コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
─────あれからどれほどの月日が経ったか。
横断歩道の白い線以外を踏んだら、即死ゲームを卒業したのは。
初の受験で、四つん這いの頃から一緒の幼馴染みと涙を流したのは。
次に会うときはジュースではなく、酒で乾杯しようと約束したのは。
約束なんか守られずに、
幼馴染みが死んでいったのは。
信号無視の車に轢かれた。
車通りは多くはない、田舎っぽさのある道で。
実家に帰省する最中だったらしい。
リュックには手土産と、何泊分かの衣服。趣味で撮っていた写真が数枚。
家で遊ばせてもらっていたとき、俺がいても容赦なく息子を叱っていたお母さんは
「ほんとに、最期まで親不孝な馬鹿息子だね」と、
昔を思い出すかのように、棺の中に手を伸ばしていた。
「そッすね、…」
返事をするだけでも精一杯だったのが伝わってしまったのか、
俺が泣いてても話さず、慰めるかのように近くにいてくれた。
やっぱりそっくりだなぁ、アイツもそうしてたなぁ、と
懐かしくなって、また泣いた。
「これ、持ってきな。あの子が撮った写真」
お母さんの手には、「写真」と雑な字が書かれた封筒があった。
見覚えのある筆跡で、すぐさまアイツの書いたものだと分かった。
それだけ記憶に残っていたのかと、今更実感する。
「俺が貰っていいんですか?」
「見せる相手、多分あたしじゃないし。持ってて欲しいの」
「ありがとう…ございます」
そう言って、玄関の扉に手をかけると
「…忘れないでやってね」
「え?」
「あの子、寂しがりだから…」
今にも泣きだしそうな表情で、声を振り絞っていた。
お母さん、悲しんでる。お前を想って。
そうさせたのはお前だよ。最低なヤツだな、ほんと。
死んだ人は帰ってこない。
いくら想っても、その声が、言葉が届くことはない。
「……はい」
残された俺たちに出来ることは、忘れないこと。
記憶の中で、生きさせること。
…約束したもんな。
お盆には毎年こっち来て、酒を一緒に飲むか。
絶対に、
忘れてなんかやらねえよ。