/s/[storyId]/_components/heading/assets/back_arrow_icon.4081080bcaba67b8.svg){kind=icon}
シェアする/s/[storyId]/_containers/report-container/assets/more-icon.20cfac1b79e24f56.svg){kind=icon}
電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい！がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。
テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
タイトル、作家名、タグで検索
ストーリーを書く
シェアするテラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
タイトル、作家名、タグで検索
ストーリーを書く
シェアする電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい！がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう！
私の実家から戻ってきて、アパートの前に車を止めた宗輔は、このまま私と一緒にいたいと言ってくれた。
けれど、私は一人で過ごしたいと思った。明後日は彼の実家に行くのだと思うと、自分の実家に行くのとはやはり気持ちが違う。心の準備が必要だった。
宗輔は不満そうだったが、渋々私の言葉を受け入れて、最終的には引き下がってくれた。
こうして一日と少し、一人で過ごしながら、私は色んな意味で自分を万全に整える。当日の午後、私は手土産を携えて、迎えに来た宗輔に連れられて彼の実家へと向かった。
私が行くことは、宗輔の口から事前に伝えてあるはずだった。社長夫婦が私を見た瞬間にどんな反応をするのか、不安でたまらなかった。不服そうな顔をされてしまったらどうしよう。下手をすれば、私は会社を辞めるしかなくなるんじゃないか――不安が不安を呼び、玄関を前に立った時にはそんなことまで考えてしまっていた。
固い表情のまま宗輔の後ろに続いて玄関を入って行くと、なんとそこには社長が待ち構えていた。と、いうより――そわそわと落ち着かない様子で、廊下を行ったり来たりしていたように見えた。社長は引き戸の音と共に姿を現した私たちに気がつくと、はっとした様子で足を止めた。息子である宗輔を通り越し、私を目にした途端、その顔にぱあっと笑顔が広がった。
「早瀬さんっ！待ってたよ！さ、上がって上がって！おぉい、母さん、宗輔が早瀬さんを連れてきたよ！」
「あ、あの……」
社長の反応は想定外だった。その喜びようは尋常ではなく思えるほどで、私は挨拶のタイミングを失ってしまった。
「ほら、宗輔、早く案内して！私は母さんに、お茶の用意をしてもらってくるから」
すると宗輔は、はあっと大きなため息をついて社長をなだめるように言った。
「親父、佳奈が引いてるだろ。少し落ち着いてくれよ」
社長は宗輔の呆れ声に、ようやくはっとしたように動きを止めた。たちまち照れくさそうな顔になって、頭をかくような仕草をする。
「いやぁ、つい浮かれてしまった。早瀬さん、失礼しました。今日はわざわざ来てくれてありがとう。さ、ここは寒いから、早く上がんなさい」
「は、はい。お邪魔いたします」
第一声にはこう、と考えてきていた言葉があったのだが、この賑々しさのおかげですっかり頭から飛んで行ってしまった。仕方なく、私はいつも以上に丁寧なお辞儀をすると、社長と宗輔に見守られながら、用意されていたスリッパに足を入れた。
応接間に通された私は、社長に促されるままに宗輔の隣に腰を下ろした。
「宗輔の口から早瀬さんの名前を聞いた時は、本当に驚いたよ。まさか、ってね」
元々温厚な方ではあるが、目尻とはここまで下がるのかと思うほど、社長はずっと笑顔のままだった。
その隣に奥様が座っていたが、初対面ではない。これまで何度かお会いしたことがあって、その度に美しい方だと思っていた。その人がやはりにこにことこちらを見ているものだから、照れくさくて仕方なかった。
「早瀬さんとは、今までも何回か会ったことがあるけど、実は普段からあなたの話は聞いていたのよ。うちの人ったら、べた褒めでね。とってもいい人がいるんだって、事あるごとに言っていたの。それほど素敵な人だったら、ぜひ宗輔のお相手にどうかしら、なんて思っていたのに、この人ったら、宗輔なんかにはもったいない、とか言っちゃって。――お見合い話を持って行ってたんでしょ？ごめんなさいねぇ、迷惑だったわよねぇ」
「いえ、そんな……。社長のお気遣いはとてもありがたかったので……」
脇から宗輔が口を挟む。
「だからそういうわけで、もう俺たちには見合い話はいらないからさ。この年末年始で、どうせまたたくさん集まってるんだろ？俺たちには回さないでくれよ。それを早いうちに言っておきたくて、今日は彼女を連れて来たんだ」
社長は、あはは、と笑った。
「もちろん、もう二人には声をかけないよ。――しかし、早瀬さんが宗輔とねぇ……。いつだったか、二人で食事に行った時がなかったかな？やっぱりそれがきっかけだったりするのか？宗輔、確かその時、私に口裏を合わせるように電話してきただろう？」
社長が言っているのは、宗輔が初めて会社に顔を見せた日のことだ。あの時、彼は自分の父親をだしに使ったのだった。
「あれは色々事情があったんだ。それでとにかく、こういうことになったわけだ。な？」
経緯のほとんどを端折って話す宗輔に、私は曖昧に笑いながら頷いた。
「え、えぇ。……社長。あの時は、色々とご迷惑をおかけしたのでは？」
「迷惑？全然そんなことはないよ。それよりも、それまでそういうことにはあまり関心がなさそうだった宗輔が、そうまでして早瀬さんを食事に誘ったっていうことの方が驚きだったからねぇ」
「は、はぁ……」
にこにこしながら私たちを眺める社長夫婦を前に、私は恥ずかしさに額際に汗がにじみ出てきそうになった。
私は姿勢を正して膝の上に両手を置き、改めて口を開いた。
「社長、奥様、これからよろしくお願いいたします。それから……。今日は、宗輔さんとお付き合いさせて頂いているというご挨拶でお邪魔したわけですが、このことは、まだ会社には伏せておきたいのです。だから――」
私の言いたいことを察して、社長は大きく頷いた。
「私たちは、まだ何も知らないことにしておくよ。周りに話すのは、色んな事が決まってからの方がいいだろう。と、言うか……宗輔、お前、まだ正式には」
「これからだよ」
「なんだ、悠長だな」
社長は呆れたような顔で宗輔を見た。
「言われなくても分かってる。今日の目的は佳奈が今言った通り、俺たちがつき合っているっていう報告と、見合い話の阻止だからな。近いうちにまた来るよ。それまでは黙って見守っていてほしい」
やれやれと言いたげに、社長は奥様と顔を見合わせると苦笑しながら言った。
「分かった。いい報告を待ってるからな。ところで、早瀬さんに一つお願いがあるんだけどね。佳奈さんって呼んでもいいかな。私たちのことも、社長とか奥様じゃなくて……」
「お義父さん、お義母さん、とかね」
社長の隣で身を乗り出すようにして言いながら、奥様は嬉しそうに続ける。
「ほんとは娘がほしかったのよねぇ。だから嬉しいわ。ね、佳奈さん、時々私とお茶しましょうね。もちろん、宗輔優先で構わないから」
「は、はい」
奥様――お義母さんの話がまだ続きそうだというのに、宗輔はその腰を折るように口を挟んだ。
「佳奈、そろそろ帰ろう」
お義母さんが不満そうに宗輔を見る。
「ご飯食べて行けばいいのに」
「俺も彼女も明日から仕事なんだよ。親父だってそうだろ」
「あら、そうだったわね。――それなら仕方ないわねぇ。佳奈さん、またゆっくり来てちょうだいね」
「はい、ありがとうございます。ぜひまたお邪魔させてください」
「佳奈さん、近いうちにみんなで食事に行こう。それから――すぐには難しいだろうけど、仕事じゃない時は、もっと気楽にな」
「は、はい、ありがとうございます」
「佳奈、行こう」
「えぇ。――今日はこれで失礼いたします」
私は宗輔の両親に向かってもう一度深々と頭を下げた。
/s/[storyId]/_containers/next-in-series-container/next-in-series/assets/list-icon.c10ab777f3210550.svg){kind=icon}
作品ページ