「放課後は静かに賑やかに」
放課後の教室。チャイムの音が鳴り終わる頃、荒北靖友は自分の席に足を乗せ、窓の外を眺めていた。
「……眠ぃ。帰りてぇ……」
プリントが机に広がっているが、1文字も埋まっていない。
隣の席では、福富寿一が几帳面にペンを走らせている。
「荒北、課題。手を付けろ」
「……やだ。っつーかオレ、こういうのマジで向いてねぇんだよ、福ちゃんがやってくれよぉ」
「甘えるな。これはお前の分だ」
荒北は渋々、シャーペンを取り上げた。
と、その時。
「美しき放課後に登場〜!」
東堂尽八が教室のドアを勢いよく開けて現れた。
手には鏡と女子から貰ったであろうヘアピン。今日も前髪のカールが絶好調である。
「うるせぇよ東堂、俺は今課題っていう戦いに挑んでんだヨ……」
「ほう?荒北が机に向かってるとは、これは貴重だな!」
「撮影禁止な!」
荒北がペンを投げかけるのを、東堂は軽やかに避けて福富の席に座った。
「で、福ちゃんは何してんの?まさか“やるべきことをやるだけだ”とかまた言う気?」
「……その通りだ」
「うわ〜!出たよ真顔の説教!」
わいわいと騒がしい中、後ろのドアが静かに開いた。
「あれ?皆さん、まだ帰ってなかったんですね」
真波山岳だった。
教室に入ってきた彼は、窓際に立つ荒北を見て、にこっと笑う。
「荒北さん、プリント裏返しになってますよ」
「……うっせ」
だが、その声には怒気はない。むしろちょっと照れているようにも見える。
教室に差し込む夕日が、少しずつ床を染めていく。
自転車じゃない時間も、こいつらといれば悪くない——
荒北は、机に向き直ってペンを取った。
「……チッ、やってやんよ。福ちゃんに見張られてるしな」
福富は何も言わず、ただうなずいた。
コメント
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弱ペダ .ᐟ 俺もだーいすき .ᐟ