ザッザッザッ
歩く音が静かな森に響く。
今日も、生きずらい。
鬼人は、狙われ、襲われ、挙句の果てに殺されそうになる。
自分の頭に生えた角にちょんと触れた。
嗚呼、これは飾りじゃない。
本物だ。
なんで、鬼人なんかに生まれてしまったんだろう。ハズレを引いてしまった。
ちらりと霧矢を見る。
霧矢は、月を見ながらご機嫌だ。
でも、やっぱり少し怪我をしてる。
「霧矢」
「うん?」
月夜に照らされた美しい彼氏の名前を呼ぶ。
『月凪 霧矢』
彼の名前には、美しい所しかない。
羨ましいくらいに、彼は美しかった。
「怪我……大丈夫……?」
「ん?嗚呼、これくらい大丈夫だよ。楓に手当してもらうし」
にこにこと笑いながら言う。
羨ましい。全部が。
綺麗で、美しくて、好かれやすくて、優しくて、ウチに無い所を、全部持ってる。
だから、羨ましくて仕方がない。
「そっ……か」
ウチは何となく気まづくなって、霧矢から目を逸らした。
なのに、霧矢はウチの顔を覗き込んだ。
「琴の方が怪我酷いでしょ。大丈夫?」
心配した顔で問う、彼。
嗚呼、辞めてくれ。そんな顔でウチを見ないで。ウチは、霧矢が思ってるような奴じゃないんだよ。
そうやって、心配して、優しくされたら、また、生きずらい。
霧矢が大丈夫か聞けば聞くほど、ウチは、生きずらくなる。
だって、霧矢が羨ましくて堪らなくなるから。
「だい……じょうぶ。ウチも楓に手当してもらうし」
多分、アイツも霧矢が好きだったんだろうな。
だから、ウチより霧矢に優しかった。
ウチは、誰にでも同じように接する。
だから、多分、霧矢にも、アイツにも、好かれていないんだろうな。
嗚呼、やっと分かった。
この胸の真ん中にある、もやもやの正体。
「そっか。歩ける?……って今更だけど」
「うん。だいじょぶ」
また、羨ましくて仕方がない。
コメント
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最高。