――カツン。カツン。
石畳を踏みしめる音が、ヴァルドの疲労感を際立たせる。
「はぁ……マジで血がねぇ……」
あれから数時間。謎の戦士から逃げ切ったものの、ヴァルドの空腹は限界を迎えつつあった。
「これ、吸血鬼の寿命って ‘血を飲まないと終わる’ んだよな……ってことは、俺、詰んでね?」
ふらつく足取り。視界がぐにゃりと歪む。
「いやいやいや、俺は ‘神が産み落とした13人の血族’ の一人だぞ? こんなところで終わってたまるか……」
と、そのとき。
「……何をぶつぶつ言ってるの?」
透き通るような声が耳に届いた。
ヴァルドは顔を上げた。そこにいたのは――
吸血鬼リリス。
「お前……生きてたのか!」
「当然でしょ。というか、あんたが ‘生きてた’ ことの方が驚きなんだけど。」
「いやいや、俺も驚きの連続なんだよ! てか、血をくれ!」
「……まずは ‘お願い’ でしょ?」
「お、おねがいしますっ!!」
ヴァルド、プライドを捨てる。
リリスは溜息をつきながら、自分の手首を軽く切ると、ヴァルドの口元へ差し出した。
「ほら、一口だけよ。」
「ありがてぇ!!」
ヴァルド、躊躇なくガブリ。
――数秒後。
「うおおおおお!! 回復したぁぁぁ!!!」
「……相変わらず大げさね。」
リリスは呆れ顔だったが、ヴァルドはテンションが最高潮に達していた。
「これで復活だ! よし、血族探しに行こう!」
「ちょっと待って。あんた、 ‘13人’ って言ったけど、全員が生きてると思ってるの?」
「え? 違うの?」
「……バカね。」
リリスは静かに語った。
「今、私が確認できている ‘生き残り’ は、あんたと私、あと……もう一人。」
「もう一人?」
「エゼルよ。」
「エゼル!? あの ‘狂犬’ か!」
ヴァルドの頭に、かつての血族の一人、エゼルの姿が浮かんだ。
――短気で凶暴、 ‘血の戦狂’ の異名を持つ最凶の吸血鬼。
「おいおい、そいつが生きてるってことは、この世界……割と詰んでるんじゃね?」
「まぁ、そうね。でも、今のところ ‘大人しくしてる’ みたいよ。」
「大人しく……?」
「 ‘牢屋の中’ でね。」
「は!? エゼルが ‘捕まってる’ のか!? 誰に!?」
「さぁ? それを確かめるのが ‘これからの仕事’ でしょ?」
リリスは妖しく微笑んだ。
「で、牢屋ってどこだ?」
「この街の ‘監獄塔’。 ‘人間の王’ の直轄施設よ。」
「王様直々の監獄……めっちゃやばそうじゃん!」
「ええ、だから ‘気をつけて’ ね。」
「……え?」
「私は 戦闘担当じゃないから、あんたが行くのよ。」
「いやいやいや、待て待て! なんで俺 ‘単独’ !?」
「私が行ったら 目立つでしょ?」
「俺も目立つわ!! てか、吸血鬼1人で王様の監獄に突っ込めって無理ゲーすぎない!?」
「大丈夫よ、 ‘作戦’ は考えてあるから。」
「ほ、本当に……?」
「ふふ、信じて ‘特攻’ してらっしゃい。」
「 ‘特攻’ 確定じゃねぇか!!」
ヴァルドの叫びが、夜の街に響き渡るのだった――。