──それから80年が経過した。
ラグナロク王国は、度重なる戦乱と政権の交代を経て、かつての姿を大きく変えていた。
その中で、ある勢力が急速に台頭していた。
《吸血鬼討伐軍》──
彼らは、突如として増加した吸血鬼たちを狩るために組織された精鋭部隊である。
総数約5,000名。その中核を担うのは、選ばれし戦士たち──
《聖血騎士団(サングレ・サクレ)》。
彼らは王国直属の精鋭であり、特殊な聖銀の武器と神聖術を駆使し、吸血鬼たちを殲滅していた。
「……報告。」
討伐軍の本部、ラグナロク城の作戦室。
最前線から帰還した騎士が、長い戦闘の痕跡をその身に刻みながら報告する。
「南部の吸血鬼の巣を制圧しました。殲滅率は92%。生き残った個体は、3体のみ。」
「……逃がしたのか?」
長い金髪を持つ指揮官──《聖血騎士団》団長、ヴァレン・クローヴィスが低く尋ねる。
「申し訳ありません。奴らは異様な力を持っていました。特に1体……血を操るような動きを──」
「血を操る……?」
ヴァレンの表情がわずかに曇る。
「詳細を話せ。」
「はい。奴の血は自由自在に形を変え、槍や刃へと姿を変えていました。それだけではありません。傷を負っても、血そのものが治癒を促すように作用しているようでした。」
「……そんな能力、聞いたことがない。」
討伐軍の記録には、血を操る吸血鬼の情報は存在しない。
だが、ヴァレンには一つの可能性が浮かんでいた。
──100年前、王国に仕えた近衛隊長の伝説。
「まさか……レイス・ワイルの遺産か……?」
彼はすぐに作戦参謀を呼び、指示を出した。
「次の標的を変更する。我々の次の目的地は──」
〈赤霧の森〉。
100年の時を超え、レイス・ワイルの影が再び動き始めようとしていた。
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