___手紙が届いた。
宛名はない、住所等も、何も書いていない為直接自宅の郵便受けに投函されたのだろう。
普段ならば開かずに捨ててしまうのだが、どうしようにもその手紙が気になってしまって、色褪せた封筒をそっと開けた。
中にはメモ帳の様な物が一枚ぽつりと入っており、中には相当力を込めたらしき字体で日記らしき物が殴り書かれていた
其処には震えた手で書いたのか随分と拙い文章でこう、綴られていた
「君が、君達が死んでから、もう二十年という月日が経ってしまった。
あの頃から大出世してポートマフィア首領となった今でもあの暗殺王事件の事を思い出す。
そう、脳裏にこびりついて離れないのだ。まるで脂汚れの様に執拗に私を悩ませ苦しめるあの忌々しい記憶によって、
一秒たりとも睡る事を赦されず悪夢に踠き苦しむ私をどうか、殺してくれ。
厭……いっそ、この全てを、」
確かに見辛くはあったが、その字は我等が若手会の頭である贋札職人の彼の字にそっくりだった。
瓜二つ…と言うべきか、同一人物が書いたのだとしか思えなかった。何より気になるのはその内容だ。
恐らく二十年後では私を含む若手会の皆が暗殺王事件とやらの時に命を落としたのだろう。然し…何故、こんな物が…
「広報官。何を見ているんだ?」
「嗚呼、ピアノマンさんですか。遠方に住んでいる友人からの手紙ですよ。」
咄嗟に書斎に置いた其れをひょいと持ち上げた彼はまじまじと其れを凝視めた後、呆れた様に大きな溜飲を吐き窓の外を見た
窓の飾りに軽く体重を掛けた彼は逆光をその身一杯に浴びながら考え込んでいた。
角度的な物なのか。将又何か理由があっての物なのか。彼の身体が透明に透けて見えた
「単刀直入に謂うと、この世界はもう直ぐ終わる。深夜だと謂うのに外が眩い光で包まれているのはその合図だ。
私が望んだんだ。全てを破壊して無に還りたい、と」
淡々と語る彼は森羅万象、此の俗世に蔓延る全てを悟った様な、壮絶な世界を辿出来た様な。そんな凛々しい瞳をしていた
あり得ない出来の悪いファンタジー映画の様な闇雲な話だが、何故かするすると頭に入ってくる処を考えると現実なのだろう。
そして、今の私が本来の私ではない事も自然と理解してしまった
世界が破滅する間際の彼への細やかな祝福、其れが私自身なのだ、と。
「………どうやら。未だ、君から貰っていない五文字の言葉が有るらしい。最期くらい、我儘を訊いてくれ」
「五文字、ですか?」
ぼーっと窓を眺めた彼はそれ以降何も口を開くことがなかった。
五文字…五文字…ただそれだけが頭の中を駆け巡るが答えは出ない、その間にも彼の謂う終末は近づいている様で肌がピリピリと火傷しているかの様に痛む。
応えが出ないまま数分が経ち、彼が諦めた様に何かを言おうとしたが、其れを唇で塞いだ
「”愛してる”、ですよね」
「……判らない。」
後ろめたい様で、目を逸らした彼をそっと抱き締めていた。ずっと、この世界が終わるまで
何かがぷつりと切れた様に涙を流す彼をただただ抱き締めた。自分が所詮模造品で有ることは分かっている、しかし、胸の中で渦巻くこの感情が偽物ではない事もまた事実だった。
「明日こそは、貴方の傷が癒えます様に。」
そんな忌々しい夢を見て私は吐き気を覚えた。もう、広報官はいないのに何十回何千回と彼の夢を見る
適当に其処らに置いてあったメモ帳にその全てを吐き出そうとも、彼は戻って来ない
悪戯に其れを紙飛行機にして、自由が蔓延る世界へと投げ出した。ぐしゃぐしゃになった紙飛行機は車のヘッドライトに照らされた瞬間塵と化して壊れて消えた。まるで、シャボン玉の様に
コメント
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ちょっと待って……すぅ…はぁ…さいっこu((( 広報官!!おま、死ぬなよぉぉぉ!!ピアノマンをどうすんだよ!!おい!はぁ。矢張り、このカプは尊いな☆