るよ。」
「なぁ。何味なの?」
「君、しつこいなぁ。」
「えー。教えろよ。」
「知る必要無いだろ。」
「なぁぁ。何味なんだよぉぉ。」
埒の開かない会話を繰り広げながら、廃校を後にした。