突然ですが、俺はなぜか図書室の掃除道具がしまってあるロッカーの中に身を潜めています。
「いふくん……わたしじゃダメかな?」
「………」
しかもまさかのまさか
見覚えのない女の子と、見覚えのある男というか彼氏の告白シーンの真っ最中。
そもそもなんでこんなことになってしまったかといいますと。
遡ること数十分前のこと。
「あ、あにきー!」
「げっ……」
教室を出ようとしていたら、ないこに呼び止められた。
「あからさまにそんな嫌そうな顔しないでよー」
むすっとした顔で睨んでやった。
そして地味に警戒して、一歩引いた。
「うわー、俺めっちゃ嫌われてんじゃん」
ハハッと笑いながら「ショックだなー」なんて言いながらも、全然ショック受けてるように見えないし。
「俺はあにきの味方なんだけどなー」
「敵にしか見えへんけど」
そして、ふと良からぬ考えが頭に浮かんだ。
ま、まさかとは思うけど
ないこもしや……
まろを好きで渡したくないから俺にこんなこと言ってきてるとか!?
まさかそういう趣味やったん!?
女子は受け付けません。俺はまろ一筋ですみたいな!?
うわぁぁぁ……
幼なじみの純愛ラブストーリー的な?
なんか考えただけでゾッとしてきた。
「あのさー、なんか良からぬこと考えてない?」
「え!?いや、別に…その俺ないこからまろ奪うつもりないっていうか…」
「は?」
何言ってんの?みたいな顔されてるけど、これ以上何か言うと大変なことになりそうだから黙っておこう。
「なんかあにきってほんと面白いし可愛いよね」
「そ、そうか?」
「あ、まろに殺されるかも…」
「はぁ?」
まぁいったん変な妄想に走るのはやめよう。
「うん、面白いね。俺が想像してた以上に」
いったいどんな想像されてたんだ?
「それで、何か用あんのか?」
「あー、そうそう。これさ図書室に返しといてくれない?」
「は?」
え、なんか突然パシリにされてるんですが。
「俺いまからちょっと用事あってさ?」
「いや、だからってなんで俺が」
「このあとどうせまろんとこ行くでしょ?つまりあにきは暇ってわけだ」
「は、はぁ」
「というわけでそれ返却日が今日だからよろしくー」
「はっ!?え、ちょっ!!」
俺に無理やり本を押し付けてダッシュで逃げて行くないこ。
「それちゃんと返却しといてくれたらまろのこと教えてあげるからさー?」
走って逃げながら、こちらに振り向いてそんなこと言うもんだから何も言い返せなかった。
俺がまろのこと知りたがってるの知ってるからって言い逃げするないこはやっぱり悪いやつだ。
仕方なく、そのまま図書室に足を向けた。
これ返却しにいってる時間分
まろに会える時間減っちゃうなぁなんてそんなことを考えながら。
━━━ガラガラッ。
見事に空っぽの図書室。
放課後だっていうのに利用してる人が誰もいないって。
そのまま本の返却コーナーまで足を進めた。
入り口からだいぶ奥に進んで、ようやく本の返却コーナーまでやってきた。
さっさと返却してまろに会いに行こうって思っていたら。
何やら図書室の扉が開いた音がする。
誰か利用する人が来たっぽい。
これは早いところ退散して
読書のお邪魔しちゃいけないやつだ。
そっと、本を返却して帰ろうとした。
だけど。
「こんなところに呼び出してごめんなさいっ」
「………」
男女ふたり。
ひとりの女の子は見覚えがない。
しかし、男はガッツリ見覚えあり。
……まろだ。
すぐさま本棚の陰に隠れて身を隠す。
そう、この時さっさと退散しておけばよかったのに
きっと告白されるんだって思ったら
気になってしまって、思わず退散せずに隠れてしまった。
少し距離はあるけど、ふたりがよく見えるこの位置。
会話も頑張れば拾えるくらい。
そう、このままの距離でよかったのに。
なぜかふたりはどんどん俺が隠れている方に近づいてきてしまって。
慌てた俺は
近くにあった掃除道具が入っているロッカーに身を潜めてしまった。
案外すっぽり自分のサイズにはまってしまうところが地味に悔しかったり。
いや、今はそんなこと考えてる場合じゃない!!
ロッカーには隙間があって、ちょうど自分の目線の高さのところから外が見える 。
ジャストでふたりが視界に入って来た。
━━━こうして現在に至る。
もうこれ人の告白現場覗いてる人だよ。
バレるわけにはいかない、なんとしても自分の存在を空気と同化させなければいけない。
何があっても動揺しちゃいけないのに。
「好きっ……」
━━━ガタンッ!!
目の前でまろに抱きつく女の子を見ておもいっきり動揺して音を立ててしまった。
……バカ、何やってんだ俺。
身体を丸めて、バレないでって目をギュッとつぶる。
「あれ、今何か音がしたよね?」
不自然に思ったのか、女の子の方がこちらを見ている。
ま、まずい……バレる!
もう内心ひやひやで。
それはもう、どうなるかって。
「……多分気のせいだと思う」
間一髪。
まろの一言で救われた。
ホッとした。
しかし、ホッとしたのは束の間で
「……もっとこっち来てよ」
「えっ?」
っ……!?
まろが自分から女の子を抱き寄せるところが目に飛び込んできた。
な、なんで。
まろは女の子なんかに興味なくて
近づいてきたって相手にしなかったくせに。
目の前の光景が受け入れられない 。
「えっ、い、いふくん……?」
「……なに?」
女の子はあんなに頬を赤くして。
無理もない…まろに抱きしめられたらあんな風になってしまうのは。
それは俺がいちばんわかってる。
あんな風に抱きしめてもらえるのは
俺だけだと思ってたのに…。
だって俺の彼氏やん
他の女の子に抱きつくとか浮気やん
あぁ……やだ、泣きそう。
まろは俺の彼氏だとはいい誰のものでもない。
だから俺に泣く資格なんて無い。
だけどこれ以上このふたりを見るのはなかなか辛い。
再びギュッと目をつぶって、ふたりを視界に入れないようにする。
そして涙が溢れないように。
だけど会話は耳に入ってきてしまって。
「あ、あんまり近いとドキドキしちゃう……」
「……もっとドキドキしてみる?」
もう無理だ……。
胸が張り裂けそう。
このまま飛び出していけたらいいのに。
まろは俺のだからって。
まろに触れていいのは俺だけだからって。
……言えたらいいのに。
「……なーんてね」
「え?」
「残念やけど、俺キミには興味ないんだよね」
「な、なんで……」
急に態度を変えたまろ。
「キミじゃ近くにいてもドキドキしないし、いじめたくならない」
うっすら目を開けると、なぜかこっちを見つめるまろの姿があった。
「……俺にはもっと汚したい子がいるから」
フッと浮かべた笑みはいつものまろの表情だった。
そのまま女の子は泣きながら図書室を飛び出していった。
あとは残されたまろが出ていってくれれば……
━━━ガタッ!
「……なーにしてんの」
気づいたらロッカーを開けられていて
目の前にまろがいた。
「な、なんで……っ」
あぁ、ダメだ。目を開けたら 溜まっていた涙が溢れてきてしまった。
「なんでってあにきの方こそこんなとこで何してんの?」
「な、なにって……別に…っ」
「かくれんぼ?それとも人の告白現場の覗き?」
「なっ……そんなんじゃない…し」
「あにきは悪趣味だね」
「だ、だから違うって……」
人が喋ってる途中だっていうのに
まろの指がそっと涙を拭ってくれる 。
「……こんな泣いて」
誰のせいでこんな泣いてると思って。
「まろのせい……だもん…っ」
「ふっ、俺のせいなの?」
「そう、やもん……っ」
「とりあえず出ておいで」
「ん」
まろに引っ張られて
ロッカーから脱出できたと思ったら
そのまま俺を離してくれなくて
「……ほんとは知ってたよ。あにきが隠れてたの」
「え……?」
「ないこから聞いてた。あにきが図書室にいるって」
「し、知ってるならなんで……っ」
「……あにきがどんな反応するかなって」
「は……はぁ?」
俺のどんな反応が見たくてあんなことしたの?
「……まさか泣くとは思わなかったけど」
「た、試したの…っ?」
「……ダメだった?」
こ、こっちがどんな気持ちで見てたと思ってるの?
俺の気持ちを知っててこんなことしてくるなんて。
すごい悔しい。まんまとまろの思い通りなってしまった。
「……泣かせてごめんね」
「っ、」
そんな顔でこっち見ないでよ。
さっきまで苦しかったのに
その一言で苦しさからドキドキに変わってしまう。
このつは俺、の反応を 見て 楽しんでるだけなのに。
どうしてそんな……
愛おしそうな瞳でこっちを見るの?
もう、わけわかんない。
ねぇ、もし今俺がここで
好きって言ったらまろはどういう反応してくれる?
向こうが試してきたなら…
こっちだって……なんて変な気が回ってくる。
潤んだ瞳のまま顔を上げて、はっきりまろの瞳をとらえる。
「……その顔はズルイ」
ズルイって言葉はそっくりそのままお返ししたいくらい
いつもはまろに押されっぱなしで、振り回されっぱなし。
だけど……。
「まろ……」
「……ん、どーしたの?」
俺が好きって言ったら彼はなんて答えるだろう。
緩く締められたネクタイをグッと引っ張って、まろとの距離を詰める。
そんな俺の行動に驚いたのか
目を大きく見開いてこちらを見ていた。
どうせなら、一度くらい……
「好き……━━━」
伝えてみてもいいんじゃないかって。
思った時には口に出していた。
だけど、臆病な俺は
「……って言ったらどうする?」
余計な言葉を付け足してしまう。
勢い任せで言ってしまったけど、まろの反応が気になって見つめると。
「……あにきのくせに生意気じゃん」
なんて言葉が返ってきて。
今度はまろが俺に近づいてきて
そう、顔が見えたのは一瞬で
すぐに耳元で……
「……好きだよ、悠佑」
甘い囁きにくらっときた━━━。
これは本気の好きじゃない。
それなのに……
まんまとその甘い囁きに溺れそう。
そんな俺をジーっと見た後
クスッと笑って
「……って言ったらどうする?」
ほら、こんな意地悪なこと言うんだから。
「い、意地悪……っ」
「先に仕掛けてきたのはあにきでしょ?」
そ、それはそうだけれども。
「ほんとまろってよくわかんないよな」
教えてよ、全部。
「……わかんなくていいよ」
「え?」
「……そーやって俺のことで頭いっぱいになりなよ」
とことん、俺を虜にしてしまう。
どこまでも夢中にさせて
だけど手を伸ばせば届きそうで届かない。
「も、もういっぱい…やもん」
「……もっとだよ」
なんて艶っぽい、色っぽい表情。
まろってこんな顔もするんだ。
「俺のことだけ考えて、俺に夢中になってよ、あにき」
「っ……!」
もう、とっくになってる……。
気づいてるくせに。
「俺って、まろにとって特別?」
「………」
「ねぇ、まろ……」
これ以上聞いちゃダメって言わんばかりに、まろが人差し指を俺の唇に押し付ける。
「……さあ、どうだやろ?」
「っ、」
ここまで期待させておいて
肝心なところを言ってくれない。
どこまでもズルイ人。
コメント
1件
ゔあぁ…( 最高すぎる…