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○お知らせ
こちらで登場するキャラクターは自分で考えてつけただけで、現実の人とは一切関係ありません。
1部に暴言、暴力や危険な行為などのシーンがありますが、絶対に真似をしないでください。責任はとれません。
他の作品と似てしまう場合があるかもしれませんが、完全オリジナル作品です。パクっているつもりではありません。
初心者の初めての作品になっています。誤字や間違った言葉使い、わかりにくいところがあるかもしれませんがご了承ください。
こちらは第2話になります。
狼は大切なもののために牙をむく
10
Ⅳ
僕は、目を開けた。
あたりはまだ暗い。
隣では、琥珀さんが眠っている。
琥珀さんは幸せそうだ。
顔色は悪くない。
すぐ近くの目覚まし時計を見ると、4:44と表示されている。
物騒だ。
『・・・』
夢のことを思い出す。
今回の夢はそれほど怖くなかった。
最後を除いて。
最後のは何だったのだろうか。
服についていた赤は何だったのかな…
もう一度眠ろう。
今日は7時に起きなければいけない。
初めて、剣士として働く。
緊張する。
でも、身体を休めないと、
僕はもう一度目を閉じる。
ー『お願い、もう許して!』
琥珀さんが涙を流しながら必死に言う。
そして、頭から血を流している。
他にも至る所に傷がある。
酷い傷だ。
僕は、拳を握っている。
すると、
バシン!
鈍い音。
右手に衝撃があった気がする。
僕はそこで気づいた。
僕は、琥珀さんの頬を殴っていた。
え、
僕の意思ではない。
勝手に手が動いた。
『うぅっ‼︎』
琥珀さんは、僕に殴られた頬を押さえていた。
なぜ、こんなことを…
自分が許せない。
なのに、
僕の手に、いつのまにかナイフがあった。
っ‼︎
やめてくれ‼︎
それだけは‼︎
琥珀さんが、怯えた顔をしている。
僕は、必死にナイフを捨てようとする。
でも、夢の中の僕はいうことを聞かない。
『全て、お前のせいだ。』
僕の口から発せられた。
琥珀さんが後ずさる。
頼む、逃げてくれ!
僕はゆっくり、琥珀さんに近づく。
やめろ!
僕の身体なのに!
言うことを聞け‼︎
僕の言葉は届かない。
琥珀さんが躓く。
絶対に許されないこと。
それを今僕がしようとしている。
どうにかしてでも止めないと!
だが、やはりダメだった。
僕はナイフを振り上げる。
その手を止められなかった。
僕の手はそこから……ー
11
ピピピピッ!ピピピピッ!
目が覚める。
目覚ましを止める。
現在6:30分
僕はそこから後ろを振り返ることが怖くて出来なかった。
『・・・』
頭痛と吐き気がする。
『んん〜、おはよ〜あまちゃん、』
琥珀さんの声がした。
鼓動を強く感じる。
怖い。
もし、
あの夢が、記憶の一部だったら、現実で起きたことだったら、
僕がしたことだったら、
僕が琥珀さんを傷つけていたら。
その可能性も、ないとは言えない。
『甘ちゃん?』
琥珀さんが、僕を抱きしめる。
『っ‼︎』
驚き、琥珀さんを振り払う。
その時、僕の腕が琥珀さんの額にぶつかる。
『いたっ‼︎』
琥珀さんが額をさする。
『あ…』
謝ろうと思った。
でも怖くて、
喉が詰まったようで、
声が出なかった。
『甘ちゃん、大丈夫?』
琥珀さんは自分のことより、僕を心配してくれた。
そのことで、少し落ち着いた。
『ごめんなさい、嫌な夢を見てしまって…』
琥珀さんは頭を撫でてくれ、
『大丈夫だよ、』
と、笑顔で言った。
僕は琥珀さんを信じて、夢のことを伝えてみる。
『さっき……僕が琥珀さんを殴ったり…傷をつける夢を見た…』
琥珀さんは顔色を変えず、聞いていた。
『でも、僕の意思じゃない!勝手に身体が動いて、止められなかったんだ!』
琥珀さんは顔色を変えない。
『僕は、琥珀さんのことを傷つけたい訳でもない、だけど、どうしても…止められなかった…』
琥珀さんが、近づく。
『………』
琥珀さんが顔を近づけ、僕の頬にキスをした。
『きっとそれは、不安のせいだと思う。』
琥珀さんが言った。
『人は、怖くてどうしようもない時、追い詰められてしまった時、人を傷つけてでも自分を守ろうとしてしまうんだと思う。甘ちゃんは今、ほとんど何も知らない所で知らない人たちと色々なことをして、怖くなっちゃったんじゃないかな?』
『・・・』
そうなんだろうか。
『でも、琥珀さんは僕に優しくしてくれた。怖いなんて思って…』
周りの人はほとんどが僕に冷たい目を向ける。
でも、琥珀さんは優しくしてくれた。
だからこそ、怖くも感じた。
琥珀さんは、復讐をしに来たのではないか、
今までのは全て、演技なのではないか、と。
『そうなんだろうか、』
きっとそうなんだろう。
『ごめんね、』
琥珀さんが謝った。
『どうして謝るの?』
『琥珀が甘ちゃんの気持ちを考えてあげられなくて、甘ちゃんに不安を感じさせてしまったから…』
琥珀さんは責任を感じているみたいだ。
『琥珀さんはいつだって優しくしてくれた。これは僕の弱さだ。こちらこそごめん、夢だからって悪くない琥珀さんを傷つけてしまって…』
僕は頭を下げて謝った。
『きっとこれからも、辛いことがたくさんあると思うけど2人で頑張ろう!』
琥珀さんが笑顔で言った。
『もうそろそろ行こうか、』
もう8時になる頃、
『うん、』
僕たちは家を出る。
初めての仕事。
特に書類を書いたりすることもなく、試験もなくあっさりと入れてくれた…
…正しくは入れられた場所。
まだ、どんなことをするのかは詳しく知らない。
『緊張してる?』
すぐ隣から琥珀さんが訊く。
『ちょっとね、』
ちょっとではないけど、初めてなんてこんなものだ。
やってみなければわからない。
『甘ちゃんなら大丈夫だよ、』
『ありがとう、』
僕は笑顔で答える。
『でも、』
でも、なんだろう。
『琥珀はどうしたらいいのかな?』
あ、そうか。
琥珀さんは剣士として入っているのだろうか。
でも、琥珀さんを危険に晒すわけにはいかない。
まず、琥珀さんは戦えるのだろうか。
人狼ではあるだろうけど…
『琥珀さんも戦う?』
試しに訊いてみる。
『む、無理だよ!』
まぁ、そうか。
琥珀さんが戦う姿を想像出来ない。
『鷹也さんに訊いてみるね、』
訊くしかないな。
気づくともう着いていた。
僕は剣士所の建物に入る。
『今日から私達剣士に、新しい仲間が加わる、銅.甘さんと銅.琥珀さんだ!ただ、琥珀さんは戦わない、と言うことでよいかな?』
僕と琥珀さんが頷く。
『それで甘さんは私達、第1団隊に入ってもらうことになった。』
その他諸々話し、
『それでは甘さんからも、自己紹介を。』
と、鷹也さんがこちらを見る。
『え、えと、銅甘です。これからよろしくお願い致します。』
頭を下げる。
こういうのは苦手だ。
これでいいんだろうか。
剣士の皆んなが手を叩いてくれた。
そして、何人かがよろしく!と返してくれた。
その後、それぞれの団隊ごとの見回り場所を発表される。
僕たちはこの島で1番栄えているらしい場所に割り振られた。
そして、レン…如月さんと東雲さん、そして鷹也隊長が集まる。
『鷹也隊長も同じグループだったのですね。』
『あぁ、第1団隊は東雲さん、如月さん、そして私の3名のグループだったんだ。』
たった3名だけだったのか、
『これから一員としてよろしくお願い致します。』
僕はもう一度そう言って頭を下げる。
『よろしくな!高羽!』
『よろしくお願いしますね、銅さん、』
『これから君を頼りにしていますよ。』
3人から返される。
これから始まる。
どんなことが待っているのだろうか。
ちなみに、琥珀さんは戦うことはなく、近くにいるだけということになった。
『如月さん、名前間違えてますよ。アカガネさんです。
『あ、まじ?すまん間違えたわ、赤羽!』
それも違う…
『違います、ア、カ、ガ、ネ、さんです。』
東雲さんがご丁寧に教えてくれている。
『アカ…ガネ?あぁ!そうだったわ!』
最初からずっとそうですが…
鷹也隊長は、やはり苦笑いだった。
それから、仕事着に着替えて、
自分の剣を、腰ベルトにぶら下げる。
さあ、行こう。
12
『ここら辺からが今日の見回りポイントだ。』
そこは住宅街で、お店もたくさんある場所だった。
もちろん人もたくさんいる。
町を歩きながら見て回る。
『アカガネ!昔は指名手配犯を倒しまくってたけどよ、悪い奴がどこにいるのか分かるのか?』
急に、如月さんが訊いてくる。
『いえ、分かりません。』
『そっか。』
話が終わる。
『アカガネ!記憶喪失ってどんな感じだ?』
急にまた、如月さんが訊いてくる。
『どう、って説明するのはちょっと難しいですね。」
『そっか。』
話が終わる。
『アカガネ!じょーちゃんとはどこで出会ったんだ?』
きゅーににまた、キサラギさんがきいてくる。
『小学校らしいです。』
『そっか。』
はなしがおわる。
『アカガネ!じょーちゃんと付き…』
『如月さん、今は仕事中ですよ。』
東雲さんに注意されている。
危なかった、
如月さんから質問攻めされ続けるところだった。
ふと、鷹也隊長を見た。
鷹也隊長は1つの方向を見ていた。
視線の先には、小さなスーパーがある。
そして、入り口近くに人の姿もある。
…揉めているようだ。
『トラブルを発見した』
鷹也隊長はこちらを見て言う。
そちらへ向かう。
『それはアタシのものよ!返しなさい!』
『いいえ、それは私のものです。』
2人の女性が揉めている。
後ろで困った顔をしている店員の姿も。
『申し訳ありません、私たちは剣士をさせていただきます、鷹也です。何があったのかを聞かせていただけませんか?』
鷹也隊長が丁寧に伝える。
1人のマダムらしき女性が話す。
『この花束を、アタシが先に取ろうとしたのに、こちらの人が横取りしようとしてきたんです!ちょっと言ってやってくださいよ!』
しかし、もう1人の若い女性が、
『いいえ、こちらは私が先に手に取っていたんです。でも、横取りされてしまって、』
『剣士さんに向かってまだ嘘を言うなんて、アンタ最低ね!』
もう1人の女性が被せ気味に言ってきた。
なんとなくどちらか悪いのか、分かる。
『私が、先に手に取ったんです。』
多分悪くないであろう若い女性が助けを求めるように言った。
『アタシは忙しいんで、早く認めてちょうだい。欲しいなら、他の場所で買えばいいじゃない!』
マダムの怒りは収まらないみたいだ。
『まずは、あちらの監視カメラを確認してみましょう。
鷹也隊長は監視カメラを指差し、店員さんに向けて言った。
『い、今店長が向かっていますので…』
すると、
『申し訳ありません、店長の佐藤です。揉めごとが起きていると聞きまして、』
店長がきた。
『あちらの監視カメラの映像を確認させていただいてもよろしいでしょうか?』
鷹也隊長が丁寧に伝える。
『はい、こちらです。』
店長について行き、事務所に着く。
『こちらで確認しましょう。』
そこには1つ、パソコンがあった。
『ありえないわ!ここまでされても認めないなんて!』
マダムが言う。
若い女性は何も言わなかった。
皆がパソコンに映る監視カメラの映像を見る。
そこには、
マダムが、花束の近くに立って色々見ている。
そして、
マダムが1つの花束に手を伸ばそうとしていた。
そして、映像の端から若い女性が早足で、マダムの方に向かって…
マダムが持とうとしていた花束を横取りした。
そして、マダムが若い女性の腕を掴むところが映されていた。
まさか、マダムが取られた側だったとは…
若い女性は俯いている。
『本当にごめんなさい。先月亡くなった旦那のために、どうしてもその花束が欲しかったんです。』
若い女性が認めた。
そして、横取りしようとした理由も伝えた。
本当かはわからないけど、それは悲しいものだった。
『そうでしたか。』
鷹也隊長が言う。
『理由がなんであれ、人が取ろうとしたものを横から奪うことはいけないことです。こちらの商品はこちらの方が優先されます。』
店長がそう言ってマダムを見る。
『最初からそう言ってたでしょう?こんなことに巻き込まれて、時間まで取られて何かしら責任をとってもらわないとね!』
マダムは若い女性に向けて怒る。
『でも、このままじゃこの女性が可哀想です。
』
若い店員が言う。
その気持ちはわかる、だけどそれだとマダムが悪いということになる。
どうすればいい?
売り場に同じ花束はもうなく、最後の1束だった。
『あ、あの。これと同じ花束はもうないのでしょうか?』
訊いてみる。
『田中、バックヤードを確認してきてくれ。』
店長が若い店員に言う。
『は、はい!分かりました。』
若い店員はバックヤードに向かって行った。
『今、確認してもらっている。だが、この花束はそちらの方のものです。そちらの方が必要ないと返さなければ、買うことができます。』
『もちろんアタシは買うわ!アタシだって欲しいもの。』
マダムは買うつもりだった。
『そちらの女性、他にも違う種類ではありますが、花束がまだあります。そちらではダメなのでしょうか?』
東雲さんが若い女性に訊く。
『どうしてもこれがいいんです。旦那は赤いバラが好きで、これしかなかったんです。近くの花屋でも売り切れてて、やっと見つけられて…』
若い女性はそう言った後黙り込んでしまった。
『今はバラが咲く時期ではないので元々少ないのだろう。』
鷹也隊長が言う。
『甘ちゃん…』
琥珀さんは悲しそうだった。
『今確認してきましたが、在庫はありませんでした…』
若い店員が戻ってきた。
状態は悪くなる一方。
どうすれば…
『1つの花束に赤いバラが2つあんじゃん?それを2人でわけられねーのか?』
如月さんが言う。
『一つの商品を2つに分けることはできません。』
店長がそう言った。
ちょっとイライラしているように見える。
ちょっと前から感じていた。
如月さんの言い方が気に入らなかったって訳では無さそうだ。
なら…
『チッ!人狼どもが…』
店長がそう言ったように聞こえた。
それはマダムも同じだ。
『もういいでしょ!アタシが先に手に取ったんだから、これはアタシのものよ!』
マダムそう言って一瞬、こちらを睨んだ気がした。
『では、これで終わりです。』
店長がマダムを連れて、事務所を出る。
『・・・』
残された皆は黙り込んでいる。
何を言えばいいのか、どうすれば良いのかがわからない。
『赤いバラが欲しいのでしたよね?』
と、鷹也隊長が言った。
『少々お待ちください。』
と言って、何かを取り出す。
『こちら第1隊。そちらの方に赤いバラの入った花束や切り花が売られている所はないか、確認して欲しい。』
無線だ。
鷹也隊長が無線で他の隊に伝えたようだ。
『こちら第2隊。近くに花屋があるので、確認してみます。』
と、返ってきた。
『こちら第3隊、こちらでも探してみます。』
次々に返ってくる。
しばらくして、
『こちら第2隊。赤いバラの切り花を5本発見しました。』
と、返ってくる。
『2本くらいでよろしいでしょうか?』
鷹也隊長が若い女性に訊く。
若い女性は頷いた。
『こちら第1隊。赤いバラを2本入れた花束を作ってもらって欲しい。』
『ラジャ!』
と返ってくる。
さっきの声とは違う。
若い女性は少し笑顔になっていた。
そして、
『ミッションコンプリート!』
と、無線から聞こえた。
購入に成功したみたいだ。
『それでは、桜の道公園で会おう。』
『了解です!』
それで終わった。
そして、
『こちらで、赤いバラを購入した。あとから引き渡そう。』
鷹也隊長が言った。
『本当に、ありがとうございます。』
若い女性は深く、頭を下げた。
その後、若い女性はマダムにも深く頭を下げた。
それから少し歩き、1つの公園に着く。
そこは、桜の木がたくさんあった。
まだ桜は咲いていないが、もう少しで咲き始めるだろう。
道の先に、花束を持った人たちがいた。
『鷹也隊長、こちらです!』
と、花束を引き渡した。
色々入っていた。
『ありがとう、助かった。』
鷹也隊長がそう言って花束を持った後、若い女性に渡す。
『これで良いだろうか?』
『はい!ありがとうございます!』
若い女性は、涙を流しながらも笑顔で答えた。
『ということで、見回りを続けてきます!』
と、第2隊の人たちが背を向けて歩いていく。
『あ、お金は…』
『お代は結構ですよ。』
鷹也隊長はそう言った。
『本当にありがとうございました。』
若い女性が深く頭を下げた。
若い女性と別れ、僕たちも見回りを続ける。
『すげーよな!こんなことするなんてよぉ!』
如月さんが腕をポイントの肩に乗せて言った。
『そうですね。驚きました、』
僕もすごいと思った。
『いや、無線があったからできたことだ。何もすごいことなんてないよ。』
鷹也隊長がそう言った。
『いえ、鷹也隊長がしたことはすごいことですよ。』
東雲さんもそう言って鷹也隊長を褒めた。
その後は、何ごともなく終わった。
だが、戻ると。
『………っ』
1人、大怪我をしていた。
今は緊急で治療を受けている。
『何があったんだ?』
鷹也隊長が訊いた。
ナイフを持った複数の人に、襲われてしまって、』
その人も怪我をしていた。
『2人は捕らえました。ですが…3人に逃げられました、』
剣士、それはやはり危険な仕事だった。
『鷹也隊長、鎧や盾になりそうなものはないのですか?』
僕も皆も、盾になるものはなかった。
『昔は鎧を着ていたが、今は…』
鷹也隊長が言葉を詰まらせた。
言いにくいことでもあるのだろうか。
『昔、剣士として共に島を守ってきた仲間数人が任務中に暴れ出し、数人が犠牲になった。その時、鎧のせいで、なかなか止められず、最終的に…前隊長が、暴れている仲間全員の命を終わらせた。』
!
そんなことがあったのか…
『その後、前隊長は捕まり、今も刑務所から出られずにいる。』
『・・・』
それが、原因なのか。
『さて、今日はこれで終わりだ。あとはこちらで対処する。銅さん、明日は休みで、明後日来てもらおう。』
鷹也隊長が言った。
僕にできることはない。
いても邪魔なだけだろう。
明日も休みか。
そう思いながら、外に出る。
『なぁ!アカガネ!』
如月さんが話しかけてくる。
『今日は、どうだったよ!』
『んー、ちょっと予想していたのとは違ったというか、』
『ま、今日のはそうだな!でも、知ってるか?この島には本当の警察はいねーんだ!剣士ってのが、警察の進化版みてーなもんだからな!だから俺たちが警察みてーなことをしなきゃいけねーんだよ。』
そうだったのか!
『まぁ、要は俺たちが警察ってことさ、』
如月さんは僕の頭をポンポン叩く。
『なんだ〜しけたツラしてよぉ〜、怖くなっちまったかぁ〜?』
如月さんがイタズラっぽく笑う。
『いや、大丈夫。怖くないですよ。』
僕はまっすぐ、如月さんの目を見て言った。
『へへ!一匹狼なんだからそうこなくっちゃなぁ!』
相変わらず元気そうだ。
『んでよぉ、コハル?と、付き合ってるのか?
と、僕の後ろに隠れている琥珀さんを見て言う。
琥珀さんのことなんだろう。
?
僕と琥珀さんは付き合っているのか?
わからない。
『わからないな。琥珀さん、僕たちって付き合っているのかな?』
琥珀さんに訊いてみる。
『付き合おって言ったことはないけど、ずっと一緒にいる感じかな?』
それは、どっちなんだろう?
『言ってなくても、ずっと一緒にいるなら付き合ってんのと同じじゃね?てか、一緒に住んでんの?』
『今は…一緒に住んでますね、』
『それで付き合ってないとかオモロ!』
如月さんが笑う。
『あはは…』
僕は苦笑いである。
と、如月さんが近づく。
『なぁ、今日行った公園覚えてるか?あそこの桜がめっちゃ綺麗なんだよ。近いうちに咲くだろうから連れてってやれよ、』
如月さんが僕の耳元で言った。
『で、近くに小さいけど、水族館もあるし、隣にはオシャレなカフェもある。そんで付き合っちまえよ、』
如月さんが続けて言う。
琥珀さんは不思議そうな顔をしていた。
琥珀さんには聞こえていないようだ。
『んじゃ!また明後日な!』
如月さんが手を振り、どこかへ行く。
13
付き合う、
恥ずかしいな。
でも、もうすでに付き合っているような感じだし、あまり変わらないかも。
まぁ、今日は帰ろう。
僕たちは帰路を歩く。
琥珀さんは身体を寄せる。
嬉しそうだ。
そして、家に着く。
時刻は18:30分前、
少しゆっくりして、ご飯を食べて、風呂に入って、
あとは寝るだけ。
時刻は22:30分ごろ、
時間はあっという間に過ぎていた。
今日も琥珀さんは隣で横になってこちらを見ていた。
『琥珀さん、明日は何をしたい?』
琥珀さんは考えて、
『甘ちゃんと一緒にいたい。』
と言った。
『いつもじゃないか。』
と、僕は笑った。
琥珀さんも笑う。
『今日はどうだった?』
訊いてみる。
『琥珀はただついて行っただけだよ。甘ちゃんは、どうだった?』
と、返って、訊いてくる。
『彼らは皆優しいし、僕のことをわかってくれる。一緒にいて楽しいとは思う。ただ、命の危険さえなければなぁ、』
鷹也隊長と東雲さんは間違いなく優しい。
如月さんも悪い人ではない。ガツガツくるタイプだけど。
『気をつけてね、』
琥珀さんが心配そうな顔を見せる。
『ありがとう、大丈夫だよ。』
さて、眠ろうか。
できれば夢は見たくないな。
ふと、思い出した。
『あの、琥珀さん。夢で見たんだけど、銀色の髪に、青い目をした女の子を知ってる?』
夢に出てきた女の子。
一体誰なんだろう。
今ある記憶の中でその子と会ったことはない。
『ルリちゃんかな…』
琥珀さんが悲しそうに言う。
誰だろう。
初めて聞いた名前だ。
『ルリ…さんってどこで……』
ふわりと、あの女の子の笑顔が思い浮かぶ。
きっと、本当に会ったんだろう。
だけど、琥珀さんは悲しそうな顔をしていた。
?
なぜだろう。
何かが引っかかる。
その子が着ていた真っ白な服。
一部から徐々に赤くなっていった。
血、
もし血だったら。
『ルリちゃんは、』
琥珀さんが、口を開ける。
『瑠璃ちゃんは、あの時…』
琥珀さんが、涙をこぼす。
『うぅっ…』
僕は琥珀さんの頭を撫でる。
『辛いなら無理して言わなくていいよ。』
僕は優しく言った。
『・・・』
あの子は琥珀さんの名前を言っていた。
きっと、2人にとってお互いは大切な人だったのだろう。
でも、琥珀さんの悲しそうな表情や涙を見れば、あまり良くないことが起きたのだろう。
最悪…
その可能性が高い。
・・・
琥珀さんは泣き疲れてしまったのか、いつの間にか眠っていた。
僕も眠ろう。
ー僕は、真っ暗闇の中にいた。
周りには誰もいない。
暗い。
僕は歩く。
どこまでも続く闇。
すると、
1つ、人影が見えてくる。
その人影を知っている。
『琥珀さん!』
僕は安心して走る。
振り返る人影。
そこに、優しい笑みを浮かべた琥珀さんがいた。
だが、
『え、』
琥珀さんが、
ナイフを持っていた。
なぜ?
琥珀さんは、笑みを浮かべたままこちらに近づく。
僕は後ずさる。
だが、すぐに躓き、尻もちをつく。
琥珀さんは、僕に近づき、
ナイフを、僕に向けた。
『どう…して…』
僕は、琥珀さんの顔を見る。
『全て、甘ちゃんのせいだよ。』
っ‼︎
僕は走る。
琥珀さんから逃げる。
なのに、速く走れない。
『待ってよ、甘ちゃん。』
琥珀さんが、歩いて追いかけてくる。
その歩みの方が速かった。
そして、あっという間に追いつかれた。
僕はもう、動けなかった。
『ぜんぶ、アマちゃんのせいだよ?』
『どう…して…』
さっきより恐怖で、うまく喋れない。
身体が震えて、力が入らない。
『どうしてだとおもう?』
琥珀さんが訊いてくる。
『僕が、琥珀さんを…信じてあげられなかったから?』
琥珀さんは優しくしてくれた。
なのに、怖くなってしまったから?
疑ってしまったから?
『うん、そうだね。でも、いちばんは、アマちゃんがコハクを、しばりつけて、くるしめて、ころしたから、だよ?』
『え…うそだろ、』
『こはくはいまもくるしいんだよ?』
嘘だ、
嘘だ嘘だ嘘だ、
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……
『ぜーんぶ、あまちゃんがわるいんだよ?』
ナイフがゆっくり、僕の胸に近づく。
『僕が悪かった!許してくれ、たのむ…おねがい………』
『だめだよ。こうやって、やさしくしてるんだから、いいこにしてなきゃ、ね?』
ナイフが刺さる。
っ‼︎
痛い‼︎
やめてくれ‼︎
でも、琥珀さんは止めない。
ゆっくり、刺していく。
『ぐっ‼︎いたい‼︎、くるしい‼︎、たすけて‼︎』
『いたい?くるしい?たすけてほしい?にげたい?でもにげないなんて、うんうん!いいこいいこ、』
いしきががとおくなっていく…
コハクさんはぼくを、えがおでみつめる。
そして、ナイフをいきおいよくぬく。
ぼくのむねから、ちがふきだす。
こはくさんのかおに、ふくに、ちがつく。
ぼくはたおれる。
『おやすみ、あまちゃん、』
ぼくはめをとじた。ー
14
Ⅴ
目を覚ます。
と、
琥珀さんが僕に跨り、顔を見つめていた。
‼︎
夢を思い出す。
『苦しいの?大丈夫?』
っ‼︎
『やめろっ‼︎』
僕は、琥珀さんの頬を思いっきり叩いた。
その後、琥珀さんを力づくで押しのける。
僕は立ち上がり、走る。
部屋の扉を乱雑に開けて、走る。
琥珀さんが、ついてきた。
『近づくな‼︎』
僕は怒鳴る。
『どうしたの?大丈夫だよ?』
琥珀さんは悲しそうだった。
僕が叩いた頬は赤くなっている。
『怖いことがあったんだよね?大丈夫だからおいで?』
琥珀さんは優しい笑顔を見せて、手を広げる。
僕は家のドアを開ける。
『どこにいくの?』
僕は黙ったまま、出ていく。
そうだったんだ。
琥珀さんも敵なんだ。
あの悲しそうな顔。
可哀想だと思った。
でも、苦しみながら死にたくはない。
考えてみる。
僕は、琥珀さんを殺した?
なら、あの子は誰だ?
瑠璃さん。
あの子は一体、
琥珀さんのいうコハクさんが、
色々考える。
まだ、情報が足りない。
?
まず、
僕はなぜ病院で目覚めた?
なぜ記憶がない?
その時に何があった?
わからない。
歩く。
ただひたすらに、あてもなく。
琥珀さんを信じようと思ったその次の日に。
僕は、琥珀さんを信じられなくなった。
もう少し考え…
キーン
『うっ‼︎』
頭が痛い。
クソッ!忘れてた。
僕はその場にうずくまる。
『ふざっ…け、ん……な!』
僕は立ち上がる。
そして、
ふと顔を上げる。
視界に、この島の真ん中にある山が見える。
高い。
行ったことがない。
高い所から島を見てみようか。
僕は、山に向かって歩く。
まだ、頭が痛い。
そのままボーっと、山へ歩いている時、
『あれ!一匹狼さんだ!』
遠くから声が聞こえてくる。
2人がこちらに近づく。
知らない人たちだ。
『初めまして!五十嵐.翔[イガラシ.カケル]って言います。俺、君に憧れているんですよ!会えて光栄です。』
五十嵐翔と名乗った青年が手を差し出し、僕の手を掴む。
そして、勝手に握手をする。
『僕は、蒼.博樹[アオイ.ヒロキ]です。よろしくお願いします。』
次に蒼博樹と名乗った青年が頭を下げて言う。
『本当に一匹狼なんだよね?まじか、明日死ぬかもしれん。』
五十嵐さんがとんでもないことを言う。
今はそんな話を聞きたくない。
『失礼ですよ!いきなり声をかけて、迷惑になっちゃいますよ!』
蒼さんが言う。
この2人は如月さんと東雲さんに似ているかも。
『ちょっとくらいいいじゃん!憧れている人と会えたんだよ!』
『この方に憧れて、人々を救うヒーローになりたいとか言ってたんでしたね…』
2人で何かを話している。
と、
『なぁ、このあと暇ですか?暇なら一緒に行きません?あ、うちらの拠点は…向こうの無法地帯にあるんだけど、』
五十嵐さんが言う。
無法地帯?
結構危ない所なのでは?
『まぁ、危ない所だと言われていますが、それほど危険ではありませんので大丈夫だと思いますよ。』
蒼さんが言う。
まぁ、暇ではある。
嫌なことを忘れるには良いかもしれない。
『大丈夫です。』
信じてはいない。
もし、騙しているのなら、
もう、遠慮はいらない。
『やったぞ、柳原!』
何かを言っている。
『すみませんね、長くはかからないと思いますので…』
蒼さんが、申し訳なさそうに言う。
『こっちです。』
僕は2人についていく。
『そういえば、一匹狼さんはなぜそんな服なんだ?』
自分の服を見てみると、
パジャマだった。
普通のシャツとも見られそうな感じではあるけど…
…今は思い出したくない。
『気にしないでください。』
僕は誤魔化した。
15
そして、しばらく歩き、
林を抜けると…
先ほどとは全然違った雰囲気の場所に出る。
ここが無法地帯か。
入り口前に、銃をぶら下げた男が立っている。
『やあ!門番お疲れ様!1人お客さんを連れてきたけど大丈夫だよね?』
五十嵐さんが、銃をぶら下げた門番に言う。
門番は僕を見たあと、
『コイツは入れられねーな。』
と言われる。
『え、なんでだよー』
五十嵐さんが言う。
『コイツは、一匹狼だろ?今、面倒な状態なのにあぶねー奴を入れたくねぇんだ。』
『面倒なこと?何かあったのか?』
門番の言ったことを五十嵐さんが訊く。
『犯罪組織の一部が無断で入って来てるんだ。今は、その対応中だ。』
『それなら大丈夫、彼は良い人だ。俺が憧れた人間だからな。俺が保証する!』
『お前が憧れている奴って一匹狼だったのかよ!』
『イエス!』
五十嵐さんがカッコつけて言う。
『カッコつけんな。ケツに弾丸ぶちこむぞ!』
『うわーやだわー』
門番の言う言葉に対して、五十嵐さんは棒読みで言う。
『ふざけやがって。んでお前、名前は?』
突然門番に名前を訊かれた。
『銅甘です。』
『チッ!特別だぞ!早く通れ!』
僕の名前はスルーされたみたい…
でも、中に入れさせてくれるみたいだ。
『よっしゃあ!じゃあ、行きましょ!』
僕たちは中に入る。
ボロボロなアスファルト、今にも崩れそうな建物、ゴミ箱はゴミが溢れるほどある。
歩く人々はほとんど、見えるように銃を持っている。
『そういえば、一匹狼さんの名前は銅甘って言うんだな。』
『はい、言いそびれてましたね。』
名乗るのを忘れていた。
『なかなか変わった名前ですね。』
と、蒼さんが言う。
『まぁそうかもしれない。』
琥珀さんのことを思い出す。
琥珀さんが付けたんだよな。
と、
『よぉ、買い出しご苦労さん。』
1人の男に声をかけられた。
僕にではないだろうけど…
『おう!ヤマッチも見回りお疲れ様ッス!』
ヤマッチと言われた男は手を軽く上げ、拳を握る。
五十嵐は男の拳に、自分の拳を当てた。
そして別れ、すぐ近くの建物に入る。
『ここでーす!』
この建物も結構古そうだ。
横にあるサビの酷い階段をのぼり、2階へ。
『俺らの拠点にとーちゃーく!』
そこは小さな部屋だ。
『今は俺と蒼とあと1人、柳原.海斗[ヤナギハラ.カイト]っていうツンデレと3人のメンバーでやってます。』
そうか…
ツンデレか…
『あと、俺たちは無法地帯の人々を守っているんだけど…』
ドカーン!
近くで、爆発音が聞こえた。
そういえば、犯罪組織が入って来てるって…
『そうだった!俺たちの出番だな!』
そう言って外に出ようとする。
『何してるんですか?手ぶらで戦う気ですか?』
蒼さんが言う、
『そりゃやべーッスわ』
と言って戻る。
1人で騒がしい人だな。
と、
棚から…銃を取り出した。
!?
五十嵐さんはライフルガンを、
奏さんは小型銃を、
持つ。
『銅も手伝ってくれ!』
と、ハンドガンとボックスを差し出して言う。
僕は、戸惑いながらも受け取る。
ボックスの中には、弾丸が入っていた。
そして、建物を出る。
近くで煙が上がっている。
あそこだ。
煙が上がっている所まで走る。
と、
近くに、顔を黒いマスクで隠した人が数人いる。
こちらに近づいている。
犯罪組織の奴らみたいだ。
『よし、行こう!』
五十嵐さんの合図で2人が銃を構え、撃つ。
ドドドド!
僕も戦おう。
まずは近くにあるコンクリートブロックに身を隠す。
そして、銃を構え、近づく人に向け、撃つ。
バン!
近づく人に当たるが、倒れない。
防弾服を着ているのか。
同じく、何度も弾丸を当てる。
もう1度、もう2度と撃つ。
やっと1人倒せた。
近くの敵を倒してもすぐに後ろからくる。
物陰に隠れる。
玉を入れ替えて、また撃つ。
こちら側の仲間も近くにいたようで、皆で撃つ。
銃を撃ち続ける。
と、
近くに何かが転がってきた。
それは…
爆…
『そこから離れろ!』
男の声がした。
1人の男に手を引っ張られる。
そして、
ドッカーン‼︎
大きな音を立てて爆発した。
爆風で吹き飛ばされる。
煙が上がっている。
そしておさまると、
先ほど盾にしていたコンクリートブロックが、無惨な姿に…
敵は殺しにかかっている。
敵が多すぎる。
このままでは、押し切られてしまうかも。
どうすれば良い?
どうすれば…
ドォン!
?
なんだ?
何の音だ?
爆発しているわけではない。
だが、敵がどんどん倒れていく。
みるみるうちに敵が減っていく。
『おぉ、柳原か!』
五十嵐さんが言う。
柳原さんが倒しているのか?
そして、
『クソ!覚えておけよ‼︎』
と、残った敵が逃げていく。
『よし!終わったな!』
五十嵐さんが言う。
『みんな、お疲れ様!』
『お疲れ様でした。』
そして2人がそれぞれ言う。
僕も、
『皆さんお疲れ様です。』
なんとか終わったみたいだ。
『いやー楽勝だったぜ!』
『苦戦してましたよね?』
苦戦していた。
柳原さんがいなければ、厳しかったかも。
『ははは!いいじゃないか!』
何がいいんだろう。
『あ、柳原さんだ。』
蒼さんが見ている先に1人の青年が歩いている。
スナイパーなのか?
長い銃を持っている。
『ありがとよ!柳原!』
五十嵐さんが近づいていく。
柳原と言われた青年はうざったそうにしている。
『今日もノリ悪いな〜。暗いぞ、笑え!』
『・・・』
五十嵐さんの言葉に対して何も喋らない。
目を逸らした。
『おいおい、どこ行く気だ?柳原の憧れている、一匹狼さんが今ここにいると言うのに…もったいないぞ!』
五十嵐さんはまだ話しかける。
『憧れてなんかない。』
柳原さんが静かに言った。
『おいおい、恥ずかしがってんのか?今なら…』
『ウザい、黙れ。』
柳原さんは五十嵐さんの言葉を最後まで聞かず、冷たくあしらった。
そして、何処かへ行ってしまった。
『おい、今日くらいは…』
五十嵐さんは追いかけようとしたが、蒼さんが止める。
『柳原さんは1人が良いのかもしれません。やめといた方がいいでしょう。』
『その通りかもしれないけど、せっかく一匹狼さんがいるのに…』
五十嵐さんは残念そうだった。
拠点に戻る。
『あ、この銃とボックスは返しますね。』
『あぁ、ありがとう。』
五十嵐さんはまだ残念そうだった。
悲しそう、でもどうすることもできない。
『すまんな、実は柳原にもどって来て欲しくて、来ないかと誘ったんだ。でも、俺が銅さんに憧れているのは本当だ。』
『そうだったんですね。でも戻っては来なかった…』
『まだチャンスはあると思いますよ。』
蒼さんが言う。
『また、会いに来てくれると嬉しいッス!』
『今日はありがとうございました。』
と2人から言われる。
『また会いましょう。』
僕はそう言って、別れる。
2人は手を振ってくれていた。
僕は街の方に戻る。
どうしようかな。
暇なので、街を色々見ながら歩く。
でも、気になるものなんてない。
そのまま、家の前に着く。
少し気になっていた。
でも、ここはもう、
僕がいていい場所ではない。
行こう。
僕は、背を向けて歩く。
そうだ。
山を登って景色を見ようとしてたんだった。
今から行ってみよう。
ここから登れるかな。
山を登る道があった。
僕は、その道を歩いていく。
日は傾き、落ちて来ている。
今、何時だろう。
わからない。
16
景色が見える場所を見つけた。
街の方が一望できる。
最初、僕が目を覚ました病院。
僕が働いている剣士の拠点地である剣士所。
僕が住んでいた家…僕は自然と見てしまった。
今、琥珀さんはどうしているだろう。
頬を叩き、怒鳴り、出ていったんだ。
きっと、怒っているか、もう、僕のことを気にしないようにしてるだろう。
もう少し前に行こう。
柵の前まで来た。
ふと、下を見る。
崖になっている。
ーここから落ちたら確実に死ぬだろうー
柵に、この先立ち入り禁止と描かれた紙が貼られている。
柵は簡単に越えられそうだ。
ー死んだらどうなるんだろうー
僕は、柵を乗り越えてみる。
柵の先にはもう、遮るものは何もない。
風が強く吹いている。
今、足がある所のすぐ先はもう何もない。
ー死ぬ瞬間ってどんな感じなんだろう。ー
_へへ、すぐにわかるさ。_
僕はほぼ全てから嫌われた。
もう、何も未練はない。
生きる意味がない。
僕は身体を、ゆっくり前にたおす。
終わりだ。
っ!
ふと、僕の手を、
誰かが掴んだ。
後ろに引っ張られる。
なんだ?
誰だ?
なぜ止めた?
僕は、振り返る。
そこに、ありえない人物がいた。
『え?』
長い、銅色の髪、
琥珀色の、キラキラした目。
それだけで誰かなんて、すぐわかる。
『どうして…』
どうして僕の手を引いているの?
どうして泣いているの?
どうして助けたの?
どうしてここに?
わからない。
僕は俯いた。
『こっちにきて、』
琥珀さんが言う。
僕は動かなかった。
まだ、手を握られている。
その手が、震えていた。
『こっちにきてよ…』
『・・・』
僕は、柵の中に入る。
『何を…しようと、してたの?』
琥珀さんの声も震えていた。
その声は、悲しみの中に怒りもあるように聞こえた。
『もう、わからないよ。』
何もかも、わからない。
全てがわからない。
だから、こう答えた。
『琥珀じゃ、だめ?それとも、琥珀のせい、なの?』
琥珀さんは小さな声で言った。
『もう、何も…全てが、わからないよ!もう嫌だよ!うんざりなんだよ!』
五十嵐と蒼も、僕を危険な目に合わせてたかったんだ。
『みんな、僕を見て睨むんだ!みんな、僕から離れようとするんだ!僕に冷たくするんだ!僕の過去が悪いからなんだろうなぁ!だからみんな僕を悪い人間として扱ってくるんだ!』
鷹也も如月も、無理やり剣士に入れて、利用したいだけなんだ。
『琥珀だって!きっと僕を油断させようとしてるんでしょ!あえてここで止めたのも、僕をもっと苦しませるためで、全て演技なんだろ?』
何もわからない!何も信じられない!
全てが悪く感じる。全てが悪く見える。
全てが嘘で、全てが演技で、全てが僕のせい。
なら、
『僕なんか、必要ない。死ねばそれで良いんだ。散々苦しんだよ。まだ足りないか?もういいでしょ?ダメなら今ここで、苦しませればいい!痛めつければいい!殺せよ‼︎僕はもう抵抗は…しないからさ……。』
もうこれでいい。どうせ死ぬなら、もう苦しんでもいいか。
全てがどうでもいい。
『どうして、』
僕が、悪いんだ。僕が傷つくのは当たり前だ。
『どうして、そんなことを言うの?甘ちゃんは何も悪いことなんてしてないし、傷つくべきじゃない。琥珀だって、周りから睨まれるし、距離だって置かれる。冷たくされる。でも少なくとも、琥珀は甘ちゃんのことを悪くなんて思ってないよ、だから…』
『嘘だよ、僕のことを悪く思わないわけがない!僕に、あんなにずっと隣にいようとしたのも、全て僕に、何かをしようとしてたんだ!チャンスを探ってたんだろ?そうだろ?何をしようとしてたんだよ‼︎』
もう、自分が何を言っているのかわからない。
もう、自分が何を考えているのかわからない。
わからない!
『僕なんか、生まれてこなければよかったんだ‼︎僕が死んでしまえばそれでいいのなら、殺せ‼︎今すぐここで、殺せ‼︎』
もう、暗闇しか見えない。
辛い。
楽になりたい。
『僕なんか…』
『そんなこと言わないでよ!』
僕は驚き、琥珀さんの顔を見た。
『琥珀は甘ちゃんのことを殺したいなんて思ってないし!苦しめたいとも思ってないよ!琥珀は!甘ちゃんのことが大事だから!』
琥珀さんが、泣きながら必死に言う。
こんな琥珀さんを見たことがない。
『甘ちゃんが琥珀を傷つけたことなんてない!夢だって全部、甘ちゃんの心の不安のせいだよ!』
『そうか、ならそれでいい。僕が悪かった。でも今は、疲れてるんだ。もう楽になりたい…』
僕は柵の先を見て言った。
僕の勘違いなら、今琥珀さんを傷つけたことになるだろう。
そんな中で生き続けたいとはとても思えない。
周りから悪者扱いされるのはもう嫌だ。
僕は、気づくと泣いていた。
『だからそんなこと言わないでよ‼︎』
琥珀さんが叫ぶように言った。
僕はまた驚いた。
『どうして、そんなことを言うの!琥珀が辛くて死のうとした時、甘ちゃんは琥珀のことを助けてくれたのに!俺と生きていて欲しいって言ってくれたのに!死のうとするなんて、それが一番ずるいよ!でも、そんなの…あんまりだよ……』
琥珀さんがその場にしゃがみこんで大粒の涙を流し、泣いている。
ー『どうして助けたの?もう、楽にさせてよ!助けても生きる意味なんてない!助ける意味もない!だから手を離して!』
『たとえ!琥珀を苦しませても!それでも!生きていて欲しい!意味なんてなくても!助けてはいけない理由になんかならない!』
『生きたって、辛いだけだよ!もういやだよ!苦しみたくないよ!』
『なら、俺のために生きて欲しい…辛いなら俺が守る!だから生きろ!俺の願いは、琥珀さんに生きていて欲しい!生きる理由ならそれだけでいいだろ‼︎』ー
あぁ、そうか、
何かが、僕の中で蘇る。
ただの一部でしかないかもしれない。
でも、それだけでいい。
今はそれだけで…
僕も、涙を流していた。
『いっしょに生きてよ、最後まで隣にいさせてよ…うぅっ、琥珀が、甘ちゃんを幸せにさせてよ!琥珀のために生きてよ!』
そうだ、
生きる理由ならあった。
辛くても、守らないと。
そう、小さな頃に約束したんだ。
それを勝手に破るのはずるいことだ。
今、僕にできること。
それは…
僕は歩く。
そしてしゃがむ。
『ごめん。いや、ごめんなさい、僕が間違っていた。生きる理由ならここにあった。』
『うん、琥珀としあわせにいきて、』
その言葉が嬉しかった。
『ほんの少し、昔のことを思い出せたよ。』
『そうなんだ。きっと、これからもっとたくさんのことを思い出せるはずだよ。』
僕は琥珀さんの手を取って、
まっすぐ見つめて、
『僕が、琥珀さんを守る。だから、琥珀さんの隣にいさせて欲しい。』
少し間をあけて。
『僕と、付き合って欲しい。』
今言うべきではないと思う。
でも、自然と言っていた。
今言いたかった。
琥珀さんは優しい笑顔を見せてくれ、
『はい、もちろんです!』
そう言ってくれた。
『おうちに帰ろ、甘ちゃん!』
琥珀さんは笑顔のままで言った。
僕も自然と笑顔になった。
家に着く。
『そうだ、頬痛くない?』
琥珀さんの頬を見て言う。
僕が叩いてしまった頬。
『うん、だいじょぶだよ。』
あんなに強く叩いたんだ。
本当は痛いんだろう。
でも、気にしないように気を遣ってくれたのだろう。
やっぱり優しい。
『でも今日はほとんど1人で寂しかったから、たくさんあまえさせて?』
甘えることで許してくれるのなら断る理由はない。
『いいよ。たくさん迷惑かけちゃったから、』
最後まで言う暇なく琥珀さんが抱きついてくる。
『あま〜、ぎゅ〜っ』
予想以上の甘えモードだった。
僕と琥珀さんは今、付き合っているんだ。
でも、あんなことがあった後だ、気まずい。
とりあえず頭を撫でてみる。
『えへへっ、いっぱい撫でて〜。』
僕の手を掴んで、自分で頭を撫でさせる。
でも琥珀さんの笑顔を見ると、やっぱり癒される。
癒しを通り越してちょっと怖いけど。
でも、その時間が30分以上続いた…
夕食の後、
『お手洗いに行きたい、』
とのことで、琥珀さんとお手洗い場に入る。
そしていつも通り、後ろを向いて耳を塞ごうとしていた時、
『今日はこっち見てて欲しい、』
琥珀さんがうるうるさせた目で見てくる。
え”、
今なんと?
見ることになんの意味が?
琥珀さんがそのまま、スカートを下げる。
『っ〜‼︎』
そして、
やめよう。
何も考えない。
いや、何か考えてた方がいいか、
如月さんのことでも考えよう。
手を握られる。
そう、如月さんだ。如月さんが手を握ってきたんだ。
そうだ、きっと。
如月さんが笑っている。
あ、雨でも降っているのかな?
まだ、雨を見たことがない。
うん、楽しみだ!
見てみたいな。
あ、やっぱりいいや。
雨がやんだみたい。
『終わったよ?』
琥珀さんは手を洗う。
お、おわったぁ〜
救われた気分だった
でも…
風呂に入る。
風呂があった….
今、僕が琥珀さんの髪を洗っている。
髪を洗うのを手伝うのはいい。
だが、問題は…
『後ろを向いてください、』
『やだ!』
正面を向いたまま、子供のように駄々をこねる琥珀さん。
やめろォ‼︎
ゆらすなァ‼︎
何とは言わない。
でも、琥珀さんの大きなアレが!揺れてる!
そして、抱きついてくる。
やめろォ‼︎
くっつくなァ‼︎
何とは言わない。
でも、琥珀さんのアレが!当たってる!押し付けられてる!
ヤメテ!
『こ、琥珀さん!胸が!胸が当たってる!』
『甘ちゃんならいいよ、触りたい?それとも揉む?』
何もよくない。
『変態め、』
『ガーン!』
自分でガーンって言ったよ…
甘え方が前以上に酷い。
で、背中もか…
でも、背中を洗う時も正面を向いている。
まぁ、前からこうだったけど…
『洗いづらいんですけど…』
『琥珀のことを抱くようにしたら…』
『嫌です。』
恥ずかしいことを言ってくる。
そして、苦労しながらも、
なんとか終わった。
『胸の方はあら…』
『無理です!』
琥珀さんは残念そうだ。
『ド変態め、』
『ガーン‼︎』
もういいよ!
『はぁ〜』
ため息をついていた。
もう、疲れた。
あの後も琥珀さんに身体を触られまくった。
股間だけはどうにか守ったが、他は全て犠牲になった。
そんな琥珀さんは今、まだ抱きついている。
『あま〜あま〜』
デレデレだ。
僕の認識が間違えているのかな?
さっきまでのは全て普通のことなのかな?
自分の肌を見られたり、触られたりするのって恥ずかしくない?
普通は違うの?
本当に疲れた。
『もう寝よう?』
僕が言う。
『もっとあまえたい〜』
琥珀さんは離してくれない。
でも、僕は部屋の電気を消して、ベッドの上で横になる。
琥珀さんも横になる。
『今日はいい夢が見れるといいね。』
そうだ、
もう、この関係を壊されたくない。
もう、あんな夢を見たくない。
そう思いながら目を閉じる。
と、
頬に何かが当たったあと唇にも、何かがあたる。
琥珀さんが僕の両頬に手を添えて、唇を重ねていた。
長いな。
全然離れない。
寝てるのか?
僕は琥珀さんの頬に手を添えて、離す。
『おやすみのちゅうだよ?』
なんだそれ。
僕は目をゆっくり閉じる。
『おやすみ、あまちゃん、』
ー『ねぇ、狼夢君。あそぼ?』
『何でお前と遊ばなきゃいけないんだよ!あ、間違えた、遊ぶって何するの?』
いつも気を張っていたので、強い口調になってしまった。
『狼夢君は何をしたい?』
琥珀が訊いてくる。
『まず、狼夢って呼ばないで。俺はその名前が嫌いだから。』
親ではない親からつけられた名前。
そいつらも名前も大っ嫌い。
『ごめんね。なら、新しい名前を考える遊びをしよ?』
『なんだそれ?』
よくわからない。
『お互いにお互いの名前を考えて、それを新しい名前として呼び合うの!』
遊びではない気がするけどなんとなくわかった。
でも…
『名前なんてすぐに決められないよ。』
何を基準に名前をつけるのかわからない。
『私はもう、決めたよ。』
『ええっ、』
もう、決まったの?
それ、俺の名前になるんだよね?
大丈夫なのか?
『君の新しい名前は…あま!』
あ、あま?
天と書いてあまかな?
雨と書いてあま?
これはあまり良くないかな、
『甘いの甘だよ、』
は?
マジか…それ……
甘い?
僕の予想が合っているなら…
今の俺と、全然合ってない。
『おいおいおい!もっと真面目に考えてくれ!俺に甘いという要素がどこにある!』
早かったなとは思った。
けど、こんな名前を付けられるとは思ってなかった。
『甘えて欲しいから、甘えたいから甘なんだよ?』
意味がわからん。
甘えて欲しいとか甘えたいとか…ひでぇなおい、
だからずっと後ろをついてきてたのか…
『甘ちゃんは私の名前、考えてくれた?』
思いつかない。
わからない。
あ、
『わから.ない子』
もう、それでいい気がする。
『もう!真面目に考えてよ!』
怒っている。
なら、俺の名前ももっと考えてよ!
『時間が欲しい。』
『んー、わかった、』
ちょっと残念そうだ。
よくわからない
もう、わからない子でいいじゃん。ー
ー俺は1人、帰る。
知らない家。
俺の家ではない。
けど、あそこにしか帰る場所がない。
『はぁー』
ため息をつく。
どうせ、帰っても怒られるだけ。
帰る必要があるのだろうか?
と、
なんだあれ?
何か光っているものが落ちている。
近づいてみる。
これは…
丸い形で薄っぺらい。真ん中に大きく10と描かれている。
10円玉か。
でも、こんな色の10円玉を見たことがない。
いつもの10円玉は光沢のない茶色なのに、
これは綺麗な光沢のある、茶色?
オレンジっぽくも見えるし、光の加減によって一部がピンク色っぽく見えるところもある。
偽物かな?
『・・・』
この色をどこかで…
『あ、』
わからない子の髪。
こんな色だった。
この色はなんて言う色なんだろう?
あのおじさんなら教えてくれるかも、
俺はある場所に向かう。
そこは、弁当屋だ。
『今日は早く来たな、弁当が欲しいのか?』
このおじさんはここに行けば、俺に売れ残った弁当をくれる。
家を追い出されたりした時はここで弁当をもらうことが多い。
『今日は違って、これが何色かを知りたいんです。』
そう言って、俺はさっき拾った10円玉を見せる。
おじさんは10円玉を手に取って、見る。
『これは、本物の10円玉か。色は綺麗な銅色だな。どうした、拾ったのか?』
『はい。』
俺は返事をする。
『銅色っていうんですか?』
『まぁ、そうだな。銅、だけでもいいがな。』
どういろ、どう、
『漢字ってどう書くんですか?』
そう聞くと、おじさんがスマホで見せてくれる。
『なぜ知りたいのかは知らないけど、君くらいの子にはちょっと難しいんじゃないか?』
銅。
「ありがとうございます。』
これで考えてみよう。ー
ー家に帰る、
結局、怒られた。
全て、先生の嘘なのに、
いじめられているのは俺なのに、
今日も俺がいじめたと、電話で先生が言っていたらしい。
俺は立ったまま、テレビの音声を聞いていた。
自然石についての番組。
琥珀石についての紹介、説明をしていた。
俺は、チラッとテレビを見た。
黄色とオレンジ色を混ぜたような色で、
キラキラしている。
!
その色は、
わからない子の目の色と似ていた。
こはくというのか?
漢字は難しいな。
考えてみる。
どう.こはく、こはく.どう、
なんかしっくりこない。
名前っぽくない。
俺は、父に気づかれないように、
父の部屋へ行く。
そして、あるものを探す。
あった。
俺は分厚い本、漢字辞典を手に取る。
俺は見てみる。
と、
銅のページがあった。
どう.あかがね。
と記載されている。
あかがね?
あかがね.こはく、
しっくりくる。
これにしよう。
俺は漢字辞典を元に戻した。ー
17
Ⅵ
目覚ましの音で目が覚める。
目覚ましを止める。
ー君の名前は、アカガネ.コハクだー
頭の中で小さい頃の僕の声が聞こえた。
今回の夢は、2人で名前を付け合う夢だった。
そうだ、僕はその子に銅.琥珀という名前を付けたんだ。
琥珀さんの方を見る。
琥珀さんは起きていた。
『おはよう、あまちゃん、』
まだ少し眠そうだった。
僕もまだ眠い。
でも起きないと。
僕はベッドから身を起こす。
もう、時間か。
眠気覚ましに、顔を洗う。
さっぱりした。
琥珀さんも顔を洗う。
そして、朝食を食べ、
外に出る。
剣士所に着き、
着替えて、剣を取る。
『おはようございます、銅さん。今日も共に頑張りましょう。』
と、東雲さんが近づいてくる。
『おはようございます、東雲さん。はい、頑張りましょう。』
僕は挨拶を返す。
『では、朝礼に行きましょう。』
と、事務所へ向かう。
今日は、また違う街に割り振られている。
3人と合流して、
『今日は少し離れているから、車で移動だ。』
と、一台の車の前で鷹也隊長が言う。
10人ほど乗れる大きな車に、僕たちは乗り込む。
そして、車が動きだす。
『車で移動って、楽しいよな!』
如月さんが言う。
『まぁ、そうですね。』
僕は言う。
『そんなに珍しいことではないですがね。』
と、東雲さんが言う。
まぁ、そうだよね。
島とはいえ、端から端まではかなり距離がある。
とても徒歩だけですぐ行ける距離ではない。
『今向かっているところに行くのは初めてなんですけど、どんなところなんですか?』
気になったので訊いてみた。
『おととい行った所より小さな町で、自然が多い所です。』
東雲さんが言う。
自然が多い。
どんな感じだろうか。
18
ここから歩いて見ていきましょう。
僕たちは車から降りる。
少し遠くには林がある。
範囲はそれほど広くないようだ。
とにかく、歩いて見て回る。
歩道の端に、木が並んでいる。
確かに、自然が多いな。
今のところ、特に問題は起きていない。
もっと先も見てみる。
すると、
一部、薄暗い場所に路地がある。
あまり管理されていないみたいで、少し不気味だ。
『あそこ怪しくないですか?』
と、路地を指差していった。
『確かに、怪しいな。確認してみよう。』
と、鷹也隊長が路地に向かう。
路地には嫌なイメージがある。
初めて外に出た日のことを思い出す。
『なんかわりー奴がいそうな雰囲気だな!』
如月さんが言う。
『大丈夫でしょうか、かなり荒れてますね。』
そこにはゴミが散乱しており、壁には落書きがしてある。
そして、思っていた以上に薄暗い。
『この中に行ったことはないのですか?』
『いや、一度もないな。』
そうなのか…
少し不安だ。
でも、行ってみよう。
僕が先頭に、入ってみる。
『銅君、大丈夫かね?』
『はい、大丈夫です。』
まっすぐ行く道と、右に続く道がある。
僕は右に続く道の手前で止まり、右奥を確認してみる。
!
3人の男がいる。
それも…
あの時の男だ。
『3人の男がいます。それも、前に女性を襲おうとしていた人たちです。』
『そうですか。では私が行こう。』
と、鷹也隊長が先に行く。
僕たちも後をついて行く。
『あ?誰だ!』
聞き覚えのある男の声。
『すまない。私たちは噴水のある公園に行きたくて、場所を教えて欲しかったんです。』
鷹也隊長が思いもしなかったことを言い出した。
『は?教えるわけねーだろ!全員、勝手に入ってきたんだから、命はないと思え!』
すると、
3人の男が、ナイフを手に襲ってくる。
後ろからも数人が襲ってきていた。
僕たちは剣を出して、戦う。
ナイフを持った男たちはすばしっこい。
『ぐっ!』
囲まれている。
琥珀さんを守りながら戦うのは大変だった。
次々に襲ってくる男。
その攻撃を、剣で防ぐ。
『銅!大丈夫か!』
如月さんが剣を振り、言う。
如月さんの剣捌きは凄かった。
いや、鷹也隊長も東雲さんも強い。
敵を次々と倒していく。
と、物陰に動くものが、
まだ、奥に!
僕は奥に隠れていた男に近づく。
ナイフで襲われても防げるよう、剣を構える。
男が顔を覗かせる。
いや、違う!
銃だ!
バン!
『ぐぁっ!』
身体に強い衝撃が、
僕も、銃を取り出し、
撃つ。
バン!
男の腕に当たる。
僕はそのまま倒れる。
『銅さん!』
『大丈夫か、おい!』
『甘ちゃん!』
皆が駆け寄る。
『銅君!』
鷹也隊長が、先ほどの男を倒し、こちらへ向かう。
当たった場所は肩だった。
あの時咄嗟にしゃがんだので、心臓部はなんとか逃れた。
だが、
『危険だ、もう戻った方が良いだろう。』
と、言われてしまった。
『まだ、いけます。』
僕はそう言って立ち上がる。
『痛みはあるけど、まだ大丈夫です。』
『無理はいけない。』
鷹也隊長は僕を止めようとする。
『まだ、行かせてください。』
まだ、ここで終わりたくない。
僕は、もっと強くなりたい。
大切な人を守るために。
『わかった。でも1度、車に戻るんだ。そこで傷の手当てを東雲さんと如月さん、お願いします。私はこちらの対応をしておきます。』
『分かりました、ありがとうございます。』
僕たちは鷹也隊長を置いて、車に戻る。
『銅、大丈夫なんだよな?』
『はい大丈夫です…』
東雲さんが、手当てをしてくれた。
『しばらくはまだ痛むと思いますが、大丈夫ですか?』
『はい、大丈夫です。東雲さん、手当てありかとうございました。』
『あまり無茶しちゃだめだよ?』
琥珀さんも心配そうにしていた。
『あまり無理はしないようにするよ。』
僕は笑顔を見せる。
と、
遠くからサイレンが聞こえてくる。
こちらに向かってきているようだ。
『鷹也隊長が呼んだんだろうな。』
如月さんが言う。
そして、救急車とパトカーが通り過ぎていく。
?
『パトカー?』
警察はいないんじゃ…
『あぁ、あれか?あれは俺たち剣士隊の後処理班が悪人を運ぶための車だよ。』
剣士隊関係の車なのか、
『もうそろそろ、いこーぜ!』
先ほどの路地に向けて歩く。
先ほどの救急車とパトカー?が、近くに止まっており、救急隊員と後処理班の方が男たちを運んでいる。
『こちらの方は無事、終わったみたいですね。』
東雲さんが言う。
『でも、命に関わる仕事なので無理はしないでくださいね。』
と、僕に向けて言う。
『気をつけます…』
そして、鷹也隊長と合流する。
今日はその後、何事もなく終わった。
19
『銅さん、お身体の方は大丈夫ですか?』
多くの方に心配された。
『はい、もう大丈夫です。』
僕は笑顔で答える。
そして、建物を出る。
『甘ちゃん、本当に大丈夫なの?』
琥珀さんが心配そうに言った。
『まだちょっと痛いけど、僕の責任だからね。』
僕は笑って言う。
琥珀さんは、怪我をした肩と反対側の腕に抱きつく。
『琥珀、心配だよ、』
『僕は、琥珀さんを守れてよかったと思ってるよ。怪我はまだ軽い方だろうし。』
おとといの帰る前、1人が大怪我をしていたことを思い出した。
もう少し酷かったら、命に関わっていただろう。
『本当に、無理はしないでね、』
『わかってる。でも、剣士として戦うのなら、いつどうなるかはわからない…』
無理をしなくても、命を落とすことだってあるだろう。
『あ、ちょっとこっちの家も見てきていいかな?』
そういえば、ここの家をほったらかしにしていた。
『うん、いいよ。』
僕は鷹也隊長から貰っていた家の鍵を使い、ドアを開けて中に入る。
慣れない場所だ。
でも家具など、ほとんどが揃っている。
食料や、小物類があれは、今日はもうここにいてもいいな。
食料も、すぐ近くにスーパーがあるのですぐに買える。
『今日はこっちに泊まるの?』
琥珀さんが訊いてきた。
『こっちに泊まるなら、スーパーで食料を買わないとだね。』
僕が答える。
と、
『あっちの家にも、今は食料ないの。だから今日はこっちに泊まろ?』
琥珀さんは、こっちに泊まりたいみたいだ。
『なら、スーパーに行こう。』
僕は琥珀さんと、スーパーに行く。
『今日の夜ご飯と明日の朝ご飯、あと飲み物とか買わないとね。』
僕と琥珀さんは色々見て、決める。
『琥珀も甘ちゃんのと同じのにする、』
『よし、これで全てかな。』
必要なものはこれでいいかな。
レジに持っていき、購入。
そして、2つ目の家に戻る。
さて、夕食を食べよう。
そうして食べ終え、風呂に入り…
『くぅぅぅぅぅっっっっっっ‼︎‼︎‼︎』
撃たれたところにお湯がかかり、めちゃくちゃ痛い。
痛みがしばらく続いた。
結局、片腕を曲げれず、琥珀さんが髪と背中を洗ってくれた。
『他のところも洗うよ?』
『ちょっ‼︎そっちは大丈夫だから‼︎』
琥珀さんが胸を触ってくる。
『ギャアァァァァァァァァァァァァ‼︎‼︎‼︎』
腕を速く動かしたせいで、
『あぁぁァァァァァァっ‼︎‼︎』
叫ぶことしか出来ず、今日も股間のあたり以外は全て琥珀さんの手により洗われた…
琥珀さんは満足そうだ。
次は…僕が琥珀さんを洗う番か…
『しばらくは大丈夫だよ?』
怪我のおかげか、僕が洗うことはないまま終わった。
た、たすかった…
心から安堵する。
風呂を出て、琥珀さんが髪を乾かしてくれた。
そして、僕はドライヤーを持つ係として、琥珀さんの髪を乾かす。
さて、もう寝ようか。
寝室は…
そういえば、この家には2階があるんだった。
2階に行ってみよう。
琥珀さんと、階段を登る。
2階には寝室とお手洗い場があった。
そして、寝室の奥に…
ベランダがある。
僕はベランダに続く窓を開ける。
そして、ベランダに行く。
琥珀さんもついてきた。
冷たい風が吹いている。
3月になったとはいえ、夜は冷えるな。
でも、暗い中で光る他の家の窓や街灯、車のライトなどが綺麗だ。
空を見上げる。
空には丸っこい月が光っていて、その周りを星が輝いていている。
『綺麗だね、』
琥珀さんが言う。
『あぁ、綺麗だ』
僕は琥珀さんを見て言う。
琥珀さんの目も星のようにキラキラと輝いている。
琥珀さんは嬉しそうだった。
寒くなってきたし、戻ろう。
寝室に戻り、ベッドで横になる。
琥珀さんもすぐ隣で横になる。
眠い。
目を閉じる。
『おやすみ、あまちゃん』
『おや…す……み…………』
ー俺の視界に、悲しそうな表情をした琥珀がいた。
『そんな顔すんなよ。どうせ、悲しそうにしても何も変わらないんだから。』
『でも、でも…』
やはり、悲しそうだ。
『俺には変えられない。アイツらの言うことを聞くことしか出来ないんだよ。』
そうだ。
弱い人間に、子供に、
未来を決める権利なんてないんだ。
全て、強い立場にいる大人が勝手に決めるんだ。
『でも、ずっと一緒にいてくれるって言ってくれたのに…』
『すぐに追い出されでもおかしくなかった。でも、今までずっと一緒にいられた。それだけでも良かった方なんだよ。』
俺はここを追い出されることになった。
あの大人たちが勝手に決めて、
“お前はここにいらないから、お前は、お前にお似合いの島へ行ってもらうことになった。明日にはやっとおさらばだ!クソ人狼。”
本当に腹が立つ。
『もっと、一緒にいたいよ…』
琥珀が涙を流す。
『最後くらい笑えよ。泣いても余計に悲しくなるだけだから。』
笑えば幸せになれるのか?
そんなわけない。
でも、
琥珀の悲しそうな顔を見たくない。
『最後なんて言わないでよ…私も連れてって、』
やめてよ、
こっちまで泣きそうになるじゃん。
でも、
『それは出来ないと思うよ…』
“あぁ、アイツはここに残すよ。お前と違って雑魚そうだし、ストレス解消用に1つは残すのも悪くないしね。”
クソどもが、
あんな奴らの言うことなんか聞きたくないし、従いたくない。
でも、
俺らに選択権はない。
『どうして…』
『俺だって、一緒にいたいよ。でも無理なんだよ。全てアイツらのせいで…』
本当は俺のせいだから。
『そっか…』
俺が強ければ、
俺らが人狼でなければ、
あの時、余計なことをしなければ、
こんなことにはならなかっただろう。
『きっと、これからも辛いことは続くと思う。もっと酷くなるかもしれない。だけど…』
あの時、俺は怒りが頂点に達していた。
だからアイツらをぶん殴って、怪我を負わせた。
そのせいで、大人たちは僕を追い出そうとした。
琥珀がここに残されるのなら、俺がしたことも全て、
琥珀に向けられてしまう。
『言っただけではどうにもならないけど、琥珀には絶対に幸せになって欲しい。だから…』
だからこそ、離れたくないけど離れるべきなのかもしれない。
俺のせいで、
関係ない人が傷つく。
俺もアイツらも、
許せない。
俺は行き場のない怒りで強く唇を噛み、強く拳を握る。
痛い、
血の味がする。
今にも溢れてしまいそうな涙を必死に堪える。
と、
ふんわりと、甘い香りがする。
この香りをよく知っている。
!
俺の唇に、暖かくて柔らかい、
琥珀の唇が重ねられていた。
やめてよ。
今だけは。
お願いだから。
やめ…
頬を、何かが流れていく。
今までの記憶が流れていくように。
今は思い出したくない。
でも、思い出してしまう。
唇が離れる。
琥珀も離れる。
そのまま離れてしまう気がした。
『初めては甘ちゃんにあげるね、私も初めては甘ちゃんがよかったし…』
『・・・』
俺は、言わないと。
謝らないと。
『だから…』
『その続きは言わないで、』
琥珀さんが遮った。
『そんなこと、ないんだから…ね?』
琥珀が俺の手を握る。
『甘ちゃんは自分をよく犠牲にしてしまうけど、自分を傷つけたらダメだよ。1人の時は自分しか守ってくれないんだから。』
琥珀さんが、涙を流しながらも笑顔で言う。
『絶対、また会えるから。絶対、会いにいくから。』
あんなに悲しそうな顔をしてたのに、
『甘ちゃんも、会いに来てね?』
なんで、笑顔なんだよ。
『会った時は、また甘えさせてね?』
このまま別れていいと思ってるのか?
琥珀が、俺の頭を優しく撫でる。
『初めて会った時からずっと、ずーっと!助けてくれて、隣にいてくれて、わがままも聞いてくれて、たくさんの幸せをくれて、』
今、それを言わないでくれよ!
『本当に!』
永遠に別れるみたいじゃん。
『ありがとう‼︎』
俺は覚悟なんてできてないのに、
『なんで、』
俺は言う
俺はできなかったのに、
『どうして笑顔でそんなことを言うんだよ!一緒に!隣にいたいって!言ってたのに!1人の時はとか!絶対会えるとか!会いに行くとか!会いに来てとか、ありがとうとか…言わないでよ……』
俺は、悲しみを、今まで我慢してきた全てを今、涙として流していた。
もう、止まれない。
止められない。
『琥珀だって!悲しいよ!でも!甘ちゃんが悲しそうにしても変わらないって!最後くらい笑えって!泣いても余計に悲しくなるだけだって!言ったから!無理だって、言ったから、琥珀は笑って…覚悟を決めて…いいことを、考えるように…して…』
琥珀は大粒の涙を流しながら、その場に倒れるようにしゃがみ、大声で泣いていた。
まただ、
また俺のせいで、
琥珀を苦しめてしまった…
『ごめん、俺が何もかも無責任だった。』
何をしてんだよ!俺が言ったことなのに!
俺は、琥珀の側に行き、しゃがむ。
と、
琥珀が俺を抱きしめる。
驚き、倒れる。
『いって、』
頭を打った。
『ふふふっ、』
気づくと、
琥珀は笑っていた。
さっきまで、あんなに泣いていたのに、
琥珀は覚悟を決めたみたいだ。
初めて知った。
俺は、琥珀は弱い子だと思ってた。
でも、違った。
琥珀さんは強いんだな。
俺も、
強くならなきゃ。
覚悟を決めなきゃ。
俺も、無理矢理に笑顔を作る。
『えへへ、かわいい♡』
と、琥珀が俺の頭を優しく撫でる。
『ば、バカにするなよ!』
恥ずかしくなる。
でも、
これでいい。
これがいい。
『琥珀の方がかわいいし!』
笑いながらも必死になって言う。
『好き、』
『え?』
よく聞こえなかった。
あ、
そうだ。
これを渡さないと。
俺が頑張って、
琥珀にあげようとしていたもの。
俺はポケットから、‘アレ’を取り出し、
琥珀さんのスカートのポケットに入れた。
『甘ちゃん、エッチ!』
『うるさい!今は絶対に見るなよ!』
『見るなって言われると気になる〜』
俺も琥珀も笑い会った。
人は悲しい時こそ笑った方がいいのかもしれない。
暗い人ほど悪く考えてしまう。
だから、いつまでも暗いままなんだ。
でも案外、
悪いことばかりでもないから。
そして、
悲しいのは、幸せを知ってしまったから。
幸せから離れることが辛いから。
俺は幸せだったんだ。
琥珀といることが、
楽しかったんだ。ー
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