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「おい……!お前、ふざけんなよ……!」
きらきらと輝く髪で右京は振り返った。
「えー、だって、ずっと女装のままじゃ、会長がかわいそうだと思ってー」
「嘘つけ!お前が楽しんでるだけだろ…!」
「えーでも、右京先輩」
2年生の生徒たちが目をハートにして右京を見る。
「ものすっごく似合いますよ!!」
「……マジ?」
右京は鏡に映る、金髪のウィッグに、光沢のある紫色の和柄シャツ、黒い短パンをだらしなく身に着けた自分を見つめ、ため息をついた。
2人は学園に戻ると、蜂谷の提案で2年3組と4組が主催している“コスプレミュージアム”に来ていた。
メイクを落とし、汚れてしまったメイド服を脱いだ右京に、蜂谷がコーディネートした服は、どこからどう見ても堅気の人間ではなかった。
「お前、馬鹿にしてるだろ」
右京が蜂谷を睨みながら振り返る。
「いや、田舎のヤンキーといえば、こんな感じかなって」
蜂谷はというとイケメンカフェの制服のまま、涼しい顔で微笑んでいる。
「俺、曲りなりとも生徒会長なんですけど」
「いや、こういう祭ごとは会長自ら羽目を外してくれないと…!」
蜂谷は言いながら右京の腕を引っ張ると、後輩たちを振り返った。
「衣装、最後まで借りていい?」
「いいです。誰も使わないんで、そんなの!」
女子生徒たちが頷く。
「おい……」
「よし、行こうぜ!」
蜂谷は笑いながら右京の腕を引いた。
「―――ったく。これじゃあ恥ずかしさ的には、メイドコスとそんなに変わんねぇんだけど」
ブツブツと右京が言うと、
「どうだよ。久々にホームに戻った気分は」
蜂谷が笑う。
「だから、こんな格好してなかったっつの!」
「じゃあ、どんな格好してたの?そんな見た目だけで万引き犯と疑われるって相当だろ」
「―――――」
右京は蜂谷を睨んだ。
「一生言わねえ」
フンとそっぽを向くと、足を速めた。
「――おい」
その腕を蜂谷が掴む。
「無理すんな。足」
「――――!」
その低い声に、耳にかかった熱い息に、なぜだか身体がビクンと跳ねる。
「おい……右京?」
「―――っ」
勝手に体に鳥肌が立つ。
「―――?」
右京の様子がおかしいので覗き込んだ蜂谷は、だらしなく腰に引っかけた短パンの中身が盛り上がっているのを目にした。
「―――こんなときに、あんたは……」
呆れて目を細める。
「まあ、さっき、ミナコちゃんたちにイかせてもらえなかったもんな。中途半端で不完全燃焼か?」
「うっさい…!」
右京は顔を真っ赤にして蜂谷を睨んだ。
「お前が、条件反射でこうなるようにしたんだろうが……!」
「えー?」
言いながら蜂谷は右京の肩に腕を回し、顔を寄せてきた。
「……俺のせい?」
また耳元で囁く。
「だからやめろって……!」
その声に耐えるように右京が強く目を瞑る。
「――困ったなー。これじゃあどこも回れねえよ?」
蜂谷が視線を上げ校内を見回す。
「あ、そこにトイレがあるから、抜いて来いよ」
右京も目を開けてトイレを睨んだ。
「ほら、早く」
肩を組んでいた蜂谷が腕を離しトンと背中を押す。
「お前はホントろくでもねえな……」
右京がちらりと睨むと、
「え、あれ、もしかして会長じゃない?」
「うそ、右京先輩……?」
廊下の向こう側で騒ぎ出した女子から逃げるように男子トイレに駆け込んでいった。
◇◇◇◇◇
「……あー。ったく、もう…」
トイレに駆け込むと、学園祭のBGMがほとんど聞こえなくなった。
「ーーーーー」
鏡で改めて自分の顔を見る。
金髪。
柄シャツ。
短パン。
もしこんなゴリゴリのヤンキーだったら、きっと永月も自分を助けなかったに違いない。それどころか酒屋の店主だって、文句を言うのを躊躇しただろう。
「こういう格好しとけばよかったなー」
やけくそでつぶやくと、右京は個室のドアを開け、中に入った。
「ーーーー!」
扉を閉めようとしたところでドンとそれを押された。
「な……!?」
振り返ると、蜂谷がこちらを見下ろしていた。
「何だよ…うんこか?他も空いてんだろうが!」
蜂谷は無言で個室に入ると、鍵をかけた。
「おい……」
「手伝ってやるよ」
言いながら腰パンしている右京のベルトに指をかける。
「はあ!?」
「さっさと出てこないと、さっきの女子たち、トイレの前で待ってるから」
「え、嘘だろ…」
「会長、ウンコ長かったって噂が立っても困るだろ?」
「――――!!」
言いながら彼はあっという間にベルトを緩めると、短パンとボクサーパンツを同時に下げた。
「痛い方の脚、俺の肩にだらんと乗っけて?」
言いながらしゃがみこみ、靴を脱がせる。
「できるか……!こんなとこで……外に人いんのに!」
「いいから。背中壁につけて」
「無理だって!」
しかし蜂谷は右京を壁に押し付けると、右足の足首を持って自分の肩に担いだ。
「………っ!」
硬くなったものを両手で掴んでこちらを睨むように見上げる。
「―――なんでこんなこと、すんだよ」
右京はその瞳を見下ろした。
「だってもう、練習とか、無駄だろ……?」
「それはお前の理屈だろ」
言うと彼は鼻で笑った。
「俺は、ヤリたいからヤるんだよ」
言うなり右京のものを口に咥えた。
「…………っ!」
ーーー熱い。
蜂谷の口の中が熱い。
この間はそんなこと感じなかったのに……。
「……は……んッ!」
思わず変な声が出て、右京は慌てて柄シャツの袖を噛んだ。
「そーそ。声、我慢ね。いいこ」
蜂谷が笑いながらさらに深く飲み込んでいく。
「――――んん……」
ーー溶ける。
俺のソレもだし。
下半身ごと。
いや、全身が―――。
ドロドロに溶けて―――、
こいつに飲み込まれていく………!!
蜂谷の背中に置いたつま先に力が入り、彼の肩甲骨を引っ掻いた。
「イきそう?」
蜂谷が十分に湿らせたソレを手でしごきながら言う。
金色の髪の毛を揺らしながら頷く右京にふっと笑うと、蜂谷は先端を咥えたまま握った手の動きを早くしていく。
「いいよ。イきな?」
「―――っ!――――ッ!!」
その赤い頭を抱きしめるようにして右京は彼の口の中に果てた。
◇◇◇◇◇
蜂谷はコクンと小さく喉を鳴らして熱い液体を飲み干すと、口元を軽く拭いながら右京を見上げた。
彼は痙攣を繰り返したあと、よろよろと身体を起こすと、荒い息をつきながら蜂谷を見下ろした。
目は潤み、頬は赤らみ、口は力なく開いている。
「――――」
ーーーこれのどごが“狂犬”だよ……。
永月に想い焦がれた理由は分かった。
しかし、それだけのことでわざわざ引っ越し転校までして彼を追ってくるまでの熱量は、到底理解できない。
こいつはまだ何かを隠している。
狂犬として怖れられた理由。
そして、彼の強さの秘密ーーー。
―――知りたい。
こいつを司っているすべてを。
こいつがこいつで在ることの理由を。
積み上げたものを崩すだけなんて勿体ない。
俺はこいつが積み上げてきたものも、これから積み上げていくだろうものも、
すべて根こそぎ全部欲しい。
「―――満足したか?」
言いながら立ち上がると、右京は背中を壁につけたまま、気まずそうに目を逸らした。
―――なんだよ、その反応。わざとか……?
蜂谷は目を細めながら彼の脚にズボンとパンツを通すと、一気に引き上げた。
「さあ、スッキリしたんなら、露店の食い物が無くなる前に回ろうぜ。いい加減、腹減っ―――」
言った蜂谷の腕を右京が掴む。
「―――てないって言ったら……?」
「は?」
蜂谷が振り返ると、右京は顔を真っ赤にしてこちらを見上げていた。
「満足、してないって言ったら、どうなんだよ……?」
「――――」
何言っているんだ、こいつ。
蜂谷は目を丸くし、今しがた無理やりフェラされたはずの男を見下ろした。
「満足……してないのか?」
蜂谷が言うと、彼はますます顔を赤らめて言った。
「あいつらに……」
「あいつら?」
「だから!ミナコちゃんたちに……。その、ヤラれそうになったとき……」
右京は悔しそうに眉間に皺を寄せながら再び目を逸らした。
「こんなことになるんだったら、お前にヤラれた方がよかったって……」
自分の言葉に驚いたように目を見開くと右京はぶんぶんと首を振った。
「違う!お前にヤラれた方が、まだマシだったって!そう思ったんだよ……!」
「―――ふっ」
蜂谷は思わず吹き出した。
「……な、なんだよ……?」
睨む右京を前に腹を抱え、蜂谷は大きく笑いだした。
「―――お前さ、誘うならもう少し、色気のある誘い方、出来ねぇのかよ…!」
「だ、誰が誘った!?」
右京が牙を剥く。
「シたくなったなら、素直にそう言えば良いのに」
蜂谷は目尻の涙を拭くと、右京の耳に口を寄せた。
「お前がしたいなら、俺はいつでも抱いてやるよ?」
華奢な身体が硬直する。
「……でもちゃんと、素直に自分から欲しいって言えたらな」
小さな顔を覗き込む。
右京は絶対に言えないだろう唇をかみしめてこちらを睨んだ。
おそらく彼の中に、自分に対しての好意はない。
少なくとも永月に感じているような恋愛感情はない。
しかし少しずつ確実に心を開いてきている。
そしてそれと共に、若い性欲を満たしてくれる自分に頼り、依存してきている。
―――もう少しだ。
彼がすべて自分にさらけ出すまで。
過去も未来も現在もすべて自分に捧げるまで。
そうなったら―――。
俺が、こいつを、全部喰ってやる―――。
蜂谷は彼を壁際に押し付けると、その唇にキスをした。