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「“赤い悪魔”ってさ。髪が赤いってこと以外はよくわかってないんだな…」
教室に戻る廊下で右京が諏訪を見上げて言った。
「だってさっきの話じゃ、髪が赤い奴に片っ端から声かけてるってことだろ?ってことはどこの高校かも背格好も、よくわかってないってことじゃないか」
「―――うーん」
諏訪は首あたりをぼりぼりと掻いた。
「というか存在自体が都市伝説っていうか。確かにここら周辺のきな臭いやつらはいなくなったんだけど、だれも赤い悪魔にヤられたって公言した奴はいないし、赤い悪魔が誰かをボコってるのをみたことがあるってのもまた、いないってことになってんだよ」
……なっている?
「下らねえな」
後ろをたらたらと歩く蜂谷が鼻で笑う。
「トイレの花子さんと同レベルだろそんなの。本気で追ってるなんてあいつ、ホンモノのバーーー」
「いるよ!赤い悪魔は!」
その幼い声に3人は振り返った。
「僕、見たことあるんだっ!」
「……………」
右京はやけに小さい学ラン姿の中学生を見下ろした。
「こら。彩矢斗(あやと)」
低い声に右京は隣の男を振り返った。
「―――え」
諏訪は大きく息を吸うと、その少年の後ろに回り込み、後ろからトンと軽く押した。
「俺の弟だ」
右京と蜂谷は並んで、身体が大きく日に焼けた諏訪と、黒髪で色白でやけに小さく痩せ細った弟を見比べた。
「腹違い?」
右京が言い、
「種違い?」
蜂谷が続ける。
「失礼だろお前ら…!」
諏訪が拳骨を2人に落とす。
言われている本人は意味が分からないらしく、きょとんと3人を見比べている。
「悪かったよ。少年!えっと名前は――」
右京がその頭を撫でる。
「彩矢斗」
「ああ、アヤト君ね。それで―――」
右京はその顔を覗き込んだ。
「赤い悪魔を見たって本当?」
「――――――」
綾矢斗は右京の顔をマジマジと見つめた。
「どうした?」
「あんた……もしかして」
「?」
「…………男?」
3人は首をカクンと落とした。
◇◇◇◇◇
3年5組のカフェ控室まで連れてこられた彩矢斗は、落ち着かない様子でキョロキョロしていたが、やがて話し出した。
「俺、身体が小さいからよく目を付けられて絡まれるんだけど」
口を尖らせながら言う。
「その日絡んできた同級生を突き飛ばしたらさ、そいつの兄貴が不良?だったみたいで」
「緑咲高校に当時いた長谷川だ」
諏訪が蜂谷に視線を飛ばすと、蜂谷は短く「あー。いたなそんなやつ」と言った。
「俺、人気のない公園まで引っ張って行かれてさ。俺、とっさに兄ちゃんに電話したんだけど、兄ちゃんも広い公園の中探しきれなくて―――」
ちらりと諏訪を見る。
「そのとき―――現れたんだよ。“赤い悪魔“が……!」
興奮しているのか、綾矢斗は拳を握りしめた。
「一瞬で!ホントに一瞬でさ、その長谷川ってやつをノックアウトしちゃってさ!ね!兄ちゃん!」
話を振られた諏訪は大きくため息をついた。
「なに、お前、会ってんの?」
右京が振り返る。
「会ったって言うか。俺の場合は遠目で見ただけだ」
諏訪が頭を掻く。
「でもそのあと、長谷川の仲間?だか何だかがそいつを取り囲んで。俺は綾矢斗を連れて逃げたから、その後はわかんない。綾矢斗を家に送ってから戻ってみたが、十人以上いたのに誰も残ってなかったしな」
「―――どんな容姿だった?」
右京が綾矢斗を覗き込む。
「大きくて、強そうだった!黒い学ランから赤いパーカーのフードを出してて」
「髪も赤かった?」
「―――あの人みたいに“赤っぽい茶色“じゃないんだ」
綾矢斗は蜂谷を見ながら言った。
「毛先がさ、3センチくらい?真っ赤なんだよ」
「――――」
蜂谷がその髪型と姿を想像した。
「そんな目立つ奴いたら、すぐわかると思うけどな……」
「そう。だから――」
諏訪は二人を振り返った。
「綾矢斗の言うことを皆、信じようとしない。そのうちに“嘘つき”と言われるようになった。だから俺たちは、赤い悪魔に会ったことを公言しないこと決めたんだ」
「てかホントにいたことに驚きなんですけど」
蜂谷が首を回す。
「でも赤い髪ってだけであらぬ疑いをかけられたんじゃ迷惑。さっさと見つかってほしいわ」
言うと蜂谷はまたプラカードを持った。
「じゃ。俺、ぶらぶらしてくるから。……いーんだよな?」
右京を見下ろす。
「問題起こすなよ」
右京が見上げる。
「はいはい」
蜂谷は扉を開けて出ていった。
諏訪はため息をついて綾矢斗を見下ろした。
「どれ。カフェラテでも飲んでいくか?」
「―――兄ちゃん」
綾矢斗が諏訪を見上げる。
「ああ?」
「俺、どっちかっていうと」
「?」
「兄ちゃんよりこの人に接客してほしいな」
綾矢斗が右京を指さす。
右京は笑うと、綾矢斗の手を引いた。
「おし!俺の一番最初のお客様だ!ご案内します、ご主人様~!」