階段を上る。今日のことは誰にも話していない。瑠璃、璃音、桜子、ユナ、健にも。相談できる相手というのは、もっと…重要な場面まで取っておくべきだ。
ついに第2理科室の前まで来てしまった。金曜ということもあって、皆休みたいが為にすぐに帰宅する人が多い。
ここには、重々しい空気が漂っている。
ガチャ
開きずらいが、開かないこともない。やはり立ち入り禁止なだけあって、何年も開いていなかったのか、ドアノブは少し回しずらい。中に入ると、窓から空は少し暗くなっており、うっすらと 月も見えた。
(もう5時半だもんね…。 )
と考えつつ、翔が来るのを待つ。メールだと、5時半集合になっているのだ。
ギィィ
嫌な音に目を細め、ドアの方を見る。そこには翔が下を向いて立っていた。
「良かった…来てくれないんじゃないかと思ってた。」
少し微笑み近寄ろうとすると、ドアにガチャリと鍵をかけられた。大事な実験器具が有るため、ドアは鍵付きだったのだろう。
「えっと…なんで鍵なんか閉めたの…?」
よく分からない怖さに襲われる。こちらの方が年上だと言っても、体格差では勝てない。
「いや…先輩の方が、かけて欲しそうだったから…。」
訳の分からないことを言われる。
(私がかけてほしそうだったから…?)
ゆっくりと近づき、
「あっ、でもホコリも溜まってるし、その…開けといた方がいいんじゃない?」
と言った。そして鍵を開けようと手を伸ばした時、突然手首を掴まれた。
「えっ」
声を出す前にドアの方に体を押し付けられる。
「うっ…痛っ…。」
痛みに顔を歪めて翔の方を見ると、顔を赤く染めて不気味にこちらを見ていた。瞬時に鳥肌がたち、話してもらおうと抵抗する。なんだかこのままでは危ない気がする。
「先輩…俺、ずっと先輩のこと好きだったんです。入学式の時、ホントに一目惚れでした。よくわらう先輩がとても輝いて見えて…。だからバスケ部に入ったんです。近くで見られるし、それだけで満足だった…。」
小さな声でボソボソ呟いているが、周りは静かなだけあってよく聞こえる。
「でも!もう我慢できないんです!!好きだったから!!」
突然の大声に、体の震えは止まらなくなり、指先は小刻みに揺れた。
「な…なんで…。好きなら…こんな事…。」
精一杯の声を振り絞った。涙がこぼれ落ちそうである。
「俺、見たんです…。数ヶ月前くらいに…なんとか健って奴が…。」
「…もしかして、髙橋健のこと?」
「そうかもしれません。」
すると、少し俯いてから、紗奈の頬に手を添えた。
「髙橋健が…寝ている紗奈先輩の髪を触っているところを、見たんです。」
「…え?そんな…私知らない…。」
「そりゃあ、そうですよ。寝てたんですから。」
「違う…違うっ!だって健は…私の事嫌いなはず…っ!」
嫌だ嫌だ。今知っている全ての事実に気持ちが悪い。
「この目で見ました。俺…、健ってやつに、もう紗奈先輩が取られてしまうって必死で…それで告白したんです!」
翔は震えている紗奈の髪をそっと触り、肩に顔を埋めて髪の匂いを嗅いできた。
「はっ…はっ…。」
もう既に泣いている紗奈の顔を見て、翔は言った。
「紗奈先輩…今、世界で1番可愛いですよ…。」
「…え?」
翔は紗奈のスカートを太ももを伝って捲り上げた。
「あっいやっ!やだ!」
必死に押して抵抗するも虚しい。力も入っていないため、無抵抗である。
「いやっ…やだぁ…っ」
涙でグチョグチョに濡れた顔に翔はキスをして、
「やっと…紗奈先輩が俺のものに…。」
と言ってきた。
腰が抜け、へたり込むも、翔は気にしない。
「ずっとずっとずっと、好きだったんですよ…。」
耳元から悪寒が走る。
「紗奈先輩…。」