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20
Ⅶ
目覚ましが鳴る。
僕は目を覚ました。
また夢を見た。
『甘ちゃん、起きたの?』
琥珀さんの声が聞こえた。
もう起きていたみたいだ。
『怖いこと、あった?』
『え、』
僕の目から、何かが流れていく。
泣いていたのか、
あの夢のせいかな。
多分今回のは琥珀さんと離れ離れになる少し前のこと、
夢の中でも、僕は泣いていた。
琥珀さんも泣いていた。
あの時と同じように、
怒鳴って、泣いて、結局僕が悪くて。
僕は昔と変わってないのかな。
『ごめん、怖かったわけじゃなくて…悲しい夢を見てたからだよ、』
『悲しい夢?』
琥珀さんが首をかしげる。
『琥珀さんと離れ離れになる少し前のことで…』
僕は言う。
思い出すだけで辛い。
『でも、また会えたよ。これからはずっと、一緒にいようね。』
琥珀さんは僕にもたれかかり、言う。
あれから何年経ったのだろう。
夢の中の琥珀さんはまだ、小さかった。
でも、また会えたんだ。
会いに来てくれたんだ。
『会いに来てくれて、ありがとう。』
僕は笑顔でそう言った。
今日も剣士所に行く。
でも、すぐ近くだ。
着くとすぐに、皆が昨日の怪我を心配してくれた。
更衣室で服を着替えて、剣を取る。
今日は、
前に行った、ショッピングセンターの付近の見回りだった。
第一隊はまず、ショッピングセンター内から見ていく。
『銅!ここに来たことはあるのか?』
如月さんが言う。
『はい、琥珀さんと一緒に行ったことがあります。』
『ここにはもう言ったのか、お店がたくさんあるだろ?まぁ、たけー服ばっかだけどな。』
確かに、どれも高い服ばっかりだった。
『そういえば、甘君とはここで会ったんだったね。』
鷹也隊長が言う。
『はい。男たちに襲われそうだったところを助けてくれました。あの時は本当にありがとうございました。』
僕は頭を下げる。
『そこで、甘君を剣士に誘ったんだったね。』
『そうだったのか!』
『そうだったのですね。』
如月さんと東雲さんが驚いたように言う。
そんな話をして、問題なく午前が終わる。
昼食は、ショッピングセンター内にあるフードコートで食べた。
『やっぱここのラーメンうめーぞ!食うか?』
如月さんはほとんどいつも元気だった。
『大丈夫です。』
僕は断った。
食べ終わり、午後の見回りに。
外を出て、周りも確認してみる。
と、
ブゥンブゥーン!
ノーヘルで二人乗りをしている男たちが、駐車場でバイクを吹かしながら走らせている。
駐車場内でそれなりにスピードを出し、蛇行運転をしている。
人が歩道を渡ろうとしているのに、あえて近づいて、吹かす。
そのまま走り去り、車用の駐車場にバイクを1台ずつ止めた。
『彼らに注意をしないとですね。』
東雲さんが言う。
注意しないと危険だ。
僕たちはその男たちの方へ行く。
『申し訳ありませんが、こちらは車用の駐車場です。移動をお願いします。』
鷹也隊長が言う。
『あと、先ほどのは危険ですし、迷惑に…』
『は?誰だよ、話しかけんな。』
1人の男が、機嫌悪そうに言う。
こちらにお構いなしでタバコに火をつけた。
『こっちが迷惑なんだけど?ここ空いてるんだし、別にいいだろ。』
また、別の男が言う。
鉄パイプを持っていた。
『てか、アンタら剣士?前に問題起こしてたくせに、ヒーロー気取りとかキモ。』
仲間だと思われる女が言った。
『剣士をバカにすんな!お前らみたいのがいるから…』
如月さんが、怒鳴る。
『やめるんだ如月さん、』
東雲さんが如月さんを止める。
如月さんは悔しそうだった。
『剣士って、ろくな奴いないんだ!まぁ、あんなことしたんだからそうなるよねー。ほんとダッサ!』
女がバカにするように笑いながら言う。
『てめぇ!』
如月さんが怒っている。
『如月さん!』
東雲さんが必死に止める。
『へへっ!お前、如月っての?剣士とか、島のためにとか言ってさ?ただ吠えるだけでソイツに止められて、周りに迷惑かけて恥ずかしくないの?お前マジでダセェぞ?』
男がそう言い、タバコを吸う。
そして、
タバコを如月さんに向けて投げ捨てる。
『吠えるだけがダセェ?なら、戦うか?お前らだって口で言うだけじゃねーか!あぶねーことばかりして、それがカッコいいとでも思ってんの?それが1番ダセェよ!』
如月さんはかなり怒っている。
それは、周りも僕も同じだ。
男は煙を吐き、
『いいぜ。お望み通り、あの世へ送ってやる!』
『血祭りだ!』
男たちが襲ってくる。
1人の男が鉄パイプを振り回してくる!
如月さんはお構いなしに、男たちへ走る。
振り回された鉄パイプが、如月さんに向かっている。
『そんなもんか?』
如月さんは華麗に避ける。
そして、鉄パイプを持った男の顔面に蹴りを入れる。
『あぎゃ!』
男が情け無い声を上げる。
『次!』
他の奴らはナイフを持っている。
でも、如月さんは走る。
僕も行こう!
戦わなければ!
男たちへ走る。
剣を握り。
如月さんは別の男の顔面をぶん殴る。
『ヘッ!剣なんか必要ねーな!』
剣を使わずに戦うなんて、強い!
『次はお前だクソ女!女だからって容赦しねーぞ!』
僕の出番はなかった。
と、
アイツ!
鉄パイプを持った男が逃げている。
あのままじゃ、危険だ。
僕はその男を追いかける。
『どこまで逃げる気だ!』
男は建物の裏へ曲がる。
僕も追いかける。
!
そこに、複数の人がいた。
『おー釣れた釣れた!』
鉄パイプを持った男が言った。
『なんだ?』
『面倒ごとを持ってくんなよ。』
『コイツに襲われたのか?』
複数の人がこちらを見た。
『ハッ!ただのガキじゃねーか!』
『人狼か?でも、俺たちには勝てねーザコだろ?』
『おいおい!後ろの女はビビってんぞ!こりゃ傑作だな!』
僕の後ろには震えている琥珀さんがいた。
守らないと、
でも、こんなにたくさんいる人を1人で?
鷹也隊長も如月さんも東雲さんも来ていない。
でも、やらなきゃ!
僕は剣を握り、構える。
『ヤるきか?』
『生きて帰れると思うなよ?』
『終わったな、お前。』
!
襲ってくる。
僕は、その場で横に1回転し、剣に勢いをつけて、
男たちに力を入れて振る!
数人がそれをナイフで受け止める。
周りからまだ襲ってくる。
1番近い男の腕に、剣を刺す。
また、別の男の足にも剣を刺す。
『グッ!』
昨日撃たれた肩が痛む。
だが、また別の男が襲ってきている。
まずい、
間に合わない!
このままじゃ殺される、
『銅に手を出すな!』
如月さん!
ほんの一瞬で、ほとんどの敵が倒された。
『お前ら、オレの仲間に手を出すなよ!』
如月さんは風のように走り、敵を倒す。
『ーー!』
速い!
強い!
カッコいい!
『終わりだ!』
如月さんは、最後の男を倒した。
『大丈夫か!』
如月さんがこちらに走る。
『あぁ、おかげで助かりました。ありが…』
『よかったぜ!大事な銅を守れて!』
如月さんは喜んでいた。
『でも、1人で行くなんてあぶねーよバカ!バカガネ!オレが気づかなければ、行かなければ、死んでたかもしれないんだぞ!』
如月さんが怒ってきた。
いや、
怒ってくれた。
『ごめんなさい、』
『でも、銅のおかげでコイツらを見つけられたし、安全にはなったはずだ。結果的にはいいことをした!それでいいんだ。』
如月さんは元気でちょっとやんちゃな人だと思ってた。
でも、仲間想いなところもあるんだ。
『シンちゃんのとこに戻ろーぜ!』
『はい!』
21
鷹也隊長と東雲さんの方も終わっていた。
『どこに言ってたんですか?』
戻るなり東雲さんが言う。
『あっちにも仲間がいたんだよ、銅が見つけてくれたんだ〜、なぁ!銅!』
『あはは…』
あっちにも、こっちにも、倒れた男たちがいる。
『あっちは大丈夫なんですか?』
『もう片付け…やべ、見てた方がいいか!』
如月さんが僕の手を取り、走る。
その後、大きな車で後処理班が来て、男たちを乗せていく。
『ずいぶん多かったですね。』
『全くだぜ!』
本当に多くいたな。
全員を乗せるために、多くの車が来ていた。
『やっと終わった〜』
如月さんはヘトヘトだった。
あれだけ戦ったんだからな。
『今日はお疲れ様でした。』
東雲さんが言う。
『東雲さんもお疲れ様でした。』
そう返した後、東雲さんはどこかへ行った。
僕は着替えて剣を置き、帰る。
『銅!』
如月さんが僕の名前を呼ぶ。
『明日もよろしくな!』
如月さんが笑顔で言う。
少し気になっていたことがあった。
だから、
『如月さん、ちょっといいですか?』
『お?珍しいじゃん、いいぜ!』
僕は如月さんの近くに座る。
琥珀さんもすぐ隣に座る。
『あまり訊くべきではないと思いますが…』
『なんでも訊いていいぜ!まぁ、答えられるかはわからねーけどよ。』
如月さんが笑顔でそう言う。
『如月さんってお強いですね。』
『へへっ、あんがとよ!』
如月さんはやんちゃそうに笑った。
『強くなりたかったから、そう言われると嬉しいな。まぁ、昔の銅の方が強いだろうけどな。半年くらい眠ってたんだろ?銅だってすぐあの頃のように強くなれるさ。』
昔の僕はそんなに強かったのだろうか。
『でも、そんなことを聞きたかったわけじゃないんだろ?』
如月さんは勘がいいな。
『えっと、ショッピングセンターで如月さんがあんなふうに怒ってたことが意外だったから…気になって、』
『あんなことを言われたんだぞ、そりゃ怒るぜ。』
まぁ、そうだけど…
『なんか、いつもと違った気がして…さ、』
『勘のいい奴め。まぁ、あの時はちょっとな、』
如月さんは少し悲しそうな顔をしていたように見えた。
『俺はさ、小さい頃に…周りに脅されて、大事だった親を殺した。』
え、
いま…なんて……
『それからずっと酷い目にあって、でも、人狼じゃないのに俺と友達になってくれた奴がいたんだ。だけど、俺といたせいでソイツも酷い目にあって、自ら死んじまったよ。』
そんな…
如月さんは俯いていた。
『それからは俺、だいぶ荒れちまってよ。気づいたら、人を殺そうとしてた。でも、シンちゃんと初めてあって、止めてくれて、こんな俺を剣士に入れてくれたんだ。』
如月さんは続けて、
『剣士に入ってから、まるで生まれ変わったみたいにみんな優しくしてくれて、人の優しさを初めて知ったんだ。だから、剣士のみんなが好きだし、強くなってみんなを守りたいと思た。』
如月さんが顔をあげた。
『銅!お前が一匹狼って言われてた時、多くの罪のない人の命を救うために、自分を犠牲にしてでも戦ってたことを知って、憧れてたんだ!』
!
『だから剣士のみんなも、もちろん銅も、銅に優しく寄り添ってる琥珀も大事で、だから馬鹿にされたことが許せなかったんだ。』
『そうだったのか、』
如月さんの過去が分かった。
それは、残酷で悲しかった。
でも、今はきっと、
幸せを、
守りたいと思える人たちを、見つけることができたんだ。
『こんな俺と一緒にいてくれてありがとう。こんな俺の話を最後まで聞いてくれてありがとう。なんか少し楽になったよ。』
そんな如月さんは優しく見えた。
『こちらこそ、辛いことを教えてくれてありがとうございました。』
僕は笑顔を見せて言った。
それから僕は、如月さんと別れて家に帰る。
『如月さんも辛かったんだね…』
琥珀さんが言った。
『人狼は特に、辛いことばかり受けてきてると思う。だから僕も、強くなりたい。そしてみんなを守りたい。』
『一緒にがんばろ?』
琥珀さんが優しい笑顔で言った。
『うん、』
僕も優しい笑顔を向ける。
-『私も、守られてばかりじゃなくて、誰かの役に立ちたい、』
私は、甘ちゃんに甘えてばかりで、怖がりで。
強くなりたいと、甘ちゃんのようになりたいと思っている
…のに、
やっぱり怖くて、上手くいかなくて、逃げてしまう。
もう、迷惑ばかりはかけたくない。
私も強くならなきゃ。-
ー複数の男たちが立っていた。
ナイフを、銃を持っている。
『しねぇ!』
男たちが襲ってくる。
俺は、右手に錆びてきているナイフを、
左手にハンドガンを持って、
走る。
男が銃を向け、撃つ。
頬をかすめた。
ナイフを俺に向けて振り回してくる。
僕は風のように速く、避けながら、
近づく。
少し、腕を斬られた。
今だ!
俺は空を飛ぶようにジャンプして、
ナイフを、空中で下向きに持ち替えて振り下ろす。
『はあっ!』
そして、1人の男の肩を斬る。
地面に足をつけた後その勢いで、すぐに次の男の腹を斬る。
『やっ!』
そこを狙って、
弾を補充した銃が狙っている。
すぐに避ける。
一発、腕に当たった。
『うっ!』
ナイフを離してしまいそうになるのを我慢して、
またナイフを振る。
次、
ナイフが胸をかすめても、戦う。
ナイフを振り回す。
そして、貴重な弾丸を使って、
銃を持つ男の腕を狙って、
撃つ!
バン!
男が銃を落とす。
そして、別の男が振り下ろしているナイフを、
地面を転がって避けながら、男の足をナイフで斬る。
『っ!』
で、
男が落とした銃を遠くに蹴り飛ばす。
次!
低い姿勢のまま近づき、男の足にナイフを刺す。
『うっ!やぁ!』
そして抜く。
後2人!いや3人か!
1人の男が立ち上がる。
1人の男が僕をめがけてナイフを投げる。
焦っているようだ。
俺は避け、ナイフを振り上げて男の胸を斬る。
が、
絶妙なポイントで男がナイフを構えていた。
避けられない。
なら。
自分のナイフで、受け止めて、
銃で、男の頭を殴る。
そして、ナイフで首を軽く斬る。
最後!
残る男は、
武器は持っていなかった。
銃を持っていた人か、
ふらふらになりながらも、俺を殴ろうとしている。
僕は、ナイフと銃を腰ベルトにしまい、
男の顔面を殴る、
まだ倒れない。
まだか、
なら、
腹を思い切り蹴った。
そして、男は倒れた。
数名が、その後も立とうとしていたが、
蹴り飛ばし、手足をナイフで刺していく。
はぁ…はぁ…
少しずつではあるが、斬られたり撃たれた時にできた傷が痛む。
全員からだもんな。
俺は後ろを向く。
そこに、1人の男の姿があった。
『っ!』
俺はナイフを構える。
だが、
『さすがだ狼君、後処理は私たちがしよう。』
男は言った。
見てたのか。
『狼君、剣士にならないか?』
俺は男の話を聞かず、暗闇へ歩く。
『言ってしまったか。君が剣士になってくれたら…』
そこには10人近くの男が倒れている。
怪我はしている。
でも、誰も死んでいない。
これほどの傷で死ぬことはない。
手足を切って、動けないようにしてある。
多くの人が、彼を悪者扱いした。
でも違う。
彼は、悪い人を殺さない程度に斬りつけて、誰も殺さず、
誰かを守っているんだ。
本当は、小さな英雄なのだ。
『可哀想に、自分を犠牲にして戦ったのに報われないどころか悪者扱いされる。』
私は、彼が行った暗闇を見る。
『なぜ、それでも戦う?人から嫌われてしまった人狼なのに、酷い扱いを受けてもなぜ人を守ろうとする?』
答えはどうしてもわからない。
サイレンが聞こえてきた。
『それは悲しくて辛い、損をするだけだぞ、少年。』
彼なら絶対に輝ける場所があるのに、
もう誰もいない暗闇に言った。ー
22
Ⅷ
それから数日間、何事もなく終わって、
今日は、休みだった。
『今日は何をする?』
琥珀さんが訊いてきた。
今日は…
もうそろそろいいかな。
『今日は、あそこに行こう。』
琥珀さんは首を傾げていた。
まず着いたのは、
桜の道公園だ。
良かった。
もう、桜が咲いていた。
薄い桃色の花びらをつけた桜だ。
『わぁ〜!きれい〜!』
琥珀さんは嬉しそうに見上げて言う。
早いものはもう散り始めていた。
僕は、カメラを手にする。
桜の写真を撮ろう。
パシャ!
あそこに鳥がいる!
パシャ。
あそこに桜に夢中になっている琥珀さんがいる!
パシャパシャ!
あ、気づいた!
パシャパシャパシャ!
『もう、やめてよ〜!』
琥珀さんが僕の背中をポンポン叩く。
僕のカメラに、恥ずかしそうな表情をした琥珀さんが映った写真がある。
(,,>_<,,)こんな感じ
保存しとこ、
桜の道を通り、
今度は、水族館へ。
小さな水族館だったが、かわいい魚がたくさんいた。
『この魚かわいい!』
この子はクマノミだ。
オレンジと白のシマシマの魚。
こんな色の魚がいるのか。
綺麗だ。
『あ、こっちの子もかわいい!』
あの子は、ハコフグか。
丸っこい形で面白い魚だ。
『そっちの子もかわいい♡』
その子は…
『銅.甘だ。』
ペチッ!
琥珀さんにデコピンをお見舞いする。
『〜っ!』
琥珀さんがおでこを抑えてしゃがみ、唸っている。
シャッターチャーンス!
『はいチーズ!』
パシャパシャパシャ!
『やめてよぉ〜!』
カメラにバッチリ映りました。
『も〜、甘ちゃんの狼!』
何を言っているのだろう?
琥珀さんがぷりぷり怒っている。
カメラは琥珀さんに没収された。
『ごめん。でも、忘れないために撮っておきたくて…』
『撮らなくても忘れないでよ、寂しいじゃん…』
琥珀さんは寂しそうに言った。
ちょっとやり過ぎたかも。
と、
パシャ!
『え?』
琥珀さんが嬉しそうにカメラを構えていた。
パシャパシャ!
『結局琥珀さんも撮ってんじゃん!』
『仕返しだもん!』
琥珀さんが、カメラを見ている。
『どうやったら写真見れるの?』
琥珀さんが訊いてくる。
あまり教えたくないけど…
『そこのボタンを押せば見れるよ。』
琥珀さんがすぐにボタンを押す。
と、
『え”ぇ”…』
そこに映されていた写真は、
酷いくらいブレていた。
『何これ?』
これ僕?
もはや何がなんなのかわからない。
『うぅ、』
悲しそうだ。
琥珀さんの頭を撫でる。
琥珀さんは嬉しそうにしていた。
ちょろいな、琥珀さん。
もう、水族館内も全て見終わった。
時計を見ると、もう12:30過ぎ。
『もうそろそろ昼食を食べよう。』
『うん、食べよ。』
琥珀さんとすぐ近くのカフェへ行く。
ちょっと高いけど、おしゃれなカフェだ。
僕は…パスタにしよう。
前のカフェでもパスタにしたような…
まあいいか。
飲み物は…次はカフェラテにしてみよう。
琥珀さんも決まり、注目する。
しばらくして、
カルボナーラとカフェラテ
ホットサンドといちごオレ?
が、きた。
美味しい。
僕と琥珀さんは食べ進めていく。
そして、あと少しで食べ終わる頃、
???
店員さんがでっかいパフェらしきものを持ってきた。
場所を間違えたのかな、
でも、琥珀さんは受け取った。
それ、頼んだの⁉︎
『で、でかいですね…』
琥珀さん、それ全部食べられるのかな、
『パフェ、いっしょにたべよ?』
僕と食べたいのか…
僕はスプーンを手にして、
特大パフェを食べる。
あま〜い!
手が止まらなかった。
しばらくの間は、
『くっ、くるしい…』
食べ進めていくうちに苦しくなってくる。
隣にはすでにテーブルに突っ伏した琥珀さんがいる。
あと…少し……
無理矢理詰め込む。
お、おわった………
なんとか食べきった。
その後、カフェを出て…
『だ、抱っこ〜』
『む、無理です…』
苦しみに耐えながら歩く。
次はどこ行こう。
『琥珀さん、次はどこ行きたい?』
『お、お手洗いに…』
『え”、』
あ、まずいかも…
なんとか近くのお手洗い場へ…
でも、
大丈夫でした。
『次はどこ行くの?』
もう、予定していたところは全て行ってしまった。
『どこ行こう…』
次は…
『ちょっと、病院に行ってもいいかな。しばらくたったし顔を見せておこうと思って、』
『わかった、大丈夫だよ。』
僕たちは、病院に向かう。
23
病院に着くと、
『おや?甘君と琥珀さん、来てくれたのですね。』
新田先生が来てくれた。
『ぜひ、向こうの部屋で話しましょう。』
新田先生に向こうの部屋へ案内され、部屋に入る。
『その後、体調の方はどうですか?』
『おかげで元気です。』
特に問題はない。
肩以外は。
『そうですか、それは良かったです。』
そして、僕と琥珀さんの前に麦茶の入ったコップを置く。
『琥珀さんも久しぶりですね。』
琥珀さんは、ちょっと怖がってるみたいだ。
あれ?
先生とは昔のことを話してたりしたんじゃ…
『琥珀さん、大丈夫?』
琥珀さんは僕の腕を握り、黙ったままだった。
『琥珀さんちょっと怖がっているみたいで…』
『私が、怖がらせてしまったのでしょうか。大丈夫ですよ、琥珀さん。』
でも、喋ろうとしないどころかみようともしない。
それは、新田先生に限らないことだった。
昨日、如月さんの話は聞いていたみたいだったけど、いつも怖がって見ようともしない。
『新田先生、琥珀さんはいつもこんな感じなんです。』
僕とは目を見て話すし、逆にくっついてきて離れようとしない。
『もしかしたら、人間不信のようなものかもしれませんね。』
人間不信、
人が信じられず、怖くなる。
『昔の酷いイジメなどが原因で、人間に対して恐怖心を持った可能性が高いでしょう。』
それは、僕にも少しわかる。
夢で、恐ろしいものを見たから。
それ以上のことを琥珀さんが知っているなら、そうなっても仕方ないことかもしれない。
だけど…
それは、寂しいことだ。
『ですが、助けてくれたことや一緒にいたことからか甘君に対しての恐怖心はないようですね。』
琥珀さんは僕にしがみついたまま、離れない。
僕のことは怖がらずにいてくれるのは嬉しい。
でも、それなら、
他の人と会うのは、琥珀さんにとって怖いことなら、
どうしよう。
琥珀さんはどう思っているんだろう。
『どうしたらいいんでしょう…』
『多くの優しい人と話すことで恐怖心が薄れることもあるようですが、ほとんどの場合は悪化してしまうそうなので…』
もし、悪化したら…
それを考えるだけで、辛い。
『あまり、他の方と会わせない方が良いかもしれません。』
やはり、そうなるか。
なら…
剣士を続けられなくなる。
買い物は?
1人にする?
でも、琥珀さんは1人も怖いみたいだし…
それも難しいな。
『甘君、君が優しくし続けることでも変われるかもしれません。』
『そうですか…』
それでやってみるしかないか、
優しく、
僕は優しくすることが出来るだろうか?
それからはあまり話すことがないまま、帰ることになった。
結局お礼も伝えられず、
先生は忙しそうだったので、言う暇がなかった。
琥珀さんはどうしよう。
剣士はどうしよう。
これからどうすればいい?
『ごめんね、』
琥珀さんが謝った。
『琥珀は大丈夫だから、』
そうは言うけど…
『本当に大丈夫なのか?』
大丈夫そうには見えない。
『甘ちゃんが隣にいてくれたら大丈夫だよ、』
『でも、剣士はやめるよ。あそこは怖いことが多いからやめた方がいいでしょう?』
琥珀さんは寂しそうだった。
『琥珀に気を使わないで、甘ちゃんのしたいことをして欲しい。』
『・・・』
でも、続けられないよな…
『甘ちゃんは剣士、続けたい?』
それは…
何も知らない中で、
ほとんどの人は僕を悪者扱いする中で、
僕に居場所を与えてくれた。
危険な仕事ではあるけど、
僕は、
『続けたいとは思ってる。』
だけど、
1番寄り添ってくれたのは、
辛い時も手を握ってくれたのは、
僕にとって1番大切なのは、
琥珀さんだ。
『甘ちゃんに迷惑はかけたくないから、続けて欲しい、』
そんな…
『優しい人もいるってことは知ってるから。きっと、優しい人といれば怖くないはずだから、ね?』
琥珀さんは笑顔だった。
『いいのか?』
『うん!』
琥珀さんは頷いた。
家に着く。
今日は琥珀さんが借りている家に帰った。
『甘ちゃん、』
琥珀さんが僕の名前を呼ぶ。
『どうしたの?』
『琥珀も、強くなりたい。出来るかな?』
強くなる、
応援するべきなんだろうけど…
その必要があるのだろうか。
僕が強くなって、琥珀さんも守れるようになれば良いのでは?
・・・
『なりたいと本気で思っているなら、琥珀さんにだって出来るはずだよ。』
そうだ、
琥珀さんがなりたいと、言ったんだから、
応援するべきだ。
支えてあげるべきだ。
『一緒に強くなろう。』
『うん、ありがとう甘ちゃん。』
僕も強くなりたいから、
だから、
一緒に強くなろう。
24
Ⅸ
今日は目覚めてから初めて雨が降った。
朝からパラパラと降っている。
でも、今日は仕事だ。
雨の中だとどうなるんだろう。
そして、
やはり琥珀さんが心配だった。
『琥珀さん、行こう。』
『うん、』
琥珀さんと家を出る。
『傘はこれ使お、』
琥珀さんが、傘をさしてくれた。
2人で1つの傘に入る。
雨が傘に当たる音が少し心地よい。
だけど、
雨が降っている日はちょっと暗い。
気分もそれほど良くなかった。
今日は初日と同じ町の見回りだった。
皆、傘をさして歩く。
『あー、雨の日ってヤダなー』
如月さんがほんとに嫌そうに言う。
傘をさしても、少しずつ濡れていく。
靴が濡れて気持ち悪い。
でも、こう言う日にかぎって…
〔緊急!こちら第3隊!幸の森C地点で殺人事件発生!援助を願います!〕
無線から、慌てている声が聞こえた。
『私たちも向かおう!』
「「「はい!」」」
第1隊も向かう。
森の中、
人影を探した。
『第1隊、C地点内に到着した。』
鷹也隊長が言う。
ここら辺か、
〔こちら第4隊!D地点で黒い服を着た男を2人確認、4時の方向へ逃走中です!〕
〔こちら第2隊!A地点でも黒い服を着た男を発見!〕
複数の方向へ逃げたようだ。
そして、
『あそこにも逃走者が!』
『第1隊も、C地点で黒の服を着た男を発見した!』
『銅!行くぞ!』
僕は、傘を琥珀さんに渡して走る。
男はこちらに気づいて、逃げる方向を変える。
『挟み撃ちにした方が良いかもしれません!』
東雲さんが言う。
『僕は左から攻めます。』
僕は左へ向かって走る。
『では僕が右から行きます。』
東雲さんが右へ走る。
と、
前に第3隊の仲間がいる。
『前は任せてください!』
黒服の男が止まる。
そして、
銃を取り出した。
バン!
発砲音が聞こえる。
バン!バン!
こちらにも撃ってきた。
でも、皆で挟めた。
皆で、距離を詰める。
琥珀さんを置いて来てしまったので早く終わらせないと。
え?
琥珀さんが後ろにいた。
いつの間に!
まさか、
着いてきたのか⁉︎
なら、遠慮なくいこう。
まだ、銃を撃つ。
と、
近くの草に隠れた。
まずい、
どこに、
どこに行った?
ガサガサガサッ!
『そこだ!』
男を見つけ、走る。
男の腕を掴み、足をかけて倒す。
そして剣を、銃を持っていた腕に刺す。
皆が集まる。
皆で取り押さえる。
『逮捕だ!』
第3隊の1人が手錠を男の手につける。
手錠があるのか!
知らなかった、
でもこれで抵抗はできないはず。
『他も見てみましょう!』
東雲さんが言う。
〔こちら、1人の男を確保しました。〕
〔こちらでも、1人確保した!〕
元々どれくらいいるのかわからない。
次はどこに向かえばいいかもわからない。
25
こっちを見てみよう。
琥珀さんは着いてきた。
思ってたより速い。
と、
!
こっちは行き止まりか、
『あっちにいるぞ!』
如月さんの声が聞こえる。
あっちだな!
声のする方へ走る。
『琥珀さん、大丈夫?』
『うん、大丈夫!』
その先に人影がある。
ずぶ濡れになりながら走る。
如月さんがいた。
そして、その奥に、
黒い服を着た男を見つけた。
如月さんが走る。
速い!
草を華麗に避けて、突き進む。
僕も負けてられない。
こちらの男も銃を撃ってくる。
バン!バン!バン!
近くの木に当たった。
まだ、近づく。
と、
ガサガサガサッ!
っ!
琥珀さんの方に何かが向かっている。
『琥珀さん!』
僕は琥珀さんの方へ走る。
黒い服を着た男が草から出てきて、琥珀さんに銃を向けていた。
バン!
先に、僕が銃を撃つ。
男は避けた。
男の腕をかすめる。
まだか、
僕は剣に持ち替えて、斬りつけようとする。
銀色の光、
男も、剣を持っていた。
剣は、剣士しか持てないはずなのになぜ、剣を、
コイツ、
盗んだのか!
まさか、
誰かを殺したのか!
男が剣で、僕の攻撃を防ぐ。
まだ!
剣を振るう。
男も剣を振るう。
剣同士がぶつかり合う。
強い。
痛いほど押しつけられる。
『ぐぅっ!』
耐えるが、
男が足を蹴った。
あっ!
僕はバランスを崩して倒れる。
男は僕に乗っかり、剣を押し付けてくる。
上から押しつけられ、どんどん剣が近づく。
このままじゃやられる!
でも、動けない。
『やめて!』
琥珀さんが、傘で男を叩く。
琥珀さん!
男が琥珀さんを見た後、
琥珀さんに向けて剣を振るう。
『やめろ!』
僕は男に剣を振るう。
男はこちらに気づいて、剣で、僕の攻撃を受け止めた。
と、
『なぜ、』
?
男が喋る。
『なぜ、お前は戦う?』
︎男の声がした。
それは…
それは、なんでだ?
なぜ、どうして苦しまなきゃいけない?
それは、わからない。
でも!
今は!
『大切な人のために戦う!』
そうだ、それでいい、
『それが、僕のためだから、』
僕は、剣を振るった。
気づけば、男は倒れていた。
なんとか倒せた。
男が持っていた武器を遠くへ蹴る。
『クソッ!』
男が睨んできた。
『努力もしないで、生まれた時から力があって勝ち組な人狼が!ずっと努力をしてきた俺たちの夢を壊すんだ!お前らみたいな人狼が嫌いだ!』
努力をしていない?
勝ち組?
『どうせ、今までずっと俺みたいな普通の人間たちを見下してたんだろ!』
『何を言ってんだよ!僕たちは強くならないと生き残れない!ずっと苦しんで!ずっと悲しくて!ずっと痛い思いをしてきたんだぞ!何もしてないのに!近くにいるだけで睨まれて!態度も悪くされて!そんな僕たちが勝ち組?』
こんなに辛い思いをしてきたのに。
琥珀さんは心に深い傷を負ってしまってるのに。
『人狼が勝ち組なわけないだろ!好きでこう生まれたわけでもない!力を無駄に使っているわけでもない!僕たちはみんなのために、平和のために戦ってるんだ!出来ることなら逆に、普通の人間として生まれたかったよ!』
普通の人間として生まれてたら、こんなに苦しんだこともなかったはずだ。
『お前らが苦しむのは当然だろ!お前らは知らないだろうけどな!俺らだって、お前ら人狼のせいで苦しんでんだよ!お前らが生きてるから、死ぬべきじゃなかった人たちが死んでったんだ!お前らにその辛さがわかるかよ!』
『そりゃ人狼に悪い奴もいるだろうけどさ、全員がそうってわけじゃないだろ!』
『お前、一匹狼だろ?あんなに人を傷つけておいて被害者ぶるな‼︎』
僕と、男は怒鳴りあった。
永遠に終わらないように思う。
永遠に分かり合えないように思う。
でも、
『銅は、苦しむ人のために、人狼だろうが、普通の人間だろうが関係なく戦ってきたんだよ。周りから悪く言われても、自分を犠牲にしてでも戦ったんだよ。』
隣に如月さんが立っていた。
『それより、今のお前はどうなんだよ。苦しいからって人を傷つけて、よく言えたな。』
『お前らが悪いんだよ!お前らか傷つけたんだよ!目障りなんだよ!』
『銅が、先に傷つけたのか?違うだろ?銅は昔、自分が傷を負ってから攻撃するようにしてたんだぞ!』
!
前に見た夢で、僕が傷を負いながら戦っていたのは、そういうことだったのか。
なのに今は…
この男にも僕が先に銃を撃ち、先に怪我をさせてしまった。
『・・・』
男は黙った。
僕も黙っていた。
少しして、他の人たちも集まり、男に手錠をつけた。
『如月さん、ありがとうございました。』
僕は頭を下げる。
『いいってことよ!』
如月さんは笑っていた。
『如月さん、』
『ん?』
僕は如月さんの名前を呼ぶ。
『昔の僕は、自分が傷を負ってから戦ってたんですか?』
『そうだぜ、』
『でも今は、僕から傷つけてしまってた…』
僕は思い出す。
初めて銃を撃った時だって他の時だって、あの時目覚めてから今までほぼずっと僕から傷つけ、倒していた。
『いいんじゃねーの?』
『え?』
僕は驚いて、目を大きくした。
『確かにそうするべきなのかもしれないけどよ、自分は怪我をするんだろ?そんなことしなきゃいけないルールなんてないし、傷つく必要はねーと思う。』
・・・
『昔の銅がしてたことは、本当なら犯罪で、捕まってもおかしくなかったんだ、だから、自分なりで考えた代償だったのかもしれないな。』
人を傷つけるのは犯罪だ。
だから、こうやって…
『剣士のみんなも、最初は銅を捕まえようとしてたけど、そのおかげで認められたんだぜ!』
そうだったのか…
僕たちは歩く。
『琥珀さんも無理させちゃってごめんね、』
僕は琥珀さんに謝る。
『琥珀は平気だよ?』
琥珀さんは笑顔で言った。
と、
『クッ!』
後処理班に連れられている、先ほどの男が睨んでいた。
僕は、その男の方へ歩く。
『人に理想を言うだけじゃなくて、自分がまずそうなれよ、』
それだけを伝えた。
男は悔しそうにしていた。
仕事も終わり、帰る。
明日休みなので、琥珀さんが借りていた家へ向かう。
前から男が歩いてきた。
ここら辺を歩く人は少ない。
珍しいなと、思っていた。
だが、
すれ違おうとした時、
『久しぶりだなぁ、一匹狼くん、』
耳元でそう言われた。
男は怪しく笑いながら歩いていく。
『待て!』
そう言って振り返ったが、
暗くてよく見えなかった。
特に危害を与えてきたわけではなかった。
でも、怪しく感じた。
26
Ⅹ
今日は、休みだった。
琥珀さんが身体を寄せてきた。
『今日はどうする?』
もう、行きたい場所はなかった。
島をもっと見てまわるか…
『・・・』
でもひとつだけ、なくはなかった。
『琥珀さん、怖い人がいるとこに行きたいって言ったらどうする?』
琥珀さんは、少し考えたようだが、
『甘ちゃんと一緒なら大丈夫だから、そこに行くよ?』
この言葉を信じていいんだろうか。
でも、もうそろそろ行っておいた方がいいだろう。
そして、
無法地帯に行く。
と、
入り口付近に男が立っていた。
あ、
忘れてた。
入れるだろうか、
最悪、銃で撃たれるかも。
僕は恐る恐る、向かう。
『こ、こんにちは〜』
が、
『止まれ!』
『はい‼︎』
僕は男の声に驚く。
『銅か、入っていいぞ。』
『え?』
予想外だった。
こんなにあっさりと入れさせてくれるのか…
『なんだ、入らないのか?じゃあ何しにきたんた?』
『あ、ああ!はい!入ります!』
僕は敷地内へ入る。
と、
『この子もか?』
男が琥珀さんを見て言う。
『は、はい!一緒に連れて行ってもよろしいでしょうか⁉︎』
僕は焦りながら言う。
『まぁ、いいぞ。あまり騒ぎを起こさなければそれでいい。』
はぁ、
でも、琥珀さんも入れた。
『ここ、どこ?』
琥珀さんが訊いてくる。
まぁ、無理もない
『ここは、無法地帯だ。』
『え”ぇ”っ”、』
琥珀さんが驚いた声を出した。
まぁ、これも無理はないか…
僕と琥珀さんは歩く。
すれ違う人々は皆銃を持っている。
琥珀さんは、怖がっていた。
『ごめんね、琥珀さん。ある人たちと会おうと思って…』
やっぱり来るべきじゃなかったかも…
ついこの前、人とあまり会わせないように、怖がらせないようにと言われたばかりなのに、
『琥珀さん、今日一日頑張ったらご褒美をあげよう!』
『え、ほんと!』
琥珀さんが目を輝かせていた。
こんなことしかできなくて本当にごめん!
『あら、見ない顔ね。』
ふと声が聞こえてきた。
知らない声、
僕は声がした方を見る。
そこに1人の女性が立っていた。
『アンタ、ここの人じゃないでしょ。ここに何しにきたの?』
女性が言う。
『えっと、五十嵐さんと蒼…』
『あぁー、アイツらに用があったの?わざわざここまで来て、大変ね。』
僕は言葉を最後まで言わせてもらえなかった。
『どこにいるか、場所は知ってんの?アイツら、いろんなとこに行ってるけど、』
『拠点の場所は知ってるけど…』
『その感じ、今どこにいるかわからないんでしょ。多分こっちよ!』
女性がどこかへ走り出す。
『何ボサっとしてんのよ、早く行くわよ!』
僕と琥珀さんも走る。
女性についていく。
速いな、
琥珀さんもついてこれているみたいだけど…
女性が、元々建物だっただろう瓦礫を軽々と登っていく。
僕と琥珀さんも登る。
琥珀さんが登るのを手伝いながら追いかける。
と、
『いたわよ、』
女性が見ている方向に五十嵐さんと蒼さんがいた、
2人とも走っていた。
そして、
その前に大きなバッグを持った1人の男が走っていた。
『あの男を追いかけているみたいね。私たちも追いかけましょう。』
そう言って、女性は瓦礫の山から飛び降り、男を追いかけた。
僕と琥珀さんも追いかける。
『お!銅ッチ!来てくれたんだね!』
五十嵐さんが僕に気づいたようだ。
『今、あの男を追いかけているんです。』
蒼さんが言う。
『僕も手伝います。』
『助かる!』
『ありがとうございます!』
2人が言った。
『ヒナタも来てくれたんだな!』
と、五十嵐さんが先ほどの女性に言う。
『その2人がアンタたちに用があるって言ってたからちょっと手を貸すだけよ。』
女性の名前はヒナタと言うのか、
と、男が路地を曲がる。
『アタシは上から見るわ!』
と、ヒナタさんが横の建物の壁へジャンプし、反対の壁も使いながら建物の上へいく。
マジかよ!
運動神経がいいんだろうな。
僕たちは走って追いかける。
だが、
『あれ?どこ言った?』
男を見失ってしまった。
『別々に行動しましょう、銅さんは、前をお願いします。』
蒼さんが言う。
僕と琥珀さんは前へ走る。
27
-銃に付いているスコープを覗く。
そこに、1人の男と、少し離れたところに五十嵐と蒼が追いかけていた。
と、
瓦礫の山からヒナタが現れて男を追いかけ始める。
『・・・』
そして、その瓦礫に男と女の姿がある。
その2人も遅れて、男の方へ走る。
あの男は知っている。
あの時、五十嵐と蒼の隣にいた。
『今日も来たのか、』
俺はもう一度、バッグを持っている男を見る。
この後、どこに行きそうかはなんとなくわかった。
俺は、建物を降りる。
薄暗く、ゴミが散乱している道を歩く。
と、
遠くから足音が聞こえる。
1人、走って近づいてくる。
姿は見えずともわかる。
俺は、ゴミ箱の裏に身を潜める。
やはりここへ来たか、
もうそろそろか、
俺はゴミ箱の裏から身を出した。
『うわぁ!』
男が驚き、尻餅をつく。
俺は男に近づく。
『そのバッグに何が入ってる、』
俺は銃を男に向けて言った。
男は身体を震わせていた。
『こ、これはっ…』
男はバッグを大事そうに抱えたまま言う。
『どうしてもこれが必要なんだ!大事な娘のために!』
『・・・』
俺は黙って聞いていた。
『娘は病弱で重い病気にかかってて、治すのに大量のお金が必要だったんだ!でもそんなお金はないし、でももう時間がなくて、こうするしかなかったんだ!』
なるほど、
『色々な店から、少しずつ盗ったんだ。少しならいいだろう?どうせ、贅沢なことに使うんだろうから!だからちょっとだけ盗ったんだ!』
だからか、
『なあ?お前は、その店のものだけど贅沢なことに使われるのと、盗んだとしても1人の命を救うために使うの、どっちに使うべきだと思うんだ?なあ!教えろよ‼︎』
正直、迷っていた。
ー『周りのことなんてどうでもいいでしょ、私たちが幸せならそれでいいじゃん。』
『気に入らない奴は全員蹴散らしてしまえ。俺たちの名を汚すなよ、カイト。』ー
嫌いな奴の声が聞こえた。
クソジジィとクソババァの声を聞くだけで反吐が出そうだ。
ー『助けてくれてありがとう、お兄さん!』ー
『・・・』
初めて俺に感謝をしてくれた女の子。
名前も知らない子だ。
でも、俺を変えてくれた英雄の1人。
その女の子の声が聞こえた。
と、
男が逃げようとしていた。
『チッ!』
どうすればいいかなんてわかんねーよ!
ー『では、あなたが経験した中で、本当に正しいと思ったことをしなさい。そうすれば、気づいた時には誰かを助けているはずだ。』ー
まただ、
別の英雄が、
初めて憧れた人の声がした。
ー前を向けー
ー自分を信じろー
『待て、』
俺は自然と、そう言っていた。
『なんだよ!俺が間違ってると言いたいのか!』
『他にも多くの奴らがお前を捕まえようとしている。』
『んなのわかってるよ‼︎』
男が大声をあげた。
だから、
『だから、援護する。』
『は?』
これでいいだろうか。
でも、
これが、俺の答えだ。
正しいと本気で考えて、
本当に正しいと思ったことだから。
『お前なんか信じられねーよ!』
『信じなくていい、俺がそうするだけだ。』
男が走る。
俺も後を追う。
『来るなよ!』
でも、ついていく。
そして、
『見つけた!』
五十嵐が、脇道から出てきた。
『やめろ!』
俺は、五十嵐に言う。
『柳原…どうして……』
なんて言おう、
『大事な命のために、今はやめろ。』
上手く伝えられただろうか。
でも、五十嵐は追いかけるだけで止めようとしなかった。
その後、蒼も合流、
あと…
一匹狼たち、
俺たちは男を追いかけた。-
ー建物の屋根から、バッグを抱えた男とスナイパーライフルを持った男の一部始終を見ていた。
『へぇー、アイツもやるじゃん。』
もう、アタシの出番はないだろう。
男たちに背を向けて歩く。ー
皆と合流した。
バッグを持つ男は、古びた建物に入っていった。
ここか、
五十嵐さんから少し、話を聞いていた。
男が入っていった建物の中へ入る。
と、
『これで、娘を!』
受付で、男は言う。
しかし、
『これは、盗んだものですよね?』
受付で、止められていた。
『お願いします、娘を…』
『それは出来ません。』
と、
周りから、銃を持った男たちが現れる。
『ここへ来ると思っていたぞ、持っているもの全てを捨てて手を上げろ!』
銃を持った男が言う。
男は仕方なく、手を上げた。
『ちょっと待ってくれ!』
五十嵐さんが、言った。
『君たちは…』
『その男は大事な娘の?命を救うために?お金を盗んだ?と聞きました。それが本当なのかどうか、わかりませんか?』
五十嵐さんは受付の方に訊く。
まだ状況は、五十嵐さんにもよくわかっていないようだ。
『はい。こちらの方には娘がいて、治療をするのに、多くのお金が必要でした。』
『なら、』
五十嵐さんは、柳原さんの背中を押した。
柳原さんはウザそうな顔をした後、困った表情を見せた。
『俺が決めることじゃない。でも、命が優先だ。その娘のために、金を使ってくれ。』
柳原さんが言った。
『でも、それは…』
『俺も、その娘に使ったほうがいいと思います。』
五十嵐さんが言った。
『命を優先するべきだと思います。』
蒼さんも言う。
『あなたたちに決められることではありません!』
受付の方は受け入れてくれなかった。
何か、言わないと…
『命を落とせば、もう助けられないんですよ。手遅れになってからじゃ、遅いんですよ。少しでも早い方が助かる可能性も高いはずです。お願いします。』
僕は頭を下げて言う。
『そうです、助けられる時に助けないと!』
本当は悪いことなんだろう。
最悪、本当にもらうべき人に渡ったことで、別の誰かが助かるということがあるかもしれない。
だけど、放っておけない。
命のために、この男はお金を盗んだ。
悪いことだけど、
覚悟のいることた。
だから、少しでも報われて欲しい。
僕が同じ立場なら、
同じことをしていたかもしれないから。
『わかりました。こちらのお金を使って、治療を行います。』
受付の方が許してくれた。
『そのかわり、きっちり働いて返してもらわないとな。』
『あ、ありがとうございます。』
男は、泣きながら頭を下げた。
『罪は認めます。刑務所にでも入ります。でも、どうか娘をお願いします…』
男は泣き崩れた。
この人は悪いことをした。
でも、悪い人ではないんだろう。
『よかったですね。』
『はい。皆さまも、本当にありがとうございました。』
男は土下座をして感謝を伝えた。
『お力になれて良かったです。』
僕は微笑んで言った。
『銅ッチ!サンキューな!』
五十嵐さんが肩に腕を乗せて言う。
『お疲れ様でした。』
僕は笑顔で言った。
『皆さん、お疲れ様でした。』
蒼さんが返した。
『お疲れ様!』
五十嵐さんが元気に言う。
『そういえば、銅ッチってなんですか?』
気になっていた。
多分僕のことだろうけど。
『銅のことだけど、ダメかな?』
『いえ、気になっただけで大丈夫ですよ。』
ちょっとだけ気になるけど…
『それより、その子は誰なんだ?』
五十嵐さんが、琥珀さんを見て言う。
そうか、琥珀さんと会うのは初めてだったな。
『あぁ、この子は琥珀さん。ちょっと怖がりなんです。』
ちょっとどころではないんだろうけど、
『彼女か?』
!
僕は驚く。
『お、その反応は正解だな!一匹狼卒業おめでとう!』
『やめて!』
蒼さんも笑っていた。
『おめでとうございます、銅さん。』
恥ずかしいな。
『琥珀さん、銅さんにくっついていますね。』
蒼さんが言う。
『昔のことが原因みたいで、人が怖いそうです。』
『俺と蒼ッチは大丈夫か?怖がらせないようにはするけどよ、今も怖いんじゃないかな?』
そうかもしれないな。
でも、そうだとは言えないよな。
『もう、そろそろ戻りましょうか。』
『そうだな、じゃあこれで。また会おうな!』
気を使ってくれたんだろうか。
もうしわけないな。
それにあまり話せていなかった。
28
-『なぁ、柳原ッチ!何黙っ…」
そこにいると思っていた人はいなかった。
『ちぇー、やっと分かり合えたと思ったのにな、』
『でも、少しは変わったと思います。もう少し時間をかけていけば、昔のように…』
昔のように、3人で。いや、今は5人で守ることができる日が来るかな。
『さて!戻るか!』
『はい、戻りましょう。』
蒼ッチと拠点へ戻る。-
-また、定位置に戻る。
ここは人がいない、
廃墟と化したマンション。
今はいない、師匠との思い出のある場所。
『ありがとう。助かった、師匠…』
その声は、風に乗ってどこかへ消える。
『・・・』
そこに、師匠が使っていた銃が置いてある。
『俺は…どうしたらいい?』
返事は返ってこない。
昔も、ヒントばかりで、
答えなんて教えてくれなかった。
まぁ、答えなんてないんだろうな。
でも、今もそれから逃げていた。
全て、アイツらのせいだ。
俺に間違いを教えてきた、
間違いを正しいことと教えてきた、
親のせいだ。
そのせいで、
多くの人を傷つけてしまった。
人を幸せにする方法は知らなかった。
あの時まで、
あの子と会うまで、
助けたつもりではなかった。
気に食わない奴らが小さな女の子を囲んでいた。
俺は気にせず、気に食わない奴らを蹴散らしただけだった。
なのに、その子はお礼を言ってきた。
それから人を助けることの良さ、お礼を言われる嬉しさを知った。
そして、アイツと会った。
学校で、浮いていたアイツは俺に、
人助けをしないかと聞いてきた。
ダサいと、ガキかよと、
多くの人がバカにしていたのに、
俺も、意地悪ばかりしていたのに、
アイツはにこにこ笑っていた。
俺は、
そんなアイツにいつのまにかひかれた。
『五十嵐、お前は蒼がいなきゃバカばかりして、本当にバカだよ…』
でも、おかげで、
師匠と会えた。
俺も変われた。
『そして、俺も、』-
僕は、無法地帯を出る。
そして、家まで帰る。
その前に、
『琥珀さん、お昼どこかで食べる?』
もうお昼だ。
『うん、どこかで…』
と、
急に、近くで足音が聞こえる。
近づいてくる。
!
気づくと、
腕に注射器が刺されていた。
『いたっ!』
グッと押さえつけられ、
中の液体を入れられる。
『やめろ!』
僕は手を振り払って、抵抗した。
そこに、
フードで顔を隠した怪しい男が立っていた。
あの時の男か?
違う気がする。
僕は、琥珀さんを守ろうとした。
が、
眠い…
目が…勝手に……、
『なに…を…した、』
視界が狭くなる。
視界が斜めになる…
最後まで、男の怪しく笑った口が見えた。
『甘ちゃん!』
琥珀さんの声が聞こえた気がする…
けど、もうどうすることも出来なかった…