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――カツン。カツン。
石畳を踏みしめる音が、静寂の中に響く。
「……うん? ここ、どこ?」
吸血鬼ヴァルドは目を覚ました。いや、正確には、目を覚ましたら地面に立っていた。いやいや、それどころか、記憶がところどころ抜けている。
「えっ? おれ死んだ? いや、吸血鬼って死ぬのか?」
自問自答しながら、周囲を見渡す。どこまでも広がる荒野。夜空にはデカすぎる月。いや、もうちょっと控えめなサイズ感の方が良かったんじゃないか? 神のセンスを疑う。
「なんか……やばい匂いするな。」
ヴァルドの鼻は優秀だった。血の臭い、魔力の乱れ、そして……絶望的な空腹感。
「……血、飲みてぇ。」
だが、人間どころか、小動物すらいない。吸血鬼にとって最悪の事態だった。
「……あれ? リリスどこ?」
ヴァルドは自分の血族の中でも特にクールなリリスを探した。彼女なら冷静にこの状況を説明してくれるはずだった。
しかし、リリスの屋敷はもぬけの殻。家具すら消え、まるで最初から何もなかったかのよう。
「おいおい、ここ新築祝いしたばっかじゃねーか!」
どうなってるんだ。いや、本当にどうなってるんだ。
「まさか……他の血族も?」
悪い予感がしてきたヴァルドは、次々と仲間の拠点を回った。だが、どこもかしこも空っぽ。
「13人の血族、オール行方不明?」
そんなことある?
「いやいやいや、誰かしら残ってるでしょ。もしかして俺、吸血鬼界でハブられてる? え、そんな悲しい展開?」
ヴァルドは焦る。孤独は嫌だ。吸血鬼だって、寂しいとしんどいのだ。
「……そういや、ここどこ?」
ようやく本題に気づくヴァルド。見渡せば、かつての世界とはまるで違う景色。建物は消え、異様な静けさが支配する。
「いや、これはもう異世界じゃん!」
ツッコミを入れたくなるが、誰もいないので虚しく響くだけだった。
「くそっ、誰か……誰かいねえのか!」
と、そのとき。
「よう、迷子か?」
突如、現れる謎の男。
ヴァルドの目の前に現れたのは、黒い鎧を身にまとった戦士だった。
「お前……血族か?」
「血族? は? そんなの昔に滅んだぜ?」
「えっ、マジ?」
ヴァルドの顔が真っ青になる。
「そんなバカな! え、俺って絶滅危惧種?」
戦士は鼻で笑った。
「お前、もしかして生き残りか?」
「いや、ちょっと待て。お前の言う ‘滅んだ’ って、どのレベルの話?」
「いや、もう全部終わった。歴史の授業でも ‘吸血鬼は遠い昔の伝説’ って言われるくらいには。」
「嘘だろ!? 俺、伝説になっちゃった!?」
絶望に打ちひしがれるヴァルド。いや、普通にやばい。
「え、これどうしよ。吸血鬼、俺だけ? ねえ、マジで?」
「……とりあえず、今からお前を始末する。」
「ちょっと待て、会って2分で殺意持たれるの理不尽すぎない?」
戦士が剣を構える。ヴァルドはすぐさま身を引く。
「いやいやいや、待って、話し合おう! 俺、友好的な吸血鬼だから!」
「そんなの信じるわけないだろ。」
「だよなー!」
ヴァルドは全力で逃げる。吸血鬼、まさかの開幕全力ダッシュ。
「くっそ……こんなとこで滅ぶわけには……!」
必死に逃げるヴァルド。だが、このままでは終われない。血族がいなくなった理由を探らねばならない。
「よし、こうなったら……!」
ヴァルドは決意した。生き残った血族を探し、異世界で生き抜くことを。
「つーか、腹減った……マジで血くれ。」
生き抜くことより、今はまず食糧(血)が問題だった。