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〇プロローグ
豪雨の降る、冷たい冬の日だった。
視界に映るものはすべて、例外なく“死”が張り付いていた。
あの日、自分を焼いたものは、圧倒的な――だった。
「殺す…ッ、絶対に…ッ、―ッ!!!!!」
”殺してやる。”そう呟いたのは。
今よりもずっと幼い、子供の声だった。
〇第一章
久しぶりに、あの頃の夢を見た。
過去の夢を見たからと言って、何も思わない。
悲しみも、怒りも、喜びも。
喜怒哀楽という感情が抜け落ちているのではないか、と思うほど。
“自己”がないのではないのか、と。
そうではなくとも、自分はどこかおかしいのだ。
この世界と同じように、創造神の失敗作なのだ。
◇◇◇
この世界は、何年か前まで普通だった。
温かく慈愛に満ち溢れ、冷たい残虐さがはびこる日々を繰り返していた。
“人間”という、正負の感情と隣り合わせの生き物たちの、帝国だった。
しかし、それは突然壊れてしまった。
なんの前触れもなく、それは唐突に訪れた。
経済の滞り、感染症の流行、裏世界の暗躍、自然災害の頻発。
そんな中、人々は己の生活領域を守りたいが故に、誰かを力でねじ伏せていった。
強大国が、弱小国を軍事力で屈服させ。
大企業同士が技術を独占し、中小企業は次々と潰れ。
大人は、子供を邪険に扱う。
今まで笑い声と幸福の絶えなかった町は、泣き声と絶望で埋め尽くされた。
この世の美しさが、醜さに“反転”したようだった。
そんな腐った世界で、俺は正義に加担して生きている。
――「“無音-Naoto-”。時間だ。」
無音「…はい」
声をかけられ、俺はそう返事をする。
「確認だ。今回の任務内容は武装組織が政府から強盗した書類の奪還だ。
場所は繁華街。午後4時に別組織との取引が行われる。
取引に居合わせた者は全員確保。
また、書類の内容を知ったと思われる組織のトップを含む最高幹部6名を確保せよ。
任務の変更・離脱・放棄・失敗は許されない。
チーム“屍”。任務をただちに遂行せよ。」
無音「了解。」
軽く敬礼をし、俺は“特捜統括本部”と書かれた部屋を出る。
“屍”と刻まれた部屋で、鍵を閉めてインカムに話しかけた。
無音「こちら“無音”。作戦遂行の命が発令された。
これより任務を開始する。
“潜陰-Sennin-”、応答せよ。」
潜陰『yes boss.』
無音「尾行しているターゲットの様子と現在地を報告。」
潜陰『ターゲットナンバー01、特になし。武器の所有はありません。
ターゲットナンバー02、取引の準備中。同じく武器の所有はなし。
おそらくこの後取引相手の組織の代表者2名到着。
護衛として3名が武器を所有し、周囲に潜む模様。目立った動きはなし。
全員が予定どおり会合場所に向かっています。
以上、計7名を第一次任務の標的とし、引き続き監視を続けます。』
無音「了解。取引開始後、“都築-Tsuzuki-”、“赫原-Kakuhara-”は護衛を制圧。
“氷菓-Hyoka-”、“志登-Shito-”、“射夜-Iruya-”、“猟狼-Ryokami-”は護衛制圧後、取引代表者を確保。
“潜陰”、“雨霊-Urei-”は証拠の確保。
各自適した陣形を展開し、任に当たれ。以上。」
屍『『『『『『『『yes boss./了解。』』』』』』』』
全員が返事をしたことを確認し、PCを開く。
“潜陰”が調べ上げた情報を読み、ターゲットの特徴を把握する。
無音(今回は特別警戒する必要はなし…か)
目標4名は中級構成員か非戦闘員、護衛も名の知れた者ではないと判断する。
俺はPCで、奴らの周辺の監視カメラにアクセスする。
ちょうど、取引相手が来たところだった。
潜陰『こちら“潜陰”、取引相手組織の代表者2名を確認。』
雨霊『こちら“雨霊”。取引開始が確認されました。
証拠確保につき、現場の撮影許可を申請します。』
無音「問題ない。迅速に行動しろ。」
潜陰・雨霊『『yes boss.』』
都築『こちら“都築”。護衛1名の制圧の許可を願います。』
赫原『こちら“赫原”。護衛2名の制圧許可を。』
無音「…許可」
都築・赫原『『了解。』』
『…』
『…』
都築『護衛の制圧を完了しました。』
赫原『同じく。』
無音「了解。“氷菓”、“志登”、“射夜”、“猟狼”の4名は、取引代表者4名を確保。」
氷菓・志登・射夜”・“猟狼”『『『『yes boss./了解。』』』』
俺は指示を出すだけで終わる。
最近は指揮も“潜陰”がやってくれることもあるので、もはやこの部隊は俺がいなくても大丈夫そうだ。
俺の仕事はまだたくさんある。
氷菓『取引代表者4名、確保しました。この後身柄を引き渡します。』
無音「了解。これより身柄を引き渡し次第、第一次任務を終了とする。
身柄引き渡し及び安全が確認されるまで、全員警戒を怠るな。」
屍『『『『『『『『yes boss./了解。』』』』』』』』
そう指示を出し、俺は自分の“仕事”にとりかかった。
◇◇◇
仕事を終え、俺は暗くなった道を歩く。
周りを見渡せば、倒れた電柱と壊れかけた家々が立ち並ぶ街並み、そしてそこを行き交う人々。
どこからか喧騒音が聞こえてくるが、歩く人はみな、そんなものはまるで聞こえていないかのように、迷うことなく去ってい
く。
この国は腐ってしまった。
人々は腐臭のする日常に慣れてしまった。
誰も疑念を抱かず、それは生活の中に当たり前に存在するものであると思うようになった。
今では政府の存在さえも、いらないという考えを持つ人が増えている。
今まで当たり前だったことが、新しい“当たり前”によってすり替えられていく。
無音(…不思議なものだ。)
俺の家はそんな街並みにそぐわない、少し新しく大きな家だ。
ドアを開けると、広々とした玄関と、リビングに続く廊下がある。
都築「…あ!お帰りなさいナオトさん!!」
ドアを開けた音に気付いたのか、出てきた“都築”が顔をほころばせた。
無音「ただいま、ツキ。」
都築「もうみんな帰ってきてますよ!!」
早く早くと急かすように、“都築”ことツキが背中を押してくる。
されるがままにリビングに入ると、
氷菓「たいちょ~お帰り~」
無音「ああ、ただいま。」
“氷菓”ことコオリがひらひらと手を振ってくる。
腰に圧迫感を感じ、下を向くと“射矢”ことイルヤが抱き着いていた。
射矢「…今日、来なかった。」
むすっとした顔で言うイルヤ。
無音「ああ、今日は現場指揮の必要はなかったから。」
射矢「…」
無音「はいはい」
無言で俺の腹にぐいぐいと頭をこすりつけてくるので、軽く撫でてやった。
雨霊「…お、ナオにぃお疲れさん。遅かったな。」
ちょうど風呂から上がったのか、髪が濡れたままの“雨霊”ことレイ。
無音「ちょっとな。」
おいで、と手招きをすると素直に近づいてくるレイ。
近くの椅子に座らせて、髪を拭いてやる。
雨霊「ん、おおきに。」
嬉しそうに笑うレイ。
無音「どーいたしまして」
猟狼「お帰り、ナオ。」
キッチンからエプロン姿の“猟狼”ことリョウが出てくる。
猟狼「指揮お疲れ。」
無音「ん」
軽くハイタッチを交わし、そう返事をした。
志登「お帰りなさいナオ隊長!」
笑顔で駆け寄ってきた“志登”ことシトを撫でる。
赫原「…ナオ。」
さらには2階から降りてきた“赫原”ことガクが右腕に引っ付いてくる。
潜陰「お帰り…wなんで毎回そうなるのwwww」
後から降りてきた“潜陰”ことセイに爆笑される
無音(腹にイルヤ、左手にシト、右腕にガク。)
可愛い、可愛いが重い。
どうして俺が帰ってくるたび全員が集まるのか。
しかしせっかくそろったので、メンバー紹介でもしておこう。
ツキは黒髪碧眼の美少年。
チーム内では子供組という分類だが、特攻隊長を担うことが多い。
コオリは銀髪青目の美青年。
少しかっこつけた性格だが、攻撃隊長でもありカリスマ性に優れている。
イルヤは藍髪青目のポーカーフェイス。
無口はシャイなだけで、実のところは超甘えたがりの刀の使い手。
レイはハニーブラウンの髪に茶目の関西人。
実は照れ屋で笑うのが苦手。役職は証拠班。
リョウは黒髪赤目の生粋の大人。
最も俺と年が近く、俺とコンビを組んで任務にあたることもある。役職はフリー。
シトは白髪白目の最年少。
ザ・弟という性格で癒されるが、時々大人びた表情を作る実行班。
ガクは灰髪黒目の攻撃班。
年齢はチーム内では2番目に高いが、性格はチーム内で2番目くらいに幼く、天然。
そして最後、セイは金髪にメノウの瞳。
チャラいお兄さんといった感じのくせに、様々な人格を使い分ける工作員。
…こんなもんか。
ちなみに、“屍”のメンバーは全員俺より年下。
俺が24で、リョウは21、ガクとセイは19、レイとコオリは18、イルヤとツキが16、シトは15。
俺たちは言わば寄せ集めのチームなので、年齢がバラバラ。
俺とシトなど、7歳も差があるので、完全に年の離れた弟という感じだ。
レイなんかしっかり俺のこと兄呼びしてるし。
無音(自由な奴らだ。)
そう思いながら、俺は弟たちを撫でていた。
-セイside-
俺たちのチーム、“屍-Shikabane-”は、言わば政府公認の裏部隊だ。
肩書は、“delete”日本支部特別捜査課所属第7部隊、といったところだ。
“delete”とは、世界最大の自警団体のこと。
もともと、俺たちは別々の場所で様々なことをしていたが、ナオが全員を招集し、ここに所属することになった。
そのナオについて。
一息にいうと、黒髪黒目の超絶イケメンでミステリアスな俺たちのリーダー。
まず、身長が182㎝、体重49㎏、ウエスト65㎝、足の長さは90cmといういろんな意味で驚異な数字の羅列。
身長は高く、体重は軽く、ウエストは女性モデル以上に細く、足は平均を上回る長さ。
そのため、彼はめちゃくちゃシュッとしている。全体的に。
黒髪は整えられ、夜の闇に紛れる。
前髪の交差で、露わになった美しい漆黒の目と、それを縁取るやや長い睫毛。
まるで彫像のように、端正で、美麗で、冷淡。
それがナオを知らない奴らが、彼を恐れる理由。
何もなくても、威圧感がなくても、感じるのだ。
――彼の纏う、静かな零度を。
知っていてなお、彼を恐れる人はごまんといる。
事実、俺たちと合同任務を行うチームはあまり見ない。
おそらく、俺達の雰囲気に吞まれ、力が出せないことを憂いた上層部の判断だろう。
まあ俺たちはいいけど。
イケメンなナオにはすぐ虫共(女)がつくので、怖がられているくらいがちょうどいい。
男の場合、体目当てで近寄つてくる奴も少なくない。
自分で言うのも変だが、俺たちはナオを愵愛しているので、そういう奴らにはナオに触れ指せないと決めているのだ。
まぁ本当はナオが一番強いから、俺たちがいても意味はない。
逆に言えば、彼のことを守れる存在は少ないということ。
全ては愛するナオと、ナオの愛す仲間たちのため。
この日常を、居場所を守るため。
そのために俺たちは、彼の傍にいることにしたのだ。
-第一話 end-