bl視点
bl「フルーツジュース……?」
sm「あぁそうだ。フルーツジュースだ」
さも当然といった顔をする。いや、何でそれが手がかりなんだ?そんな僕の心を読んだかのようにスマイルは説明する。
sm「俺は鈴村京花の話から毒を盛られたのではないかと推察した。けどそれだと犯人が今回に限って直接手を出したのかは分からんけどな。まぁそれは置いといて、鈴村京花は入院してまだ三日程しかたってない。けれど病室の冷蔵庫にはこれがあった。つまり?」
問い掛けるように僕の顔を覗きこむ。何とか一つ考えが浮かぶ。
bl「鈴村さんは、日頃からこれを飲んでた?」
スマイルは「正解だ」と口の端を上げる。
sm「日頃から飲んでる物には毒を入れても疑い無く飲むだろうし、無理に勧めることもないからな。一番自然に毒を漏れる」
「まぁあくまでも推測だがな」と付け足した。
sm「まあてことで、鈴村京花への尋問では結構色んな事が分かった。次は周辺だな」
周辺?まさか……
bl「スマイル、周辺って、何するの?」
答えを予想しつつも問いかける。スマイルは、ニヤリと笑った。
sm「ぶるーく、明日の放課後、空いてるか?」
tm「スマイルくん、ここで良いの?」
sm「大丈夫だ」
スマイルの言葉でともさんは、自らの愛車マツダCX320Sのハンドルを切る。停まった場所は、鈴村さんの元先輩雪野優が家族で住んでるという自宅前だ。僕らは車を降りる。
tm「犯人候補への聞き込み?何か分かった?」
sm「いや、今のところは鈴村京花の情報以外何も分からない。けど、こいつらへの聞き込みが事件解決への一歩になるのは間違いない」
tm「そっか、じゃあ頑張ってね」
bl「あれ?ともさんは行かないんですか?」
僕は小首をかしげる。
sm「あぁ、ともさんは仮にも刑事だ。俺らは一応雪野優の後輩だからな。警戒させること無く話を聞き出せる。ともさんが居ると口を割らないかもだからな。だから制服のままで大丈夫だって言ったんだ。自分の学校の制服だったら安心するだろうからな」
bl「へぇ~」
そこまで考えてたのか。スマイルの考えに素直に感心する。
sm「分かったらさっさと行くぞ。この後残りの二人への聞き込みもあるんだからな」
スマイルはとっとと先に、一軒家の前に行く。なんも躊躇うこと無く家のチャイムを鳴らす。
bl「ちょっと待って」
慌ててスマイルの隣に立つ。
sm「中々出ないな。電気は付いてるが……」
呟くとピンポンピンポンと、連続してチャイムを鳴らし始める。僕はその手をはたく。
sm「痛!何してるんだ!」
bl「何してるんだじゃないでしょ。チャイム鳴らしすぎると迷惑だよ」
sm「それは鳴らしても出ない雪野優が悪いだろ。俺の手を叩くのは違う!」
bl「雪野先輩のせいにしない!」
玄関先で僕らがぎゃんぎゃん騒いでいると、ドアがガチャリと開いた。
yu「あの……何ですか?玄関先で騒がないで欲しいんですけど……」
ドアから覗いたのは、明らかに迷惑がってる雪野先輩の顔だった。
bl「さっきはすいません……。ちょっと口論になっちゃって」
yu「いいわよ別に。人間のコミュニケーションには喧嘩が付き物よ」
「はい、紅茶」と、先輩は淹れてくれたダージリンティーを僕らの目の前に置く。
sm「熱っ。これ熱くないか?」
yu「当たり前でしょ淹れたてなんだから。飲みたいなら冷ましてから飲みなさい」
先輩は初対面の人なら怒るであろうスマイルの文句に、表情一つ変えず正論を言う。強い!
yu「で、何?わざわざ用も無しに私の家に来ないと思うんだけど」
sm「そうだ。お前に聞きたい事がある」
先輩はまたしても表情を変えず「ふーん」と興味無さそうに呟く。
yu「何を聞きたいの?出来る範囲で何でも答えて上げる」
sm「協力的でありがたいな。じゃあ単刀直入に聞く。お前は鈴村京花を殺しかけたか?」
一瞬にして先輩の表情が凍り付く。
yu「……何でそんな事聞くのかしら」
sm「一年生が教室で倒れたという話を聞いたか?その被害者がお前の元後輩鈴村京花だ。知り合いの刑事から聞いたところ、お前は昔、鈴村京花を恨んでたらしいな。それについても詳しく聞きたい」
スマイルは容赦無く先輩に言葉をぶつける。徐々に先輩の顔はひきつっていた。
yu「…なるほど、私が犯人だって疑われてるのね」
sm「まとめるとそうだな。というか、そうじゃなきゃお前に興味は無い」
先輩は目を閉じて考え込む。三分は経ったときに口を開いた。
yu「分かったわ。協力するって言ったのは私だしね。答えて上げる」
sm「感謝する」
口の端をニッと上げた。
yu「色々聞かれるのも面倒だから先に話すわ。確かに、あの子の事を私は恨んでたわ。あの子のせいで怪我したのに自分の代わりが怪我させた張本人なんて。そりゃ恨むでしょ。けど、それはもう三年前の話。私も人間として成長したの。とっくに恨んでなんか無いわ。今はあの子と連絡したりする手段もないしね」
話終えて疲れたのか、ふー、と息を付くと紅茶を啜った。
sm「先に話してくれてありがたいな。どうやらお前は俺の調査に本当に協力的だ。いくつか質問をしていいか?」
先輩は「勝手にしなさい」と言う。
sm「まず一つ目だ。お前は鈴村京花が被害に逢った日、何時頃に登校した?」
yu「そうね……あの日は早く起きたから、七時半くらいね。どう?あの子が倒れた時間と被ってる?」
sm「あぁ、正確には分からないが殆ど一緒だな。次だ。お前は鈴村京花がてんかんを患ってる事を知ってたか?」
yu「何それ、初耳よ。何か薬を飲んでることは知ってたけど、てんかんかどうかは知らなかったわ」
「興味も無いしね」と先輩は付け足した。
sm「なるほどな……よし、ありがとう。俺の調査に協力的な奴は珍しい。今後とも頼るかもだから、その時もよろしくだ」
yu「分かったわ。でも、どちらかと言えば私は平穏な日常を望んでるから、その時はどうかしらね」
先輩はペロリと舌を出した。スマイルは立ち上がり、部屋の扉に向かう。
sm「じゃあな。あと言っておくが、俺はダージリンよりもアールグレイが好きなんだ。覚えとけ」
それだけ言って部屋から出た。先輩は呆れた顔で「家にはダージリンしか無いんだけど……」と言っていたのを、僕は見逃さなかった。
tm「お帰り。有力な情報は得られた?」
文庫本を読んでたともさんが顔を上げる。
sm「あぁ、取り敢えず雪野優は犯人から除外だ」
bl「え?良いの?」
思わず間抜けな声が出る。
sm「大丈夫だ。俺が思ってた以上に雪野優は精神的に強い。三年前の出来事をずっと引きずるほど子供じゃないな」
bl「けど、登校時間とか被ってたよ」
sm「まぁそこは何とも言えないな。だから、ともさんに協力してほしい」
名前を呼ばれたともさんが運転席から振り向く。
tm「僕に何してほしいの?」
sm「ともさん、監視カメラの映像を調べてほしい」
次回へ続く