sm「鈴村京花はどこにいる」
前を進むスマイルが病院に受け付けにいる女性にいきなり聞く。受付の女性は愛想よく「三階の病棟です」と答えると、スマイルは礼も言わず歩き出す。僕はそれを追いかけつつ受付の女性に謝罪の意を込めてお辞儀をする。すいません。こういう人なんで。その間にもスマイルはぐんぐん先にいってた。
ともさんから犯人候補の情報をもらったあと、僕らは実際に鈴村京花が入院していると言う白尾総合病院に来てた。僕とスマイルはエレベーターを使い三階まで上がる。スマイルは早く会いたいのかボタンを連打してる。
bl「スマイル、そんな押しても早く来ないから」
そう言うとスマイルは不思議そうな顔をして「そうなのか?」と聞いてくる。こういうとこがちょっと抜けてるんだよな…スマイルは謎を前にすると常識からもっとも遠い存在になる。いつもの彼なら連打なんてしないだろうが、謎を前にしテンションが上がっている状態ではいつもこんな感じになってしまうのだ。結局普通のスピードで三階につく。スマイルはキョロキョロすると、近くにいる看護師に近づく。
sm「鈴村京花とその主治医はどこにいる」
いきなり来てタメ口で話しかけてきたスマイルを見て、看護師は明らかな戸惑いを見せる。
看「えっと…鈴村さんは一番奥の個室病棟に入院してます。主治医は今、他の患者を担当中だと思います」
戸惑いながらも、後ろの右側を指差す。返答した看護師に対してスマイルは、さっきの受付の人と同じように礼を言わず、脇を通り抜ける。僕はまたしても謝罪の意を込めお辞儀する。訝しげな目線を後ろに感じながら、スマイルの後を追う。
bl「スマイル歩くの早くない?」
sm「そうか?すまん」
話しながら奥の個室病棟に着く。数歩先に見えたとき、扉が開いた。中からは気の弱そうな僕らと同じくらいの年頃の学生が出てきた。そして、僕らの横を通り抜けていった。何だか思い詰めたような表情をしてたのは気のせいだろうか。首をかしげながら病室の閉められた扉の前にいく。すると、スマイルは扉をがらがらと開け「鈴村京花はお前か?」と、なんの前置きもなく聞く。病室の中央に置かれたベッドに、一昨日教卓の前で倒れてた少女が上半身を起こして、シャーペン片手に何か読んでいた。
ky「はい…そうですけど…どなたですか?」
ビックリしたように鈴村京花は目を見開く。あのときはよく見えなかったが、かなり整った顔をしていた。艶やかで長い黒髪に、平行な眉と垂れ目気味の目。形の良い鼻と薄い唇が、それぞれ主張しすぎず顔にパーツとして存在してた。スマイルが口を開く。
sm「俺は入間紫音だ。お前が倒れてるのを発見した張本人。率直に言うが俺は天才だ。俺なら、誰がお前を襲ったのか解決することができる。そのために本人から情報がほしい。いいか?」
一気に捲し立ててスマイルは言う。鈴村京花はいきなり「お前」と、呼ばれ整った眉の間にシワを寄せる。更に、一気に情報が押し寄せたせいか、混乱が顔に浮かんでた。そして、今度は僕の方を見る。
ky「あの…隣の人はどなたですか?」
僕は首をすくめるように会釈する。スマイルは僕を親指で指しながら答える。
sm「こいつは古谷璃空。俺の相棒で保護者だ」
そう言った途端、僕とスマイルを交互に見る。不思議そうに何回か見た後、躊躇いがちに口を開く。
ky「…古谷さんが、入間さんのお父さん?」
bl「違うそう言う意味じゃない!見張りってこと!」
とんでもない誤解されてるぞ。隣を見るとスマイルは笑いだしそうなのを堪えてる感じだった。…どういうことだ。
sm「悪い。で、本題に戻りたい。俺らはお前を気絶させた犯人を見つけようとしてる。お前も知りたいだろ?犯人が誰か」
そう言うと、鈴村京花は一瞬、迷いの表情を見せる。これに僕は少し違和感を覚える。僕が鈴村京花と同じ立場だったら、すぐに知りたいと即答してただろう。なぜ迷うのかわからなかった。やがて、数十秒ほど黙っていた鈴村京花は小さな声で言葉を発した。
ky「…知りたいです」
途端にスマイルは「そうこなくっちゃ」と言うと、笑みを見せた。いつもは無表情でいることが多いが、謎を解決しようとしてるときはどちらかと言えば、ニヤニヤしてる方が多い。テンション上がってるんだろうな~…。そして、こういう時は僕ではなくスマイル自身が話を進めるパターンが大体だった。
sm「じゃあまずお前の事からだ。最近何かおかしいことはあったか?誰かに尾けられてる感じがしたとか…」
鈴村京花は顎に人差し指をあて、んーと言いながら考える素振りをする。
ky「尾けられてるっていうのはないと思います。けど、おかしなことはあって…」
sm「一体なんだ!」
急にスマイルが身を乗り出す。その剣幕に驚いたのか、鈴村京花は目を見開いている。
bl「スマイル、体」
ハッとしたような顔をすると「悪い」と、一言だけ言う。
sm「で、おかしなことって何だ?」
冷静さを取り戻したのか、いくらか落ち着いた声で言う。鈴村京花はそれを見ると口を開く。
ky「なんか最近、急に倒れることが多くなって…貧血かと最初は思ったんですけど、にしては多いし、お医者さんからも検査データに以上はないって言われてるし…」
急に倒れることが多くなった…ん?それってつまり…
bl「ってことは、鈴村さんは誰にも襲われてないってこと?」
独り言のつもりだったのだが、耳が良いスマイルには聞こえてたらしく彼は僕を見ると目を見開く。
sm「鈴村京花。お前は勝手に倒れたのか?今回だけ誰かに襲われたのか?」
いきなり質問を早口で捲し立ててくるスマイルの剣幕に戸惑いながらも「えぇ。そうですけど…」と、答える。
sm「となると、倒れた回数の四回のうち三回は謎の意識不明。後の一回は恐らく人の手によって…」
ぶつぶつと何か呟き始めた。多分、考えをまとめているのだろう。スマイルは一人の世界に入り込む。そこで、病室内の会話が途切れる。気まずい沈黙が流れる。
bl「そのノート。びっしり書いてあるけど、何についてなの?」
沈黙に耐えきれず、何とか話題を見つける。鈴村さんは手元にあるノートに目を落とすと、こちらに向き直り、
ky「これは、医者になるために勉強してるんです。将来内科医を目指してて…」
恥ずかしそうにそう答える。
sm「てんかんについて、特によく書かれてるな。あれか?自分もてんかんだからか」
いつの間にか現実に戻ってきたスマイルが、鈴村さんに問いかける。
ky「はい。自分の病気でもあるので、何となく調べちゃって…」
鈴村さんは、はにかみながら言う。
sm「少し写真を撮っていいか?」
もうすでにスマホを取り出しているスマイルに対して、もはや少し引きながら「構いませんけど…」と口にする。すると、スマイルはすぐにカシャカシャと写真を撮り始める。数枚ほど撮ると「ありがとう」と言って返す。すると今度は、写真を見ながらぶつぶつ呟き始めた。このタイミングで僕は先程気になったことを「鈴村さん」と呼び掛け、質問を投げ掛ける。
bl「さっき病室の前で僕らと同じくらいの人とすれ違ったんですけど、あの人って誰ですか?」
聞くと、鈴村さんは少し顔を赤らめる。
ky「私の恋人です。荒牧日向(あらまきひなた)君。向こうから告白してきて…」
照れながら話すその姿は、恋愛慣れしてない少女だった。
bl「もう一つ聞きたいんだけどいい?」
鈴村さんは「何ですか?」と聞き返すと、僕は再び口を開く。
bl「荒牧さんと何か大事な話でもした?」
聞いた途端、彼女の顔に動揺が走ったのに、この時僕は気づいた。一瞬固まった後、少し震えた声で、「いや、特に…少し雑談をしただけです」と答えた。何か隠してる。恐らく、僕じゃなくても分かるだろう。訝しげな視線を彼女に向けてると、後ろからガサゴソとする音に気づいた。振り返ると、スマイルが病室のゴミ箱のなかを漁ってた。
bl「…何やってんの」
sm「なにって、見りゃ分かるだろ。手がかり探しだ。ちなみについさっき冷蔵庫も見た」
僕はため息をつく。このような数奇な行動には慣れていたが、いつもため息をつかずには居られなかった。鈴村さんを見ると、明らかに困惑してた。しかし、こういう場合は大体ちゃんとした手がかりが見つかる。
bl「何か見つかった?」
微かに期待を孕んだ声で聞く。僕に対して後ろを向いてたスマイルは、こちらに振り向くと「バッチリだ」と、親指をグッドの形にする。
sm「ってことで俺らは帰る。情報提供ありがとな」
立ち上がり早足でスマイルは出入り口に向かう。やっぱり振り回されてるな~僕…。
bl「じゃあ鈴村さん。ありがとね」
手を降ると、向こうも振り替えしてくれた。それを見ながら、スマイルの後を追う。やがて、背中が見えてきてその隣に並ぶ。
bl「手掛かりって、何が見つかったの?」
聞くと、スマイルは学生鞄をごそごそと探る。そしてなにか見つけたような表情をすると、それを取り出す。
sm「これだ」
スマイルの手にあったのは、フルーツの写真がプリントされた、どこにでもあるフルーツジュースだった。
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