💡がヒーローをやめる話。特定の視点はなし。妖術・妖魔に対する捏造。体調不良あり。
ご本人様とは関係ありません。
「-で、この妖魔の能力は…」
昨日、妖魔の接近を感知。そこで西のヒーロー、Dyticaの全員が集まり説明を受け、4人で食い止めるのだ。
しかしどうだろう。伊波以外の三人なら妖魔に対抗する術は沢山あったかもしれない。だが伊波は機械技術を用いて闘う普通の人間である。妖魔には普通の人間として対峙することになってしまうのだ。サポートはできても、攻撃を仕掛けられた場合足を引っ張ってしまうのは伊波、ということは己が一番自負していた。そこで限られたできることをするのが伊波の仕事である。
「伊波、索敵」
「うん、分かった」
索敵をし、作戦通り進められることを確認する。一風変わった妖術を使うようだが、恐らく伊波以外の三人はいつもと同じように対策できるだろう。
「作戦通りいける」
「よし、…じゃあ伊波は下がれ」
これもいつもなのだ。伊波は己が妖魔に対して何も出来ないことは十も承知であるが、この線引は根からヒーローである伊波にとっては十分辛いものだ。
そんな一瞬の考えが戦場では命取り。下がるまでの思考にはどのくらいかかっただろうか。あの妖魔からの攻撃を感知した伊波自身の機械。
刹那、伊波の頭は警鐘を鳴らす。体が思うように動かず、頭痛も酷い。
「ライ!」
「どうしよ、ライは妖術くらったら」
「今の症状言え、どっか痛いとか」
「…ぁ、あたま、痛い…」
口でさえも思うように動かせなかった伊波は単語単語を発するのが限界だった。なんとか紡げた言葉は小さく、己でさえも聞き取れるかは分からないほど。それでも彼らなら聞き取ってくれるだろう、という望みに近いものを込めて。
「ぼくがライのこと運ぶ」
「わかった、じゃあ星導もついて行け」
「小柳くんは一人であの妖魔と?」
「そうだけど」
「…分かりました、気をつけて」
「おう」
なんやかんやで役割も決まり、伊波も少し緊張の糸が緩んだことで意識は遠のいた。
「やばい、伊波意識が…」
「早く運ばないと」
「うん、着いたらすぐ術かける」
仮拠点まで辿り着き、星導が伊波を寝かせる。やはりまだ頭痛は続くのか、少し顔を顰めている。それを見てまた二人も少し悲しそうな顔をした。
術をかけ終わったらしく、黙りこくって叢雲は伊波を見ていた。普通の人間に対して妖術は様々な影響があり、これから回復には向かうだろうが何日かは恐らく寝込むと予想される。
「あ、小柳くん」
「早いやん」
「…伊波は」
「大丈夫、多分。もうちょっとしたら起きると思う」
「ふーん、…まあ、良かった」
叢雲の言った通り、その後伊波の意識は戻った。それでも頭痛はまだ続いているらしいが。
西の拠点に帰り、任務も完了したため伊波の看病をすることになった。熱を測ると39℃あり、思ったよりも寝込むことになってしまった。
「あ、ライ起きたんだ」
「食欲は?」
「…ない」
「おけ、じゃあ寝とけ」
伊波は二人が出ていった音を聞いてからため息をつく。要らぬ思考はぐるぐる巡り、マイナスな気持ちにさせる。妖魔には何も出来ず、足を引っ張ってしまった。その事実が重くのしかかる。
伊波はもともとヒーロー専属の特別なメカニック、というだけだった。その技術を使って戦うための道具を作って、そのまま自分も闘うことになって。ヒーローになりたくなかった訳じゃなく、なれやしないと区切りをつけていた。だからこそ戦闘に対する理解は他より浅く、経験も少ない。
前に誰かが言った。東ならまだしも、西では伊波は役たたずだ、と。不思議な力を扱う西では確かに伊波は変わり者かもしれない。対抗する術など持ち合わせていないかもしれない。それでも自分にしかできないこともあるから、と西でヒーローをするのは伊波自身の意思なのだ。
それでもやはりほかの三人に劣る部分は多い。劣等感を感じているのも確か。しかしそれを補う努力はしてきた。それでも追いつけなかったのも確か。
「オレ、ほんとにヒーローやってていいのかなぁ…」
その呟きの後、ヒーローを辞める。そんな選択が頭をよぎった。そうだ、やめてしまえばいいんだ。これまであった辛いことも無くなる代わりに嬉しいことも無くなるけれど。それでも、もう楽になりたい。
「あ、まだ寝てなかった」
「小柳、…オレ、ヒーローやめようと思ってんだ」
「な、んで急に…」
「ちょっと疲れちゃった」
しばらく沈黙が続く。この沈黙の間、小柳は何を考えるだろう。もしくは伊波自身は何を考えた。言ってしまった発言は取り消せないが、いざ口に出すと寂しいと思ってしまった。
「まだ待てよ、もうちょっとでいいから、それからまた考えよ」
「…うん、そうする」
頑固な伊波は己がこれからどうするか、予想が着いている。きっとヒーローは続けていない。
みんなのことを考えて、伊波は目を覆った。
コメント
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内容が深すぎる… ストーリー性があってめっちゃ面白かったです!!