自殺を好む私が、どうしてこんなことをするかなんて分からない。でも、私は彼に死んで欲しくないと思ってしまっている。
太「今日は少し、遠回りしよっか」
敦「はい」
先導して前を歩く私の1間隔空いた後に敦くんが何故かおぼつかない足取りで地を踏む。
先程彼を抱き締めた時にも少し気づいたけれど、敦くんは恐らく長い間食事を取っていない。
あえて取って居ないのだろう。
餓死を試みた結果なのか、ただ単に食べたくなかっただけなのか。…そこまでは分からないけれど、今は唯、此処に空いた間隔を少しでも埋めたいと思う。
歩幅を小さく、遅くして、なるべく彼に合わせた。
やっと横に並んでくれた敦くんに声を掛ける。
太「最後に見る顔が、私でいいのかい?」
敦「…、太宰さん以外考えられません」
太「…それは何故?」
敦「教えませんよ」
太「えー」
悪戯に笑う敦くんはふふ、と目を細める。よく見ると僅かに黒い隈が目立った。
思わず息を呑む。、
敦「太宰さんも、どうしてこんな無茶な願いを聞き入れて呉れたんですか?」
太「敦くんが教えないから、私も教えなーい」
そう言ってその場をはぐらかす。
…理由は簡単だった。
敦くんがあんなに穏やかな顔をするものだから、今迄苦しそうな顔ばかりだった彼が望む死という物を叶えてあげたいと思った。この世にずっと居れば彼は、また苦しみの中に巻き込まれてしまうと思ったから。
幸せにすら苦痛を感じる彼は、死でしか救済されないのだから。
…もっと簡単に言うと、単に私は敦くんの事が大切で、好きなのだ。
本当になんて簡単で愚かな考えと言えよう。
それでも今は只、
…彼に救済を。
敦くんに死を。それが彼のため。
太「なるべく苦しめないようにするよ。今日は私の家においで。」
敦side
太宰さんは、今迄にないような甘い声で僕を家へ誘う。
まるで、いけないことに誘うようなそんな声。
否、そうか、これからいけないことをするのか。
僕は死ぬんだ。
太宰さんに殺してもらう。
…“殺してもらう”なんて僕にとってそんな甘美な言葉は、最初で最後になるだろう。
敦「はい、行きましょう」
敦「お邪魔します」
太宰さんの家に上がるのは初めての事で、妙に緊張する。
敦「思ったより綺麗ですね」
太「思ったより、とは、なにかな〜」
敦「そのまんまの意味ですよ」
…ふとシンプルで置物のない部屋に、ひとつの写真が置かれているのに気づく。
1人は太宰さん、左に安吾さん、右には知らない誰かの顔があった。
敦「…太宰さんが写真なんて珍しいですね」
太「ん、なんの事だい?………、嗚呼、それか。…それはね、とても大切な人なんだ。」
敦「…そうなんですね」
それ以上、聞こうとは思わなかった。そう話す太宰さんの瞳が珍しく悲しげに揺らいでいたから。
敦「……、」
敦「何時でも良いですよ。心の準備はもう済ませてありますから。」
僕は、太宰さんにそう言い、写真から目を逸らした。
太「そう焦らないでよ、もう少しだけ話そう?」
敦「……はい」
少し切りが悪いような気もしなくも無いですけど一旦切ります!
長い文章を読んでくださってありがとうございます…!次回も楽しみに待っていてくれたら嬉しいです!
では!
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