「……え?あ……!」
もう一つの手で肩を掴まれ、右京はベッドに押し倒された。
「な……がつ…き…!」
右京を押し倒した永月はぐっと太腿の下に腕を入れて、右京の脚もベッドの上に持ち上げた。
「―――あ」
その力の強さに、恐怖と共に興奮も覚える。
こんなに甘いマスクをしてるのに。
こんなに優しく微笑んでいるのに。
彼は―――。
自分よりずっと強い、雄なんだ―――。
顔の左右に手をつき、永月がこちらを見下ろす。
「嫌だったら言って」
「――――っ」
肘をつき、顔を寄せる。
親指で唇をなぞられると、ゾクゾクとうなじあたりに鳥肌が立った。
力が入る膝に重心がかからないように、永月が足を開いて右京をまたぐように膝をつく。
「右京……」
その声が脳髄を溶かす。
こんなこと……。想像もしていなかった。
テレビ画面で永月の姿を見つけ、その高校名を必死にメモした時も、
雨の中、全国大会の観戦チケットを買い、国立競技場の列にならんだ時も、
転校が決まり、注文した学生服の袖に腕を通した時も、
校内で、廊下で、体育館で、グラウンドで、永月の気配を探そうと、感じようと、神経と研ぎ澄ませていた時も、
同じクラスになった時でさえ、
こんなことになるなんて、想像していなかった。
体重がかかる。
自分よりずっと重い体がのしかかってくる。
その圧迫感と温度に、心臓が爆発しそうになる。
息がかかる。
睫毛の1本1本が見えるほどの近さに、耐えられずつい瞼を閉じてしまう。
唇が僅かに触れた。
と思ったのは一瞬で、すぐさま熱い舌が入ってきた。
「ん……あ、ん……!」
重心が少しずらされ、Tシャツの下から、永月の手が入ってくる。
永月のそれとは違い、筋肉が発達しているのではなく、ただ贅肉がないために浮き出ている腹筋のラインをなぞられる。
「……は……」
舌の間から息が漏れる。
肋骨の中心を撫でていた指が左の突起に到達する。
「―――永月……!」
このままじゃ、突っ込まれた舌のせいで、あられもない声が漏れそうで、右京は顔を背けた。
「ちょ……、ストップ……!」
「ここ、感じやすかったよね、右京……」
永月は右京の唇を解放すると、再び肘をついて右京の胸を覗き込んだ。
中指がそこを優しく撫でる。
―――感じやすいんじゃない。感じやすくされたんだよ…!
一瞬、脳裏に赤い髪の毛が浮かぶが、硬くなったそこを永月が軽くつねると、その姿はたちまち見えなくなった。
「―――ふ……」
腕で口を覆うと、永月はTシャツを捲りあげ、色素の薄いそこに舌を這わせた。
「んん……!」
甘く熱い刺激が体の中を通って、熱として股間に集まる。
そこに、今まで彼に寄せてきた想いが混ざり、うねるような欲が溢れ出してくる。
「……………!」
右京は思わず永月の背中に腕を回した。
盛り上がる肩甲骨、引き締まった腰の筋肉が、ますます右京の思考回路をとろけさせていく。
……夢、みたいだ……。
こいつと、こんな風に………。
右京は潤む瞳を、ゆっくりと閉じた。
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意識が、溶ける。
風景が回る。
右回り。
いや―――。
左回りか?これ……
「聞こえる?蜂谷……?」
揺れた声が聞こえてきて、
視界に誰かが覗き込んでくる。
顔は見えないのに、黒ずんだ鼻の頭の毛穴だけよく見える。
「本当は、赤い悪魔のことを聞きたくてお前を呼んだわけじゃない」
―――赤い悪魔?
しつけえな。
知らねえって言ってんだろうが。
被害者に話を聞けよ。頭わりいな……。
「被害者に?聞いたよ。話。だから探してるんだろうが」
頬に痛みが走る。
殴られたのか?
蹴られたのか?
それとも踏みつけられたのかも。
―――わかんねえ。
「なあ。お前の学園のさ。生徒会長いるだろ……?」
せーとかいちょー?
「右京賢吾君だよ」
「――――」
―――なんでこいつらからあいつの名前が……。
「あの子って何者?」
―――何者って。ただの生徒会長だろ。
「最近転校してきたんだよね?」
―――だからなんだ。
もしかしてこの間のこと引きずってんのか?
あんなことで小さい野郎だ。アレも小さいんじゃねえのか?
「はは、言うねえ」
笑い声が複数聞こえる。
「右京君はどこから引っ越してきたの?」
―――はあ?
「それって―――」
―――なんだよ。
「東北のどっかだったりする?」
―――どうしてそれを……。
胃からゴポゴポと変な音がする。
強烈な吐き気が上ってくる。
「うわ、こいつ吐きやがった」
「おいおい、勿体ないだろ。高い酒なのにー」
「しょうがない。吐いた分また入れてやるかー」
「口開けよ、ほら」
「こら、寝んな」
「これからだろうが」
「酒より俺のチンコのほうがいいか?」
「はは、えげつないっすよ、多川さん」
「小さいかどうか、確かめてみろよ」
「うはは、やべー」
「どうだ、蜂谷?小さいか?」
「ーーーー?」
「ーーー、ーーーーー」
「ーーー!ーーーー」
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