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____十五分後。『若葉色に染まりし洞窟』地下。
俺はミノリ(吸血鬼)とコユリ(本物の天使)とシズク(ドッペルゲンガー)と名取とメルク(成人したハーフエルフの女性)と共に洞窟の地下を歩いていた。
「マスター、本当に大丈夫なのですか?」
俺が名取の肩を貸してもらって歩いていると、コユリ(本物の天使)が俺の横側(名取がいない方)に近づいて来て、そんなことを訊《き》いてきた。
「ん? いや、まあ、だいぶ良くなったよ。あはははは。でも……ごめんな。心配させて」
「いえ、マスターのせいではありません。どこかのバカな吸血鬼のせいですから」
「ご、ごめんね! 無事に戻ってきてくれたのが嬉《うれ》しくて、ちょっと暴走しちゃったの! ホントにごめん!」
ミノリ(吸血鬼)が後ろ歩きでこちらに手を合わせて謝《あやま》ってきたが、コユリは。
「ちょっと暴走しただけでマスターを貧血気味にするくらいの血を吸ったのですか? あなたは?」
「いや、その……はい、そうです」
「まったく、他人の血を吸うことしか考えていない獣《けもの》風情《ふぜい》がマスターに近づかないでください! というか、もう少し離《はな》れて歩いてください!」
「うう……そんなに強く言わなくてもいいじゃない」
「私は初めて会った時から、あなたのことは家族の一員としては認めてはいますが、それ以上は信用していません」
「…………」
なんだか嫌《いや》な雰囲気《ふんいき》になってしまったな。
「もういいんだよ、コユリ。そんなことは」
「しかし、マスター! あなたはもう少しで、そこのアホ吸血鬼に命を奪《うば》われていたのかもしれないんですよ?」
「俺はミノリが俺の血を飲んで安心したのなら、それでいいんだよ。だから、お前もあいつのことを許してやってくれないか?」
コユリは少し迷っていたが溜《た》め息を吐《つ》いた後《のち》、こう言った。
「……分かりました。マスターがそこまで言うのなら今回の件については、これ以上何も言いません。ただし! 今度またこのようなことがあったときは……」
コユリの怒りに満ち溢《あふ》れた視線がミノリに浴びせられ、ミノリはそれに少し恐れを抱《いだ》いた。
「ええ、もちろんよ! 次から気をつけるわ! それと、許してくれてありがとね! ナオト!」
「ああ、次からは気をつけろよ。俺は『いつか天○の黒うさぎ』の主人公みたいな呪いというか能力はないからな」
「うん! 気をつける!」
「よろしい。なら、そろそろ前を向いて歩けよ? 転ぶぞ」
「はーい!」
ミノリ(吸血鬼)はそう言うと、前を向いて歩き始めた。
その直後、俺がその様子を見て少し笑みを浮かべているのに気づいた、コユリがこう言った。
「マスターは優しすぎます。もっと厳しくしても、よろしいのですよ?」
俺はそんなコユリの意見を聞いた上で、こう応《こた》えた。
「アドバイスありがとな、コユリ。でも、あいつには必要ないんだよ。自分のしたことを理解して、反省して、次に活かそうとしているからな。それに……」
「それに、何ですか?」
「……それにな、あいつは単純に甘えたいだけなんだよ」
「単純に……甘えたい?」
「ああ、そうだ。俺は、あいつの全てを知らないけど、なんとなく普通の人間より多くの修羅場《しゅらば》を潜《くぐ》り抜《ぬ》けてきたのは分かる。まあ、ミノリが俺の未来のお嫁さん候補だってことを知ったときは正直、驚《おどろ》いたがな」
「私たちは少子高齢化改善のために生み出されましたからね。しかし、今の私たちでは子どもを産んだあとは一年以内に死んでしまいます」
「だから、俺たちはお前たちが元の人間に戻るための薬の材料を集めてるんだよな」
「はい、その通りです。『紫煙《しえん》の森』で見つけた『バイオレットウガラシ』に『藍色《あいいろ》の湖』で見つけた『インディゴマ』」
「それと俺の頭の中に入って『永久記憶保存《エターナル・キープ》』を授《さず》けてくれた『グリーンドウ』。しっかし、全部でいくつあるんだろうな。材料って」
「今のところは分かりません。ですが、いつかは集まります。なので、根気強く探しましょう」
「そうだな。よし、それじゃあ、少し急ぐぞ」
「はい、分かりました。前の三人にも声をかけてきます」
「おう、頼んだぞ」
そう言うと、コユリ(本物の天使)はスタスタと少し前の方に歩いていき、前の三人にそのことを伝えた。
俺は、いつのまにか微笑(ほほえ)んでいた名取に気づき、声をかけた。
「どうした? 名取。いいことでもあったのか?」
「……いや、お前はあの子たちに……愛されているんだなと思ってな」
「愛されている?」
「ああ、そうだ。お前は間違いなくあの子たちにとって……なくてはならない存在になっている。だから」
「あまり無茶をするな……そう言いたいんだろう?」
「ああ、その通りだ」
「昔からよく言われてたな……」
「お前は自分よりも他人を優先しすぎ……だからな」
「生まれつき、こうなんだよ。ほっとけ」
「ああ、そのつもりだ」
俺は久々にそんな話をしたため、昔が懐《なつ》かしく思えた。
その時、どこからか声が聞こえた。
「……侵入者、発見。直《ただ》ちに排除《はいじょ》する」
『…………!!』
俺と名取は、その声がした天井を見た。
そこには体長二メートルほどの【巨大なカメレオン】がいた。モンスターではない存在を感知すると、自動的に攻撃《こうげき》するよう、誰かに命令されているようだ。
俺たちは、その場に止まって、そいつの隙《すき》を伺《うかが》っていた。
「……名取、俺を置いて逃げろ」
「……ダメだ。今の俺は、お前の護衛……だからな」
「いや、それよりも他のみんなが気づいてないってことは」
「ああ、おそらく人間にしか聞こえない声で……話しかけている」
「おそらくそうだな。それに、擬態を解除しているのに俺たち以外はその存在自体も認識できないらしいな」
「厄介《やっかい》……だな」
「どうする? 名取」
「……五秒あれば殺《や》れる。だからそれまでは」
「ああ、俺はここで見物してるよ。頼んだぞ、名取」
「……了解した」
名取はそう言うと、俺に肩を貸すのをやめて、刀《かたな》の柄《え》と鞘《さや》に手を移動させ、刀身を少しだけ出した。
「死ねえええええええ! 侵入者どもおおおおおおおおおおおお!!」
【巨大なカメレオン】の舌がピストルのように飛んできたが、名取はそれをものともせず、身軽に躱《かわ》しながら、そいつに近づき、間合いに入った。
「名取式剣術……壱《いち》の型四番『活動停止斬《かつどうていしぎり》』」
彼はそう言いながら高く跳《と》ぶと、一気に刀身を鞘《さや》から引き抜《ぬ》き、そいつを横一文字に斬《き》り裂《さ》いた。
「お、おのれ、人間! 許さ、ない! 殺す、殺す、殺す!」
そいつが動かなくなるまで自分が立っている場所で待っていた俺たちは、そいつの方を向きながら最後にこう言ってやった。
『人間を舐《な》めんじゃねえぞ! 爬虫類《はちゅうるい》!!』
「く、クソおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
そいつは、最期にそう言って活動を停止した。説明しよう。『活動停止斬《かつどうていしぎり》』は相手の全ての運動神経を一撃で活動停止にする恐《おそ》ろしい技なのだ!
「先を急《いそ》ぐぞ。ナオト」
いつのまにか刀身を鞘《さや》に収《おさ》めていた名取がそう言ったため、俺は。
「ああ、そうだな」
そう言って、前を行く他のメンバーに合流するために走り出した。
*
同時刻。『モンスターチルドレン育成所』トレーニングルーム(どこをみても白しかない部屋)では。
「今日はレベルを少し上げてみましょうか」
先生は独(ひと)り言(ごと)を言っているのではなく、マネキン型戦闘員(全身が黒)のレベルを上げるよう、この部屋に伝えたのだ。
『|純潔の救世主《クリアセイバー》』こと『アイ先生』はモンスターチルドレンたちの授業が終わると、すぐにここに来て、トレーニングをするのが日課だ。(この部屋は人の声に反応して、あらゆることをしてくれる)
「準備完了。スタート!」
その合図とともに、マネキン型戦闘員(全身が黒)たちが一斉に彼女に襲(おそ)いかかった。
身長『百三十センチ』。体重不明(知った者(もの)は消される)。下着、ワイシャツ、スカート、靴下、運動靴、手袋、髪、肌。
今、挙《あ》げた全てが白いのが彼女の特徴の一つだ。
彼女の外見で唯一(ゆいいつ)黒いその瞳(ひとみ)は、『五帝龍《ごていりゅう》』もビビったほどである。
そして、彼女の最大の特徴は……。
「……遅《おそ》すぎる」
【全ての能力値が測定不能】だということだ。
その証拠《しょうこ》に彼女に襲《おそ》いかかっていたはずのマネキン型戦闘員(全身が黒)たちは、一瞬《いっしゅん》で粉砕《ふんさい》されていた。
「はぁ、また改良しないといけないようね。私の通常攻撃に耐《た》えられないマネキン型戦闘員なんて護衛どころか警備にも使えないわ」
『アイ様、あなたの戦闘能力の高さは我々……いえ、神々の手に余ります。いくら改良しても無駄《むだ》です』
「そう? ここのマネキンは全てゴーレムを作る過程で創造されたと聞いたのだけれど?」
『あなたの前では、全てが無意味です。跡形(あとかた)もなく消し去ってしまいますからね』
「それでもやってちょうだい。それは、私のためにもなるのだから」
『分かりました。今度は、対アイ様用のマネキンを作ってみます』
「そんなものは存在しないと思うわよ」
『ではナオト様、そっくりなマネキンを作っても』
「マネキンだとしても、私の自慢の教え子を傷《きず》つけることができないのは知っているでしょう?」
アイ先生はかつてナオトたちの高校の先生であった。
『……冗談《じょうだん》です。申し訳ありません』
「……よろしい。じゃあ、私はそろそろ持ち場に戻わ。お疲れ様」
『はい、お疲れ様でした。アイ様』
アイ先生は、指をパチン! と鳴らして、自室に戻り、書類の山を片付けることにし……いや、今終わった。
先生の特技は一瞬《いっしゅん》で何かを終わらせられること。
今のは『時間停止《ストップ》』と『実像分身《チャイルド》』という魔法の合わせ技である。(先生は分身しても、能力値は同じである)
先生は再び指をパチン! と鳴らし、書類の山を『長老会』に転送した。
その後、仰向《あおむ》けで白いベッドに横たわった。
「少し……寝《ね》ましょう」
そう言うと、そのままスヤスヤと眠《ねむ》ってしまった。一つ言っておくと、この人は神々からも恐れられていて、宇宙ができる前からこの世にいる。どうやって誕生したのかは誰も知らないが……。
「ナオトー……好きー」
睡眠《すいみん》中の彼女の寝顔と寝言は、とてもかわいいということは分かっている。
ちなみに、彼女の睡眠(すいみん)を邪魔《じゃま》すると……本当は知らない方がいいのだが、あえて言っておく。
……存在そのものを消される。(魂《たましい》も消されるため、二度と転生できない)だから、みんなも気をつけよう。