翌朝、ヒノトは目を腫らしていた。
「よ、よっす。おはよ、ヒノト」
リゲルは少し苦笑いでヒノトに手を向ける。
「おう、昨日は父さんの言う通りに散々泣くことにした。そんで、今度こそ、笑い切ってみせる……!」
そして、いつものようにニカっと笑った。
「ハハ、一晩でそうなれるのがすげぇよ」
そんな中、ガラリと開かれ、一人の女生徒の姿に、全員が呆然とする。
「も、もしかして…………」
「リ、リリムさん…………?」
リリムは、真っ黒に垂れ流しただけの前髪を切り、綺麗な真っ白な肌を恥ずかしそうに見せていた。
「か、かわいい……!!」
「髪切ったんですね……リリムさん……!」
ただ髪を切っただけだが、今までの無口で真っ黒な髪を垂れ流していたリリムと違い、元のスペックがよく、綺麗な顔立ちを見せたリリムに大興奮だった。
リリムはズケズケとヒノトの前に出でる。
「お、お前……前髪上げると雰囲気変わるなぁ……」
リリムは、バシン! とヒノトの机を叩く。
「アンタの言う通り、私は変わる努力をするわよ! だから、早くその泣きっ面消して来なさい!! リオン〜!」
「は、はい……!」
すると、扉の奥から三年のリオンが呼び出されていた。
へこへこと頭を下げながら教室に入る。
クラスの生徒たちからすれば、つい先日、王子リオンの横暴によりリリムを連れ去っていたのに、今では全くの真逆の光景が広がっていたからだ。
しかし、リオンも長いチャラチャラとした、ご自慢の煌びやかとした長髪を切っていた。
「ヒノトくん、君に力を貸すと言った。それはやはり、日を置いても変わることはない。君が立ち続ける限り、僕も弟と向き合い続けようと思っている」
「俺もだ。改めて、俺も人の為に戦いたい」
「グラムまで!? ホームルームあるだろ……」
「そんなことより……ヒノト!」
再び、バシッと机を叩く。
そう、クラスの全員にこの行動を見せ付けることが、リリムの狙いだった。
ヒノトは、ニヤッと笑みを浮かべる。
「分かってるよ……リリム……。俺たちのパーティ名は、魔族の娘、王子、強面の戦士、そして、猪突猛進な平民ってバラバラな奴らの集まった、勇者を目指すパーティ。“DIVERSITY” だ!!」
全員が証人、ヒノトの言葉は、後には引けない。
それが今、リリムが “人” を無理矢理にでも信じる、やり方だった。
「こんな大勢の前で言ったんだから、恥かかせないでよね! じゃあ二人とも、ホームルーム遅刻しないようにダッシュ!!」
リリムは、すっかりと性格が変わったようだった。
無理をしているのかも知れないし、我慢していたものが解かれたのかも知れない。
それはきっと本人にしか分からないけれど、クラスの人たちは、呆然としながらも明る気にしていた。
そして同時に、王子レオの独裁的に集められたパーティを除き、一年生で初めての正式なパーティが組まれた。
” DIVERSITY “
これは、ヒノトが小さい頃に読んだ絵本のタイトルに使われていた名前だった。
魔族と、エルフと、人間が、友達になる絵本。
多様性を訴え掛けた絵本だった。
この申請後、ヒノトのパーティは、**『魔族の娘と王族がいる』**と言うことで、大きな注目を集めた。
当然それは、レオの目にも止まっていた。
「ふっ……少しは張り合えるかな……。お前、結局魔族戦ではサボっていたが、奴をどう見る? ルーク……」
ルークと呼ばれた男は、レオを前に、寝そべって足をソファの上に上げてゲームをしていた。
「ヒノト……だっけ。アイツは……少し気になる」
「やはり……。ルークにそこまで言わせる程……アイツには、まだ何かあるな……」
「あと……アレ……。レオが途中で引っ張ってた奴。名前分からないけど……赤髪の……アイツも……」
「私の剣を消滅させた男だ。裏があるだろうな……」
ルーク。
王子レオのパーティ、中衛、ウィザード。
レオの前で無礼な態度を取っても許される、レオに何もかもを認められている者。
――
数週間が経過し、新たなパーティがポツリポツリと出来始める中、ある事件が学寮に広がっていた。
「ねえねえ、朝のニュース見た?」
「見た見た! 結局、また逃げられたんでしょ? なんなら魔族より怖いかも〜!」
「金品を泥棒して、平民に配る義賊! そこまでは少しかっこいいんだけどね〜……」
「そうそう、**『魔族と契約して、魔族の力を使える』**ってのが……やっぱり怖いよね……」
「「 義賊 スコーン! 」」
数十年前から世間を騒がす大盗賊、“スコーン” 。
暫く牢獄にいたが、脱獄を成功させ、最近、再び盗みを働いては金品の一部を貧しい暮らしの平民たちに配る。
消える魔法から、魔族の力と揶揄される力を扱う。
しかし、殺しなどは一切しないが、その高い戦闘能力から、兵士が束になっても敵わない。
「君たち……話もいいが、もう授業の時間だ」
女生徒たちの話に割って入るのは、眼鏡の男。
「あ、ふ、風紀委員長!! す、すみません!!」
三年、風紀委員長、貴族、カナリア・アストレア。
キルロンド王国が一つの国になる前、アストレア領土を有していた、**元王族**である。
「それで……俺に話ってなんですか……風紀委員長……」
「こんな授業前に呼び出してすまないね。君に、僕たち風紀委員……。いや、風紀委員の “パーティ” に入って欲しいと、勧誘をさせて貰いたいんだ」
「いや……皆さん貴族院の方々ですし……俺は正直、楽しくやれればいいかな……とか……」
そんな言葉に、カナリアは顔を近付け、耳元で囁く。
「君に拒否権はない。“リゲル・スコーン” くん……」
リゲルは、渋々と頭を下げ、了承した。
――
リゲル・スコーン。
大盗賊、スコーンの実の息子。
魔王の娘、リリム・サトゥヌシア同様、研究機関により悪意がないことを証明され、学寮への入学を許可された。
ただ、本人の希望により、下の名前は頑なに伏せるように懇願し、平和な日常生活を願っていた。
父、スコーンとは会っていないことから、父について聞かれることはないが、やはり、その魔法はしっかりと受け継がれていた。
“炎魔剣術魔法”
魔法を掻き消し、相手の翻弄する**陽炎**を駆使する。
しかし、リゲルは力のほとんどを使わない。
リゲルは、強い相手に怯えるわけではなかった。
自身の魔法が発動した時、理性を失う。
その時に、人を傷付けてしまうことを恐れていた。
パーティ、キルロンド学寮風紀委員。
前衛、炎魔法のソードマン。リゲル・スコーン。
新たな波乱が幕を開ける。
第一幕 完
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