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俺たちは、メルク(ハーフエルフの成人女性)の村を救うために、メルクを含めた俺とミノリ(吸血鬼)とコユリ(本物の天使)とシズク(ドッペルゲンガー)と名取でその村を助けにいくことにした。(残りのメンバーは留守番)
(名取《なとり》 一樹《いつき》。俺の高校時代の同級生で名取式剣術の使い手。名刀【銀狼《ぎんろう》】の所持者である。両目を前髪で隠しているのは人見知りだから。普段は途切れ途切れに話すが武器のことになるとよく話す)
俺たちは『若葉色に染まりし洞窟』の地下にあるという『ハーフエルフの村』に向かって歩いている。しかし、正直生きて帰れるかどうかは今のところ、まだ分からない。
だが、俺には頼れる仲間と家族がいる。だからきっと大丈夫だ。
「あっ! 見えてきましたよ! あれです!」
メルクは前方を指差しながらそう言ったが、俺には何も見えなかったため、メルクにこう訊《き》いた。
「なあ、メルク。いったいどこにお前の村があるんだ? 俺にはさっぱり見えないんだが……」
すると、メルクは後ろ向きで歩き始めた。
「あっ! 私としたことが村には人間に見つからないように不可視の結界を張っているのを忘《わす》れていました! 今、見えるようにしますね」
「いや、いいよ。そういうのは大抵、村の中に入ったら俺たちも見えるようになるから」
「そうですか。分かりました、それでは急ぎましょう!」
「えっ? ちょ、ちょっと待て! まだ心の準備が!」
「大丈夫です! さぁ、行きましょう!」
メルクは俺の手を握《にぎ》ると猛《もう》スピードで走り出した。(他のメンバーも走り出した)
「は、速すぎるー! メルク! お前、体力ありすぎだろー!」
「違《ちが》いますよー! 強化魔法の一種ですー!」
「そうかー! でもやっぱり、速すぎるー!」
「到着《とうちゃく》まで三秒前ー!」
メルクがカウントダウンを始めた時、俺はもうどうにでもなれ! と思っていた。
「とうちゃーーく! ようこそ! 『ハーフエルフの村』へ!」
メルクが急に止まったため、俺の体は慣性《かんせい》の法則に従《したが》って、前に転びそうになった。しかし、どうにかバランスをとることができたため、転ぶことはなかった。
「メ……メルク。み……みんなはちゃんとついてきたか?」
俺が息を整《ととの》えながら、そう言った。
「はい! ちゃんとナオトさんの近くにいますよ」
「そ、そうか……それは良かった……って、おい、ミノリ。そんな目で俺を見ても、血はあげないぞ」
ミノリ(吸血鬼)は、目を逸《そ》らしながら。
「な、なんのこと? あたしは別にあんたの血が飲みたいわけじゃないわよ」
その時、コユリ(本物の天使)が話に割り込んできて。
「マスター、騙(だま)されないでください。このアホ吸血鬼は、洞窟の地下を歩いている時からずっとマスターのことを見ていました。主に首筋を」
「ちょっと! 銀髪天使! 余計なこと言わないでよ!」
「私は事実を言っただけですよ? 何をそんなに怒《おこ》っているのですか? アホ吸血鬼」
「表に出なさい! あたしがアホじゃないってことを証明してあげる!」
「何ですか? やるんですか?」
その時、二人の間にバチバチと火花が飛び始めたため、俺は仲介《ちゅうかい》に入った。
「お前らいい加減にしろよ。仲良くなったんじゃないのか?」
『それは一時的よ(です)!』
「ん? 息ぴったりじゃないか」
『そんなことないわよ(ないです)!』
「そうかそうか。ほら、さっさと行くぞ」
『ま、待ってよー(待ってくださーい)!』
こうして俺たちは無事、『ハーフエルフの村』に到着したのだった。ん? シズク(ドッペルゲンガー)と名取がどこにいたかって? 何を言ってるんだ? ずっと、俺のそばにいたぞ? まあ、俺の背後に隠《かく》れてたんだけどな。
*
俺は村の様子を見て『ハーフエルフの村』なんていう名前が付いているほどだから、てっきり大勢のハーフエルフが暮《く》らしているのかと思っていたが、実際はそうではないらしい。
ここが地下だということを忘れてしまうほどの美しい石製の住居があちこちにあるから、ハーフエルフたちが住んでいたのは分かる。しかし俺たちが見ているこの村からはハーフエルフどころかモンスターの気配すら感じなかった。
これは、一体どういうことなのだろうか? 俺がそんな風に考えていると、メルク(ハーフエルフ)が。
「私たちは最近までここに住んでいたんですよ。外から私たちを捕《つか》まえに来る人間たちは私たちがこんなところに暮らしているなんて、まず思わないですしね」
「そうか。ここはお前たちにとっての楽園だったんだな。それで? この村でいったい何があったんだ?」
俺がそう言うと、メルク(ハーフエルフ)はまるでここの大黒柱の役割を担《にな》っているかのようにそびえ立つ『巨大樹』を指差して、こう言った。
「おそらくあの木は、私たちがここにやって来る前からここにありました。最初はなんとも思っていなかったのですが、次第にあの木から落ちてくる葉っぱを食べると、どんな病気も治《なお》るなんていう噂《うわさ》がたち始めたのです。バカバカしいですよね、こんな話。ですが、ある日、私が病《やまい》に侵《おか》された時、私は実際にあの木の葉っぱを食べました。とても、苦《にが》かったのですが、まるで最初から病になど侵されていなかったかのように私は元気になりました。しかし……」
「それがきっかけで、その力を頼るようになり、村に住んでいた人々は次第に堕落《だらく》していった。そして」
俺がそう言うと、メルク(ハーフエルフ)はコクンと頷《うなず》いて。
「はい、私の村はいつのまにか、その力を信じる集団とその力を信じない集団に分かれていました。そして争《あらそ》い、傷《きず》付け合いました」
「結果として、諸悪《しょあく》の根源であるこの木が存在しているこの村から離《はな》れることになったってことだな」
「はい、そのとおりです」
俺はメルク(ハーフエルフ)の話を聞いて、こう思った。この世界のハーフエルフたちが俺のいた世界にいたら危ない宗教の勧誘(かんゆう)にあいそうだなと。
それと同時に状態異常を完全回復させる実を『ポ○モン』で大量生産していたことを思い出した。
やはり、種族が違っても争いはあるものなんだなと思いながら、メルクにこう言った。
「つまり、この木が『ラ○の実』……じゃなくて、万病《まんびょう》に効(き)くかを証明すれば、問題は解決するのか?」
「いいえ、それだけではダメです」
「ん? それは、どうしてだ?」
「それは……」
メルクがそう言いかけると、コユリ(本物の天使)が。
「問題なのは、葉っぱの効力の有無(うむ)ではなく、どちらの意見にもメリットがある答えを出すことです」
「……せ、正解です。よく分かりましたね」
コユリの考えがメルクの考えと一致していたらしく、メルクは思わず拍手(はくしゅ)をしていた。
「いえ、それほどでも」
コユリはそう言っていたが、少し照れているように見えた。
「……えーっと、じゃあ、この木に葉っぱの力以外のすごいところを村のみんなに伝えることができたらいいって、ことか?」
「はい! そういうことです!」
メルクは、うれしそうにこちらを向いてそう言っていたが、俺はそれどころではなく、この木の良さをどうやって村のみんなに伝えたらいいのかを腕を組み、目を閉じた状態で考えていた。
すると、俺の服の袖《そで》を引っ張る者《もの》がいた。
俺は目を開け、そちらに目を向けると、その者に話しかけた。
「ん? 何か用か? シズク?」
シズク(ドッペルゲンガー)は、うれしそうにアンテナのようにピン! と立っているアホ毛をユサユサと揺(ゆ》らしながら。
「ナオト、こんなの見つけたよ」
「ん? これは、ドングリかな? けど、色がまだ茶色くないから食べちゃダメだぞ?」
「ううん、これはこの色になった時が成熟している証拠なんだよ」
「えっ? そうなのか?」
「うん! しかもね、これは生でも食べられるんだよ!」
「へえー、どんな味がするんだ?」
「うーんとね、なんか色んな味がするから分かんない」
「な、なんだそれ」
「でも、とってもおいしいよ! ナオトも食べてみて!」
「いや、俺はいいよ」
「ナオトも食べてみて!」
「いや、だから俺は……」
「た・べ・て・み・て?」
「は、はい、食べてみます」
俺はシズク(ドッペルゲンガー)からドングリをもらって、少し躊躇《ためら》いつつも口の中に入れた。すると。
「……! こ、これは!」
「どう? おいしい?」
シズクがそう言った瞬間《しゅんかん》、俺はシズクの両脇を掴《つか》んで自分の身長よりも高く上げると、その場でグルグルと回転しながらこう言った。
「うーまーいーぞー!!!!」
「でしょー! あははは! もっと回れー!」
「シズク! お前は天才だ!」
「えっ? どうして?」
「お前のおかげで今回の件は全て解決するからだ! ありがとな! シズク!」
「なんだかよく分からないけど、良かったね! ナオト!」
「ああ! サンキューな! シズク!」
俺とシズクが回っている間、他のメンバーはそのドングリが本当においしいのかを確かめていた。すると、全員が。
『うーまーすーぎーるー!』
そう言って、俺のようにクルクルとその場で回り始めた。それからどうしたのかって? そのあとは二つに分裂している村が洞窟《どうくつ》の外の近くにこの村と同様に不可視の結界を張っていることをメルク(ハーフエルフ)が教えてくれたため、そこに赴《おもむ》き、俺たちはそのことを双方の村に伝えた。
すると、そのドングリが村の利益になるように世界に売り出すこととなった。
村の人たちの頭の中は葉っぱの効力の有無など、もうどうでもよくなっていた。なぜなら、それを有効に使うことができるということが分かったからだ。
後から聞いた話によると、洞窟にあったあの木の名前は『クスリノキ』というらしい。つまり、俺がいた世界で言うところの『クスノキ』だ。
その木は、葉っぱにあらゆる病《やまい》を治《なお》す力を宿し、実には噛《か》むごとにさまざまな果実の味になるという進化を遂《と》げたなんとも不思議な木であった。
それを知った時、俺はこの世界には俺のいた世界とはまた違った良さがあるのだと改めて思った。
これで『ハーフエルフの村』の一件は解決されたが、今回はえらくあっさりしすぎていたような気がするのは俺だけだろうか?