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「何の用ですか…」
「えっと…プリント、先生に頼まれたから」
松葉さんはチェーンをかけた、ドアの隙間からこちらの様子を伺っていた。
「あ、ありがとうございます…じゃあ、これで…」
寝起きなのか、不機嫌なのかわからない、気怠げな声で松葉さんは言う。
「…ああ…」
「昨日はごめんねー」
と顔の前に手を合わせ、ノゾムは平謝りをする。
「いいけど…」
「…?」
俺は昨日のことが何かかり、少しの間沈黙する。
「いや、何でもない」
俺は言葉を濁した。
先日、松葉さんの家を訪れた際、去り際にドアの隙間から、微かに見えたその表情に俺は動揺していた。悲しそうな、寂しそうな、苦しみとも言えそうな、そんな表情に。
「…?。まあ、いいけど…何かあったら相談してよ」
「わかった、ありがとう」
「それでさ」と話題を切り替えるようにノゾムは口を開ける。
「再来週テストだけど、調子はどう?」
「あ…」
完全に忘れていた。この高校は中学の時よりもテストをするのがはやいんだった。
だが、俺は勉強は、まあまあできる方だ。
中学生の時は毎回順位は200人中、40位くらいだったのだ。
「俺は、順調かな」
「まじ?」
目を見開かせ、信じられないという表情をノゾムは浮かべる。
「まあ、俺頭悪くないからな」
「じゃあ、僕に勉強教えてよ。僕中学のときの順位245人中、243位だったんだよー」
とうるうるした瞳で俺を見てくる。こいつ…バカだ。
「…わかったよ」
「やったー。じゃあ、明日の放課後カフェでね」
「で?」
そう俺が聞くと、ノゾムはブルブルと武者震いをする。
「ごめんなさーい、1からまた教えてください」
「…これで最後だぞ」
カフェでテスト勉強を始めて5日、俺の勉強は順調だった。だがしかし、ノゾムは違った。
昨日勉強させた所を1日でポッカリと、忘れていた。ニワトリかよ…
「…?どうした、ノゾム?」
ノゾムの視線が、入り口付近の席に向いていた。ノゾムだけでなく、他の客の視線もそこに向いていた。
「…あれ見て」
「何だよ。……ッ」
ノゾムが指を差している方向を見ると、そこには同じクラスのギャルがいた。茶髪の白ギャルだ。身体はムッチリとしていて太ももが特徴的だった。ムッチリとした身体の原因なのかはわからないが、それらしきものはあった。大量の食事が白ギャルの前に広がっていた。大盛りの唐揚げに山のように積み上がったポテト。いや、山のようではない、山だった、そこに山がたっていた。
「何だ、あれ!」
「あれはやばいぞ」
周囲から驚きの声が上がった。その声の中に俺とノゾムの声も入っていた。
「あー」と声を出しながらポテトを一気に10本ほど食べようとしていた。その途端、
俺が驚愕の目で白ギャルを見ていると、白ギャルもこちらを見た。あ…
白ギャルの手から、全てのポテトが皿に落ち、目を丸くした後また、食べ始めた。それはもうすごいスピードで。
「ちょっといい?」
「へ…?」
顔を紅潮させた白ギャルが目の前に立っていた。そして、ノゾムの横の席に座った。ノゾムは驚いているのか声も出せていなかった。
「な、何?」
「えっとね、言わないでほしいの」
えっと…何をだろうか…
「私がここで食べてたこと、クラスの人に言わないで欲しいの」
白い肌をリンゴのように赤くさせ、ギュッと
制服のスカートを握り締める。
「…それはいいんだけど、何で?」
「それは」と耳まで紅潮させ、白ギャルは
「いつもはこの時間帯クラスメートいないんだけど、今日は君たちがいたんだ。それでね、あーしさ、食べるのちょー好きなの。たまに止められなくなるし…
でも、そういうのって恥ずかしいじゃん、女子なのにたくさん食べるのって。だから言わないで欲しいなー、なんて…」
「…まあ、でもたくさん食べることは、いいことだと思うよ。女子とか関係なく。…絶対に言わないよ、俺そういうのだけはきちんと守るタイプだから」
今にも泣きそうな顔になっている白ギャル…もとい、安良木甜瓜に俺はそう言う。
「ありがどゔー、文戯ぐーん!」
ズビズビと鼻水を啜る彼女にポケットティッシュを差し出した。ヂューと鼻をかみ、ティッシュを丸める。それにしても、名前呼びか…。少しいいなと思った。
少し時間がたつと落ち着いたのか、席を立ち安良木は「デートの邪魔してごめんねー」
と颯爽と店を出た。
…デート?男同士だぞ…まさか…
ボーイズラブだとでも思ったのだろうか…
全く最近の若いもんは…と心の中で思う。