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翌朝、白石瞳は、未来視で捉えた朧げな記憶を頼りに、千里眼の男、霧島怜を探し始めた。瀟洒な邸宅を抜け出し、賑やかな商店街へと足を運ぶ。しかし、未来視で見た彼の姿は曖昧で、人混みの中ではなかなか見つけることができない。
「本当に、この街にいるのかしら……」
不安が胸をよぎる中、瞳はカフェのテラス席で一人、所在なさげに煙草を燻らせている男を見つけた。だらしなく伸びた髪、力の入らない気だるげな佇まい。未来視で見た男の印象と重なる。
意を決して声をかけた。「あの、霧島怜さんですか?」
男は、けだるそうに顔を上げた。焦点の合わないような、どこか遠くを見ているような右目。そして、隠すように左目を覆う眼帯。「……それが、俺だが」
「わ、私は白石瞳と申します。突然ですが、あなたに協力してほしいことがあります!」
瞳は、魅了の男が見せる破滅の未来、そして自分にしかそれを止められないのだと、必死に訴えた。しかし、怜はまるで他人事のように、煙を吐き出しながら言った。「未来を変える、ねぇ……。そんな面倒なこと、柄じゃないんだよ」
「でも!」
「それに、未来なんて見えたところで、どうなるもんでもないさ」怜の言葉には、諦めのような、深い疲労の色が滲んでいた。
瞳は食い下がった。「多くの人が殺される未来が見えるんです!放っておくわけにはいきません!」
怜は、面倒くさそうに溜息をつき、空を見上げた。「まあ、あんたみたいな熱心な子を放っておくのも、気が咎めるしねぇ……。でも、期待はしないでくれよ。俺は、本当に役立たずだから」
半ば強引に、瞳は最初の協力者を得た。頼りないながらも、千里眼の力はきっと役に立つはずだ。
次に瞳が向かったのは、街から離れた場所にひっそりと佇む、古びた洋館だった。噂に聞く『石化の騎士』が住んでいるという場所。重い鉄の扉を叩くと、中から低い声が響いた。「……誰だ」
「わたくし、白石瞳と申します。あなたにお会いしたい」
扉はゆっくりと開き、現れたのは、まるで彫像のような、無表情の男だった。年齢は不詳。どこか人間離れした雰囲気を纏っている。彼の右目もまた、何かを隠すように眼帯で覆われていた。
「何の用だ」男の声は、低く、冷たい。
瞳は、文献で読んだ石化の騎士の話、そして自分が未来視の力を持つことを伝えた。「あなたの力が必要なんです。人を魅了して殺戮を行う男を止めるために」
男は、瞳の言葉に僅かに反応を示した。「石化の力、か……。忌まわしい力だ」彼の声には、深い苦悩の色が宿っていた。
「過去に、過ちを犯したと聞きました。ですが、その力は、人を救うために使うこともできるはずです!」
男は沈黙した。瞳の真っ直ぐな眼差しが、彼の心の奥底に触れたのかもしれない。
「……剣術で、私に勝てたら、力を貸そう」
突然の申し出に、瞳は戸惑った。「剣術、ですか?」
「そうだ。己の力で、未来を掴む覚悟があるのか、見せてもらおう」
こうして、未来視の少女と、だらしない千里眼の男、そして過去に傷を持つ石化の能力者が、それぞれの思惑を抱えながら、一つの目標に向かって動き始めた。彼らの前には、魅了の男と、彼に協力する謎の能力者たちが待ち受けている。そして、瞳の傍に控える執事の影には、まだ知られざる陰謀が潜んでいた……。