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現在進行形で俺はリンドンに押し倒されている。冷汗が首の後ろを流れるのを感じた。
落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け‼
俺だけを残して一緒に来た二人を出したところを見ると相手は恐らく確信犯だ。
そして水の膜は結界だと言ったので、俺の嫌な予感があたっていれば叫んでもどうにもならないんだろうな……。ましてや相手は俺より能力が高い。
俺の属性は雷なのでうまいこと発動させればスタンガンのような効果は得られる……が、うまいこと発動させれば、の話だ。
俺には今のところリンドンのように無詠唱で魔法を発動させる技術がない。
あーーーー!発明!発明しよう!これな!スタンガンいるわ!こういう奴を防ぐためにも、絶対にいる‼
「……なんで、僕なんです?」
相手に動揺を隠すために、なるべく冷静な声音で俺は聞いてみる。
リンドンは、おや、という顔をしつつも俺のほほへと口付けを落とした。
「意外と冷静なんだねぇ……そういうところもいいなぁ。一目惚れ、だよ?僕言ったよね」
「……そうだね。でも他の理由……あるんじゃ……」
リンドンのルートを俺は思い返してみる。
なんだったけな……この変態。えーっと……なんか言ってた気がするんだよな。妻にしたノエルにも性奴隷後のリアムにも。
「ふふ、気にしてくれるの?そうだなぁ……一目惚れは本当だよ?リアムの顔は僕の好み。あとは、まあ……その魔力の強さかな?」
ああ!そうだ!こいつは次世代の神官家に強い魔力の子を据える義務もある。しかし、神官家と言えば聖属性を重んじる家系でもある。
「……狙うなら、ノエルでは?」
友達を売るわけではないが、純粋に神官家のことを考えればあちらのほうが聖属性の力は比較にならない。俺なんか持ってないわけだし。まあ、仮に狙ったとしても阻止をする覚悟でいるが。俺がそう言うと、リンドンが瞬きをして笑った。
「まあ、そうだねぇ。聖属性の子を残すなら少しでも能力のある人間を選ぶべきだし、彼はそういう意味でも適任だろうね。でも、ほら……王家が逃がすとは思えないんだよね、僕は」
言っていることは確かにその通りだ。ノエルは他と比較できないほどの力を持っているはずだし、そこを王家が……と考えれば得心がいく。だからといって……。
「いや、僕も考えるには考えたんだよ?君とノエルに子供を産んでもらって、その子同士を娶せるとかね」
「いや、それ……」
最悪な提案をすらっとリンドンは言った。俺は前世で妹がいただけに、この手の話題には少し嫌悪感がある。環境が違えばそうでもなかったかもしれないが、俺が生きていた場所では兄弟同士の婚姻は許されない。この世界も同じで、男同士はまかり通るが兄弟同士はさすがに婚姻が出来ない。ああ、いや……だからか!だから、リアムは──……!
「まあ、この国では堂々とそれはできないから、どっちかに隠れてもらう必要があるけどね」
リンドンが秘密裏に画策していたことが、ここで漸くわかった。
リアムを隠して自分の言うことを徹底的に聞かせるために、ああいう立場に落としたうえで、子供を産ませて……その子は一時的に施設にでも移して養子にすればいいだけだ。血縁関係で兄弟でなければ、婚姻は大丈夫なのだから。冴え過ぎてるな!俺な!
「まあ、でもそれはね。無理そうだから……なら自分の好みでいいかな、って」
飄々とリンドンは言い放ち、愛らしい笑顔を覗かせた。
……うわ、こいつ本当に……とんでもない。国政に生かせばこの腹黒さも役に立つだろうし、実際、大神官になった際の手腕は見事なんだろうけど……俺に生かさなくていいわけですよ。さて、どうする……。このままだと、まず犯されるパターンだよなぁ。
うん、さすがに俺でもわかる。この体勢だし、頬にキスとかされたしな。
俺は情けないことに体術関係はからっきしだ。貴族の嗜みとして剣術は少し習ったが、たいした才能はない。リンドンは可愛い系とはいえ、俺よりは少し背が高くて、抑え込まれれば負けそうだ。魔法勝負もダメで、交渉もききそうにない。というか、材料が少ない。相手が金に困っていれば付け入るスキはあるだろうけれど、持ってますもんね、お金ね!
残るは俺が後から訴える!という話だが……襲う時点でそんなもん折り込み済みな気がするんだよな……いや、でもどうだろうか……。
「あの、一応聞きますけど」
「うん?」
「やめる気ってあったりす、る……?僕はリンドンのこと、よく知らないしそういう意味で好きじゃないって知ってるよね?」
リンドンは俺の言葉に、考えるように視線を彷徨わせたが、俺に戻した頃には先ほどのような笑顔を浮かべていた。
「ないかな。結構譲歩してると思うしね」
「え、どこが?」
思わず素で聞いてしまった。
リンドンが、ふは、と吹き出す。
「今、襲われてるのになかなか余裕だね。うーん……まあ、結婚するとか?ちゃんと責任取るつもりだよ?」
え、くそかよ。それって譲歩でもないだろ。責任取るって当たり前じゃね?
こいつ割と人間に問題があって、地味に怒りがわいてくるわ。
しかし、怒りを沸騰させたところで事態は変わらない。どころか、俺が何かしら大きく反応したら愉しむだけじゃないか?こいつ。いじめっ子みたいにさ。
どうする、を考える間もリンドンの指先が俺の顎から喉元と滑っていき、制服のリボンを手にかけた。
「どういう状況かな、これは?」
声と一緒に水の膜が瞬く間に消え失せ、その先には親愛なる兄が……キースが立っていた。