あの日、初めてアイツにあった日。きっとその日から俺はお前が好きだったんだ。
--雪解けが始まり、桜が舞い落ちる暖かな季節。15度目のその季節を迎えた俺は散った花弁を眺めながら新しい環境へと身を投じる為、少し早めに家を出て、美しい桜並木を歩いていた。俺はこの美しい桜並木を見るのが好きだ。散り行く花はいつまでもどこか儚げで、美しい。この美しい景色を見ていると何時でも心が穏やかになれる。
「ちょっと坊ちゃん!?家出るの早くない?お兄さん一緒に行こって誘ったんだからだから少しくらい待っててよね!お兄さん寂しい!」
「『一緒に行こう』とは言われたが『いいよ』とは言ってねぇ。勝手に1人で行けクソ髭。」
「もう酷いっ!そんなんでいたら高校で友達なんてできないんだからねっ!!」
「安心しろ、てめぇみたいにキメェ奴はそうそう居ねぇからな。」
「もぉ〜〜!相変わらず辛辣!」
--前言撤回させてもらおう。コイツがいると心が穏やかになることは死んでもない。コイツはフランシス・ボヌフォア。とてつもなく屈辱的だが俺の幼馴染で腐れ縁。保育園と小学校が一緒だったのだが、高校でもまた同じらしい。コイツに「俺アーサーと同じ高校受けちゃった!」と言われた瞬間、絶望した。昔はまだマシな面をしていたのに、コイツ何時だっては時の流れの残酷さを教えてくれる。
朝からどっ、と疲れが溜まったような疲労感を覚えた俺はアイツを置いて先々と学校へ向かった。途中なんだか喧しい事を言っていたがアイツの戯言なんて聞いている時間が無駄だと無視していたらいつの間にか静かに俺の隣を歩いていた。「俺の隣を歩くな」と言って蹴ろうと思ったが、これ以上コイツのために体力を使うのが無駄な気もしたのでスルーすることにした。
そして美しい桜並木を通り抜け、信号を渡り、少し歩いたところに今日から俺たちの通う学校が見えた。学校が見え、少し気を引き締めながら校門をくぐり抜けた時、少し聞き覚えのある声に話しかけられた。
「あ、フランとアーサーや!久しぶりやなぁアーサー。おはよぉさん」
「トーニョ!おはよ〜」
「…おはよう。」
…また最悪なヤツにまた会ってしまった。コイツの名前はアントーニョ・ヘルナンデス・カリエド。小学校が同じでよくフランシスと俺とアントーニョで一緒に居た。 俺だけ中学が違うかったが、フランシスに中学の話を聞いた時、コイツの名前がよく出ていたため
「相も変わらず仲がいいんだな」なんて思った記憶がある。そして「俺アーサーと同じ高校受けちゃった!」宣言をされた時、ついでと言わんばかりに「そういえばトーニョも!」なんて言われた時、それはもう膝から崩れ落ちるくらいには絶望した。それにしても…だ。フランシスだけでも面倒なのにコイツにまで会ってしまうなんて…と思っていたら顔に出ていたらしい。
「なんでそんな嫌そうな顔するん〜?酷いわぁ親分傷付いてもぉた…久しぶりに会ったんやからもっと可愛げある反応してや〜」
なんて言われてしまった。ああ、本当に変わっていない。シクシク、なんて口で言いながらオーバーリアクションをするところも、親分を自称するその姿も、小学校低学年まで関西に居たにしてもそこからはずっと東京で過ごしていたくせに変わらない関西弁も、面倒臭いところも。
「まぁ坊ちゃんに可愛げ求めることほど残酷な事はないからねぇ」
「シネクソ髭。」
「酷いっ!そして痛いっ!!」
ああ、本当に心底面倒だ。そして昔から変わっていなさすぎる。少しは大人になったかと期待していた俺が馬鹿だった。アントーニョが俺を弄り、フランシスが俺を馬鹿にして、俺がフランシスを蹴る。そしてイライラしている俺を傍目にフランシスが痛がる素振りを見せ、アントーニョはケラケラと笑う。コントとも覚えるこの流れは小学生の内に飽きる程したそれを、今も尚続けている。コイツらの精神年齢は小学生で止まっているのだろうか?そう疑問に思う程小学生の時と何も変わらなかった。強いて変わったことはフランシスの顔くらいだ。本当にそこだけは小学生に戻って欲しい。切実に。
こんなくだらない会話をしながら不服にも3人で玄関口へと入った。張り出されたクラス表を見て教室へと入る手順なのだが、俺は今までに無いくらい緊張していた。この高校は少し特殊でクラスが3年間変わらない。クラス替えをしないことで深い友情を結ぶことができ、安定した環境で勉学に励める…とか何とか、まぁそんな感じの理由だった気がする。まぁつまり、だ。当たりのクラスなら天国、ハズレのクラスなら地獄、という訳だ。と、緊張してクラス表を見るのを躊躇っていたら
「あ!トーニョと坊ちゃん見て見て!俺ら3人同じクラス!」
「え!?ホンマやんめっちゃ最高!それにギルちゃんもおるやん!」
…? オレラ3人オナジクラス、? …???
その言葉を聞いた時俺は真っ白な砂になり崩れ落ちた感覚に陥った。ああ、終わった……サラバ、俺の高校生活--
そこから俺は記憶がなかった。が、恐らく放心状態の俺をアントーニョとフランシスは引き摺るようにして教室へと連れて来たんだろう、いつの間にか教室の自分の席へと座っていた。フランシスはアントーニョの席の近くで2人で話している。絶望感に打ちひしがれながらも決まってしまったものは仕方がない、紳士ならばそれはそれとして良い高校生活を過ごせるよう誠心誠意努めよう。と思った。
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